シルミーはかせ、1秒間に122回も回る星が見つかったって! しかもエイリアン探しの最中に?
そうなんだ。地球外生命を探すプロジェクトが、思いがけず高速で回る星の「候補」を釣り上げてね。ただ、まだ「見つけた!」と言い切れない、というのがこの話の面白いところなんだよ。
パルサーとは、猛スピードで回転しながら電波を放つ天体だ。まるで宇宙の灯台のように、一定間隔で電波のビームを地球に向けて送ってくる。
今回話題になっているのは、1秒間に約122回という猛烈な速さで自転している天体の候補だ。しかもそれが、天の川銀河の中心――巨大ブラックホールが君臨する、宇宙で最も過酷な領域の方向で見つかったという。ただし研究チームは、この結果を慎重に「候補」と呼んでいる。その理由も含めて見ていこう。
パルサーって何? 宇宙の灯台の正体


スプーン1杯で10億トンの星
パルサーの正体は中性子星という天体だ。太陽よりずっと重い恒星が一生を終えるとき、超新星爆発を起こして外側を吹き飛ばす。その後に残る芯が中性子星になる。
驚くのはその密度だ。直径はわずか20キロメートルほど――東京の山手線の内側くらいの大きさしかないのに、その中に太陽1個分以上の質量が詰め込まれている。スプーン1杯分の物質が、地球上では約10億トンにもなる計算だ。宇宙で最も密度の高い天体の一つといっていい。角砂糖ほどの体積に、地球上の山を丸ごと押し込んだような世界だと想像すると、その異常さが少しだけ伝わるだろうか。
異常なのは密度だけではない。中性子星の内部は、私たちの常識が通じない極限の世界だ。その芯では、物質が摩擦なしで流れる「超流動」という奇妙な状態になっていると考えられている。磁場の強さも桁違いで、ふつうのパルサーで地球磁場のおよそ1兆倍にも達する。冷蔵庫にメモを留めるマグネットが、そのまま宇宙規模に暴走したようなものだ。こんな極端な天体が、宇宙にはありふれて存在している。
なぜそんなに速く回るのか
中性子星が高速で回る理由は、フィギュアスケートの選手が腕を縮めると回転が速くなるのと同じ原理だ。大きな恒星が小さな芯に一気に圧縮されると、もともとの回転がぎゅっと凝縮され、回転速度が跳ね上がる。
さらに中性子星は強力な磁場を持ち、磁極から電波のビームを噴き出している。このビームが回転にともなって地球の方を向くたび、私たちは規則正しいパルス(点滅)として観測できる。あまりに正確なので、最も安定したパルサーは原子時計に匹敵する精度を持ち、「宇宙の時計」とも呼ばれている。天文学者はこの正確さを利用して、地球には届きにくい重力波の痕跡を探ったり、将来の宇宙船が現在地を知るための「宇宙の道しるべ」として使う研究を進めている。カーナビが地球の衛星を頼るように、いつか宇宙船はパルサーを頼りに航行するのかもしれない。
エイリアン探しが釣り上げた「候補」


