はかせ、ネコをなでてると気持ちが落ち着くんだけど、ネコの方も同じなのかな?
それを体のホルモンで確かめようとした研究があるんだ。飼い主とネコの尿を、1か月かけて調べたんだよ。
ネコは世界で最も人気のあるペットの一つです。それなのに、ネコと暮らすことが飼い主の心と体にどう関わるのかは、まだよく分かっていません。
この問いに、ホルモンという体の中の物差しで迫ったのが、京都大学の高木佐保特定助教と麻布大学の菊水健史教授らの研究グループです。ネコ29匹と飼い主19人を対象に、尿が取れたネコ24匹とその飼い主について、両方の尿に含まれるホルモンを1か月にわたって測りました。
その結果、飼い主のオキシトシンが濃いほど、ネコのオキシトシンも濃いという関連が見つかりました。一方で、ストレスの目安になるコルチゾールは、飼い主とネコの間ではっきりした関連が見られませんでした。論文は2026年10月14日(米国東部時間)に、学術誌『iScience』にオンラインで掲載されています。
ネコを飼う効果は、イヌほどそろっていなかった
ペットを飼うと心と体によい、とこれまで言われてきました。ところがネコについては、これまでの報告の結果がイヌと比べて一貫していません。
これまでの報告には、飼い始めた効果が1か月ほどで続かなくなったというものがあります。ネコを飼うことが、心の健康とむしろ逆向きに結びついていたという報告もあります。なぜこうした食い違いが生まれるのか、その仕組みは分かっていませんでした。
手がかりとして研究グループが目をつけたのが、2つのホルモンです。オキシトシンは脳で作られるホルモンで、親子の絆や人どうしの信頼のような、社会的なつながりに関わることが知られています。コルチゾールは副腎から出るホルモンで、ストレスを受けると増えるため、ストレスの目安としてよく使われます。
イヌについては、この2つのホルモンを飼い主と一緒に調べた先行研究があります。2015年に学術誌『Science』に載った研究では、イヌに見つめられた飼い主は尿のオキシトシンが増え、飼い主がイヌにかまうことでイヌのオキシトシンも増えていました。この研究には、今回の研究グループの菊水教授らも加わっていました。
2019年に学術誌『Scientific Reports』に載った別の研究では、イヌと飼い主58組の毛に含まれるコルチゾールを、夏と冬の2回測りました。飼い主とイヌの値の間には統計的に意味のある強い相関があり、研究チームはイヌが飼い主のストレスの度合いを大きく映しているとみています。
これまでのネコの研究は、ネコ側か飼い主側の片方だけのホルモンを測ったものにとどまっていました。両方のオキシトシンを、長い期間にわたって同時に測った研究はありませんでした。ネコとの日々の関わりも質問紙で尋ねることが多く、実際の行動とずれているかもしれませんでした。
首輪の発信器と尿で追った1か月


参加したのは、SNSやチラシで集まった飼い主19人(18〜60歳、女性16人・男性3人)と、そのネコ29匹(生後4か月〜13歳)です。各家庭で1か月間、次の4つの調べ方を組み合わせました。
尿でホルモンを測る
飼い主とネコの尿を、それぞれ3回ずつ集めました。そこに含まれるオキシトシンとコルチゾールの濃さを調べています。ネコのうち5匹は尿が取れなかったため、ホルモンの分析は24組で行われました。
家の中での近さを電波で測る
ネコの首輪には、小さなBLEビーコンを付けました。Bluetooth Low Energyという電力をあまり使わない無線で、電波を出す装置です。受け取った電波の強さから、おおよその距離を見積もれます。飼い主のスマートフォンがその電波の強さを1か月間記録し続け、家の中で両者がどれくらい近くにいたかの目安にしました。
気分の質問紙と「円の中」のテスト
飼い主の気分は、POMS2という質問紙の日本語の短縮版で答えてもらいました。「怒り−敵意」「疲労−無気力」「活気−活力」など、7つの面から気分の状態をとらえる質問紙です。
ネコには「安全基地テスト」を応用した行動観察をしました。床に描いた円の中に飼い主か見知らぬ人が座り、ネコが円に入るかどうか、どれくらいの時間そこで過ごすかを見ます。もともとはネコとヒトの愛着関係を調べるための行動テストです。
オキシトシンは飼い主とネコでそろい、コルチゾールはそろわなかった
まず目を引くのは、2種類のホルモンの振る舞いの違いです。飼い主の尿のオキシトシンが濃いほど、ネコのオキシトシンも濃いという正の関連が見られました。飼い主のコルチゾールが高いほど、ネコのオキシトシンは低いという逆向きの関連もありました。
ところが、ストレスの目安であるコルチゾールどうしを比べると、飼い主とネコの間にはっきりした関連は見られませんでした。
これまでの研究では、イヌと飼い主の長い期間のコルチゾールがそろうことが報告されています。それとは違う姿が、ネコでは見えたことになります。
