パルサーとは、猛スピードで回転しながら電波を放つ天体だ。まるで宇宙の灯台のように、一定間隔で電波のビームを地球に向けて送ってくる。
今回話題になっているのは、1秒間に約122回という速さで自転している天体の候補だ。観測は、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール「いて座A*」の方向に向けて行われた。
ただし論文の著者たちは、この信号を確定した発見としては扱っていない。その理由も含めて見ていこう。
パルサーって何? 宇宙の灯台の正体

パルサーの正体は中性子星
パルサーの正体は、大質量の恒星が一生を終えたあとに残る、密度の高い天体「中性子星」だ。強い磁場をもち、電波を集めたビームとして出している。
規則正しいパルスが「宇宙の時計」になる
ビームが地球の方を向くたびに、観測者には規則正しいパルス(点滅)として届く。外から力が加わらなければパルスの到着間隔はきわめて一定で、パルサーは正確な「宇宙の時計」として働く。
回転が特に速いミリ秒パルサーは、時計としての安定度がさらに高い。
キク1秒に122回も回る星の候補が、宇宙人探しの観測からどうやって出てきたんだろう?
ブレークスルー・リッスンの銀河中心探査
この候補は、地球外知的生命の探査を進める研究計画「ブレークスルー・リッスン」のデータから見つかった。
同計画は銀河中心に向けて、文明の痕跡となりうる人工信号(テクノシグネチャー)とパルサーの両方を探している。
観測にはアメリカのグリーンバンク望遠鏡(GBT)を使い、周波数8〜12ギガヘルツのXバンドで行った。電波の散乱は周波数が高いほど弱まるため、銀河中心の探査ではこの高い周波数が有利になる。
2021年5月から2023年12月までに、直径約8分角の銀河中心バルジ全体で計9.5時間、中心の約1.4分角の領域で11時間のデータを集めた。
論文は、この中心部の長時間観測を、銀河中心のこれまでの探査で最高の感度としている。研究は、博士号を取ったばかりのコロンビア大学のカレン・I・ペレス氏が率いた。
周期は8.19ミリ秒
候補の周期は8.19ミリ秒で、1秒あたり約122回転にあたる。論文はこれをミリ秒パルサー(MSP)の候補として扱っている。
検出された5,282個の信号候補のなかで、論文が注目したのはこの1つだ。
分散量(DM)は約2,775 pc/cm³で、銀河中心にいちばん近い既知の中性子星(磁星PSR J1745−2900、DM 1778)より大きい。
ただ、銀河中心の内側にある天体として説明できる値だという。電子密度モデルNE2001からは距離約8.59キロパーセクと推定され、いて座A*の付近と矛盾しない。
また、最初に捉えた1時間のスキャンでの周期の変化率から、視線方向の加速度は約−0.45 m/s²(観測者に向かう向き)と求められた。
論文は、これが連星の可能性を示すかもしれないとしつつ、暫定的な値と断っている。
なぜ「発見」と言い切らないのか


もう一度、見つけられなかった
候補を捉えたのは、2022年6月の長時間観測の最初の1時間スキャンだけだった。続く4回の1時間スキャンでも、より感度の高い別の受信機を使った後日の観測でも、同じ信号は再検出できなかった。
信号の有意性は高くなく、折りたたんだパルス波形は細く、検出のしきい値に近かった。ランダム化テストでは、ノイズだけでこの候補ほどの特徴が現れる確率は約100万分の1と見積もられた。
それでも論文は、天体由来だと主張するにはもっと強い証拠が必要だと述べ、著者自身がこの候補にかなり懐疑的だと書いている。
確定にも棄却にも、追加の検証と観測が必要だという。
銀河中心は、パルサー探しにとって難しい場所だ。星がぎっしり詰まっていて、星間物質による電波の散乱(多重経路でパルスが時間方向ににじむ現象)が強い。
散乱は周波数の4乗に反比例して効くため、この研究は高い周波数のXバンドを使った。ただし散乱の強さには不確かさが大きい。
論文によると、強い散乱が成り立つ場合は、最も感度の高い2時間観測でも検出できるのは周期がおよそ0.2秒より長いパルサーだけになる。
再検出できなかった理由として、論文は複数の可能性を挙げている。
連星の軌道運動で周期が変わり続けること、連星の相手の星による食、星間物質による屈折性シンチレーションで明るさが変わること、パルサー自身の発光が数日間止まることなどだ。
論文はどれが当てはまるかを決めていない。直後の追観測のデータには、感度の低下や機器の問題は見つからなかった。


もし本物なら、何がすごいのか


時空をはかる究極の物差し
天の川の中心には、太陽の約400万倍の質量をもつ超巨大ブラックホール「いて座A*」がある。論文が使う距離は約8.2キロパーセク(約2万7千光年)だ。
いて座A*の近くの軌道(公転周期がおよそ1年以下)を回るパルサーを見つけ、パルスの到着時刻を追い続けられれば、ブラックホールの質量やスピンを測り、一般相対性理論を精密に検証できるという。
発表によると、共著者でコロンビア天体物理学研究所の研究科学者スラヴコ・ボグダノフ氏は、パルサーに働く外からの影響について「大質量天体の重力のような影響は、パルスが一定間隔で届くことに乱れを生じさせ、その乱れは測定してモデル化できます」と述べている。
パルスが非常に重い天体の近くを通るときは、時空のゆがみで進路が曲げられたり、到着が遅れたりすることもあり、これは一般相対性理論の予言どおりだという。
いて座A*から1パーセク以内では、これまでに検出されたパルサーは磁星PSR J1745−2900だけだ。
次に近い既知のパルサーは、12〜18分角(投影距離で約30〜40パーセク)離れている。
ただし、この候補が本物だと確かめられたわけではない。論文によると、2024年1〜2月にGBTで追加の12時間の追観測が行われ、結果は別の論文で報告される予定だ。
米国の電波望遠鏡VLAでも、8.37時間の観測が行われている。発表によれば、研究者たちは追観測のデータを解析して、候補が本物かどうかを調べている。
ペレス氏は「この候補について、追観測で何がわかるのか楽しみにしています」と話す。 論文は、今後の探査では単発の超深観測より、定期的で高頻度の観測を優先するよう提案している。
ブレークスルー・リッスンは、研究者が独自に解析できるよう、このデータを公開している。



1秒に122回転する星の信号は、もう一度見つかるまでは候補のままで、今は追観測のデータを調べているところなんだね。
参考文献
Perez KI, et al. 『On the Deepest Search for Galactic Center Pulsars and an Examination of an Intriguing Millisecond Pulsar Candidate』 The Astrophysical Journal, 2026, 998:147. DOI: 10.3847/1538-4357/ae336c
全文(arXiv): arXiv:2602.08922
ScienceDaily (2026-02-17): Ultra-fast pulsar found near the Milky Way’s supermassive black hole









