シルミーねえはかせ、宇宙ってこれからもずっと広がり続けるんでしょ? 終わりなんてないよね?
それがな、シルミー。最新の研究では『いつか広がるのをやめて、逆に縮み始めるかもしれない』と言い出す人たちが出てきたのじゃ。しかも最後は、宇宙まるごと一点に潰れて終わる、とな。
夜空の星は、何百年経ってもだいたい同じ場所で光っている。だから宇宙は、静かで変わらないものに見える。ところが宇宙全体はいま この瞬間も広がり続けていて、遠くの銀河は少しずつ私たちから遠ざかっている。そしてこの100年、科学者たちは『広がった先に何が待つのか』を問い続けてきた。20年ほど『宇宙は永遠に広がり、冷え切って静かに終わる』が定説だった。ところが2025年9月、アメリカのコーネル大学と中国・上海交通大学の李政道研究所などの物理学者チームが、その常識に真っ向から挑む論文を発表した。宇宙は広がりきったあと逆に縮み始め、いまから約200億年後、すべてが一点に潰れて終わる——そんな計算結果である。
『宇宙は永遠に広がり続ける』——そう信じられてきた


まず、宇宙が広がるとはどういうことか。パン生地にレーズンを混ぜて焼く場面を思い浮かべてほしい。生地がふくらむと、どのレーズンから見ても まわりのレーズンが遠ざかっていく。宇宙もこれと同じで、銀河がレーズン、銀河と銀河のあいだの空間そのものがふくらんでいる。誰かが中心にいて逃げているのではなく、空間が伸びているのだ。
この膨張を押し進めているのが『ダークエネルギー』と呼ばれる正体不明の力だと考えられてきた。重力は物を引き寄せるが、ダークエネルギーは逆に空間を押し広げる。そしてこの押す力は、時代が変わってもずっと一定だというのが、長らくの見立てだった。力が一定なら、宇宙はこの先ずっと広がり続ける。星は燃え尽き、あらゆるものが薄まって冷えていき、やがて何も起きない静けさに沈む。これが『熱的死』、いちばん有力とされてきた宇宙の最期である。
ところが今回の新説は、この筋書きをひっくり返す。膨張を押していた力がだんだん弱まり、あるところで重力に負け、宇宙は縮みに転じるというのだ。縮んだ果てにあるのが、時空ごと一点に潰れる終わり方——『ビッグクランチ』である。
論文の名は『The Lifespan of our Universe(私たちの宇宙の寿命)』。フアン・ニャン・ルー、ユーチェン・チウ、S・H・ヘンリー・タイの3氏によるもので、コーネル大学の名誉教授タイ氏が中心となった。彼らの計算では、宇宙の一生はおよそ333億年。すでに138億歳を数えるこの宇宙は、寿命の折り返し地点を少し過ぎたあたりにいる、という見立てになる。
100年前に見つかった膨張、1998年に見つかった『加速』
宇宙が広がっていると人類が知ったのは、そう昔のことではない。1929年、天文学者エドウィン・ハッブルが、遠い銀河ほど速いスピードで遠ざかっていることを観測でつかんだ。それまで宇宙は動かず変わらないものだと信じられていたから、これは世界観をひっくり返す発見だった。宇宙には始まりがあり、いまも大きくなり続けている——ビッグバンという考え方の入り口が、ここで開いた。
それから約70年、科学者たちは当然こう予想していた。ビッグバンの勢いで広がった宇宙も、物質どうしの重力に引かれて、いつかは膨張がゆるやかになっていくはずだ、と。ボールを空に投げれば、上がるほど速さが落ちていくのと同じ理屈である。ところが1998年、二つの研究チームが遠くの超新星爆発を精密に観測して、まったく逆の事実を突きつけた。宇宙の膨張は、減速するどころか年々スピードを上げていた。ブレーキが踏まれているはずの場所で、誰かがアクセルを踏んでいたのだ。
これは大事件だった。加速を起こすには、重力に逆らって空間を押し広げる未知の力がいる。その正体不明の力に付けられた名前が、ダークエネルギーである。発見の衝撃は大きく、観測を率いたソール・パールムッター、ブライアン・シュミット、アダム・リースの3氏は2011年のノーベル物理学賞に輝いた。
ここが今回の話の起点になる。宇宙が最後にどうなるかは、このダークエネルギーが今後どうふるまうかで決まる。押す力が強まり続けるのか、一定なのか、それとも弱まっていくのか。その一点に、宇宙の運命がぶら下がっている。
宇宙の68%を占める『ダークエネルギー』の正体