地球外生命の探査中に
この高速パルサー候補は、地球外知的生命を探すプロジェクト「ブレークスルー・リッスン」の観測から浮かび上がった。人工的な電波(文明の痕跡)を銀河中心に向けて探していたところ、思いがけず自然界の「時計」の信号らしきものが引っかかったのだ。エイリアン探しが、まったく別の宇宙の宝物を釣り上げた形になる。
観測に使われたのは、アメリカのグリーンバンク望遠鏡。研究チームは銀河中心に向けて20時間を超える観測を行った。これは銀河中心のパルサー探しとしては、最高感度クラスの「最も深い」探査だった。主導したのは、博士号を取ったばかりのコロンビア大学の若手研究者カレン・ペレス氏らのチーム。膨大な観測データの山から、かすかな規則性を根気よく拾い上げる作業の末に、この候補は浮かび上がった。
周期は8.19ミリ秒
候補の回転周期は8.19ミリ秒。1秒間に約122回転する計算で、これは「ミリ秒パルサー」と呼ばれる超高速タイプにあたる。通常のパルサーが1秒に1〜10回程度なのと比べると、けた違いの速さだ。
ミリ秒パルサーがこれほど速く回るのは、連星系で相手の星から少しずつ物質を吸い取り、その勢いで回転を「充電」したためと考えられている。使い古された時計が、隣の星のエネルギーで再び高速回転を取り戻す――そんなイメージだ。
もう少し詳しく見よう。相手の星からあふれ出たガスは、中性子星の周りを回る円盤を作る。このガスが中性子星に落ち込むとき、回転の勢い(角運動量)を星に手渡していく。フィギュアスケーターが回転で受け取った勢いを体にため込むように、中性子星はガスから勢いをもらってどんどん速く回るのだ。8.19ミリ秒――1秒に122回という回転がどれほど極端か、表面の速さで考えるとよくわかる。中性子星の赤道は、なんと光速のおよそ3%(秒速7,000キロメートル超)で動いている計算になる。東京から大阪までを0.1秒足らずで駆け抜ける速さだ。ただし今回の候補について、実際に連星だったのか、どんな相手から勢いを得たのかまではまだ分かっていない。信号そのものが確定していない以上、素性を語るのは先の話になる。
1967年、宇宙人の信号かと疑われた日


「小さな緑の宇宙人」と呼ばれた信号
じつは、「規則正しい電波信号」を前に天文学者が慎重になるのには、深い理由がある。時をさかのぼること約60年、パルサーが人類に初めて姿を見せたときの出来事だ。1967年、ケンブリッジ大学の大学院生だったジョスリン・ベルは、記録紙に現れた「ほんの少しの乱れ」に気づいた。それは、あまりに正確に、一定の間隔でくり返す電波の信号だった。
あまりに規則的で強いその信号に、研究チームは一時、地球外文明が発したビーコンではないかと真剣に考えた。信号には、冗談まじりに「LGM」——リトル・グリーン・メン、すなわち「小さな緑の宇宙人」の頭文字——という符牒までつけられた。だが、別の方向からも似た信号が見つかったことで、宇宙人説はほどなく否定される。正体は、高速で自転する未知の天体、すなわちパルサーだったのだ。この発見は、のちにノーベル物理学賞に輝いた。
安易に飛びつかない、という教訓
この一件は、天文学に大切な教訓を残した。規則正しく強い信号を見つけても、すぐに「発見だ」と飛びつかない。人工の電波なのか、自然の天体なのか、それとも単なるノイズなのか。慎重に見分け、別の観測で再現できて初めて、確かなものと認める。今回のミリ秒パルサー候補をめぐる研究者たちの慎重な姿勢も、この60年前の教訓の延長線上にある。皮肉なことに、かつて「宇宙人の信号か」と疑われたパルサーが、今度は地球外生命を探すプロジェクトの網にかかった、というわけだ。
なぜ「発見」と言い切らないのか


もう一度、見つけられなかった
ここがこの話の肝心なところだ。研究チームは信号らしきものを捉えたものの、その後の追観測で同じ信号をもう一度捉える(再検出する)ことができなかった。そのため「発見した」と断定せず、あくまで「有望な候補」という慎重な表現にとどめている。
銀河中心は、パルサー探しにとって最難関の場所だ。星がぎっしり詰まり、高温のガスやプラズマが電波を散乱させてしまう。この散乱は電波の波長が長いほど激しく効くため、低い周波数ではミリ秒のパルスが時間方向ににじんで、規則的な点滅そのものが潰れてしまう。まさに濃い霧の中で懐中電灯の光を探すようなものだ。
さらに厄介なのが、星間物質がレンズのように働いて、パルサーの明るさを時間とともにチラチラと変えてしまう現象(シンチレーション)だ。本物のパルサーでも、ある時は明るく見え、別の時にはすっかり沈んで見えなくなる。今回の候補が一度の観測では捉えられたのに、あとで追いかけたときに再び見つからなかったのも、これで説明がつくかもしれない。だが、本物だという確証を得るには、独立した別の観測で「同じ周期・同じ特徴の信号」をもう一度捉えるしかない。それができていない以上、正直に「候補」と呼ぶ――「かもしれない」で立ち止まる姿勢こそ、科学の誠実さの表れといえる。
もし本物なら、何がすごいのか