では、なぜネコではオキシトシンの方がそろうのでしょうか。研究グループは、ネコとヒトの関係ではオキシトシンを中心にした結びつきが主役なのかもしれない、と考察しています。背景には、イヌとは違う家畜化の歴史があるかもしれません。群れで暮らしていたイヌの祖先に対し、ネコの祖先は単独で暮らす性質が強く、こうした社会のあり方の違いを映している可能性があるといいます。
ネコのオキシトシンと飼い主の気分
次は、ホルモンと飼い主の気分の関係です。オキシトシンが濃いネコの飼い主ほど、「怒り−敵意」「混乱−当惑」「抑うつ−落込み」「緊張−不安」といったネガティブな気分が低いという結果でした。飼い主自身のコルチゾールが高い人ほど、ネガティブな気分も高いという関連も確かめられています。
高木特定助教が目を留めたのは、飼い主のネガティブな気分をより言い当てていたのが、飼い主自身のオキシトシンよりもネコのオキシトシンの方だった点です。ネコは室内飼いで、いつも家にいます。高木特定助教は「その生理状態は、より飼い主さんとの関係性を反映するのかもしれません」と話しています。
ネコをなでたときの安らぎについて、高木特定助教はその感覚の一端がオキシトシンのつながりとして見えてきたのかもしれない、とコメントしています。
飼った年数より、家の中でどれだけ近くにいるか
首輪のビーコンの記録からも、気分との関係が見えてきました。家の中でネコとより近くにいる飼い主ほど、気分の質問紙の「活気−活力」が高かったのです。
その一方で、ネコと一緒に暮らしてきた年数の長さと、活気との間には関連が見られませんでした。研究グループは、飼った期間の長さより日々の近さの方が、飼い主の前向きな気分と関わっているかもしれないとみています。
「ネコを飼うと健康によいのか」という問いには、これまで結果がそろってきませんでした。発表文は、その理由の一つとして、飼っているかどうかや期間だけでなく、毎日の関わり方という飼育の「質」が大事なことを示唆していると位置づけています。
オキシトシンが濃いネコは人に近づきやすい
ネコの側の行動にも、ホルモンとの関係がありました。オキシトシンが濃いネコほど、相手が飼い主でも見知らぬ人でも、ヒトに近づきやすかったのです。コルチゾールが高いネコほど見知らぬ人の近くにいる時間が短い傾向もありましたが、この関連ははっきりしたものではありませんでした。
どちらが原因かは、まだ分からない
ここまでの結果は、どれも「関連」です。この研究はある時点での関係を調べたものなので、どちらが原因でどちらが結果なのかは分かりません。
たとえば、ネコとの触れ合いが飼い主の気分を上向かせている場合がありえます。逆に、もともと気分のよい飼い主ほどネコと積極的に関わっている、という場合もありえます。さらに、ネコと飼い主は同じ家で暮らしています。ホルモンの関連の一部は、直接のやりとりではなく、生活リズムや住まいといった共通の条件を映している可能性も残ります。
研究の規模にも限りがあります。事前に計画を登録していない探索的な研究で、参加者は少なく、飼い主の多くが女性でした(19人中16人)。高木特定助教も「今回わかったのは関連であり、どちらが原因なのかはまだわかりません」と話しています。
研究グループは今後、より多様な参加者でネコと飼い主の両方から同じタイミングで何度もデータを取る研究や、実験による研究を進める予定です。そうすることで、ネコとヒトがどう影響し合っているのかを確かめていくとしています。
ネコのオキシトシンが濃いと、飼い主の気分もいいってこと?
そういう関連が見つかった、というところまでだね。どっちが先なのかは、これからの研究で確かめるんだ。
個人的には、飼い主自身のオキシトシンよりもネコのオキシトシンの方が飼い主のネガティブな気分と結びついていた点が、この研究でいちばん意外でした。
参考文献:
一次ソース: Saho Takagi, Taisuke Tsubomura, Miho Nagasawa, Takefumi Kikusui, Cats and humans show correlated affiliative physiological states(iScience, 2026)DOI:10.1016/j.isci.2026.117934
研究機関の発表: 京都大学「ネコと飼い主、オキシトシン濃度が相関―ネコとの近さは飼い主の活力とも関連―」
関連する研究: Nagasawa M et al., Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds(Science, 2015)DOI:10.1126/science.1261022
関連する研究: Sundman AS et al., Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners(Scientific Reports, 2019)DOI:10.1038/s41598-019-43851-x
アイキャッチ画像: Photo: Samsung Memory / Unsplash










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