はかせ、チンパンジーってお酒飲むの?
実は飲むんです。しかも、それがついに科学的に証明されたんですよ
アフリカのギニアで、野生のチンパンジーが発酵したヤシの樹液を飲んでいる姿が何度も目撃されてきた。でも、本当にアルコールを摂取しているのか、それとも単に甘い樹液を舐めているだけなのか、長年論争が続いていた。
この謎を解くため、大学院生たちは去年の夏、チンパンジーの尿サンプルを集めることに。その結果、ついに野生チンパンジーの体内からアルコール代謝物が検出された。
チンパンジーの「飲み会」現場


ヤシの木が天然の醸造所に
ギニアのボッソウという地域では、地元の人々がラフィアヤシという木から樹液を採取する。幹に切り込みを入れ、そこから滴る樹液を容器で受け止める仕組みだ。
この樹液は時間が経つと自然に発酵する。空気中の酵母が糖分をアルコールに変えるためで、アルコール度数は3〜7%にもなる。ビールと同じくらいの強さだ。
チンパンジーたちはこの「天然の居酒屋」を見逃さない。葉っぱを折り曲げてスポンジ状にし、それを容器に突っ込んで樹液を吸い取る。まるでストローを使うような巧みな技だ。
1日に何杯飲むのか
研究チームの観察によると、1回の飲酒セッションで平均85ミリリットルを摂取していた。コップ半分ほどの量だが、体重60キロの人間に換算すると、ビール1〜2缶分に相当する。
しかも、チンパンジーは1日に何度も「飲み会」に参加する。特にオスの成体がよく飲み、メスや子どもはあまり近づかない傾向があった。
面白いのは、飲んだ後の行動だ。酔っぱらったような千鳥足を見せる個体もいれば、いつもより攻撃的になる個体もいた。人間の飲み会と似ている。
目撃証言だけでは証明にならない
ただし、見ているだけでは科学的な証拠にはならない。チンパンジーが樹液を飲んでいるのは確かだが、もしかしたらアルコールが蒸発した後の甘い液体だけを好んでいるのかもしれない。
あるいは、口に含んでもすぐ吐き出しているかもしれない。つまり、体内にアルコールが実際に吸収されているかどうかが最大の焦点だった。
そこで登場するのが、今回の尿検査だ。
大学院生が集めた51個の尿サンプル


森の中で尿を探す日々
カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、ボッソウの森で野生チンパンジーを追跡した。チンパンジーが排尿したらすぐに駆け寄り、地面や葉の上に残った尿をスポイトで吸い取る。
これを去年の夏の間に繰り返し、合計51個の尿サンプルを収集した。気温30度を超える熱帯雨林で、蚊に刺されながらの作業だ。
サンプルはすぐに冷凍保存し、研究室に持ち帰った。鮮度が命だからだ。
エチルグルクロニドという動かぬ証拠
研究チームが探したのはエチルグルクロニド(EtG)という物質だ。これはアルコールが体内で分解されたときにできる代謝物で、尿中に数日間残る。
人間の飲酒検査でも使われる信頼性の高い指標だ。体内でアルコールを処理した証拠として、裁判でも採用される。
分析の結果、51サンプル中17個からEtGが検出された。つまり、約3分の1のチンパンジーが、採尿の数日前にアルコールを摂取していたことになる。
野生動物で初の確認
これまで、動物園や実験室のチンパンジーがアルコールを飲むことは知られていた。また、果物が発酵してできた天然アルコールを鳥や昆虫が摂取する例も報告されている。
しかし、野生の大型霊長類が日常的にアルコールを摂取していることが生化学的に証明されたのは、これが初めてだ。
研究チームは結果を「Royal Society Open Science」誌に発表した。論文のタイトルは「野生チンパンジーにおけるアルコール摂取の生化学的証拠」だ。
人間の飲酒本能と進化の謎


「酔っ払った猿」仮説
今回の発見は、「酔っ払った猿仮説」という古い理論を裏付けるものだ。この仮説は、人間がお酒を好むのは進化の過程で獲得した本能だと主張する。
約1000万年前、アフリカの森に住んでいた類人猿の祖先は、熟しすぎて地面に落ちた果物を食べていた。こうした果物は自然発酵してアルコールを含んでいる。
アルコールの匂いは、栄養豊富な熟した果物のサインだった。だから、アルコールに引き寄せられる個体ほど、効率よくカロリーを摂取できた。
アルコール分解酵素の進化
人間の体内にはADH4というアルコール分解酵素がある。遺伝子の研究によると、この酵素が強化されたのは約1000万年前だという。
これはちょうど、類人猿の祖先が樹上生活から地上生活に移行した時期と重なる。地面に落ちた発酵果物を安全に食べるため、アルコール耐性が必要だったのかもしれない。
チンパンジーも同じ酵素を持っている。今回の研究で、彼らが実際にアルコールを代謝していることが証明された。
なぜ人間だけが依存症になるのか
ただし、野生チンパンジーはアルコール依存症にならない。彼らは飲む機会があれば飲むが、執着はしない。
一方、人間は高濃度のアルコールを意図的に作り出し、依存症に苦しむようになった。この違いはどこから来るのか。
研究者たちは、文化と脳の報酬系の関係に注目している。人間は社会的な文脈でお酒を飲むようになり、それが脳の快楽回路と結びついた可能性がある。
チンパンジーも飲み会してるなんて、なんだか親近感わくなあ
今回の研究は、人間とチンパンジーの共通の祖先が、すでにアルコールと付き合っていたことを示している。お酒を楽しむのは、1000万年前から続く霊長類の習性なのかもしれない。ただし、度を越さないように気をつけたいところだ。チンパンジーたちは、ほどほどに楽しんでいるようだから。
参考文献:
Boozy chimps fail urine test, confirm hotly debated theory
出典: Ars Technica










コメント