コップに氷を入れると、ぷかぷかと浮かびます。毎日のように見ている、あたりまえの光景ですね。でも、氷も水も、もとは同じ水です。どうして氷だけが浮くのでしょうか。
先に答えを言います。氷は、同じ大きさの水よりも軽いからです。凍ると、水のつぶがすき間の多い並び方になるのです。
アメリカ地質調査所(USGS)の解説によると、水が凍ると密度は約9%小さくなります。ここからは、アメリカの大学の解説も使いながら、順番に見ていきます。
浮くか沈むかは「浮力」との重さくらべ
水の中に物を入れると、上へ押し上げる力がはたらきます。これが浮力です。水の中では、深いところほど水に押される力が大きくなります。浮力は、ここから生まれます。
浮力の大きさには決まりがあります。物がおしのけた水の重さと、浮力は同じになるのです。これをアルキメデスの原理といいます。
浮くか沈むかは、この浮力と物の重さを比べて決まります。ジョージア州立大学の物理の解説には、こんな例がのっています。
同じ大きさのコルクとアルミと鉛の玉を、水に入れてみます。コルクは浮き上がり、アルミは沈み、鉛はもっと速く沈みます。でも、どの玉も受ける浮力は同じです。ちがうのは、玉そのものの重さです。
つまり、同じ大きさの水より軽い物は浮きます。重い物は沈みます。氷が浮くのは、同じ大きさの水より軽いからなのです。
氷は、同じ大きさの水より軽い
「同じ大きさでくらべた重さ」を、密度といいます。USGSの解説では、決まった量あたりの重さだと説明しています。
水の密度は、ふつう1ミリリットルあたり約1グラムと表します。正確には、4.0℃の水で1ミリリットルあたり0.9998395グラムです。
大学の化学の教科書には、温度ごとの密度の表があります。1立方センチあたり、4℃の水は1.0000グラム、0℃の水は0.9998グラムです。そして0℃の氷は、0.9168グラムしかありません。
同じ0℃でも、氷のほうがはっきり軽いのです。だからコップの氷は、水に浮かびます。
ほとんどの物は、固まると重くなる
じつは、これはめずらしいことです。ほとんどの物は、液体より固体のほうが密度が大きいからです。
ほとんどの液体は、冷えると縮んで重くなります。凍ったあとも、その流れは続きます。ところが水は反対で、凍るとふくらみます。教科書は、氷を「液体より密度が小さい、とてもめずらしい固体」だと書いています。
もし水もふつうの物と同じだったら、氷は沈みます。USGSは、そうなると湖でスケートも氷の上の釣りもできない、と書いています。
水のつぶをつなぐ「水素結合」
では、なぜ水だけがちがうのでしょうか。カギは、水のつぶどうしの引き合いです。
水のつぶ(分子)は、とても簡単な形です。酸素の原子1つに、水素の原子2つがついています。
水素の原子は少しプラスの電気を、酸素の原子は少しマイナスの電気をおびています。プラスとマイナスは引き合います。そのため、となりの水のつぶの酸素が、こちらの水素に引き寄せられます。
このつぶとつぶの弱い引き合いを、水素結合とよびます。
液体の水では、つぶが転がるように動き回っています。水素結合は、切れたりつながったりをくり返しています。つぶどうしは、決まった形にならずに、ぎゅっと集まっているわけです。
凍ると、すき間の多い六角形に並ぶ

水が凍ると、ようすが変わります。氷の中では、つぶが規則正しく並びます。液体のときのばらばらな並び方とは、まるでちがいます。
このとき水素結合が、つぶを六角形の形につなぎます。六角形の真ん中には、すき間ができます。氷の並び方は、液体のときより多くのすき間をふくむのです。
すき間が多いぶん、つぶどうしは液体のときより離れています。同じ数のつぶでも、広い場所を使うわけです。だから氷は、水より密度が小さくなります。
手をつないで輪を作ると、輪の内側があいて、広い場所がいりますね。少し似ています。
ちなみに、氷には、結晶の形がちがうものがいくつもあります。凍る温度から下で主に見られるのが、この六角形の氷です。
水は4℃でいちばん重い
水には、もうひとつ変わったところがあります。いちばん重くなるのが、0℃ではなく約4℃なのです。
ふだんの温度の水は、ほかの多くの物と同じです。冷えると縮んで、重くなります。ところが4℃から0℃までは、六角形のつながりができ始めます。そのため、少しずつ軽くなっていくのです。
この間に密度が減るのは、1万分の1ほどです。ほんの少しですが、凍りかけの水を上に浮かせるには十分です。
冬の湖は、上から凍る
この性質は、冬の湖で大きな意味を持ちます。約4℃の水は、0℃の水より重いので、湖の底のほうへ沈みます。
冷たい空気にふれる水面から、湖は凍り始めます。できた氷は浮いたままで、沈みません。そのため冬のあいだも、氷の下には液体の水が残ります。魚などの生き物は、そこで冬をこせるのです。