時空をはかる究極の物差し
天の川の中心には、太陽の約400万倍もの質量を持つ超巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」がある。地球から約2万6千光年のかなただ。その至近距離に本物のミリ秒パルサーがあれば、天文学者にとって願ってもない「実験室」になる。このいて座A*は、2022年に国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ」がその影(シャドウ)を史上初めて撮影したことでも知られる、天の川でもっとも注目される天体だ。
強い重力のそばでは時間の進み方が変わる、とアインシュタインの一般相対性理論は予言する。時計のように正確なパルサーをブラックホールのすぐ近くで観測できれば、その時空のゆがみを桁違いの精度で測れるのだ。今のところ、いて座A*のごく近くで知られるパルサーは磁星と呼ばれる一種類だけで、相対論を精密に試せるほど条件のよいものは見つかっていない。だからこそ、この候補が本物かどうかに注目が集まっている。
パルサーで重力の理論を検証する——これは絵空事ではなく、輝かしい実績がある。1974年に発見された連星パルサー(ハルス・テイラー連星)は、二つの星が回り合ううちにわずかずつ軌道を縮めていた。その縮み方が、アインシュタインの理論が予言する「重力波としてエネルギーが逃げていく」量と、誤差0.2%という驚異的な精度で一致したのだ。これは重力波が実在する初めての証拠となり、発見者は1993年にノーベル物理学賞を受けた。重力波が望遠鏡で直接とらえられる40年も前のことである。ミリ秒パルサーは、パルスの到達時刻をナノ秒(10億分の1秒)の精度で刻める、宇宙で最も正確な時計だ。それをブラックホールのすぐそばに置ければ、曲がった時空を「時計のズレ」として直接読み取れる。今回の候補が本物なら、その究極の実験室が手に入るかもしれない。



「見つけたかも」でちゃんと止まるんだね。すぐ発見!って言わないのがカッコいい。
そう。もう一度確かめられて初めて「発見」になる。その慎重さがあるから、科学は信頼できるんだ。追観測で再び捉えられる日を、みんな待っているよ。
エイリアン探しの網に、宇宙で最も精密な「時計」の候補がかかった。まだ確証は得られていないが、もし本物なら、ブラックホール周辺の物理を書き換えるほどの発見になるかもしれない。次世代の巨大電波望遠鏡が本格稼働すれば、銀河の心臓部に潜むパルサーたちが、次々と姿を現すだろう。この一つの「候補」は、その広大な入り口に立つ、小さくも確かな灯りなのだ。いつかこの灯りが本物だと確かめられる日を、静かに待ちたい。確かめられれば大発見、確かめられなくても探索の技術は確実に前へ進む。どちらに転んでも、私たちは銀河の心臓部にまた一歩近づいている。慎重に「候補」と呼びながら次の観測を待つ――その静かな粘り強さこそが、宇宙の深い謎に挑む科学の本当の姿なのだろう。
参考文献
Perez KI, et al. 『On the Deepest Search for Galactic Center Pulsars and an Examination of an Intriguing Millisecond Pulsar Candidate』 The Astrophysical Journal, 2026, 998:147. DOI: 10.3847/1538-4357/ae336c
ScienceDaily (2026-02-17): Ultra-fast pulsar found near the Milky Way’s supermassive black hole










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