では、そのダークエネルギーとは何者なのか。じつは正直に言えば、誰も正体を知らない。わかっているのは『量』だけだ。宇宙のエネルギーの内訳を見ると、星やガス、地球や私たちの体といった目に見える普通の物質は、たったの約5%にすぎない。目に見えないダークマターが約27%。そして残りのおよそ68%、宇宙の三分の二以上を占めているのが、このダークエネルギーである。
宇宙の大半を占めているのに、望遠鏡で直接見ることもできず、手で触れることもできない。わかるのは、それが空間を押し広げているというはたらきだけ。重力が『引き寄せる』方向の力なら、ダークエネルギーは『押し広げる』方向の力。宇宙の中では、この二つがずっと綱引きをしていると思えばいい。物質の重力がまされば宇宙は縮もうとし、ダークエネルギーがまされば宇宙は広がっていく。
この押す力を数式で表すとき、物理学では宇宙定数と呼ばれる量、記号でΛ(ラムダ)を使う。もともとはアインシュタインが自分の重力の方程式に書き込んだ数で、空間そのものが持つエネルギーのようなものだと考えられている。宇宙定数がプラスで一定なら、空間はいつまでも押し広げられ、宇宙は永遠に膨張する。これまでの標準的な宇宙像は、まさにこの『プラスで一定』を前提にしていた。
だからこそ、問いはここに絞られる。宇宙定数は本当に『定数』、つまり変わらない一定値なのか。それとも、時間とともにこっそり変わっているのか。もし変わっているとしたら、宇宙の未来図は根っこから描き直しになる。
宇宙はどう終わるのか——三つのシナリオ


宇宙の終わり方には、いくつかの筋書きが用意されている。どれになるかは、ダークエネルギーが今後どう変化するかで枝分かれする。まず一つ目が、さきほど触れた『ビッグフリーズ(熱的死)』。ダークエネルギーがこのまま一定の力で押し続けると、宇宙はどこまでも広がる。銀河は遠ざかって互いに見えなくなり、星はやがて燃料を使い果たし、すべてが薄く冷たくなって、何も起きない永遠の静けさに沈む。いまのところ、これが最有力とされてきた。
二つ目が『ビッグリップ(大きな引き裂き)』。2003年に提唱されたシナリオで、もしダークエネルギーの押す力がこの先どんどん強まっていくと、その勢いはやがて銀河をばらし、星や惑星を引き離し、最後には原子までも引き裂いてしまう。宇宙のあらゆるものが、時間の終わりに向かってバラバラに散っていく、荒々しい結末だ。
そして三つ目が、今回の主役『ビッグクランチ(大きな潰れ)』。押す力が弱まって重力に負けると、宇宙は広がるのをやめ、こんどは逆向きに縮んでいく。銀河は互いに近づき、宇宙全体の温度が上がり、最後には時空ごと一点に集まって潰れる。ビッグバンを逆再生したような終わり方である。
三つのシナリオは、いわば『押す力が強まるか・一定か・弱まるか』の三択に対応している。強まればビッグリップ、一定ならビッグフリーズ、弱まればビッグクランチ。だから、ダークエネルギーが今どちらに動いているのかを観測でつかむことが、宇宙の未来を占う決め手になる。そしてその観測に、いま異変が見えているのだ。
異変——ダークエネルギーが『弱まっている』かもしれない