もし氷が凍るそばから沈んだら、湖はまるごと凍ってしまいます。USGSの解説は、水が凍る温度でいちばん重かったら、湖は底から凍りうると書いています。
氷山が水の上に出しているのは約1割
USGSによると、氷の密度は水の約90%です。そのため、氷の約10%が水面の上に出ます。ただし、氷は空気をふくむことがあるので、この値は変わります。
ジョージア州立大学の解説では、水面の上に出るのは約8%です。資料によって、少しちがうわけです。
どちらにしても、氷山はほとんどが水の中にかくれています。目に見えているのは、ほんの一部なのです。
水の中に何かがとけていると、密度も変わります。塩がとけている海の水は、ふつうの水より重くなります。
沈む氷もある
氷ならどれでも浮く、というわけではありません。「重水」という水で作った氷は、ふつうの水に沈みます。
重水は、水の2つの水素の原子が、重い水素に入れかわった水です。この重い水素は、陽子1つと中性子1つを持っています。重水の氷は、ふつうの水より密度が10.6%大きいのです。
水のふしぎの大もとは、まだ議論が続いている
氷が浮く理由は、六角形のすき間で説明できます。では、水のふしぎな性質は、いちばん奥で何から来ているのでしょうか。じつは、ここはまだ決着していません。
2026年に発表された研究
2026年3月に、マックス・プランク高分子研究所が出した発表文があります。水の密度などの変わり方は、ほかの液体とまったく反対だと書いています。
この2026年の発表文によると、水のふしぎな性質の大もとは、100年以上議論されてきました。レントゲンの研究のころからです。
これまで長く考えられてきた仮説の1つが、「液体と液体の臨界点」です。とても冷たく強い力で押された水には、2種類の液体の水があるかもしれない、という考え方です。
ストックホルム大学や、韓国の浦項工科大学などのチームが、この考え方の可能性を調べました。0℃より下まで冷えても液体のままの水は、すぐに氷になってしまいます。そのため、調べるのがとても難しいのです。
チームは、氷ができる前のごく短い時間をねらいました。レーザーで2種類の特別な氷を温め、X線で中をのぞいたのです。
その結果、およそ-63℃・1000気圧に臨界点がある可能性を示した、と発表しています。チームの考え方では、ふだんの水も2種類の液体の水のあいだでゆれています。そのゆれが、ふしぎな性質を生むと考えられています。
ただし、論文の要約は、臨界点の近くを調べられた可能性を「示唆する」と書くにとどめています。言い切ってはいないのです。今のところは、まだ仮説の段階と考えておくのがよさそうです。
氷にはすき間がいっぱいあるから、水より軽くて浮くんだね
そうなんだ。そのおかげで、冬の湖でも氷の下に水が残るんだよ
コップの氷はありふれたものですが、湖の魚が冬をこせるのも、同じすき間のおかげです。いちばん身近な水の、そのまた奥にまだなぞが残っているところに、科学の奥行きを感じます。
参考文献:
主な資料: U.S. Geological Survey(アメリカ地質調査所)Water Science School, Water Density
主な資料: Maryville College(メリービル大学)化学の授業教科書, 8.1: Water – Some Unique Properties(Chemistry LibreTexts)
基礎知識: HyperPhysics(Georgia State University ジョージア州立大学, R. Nave), The Expansion of Water Upon Freezing / Water Density
基礎知識: HyperPhysics(Georgia State University ジョージア州立大学, R. Nave), Buoyancy / Archimedes’ Principle
基礎知識: Purdue University(パデュー大学)化学科, Hydrogen Bonding
別の研究: Max Planck Institute for Polymer Research(マックス・プランク高分子研究所)プレスリリース, X-ray laser permits insights into anomalies of water(2026年3月27日)
別の研究: You et al., Experimental evidence of a liquid-liquid critical point in supercooled water(Science, 2026)DOI:10.1126/science.aec0018
アイキャッチ画像: Photo: Giorgio Trovato / Unsplash










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