その異変を捉えたのが、DESI(ダーク・エネルギー・スペクトロスコピック・インストゥルメント/暗黒エネルギー分光装置)という観測装置である。アメリカ・アリゾナの望遠鏡に取り付けられ、何百万もの銀河が『どれくらい遠くにあるか』を一つひとつ精密に測っていく。遠い銀河ほど昔の姿を映しているから、距離を測るということは、宇宙が過去どんなペースで広がってきたかの記録を読み解くことに等しい。いわば宇宙の膨張の歴史書を、銀河の地図から復元する作業だ。
そのDESIが積み上げたデータ、さらに超新星を観測する別のプロジェクトDES(ダーク・エネルギー・サーベイ)のデータを合わせて調べると、思いがけない傾向が浮かんだ。ダークエネルギーの押す力は、どうやら一定ではないらしい。ずっと変わらないと信じられてきた力が、時間とともに少しずつ弱まっている——そんな兆候が読み取れたのである。
これは静かだが重い意味を持つ。もし押す力が本当に弱まっているなら、いつか物質の重力に追い抜かれる日が来るかもしれない。綱引きの均衡がじわじわ崩れ、勝者が入れ替わる可能性が出てくる。永遠の膨張という前提に、ひびが入った瞬間だ。
ただし、ここは慎重に受け止めなければならない。この兆候はまだ うっすらとしたもので、はっきり『そうだ』と断言できる強さには届いていない。この点はあとで改めて触れるが、まずは『一定だと思われていた力が、実は変わっているらしい』という手がかりが、今回の新説の土台になっていることを押さえておきたい。
新説の核心——宇宙定数が『マイナス』に転じるとき
DESIが示した『力が弱まっているらしい』という手がかりを、どんな仕組みで説明できるのか。タイ氏たちが持ち出したのが『アクシオン・ダークエネルギー』と呼ぶモデルだ。アクシオンという、とてつもなく軽い未知の粒子と、宇宙定数を組み合わせた考え方で、宇宙の初めの頃はふつうの宇宙定数のようにふるまい、後になってふるまいを変える、という設計になっている。
このモデルで観測データにいちばんよく合う値を探ると、驚く結論が出てきた。根っこにある宇宙定数Λが、プラスではなくマイナスである可能性が高い、というのだ。20年にわたって『プラスで一定』が当たり前だっただけに、これは前提そのものをひっくり返す主張になる。
プラスの宇宙定数は空間を押し広げる。ではマイナスだと何が起きるか。押すのではなく、逆に引き寄せる向きにはたらく。いまはまだダークエネルギーの押す成分が優勢で宇宙は広がっているが、時間が経つにつれてマイナスの引く効果と、物質そのものの重力とが力を増していく。やがて二つが手を組んで押す力に打ち勝った瞬間、宇宙は膨張から収縮へと向きを変える。
イメージするなら、空に高く投げ上げたボールだ。手を離れた直後は勢いよく上っていくが、重力に引かれて速さはだんだん落ち、いちばん高いところで一瞬止まり、そこから落ちてくる。宇宙もこれと同じで、いまは上昇の途中。広がりきって『天井』に達したあと、こんどはまっさかさまに落ちるように縮んでいく——それがこの新説の描く未来図である。
333億年後、宇宙は一点に戻る


では、そのボールはいつ頂点に届くのか。タイ氏たちの計算によれば、宇宙はいまから約110億年ほどは膨張を続け、そのあたりで最大の大きさに達する。宇宙全体が『いちばん広がった瞬間』を迎えるわけだ。現在138億歳の宇宙にとって、まだしばらくは上昇の途中ということになる。
頂点を過ぎると、いよいよ向きが反転する。宇宙は縮みに転じ、いまから約200億年後、すべてが一点に潰れるビッグクランチを迎える。膨張から収縮までを合わせた宇宙の一生は、およそ333億年。私たちはその折り返しを少し過ぎたあたりに立っている計算になる。永遠だと思っていた宇宙に、はっきりとした『寿命』の数字が付いたのは、なかなかに衝撃的だ。
縮んでいく宇宙は、どんな姿になるのか。遠ざかっていた銀河は反転して近づきはじめ、宇宙全体の温度はじわじわ上がっていく。広がって薄まったものが、逆再生のようにぎゅっと集まり、最後は時空そのものが一点に折りたたまれて終わる。始まりのビッグバンを裏返したような結末、と言えばイメージしやすいかもしれない。
もっとも、この壮大な最期を私たち人類が見届けることはない。太陽は約50億年後にはふくらんで赤い巨大な星になり、地球を焼き尽くしてしまう。宇宙の終わりよりもはるか手前で、私たちの足元の世界は幕を閉じる。333億年という数字は、人の一生はもちろん、地球や太陽の一生さえ軽く飛び越えた、想像の外にある時間の話なのだ。
でも、まだ『かもしれない』の段階
ここまで読むと宇宙の運命が決まったように感じるかもしれないが、話はそう単純ではない。今回の新説を支えるダークエネルギーの『弱まっている』という兆候は、まだ弱い手がかりにすぎない。統計の確からしさを表す指標で見ると、データの組み合わせ方しだいでおよそ2.8から4.2の幅、単独では2程度の水準にとどまる。物理学の世界で『発見した』と胸を張るには、ふつう5という高いハードルを越える必要がある。今回はそこまで届いていない。
言いかえれば、これは『たぶん、そうかもしれない』という段階の話だ。観測データはまだ十分ではなく、ダークエネルギーが本当はどうふるまっているのか、はっきり見極められる域には達していない。これから世界中の望遠鏡がさらに多くの銀河を測っていくなかで、この兆候が確かなものになるかもしれないし、あるいは消えてしまうかもしれない。ひっくり返る可能性も、まっとうに残っている。
それでも、この論文の意味は小さくない。『宇宙は永遠に広がる』という一択だった常識に対して、きちんと審査を通った学術論文が、別のもっともらしい可能性を数字とともに示した。宇宙の終わり方は、まだ一つに決まってなどいない——そう突きつけたところに、この研究の値打ちがある。
宇宙の運命を決める答えは、遠い彼方の何百万もの銀河が届ける、かすかな光の中にある。人類はいまその光を一つひとつ読み解いて、この宇宙がどんな最期を迎えるのかを、少しずつ問い直している最中なのだ。
まとめるとな、永遠に広がると思われた宇宙にも、縮んで終わる筋書きがありうる、という話じゃ。今回のはその可能性を数字で示したもの。ただし証拠はまだ弱くて、これから覆るかもしれん。そこは正直に受け止めておくのが大事じゃな。



333億年後かあ…気が遠くなる話だけど、宇宙にも『一生』があるって思うと、なんだか急に身近に感じちゃうね。ボクたちも、その途中に生まれたひとつの点なんだ。
333億年という時間は、私たちの毎日とはかけ離れて大きい。それでも宇宙に始まりと終わりがあり、いまがその途中だと知ると、頭の上に広がる夜空の見え方が少し変わる。広がりきってやがて縮むのか、冷えて静かに終わるのか——その答えはまだ誰も知らない。だからこそ、今夜も遠い銀河の光を測り続ける人たちがいる。決まっていない未来を少しずつ確かめていく、その営みの上に、私たちの『いま』も乗っている。
参考文献:
一次ソース: Hoang Nhan Luu, Yu-Cheng Qiu, S.-H. Henry Tye, 『The Lifespan of our Universe』, Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (JCAP), Vol.2025, No.09, 055 (2025年9月18日) DOI:10.1088/1475-7516/2025/09/055(プレプリント: arXiv:2506.24011)
研究機関: コーネル大学、上海交通大学 李政道研究所、香港科技大学ほか
観測データ: DESI(暗黒エネルギー分光装置, DR2)、DES(ダーク・エネルギー・サーベイ)
参考: 加速膨張の発見は1998年(2011年ノーベル物理学賞: S. パールムッター、B. シュミット、A. リース)










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