はかせ、日本でもオーロラが見えることがあるって本当なの?
本当ですよ。しかも北海道で撮られた赤いオーロラが、宇宙のすぐ近く、地上800kmまで伸びていたと分かったんです
北海道大学と沖縄科学技術大学院大学の研究チームが、日本の上空に現れた赤いオーロラを調べたところ、これまでの常識を覆す高さに達していたことを突き止めた。研究成果は学術誌「Journal of Space Weather and Space Climate」に掲載された。各地のアマチュア天文ファンが撮った写真が、その解明の決め手になっている。
市民の写真と衛星データで挑んだ高さ測定


そもそも日本でオーロラはなぜ珍しいのか
オーロラは、太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子が地球の大気とぶつかって光る現象だ。ふだんは北極や南極の近くでよく見られる。地球の磁場が、北と南の極に向かって粒子を導いているからだ。
北海道のような南の地域でオーロラが現れるのは、強い磁気嵐が起きて、光る範囲が低い緯度まで広がったときに限られる。一年に数えるほどしかないチャンスだ。
それでも日本人とオーロラの縁は古い。鎌倉時代の歌人・藤原定家は日記『明月記』に、夜空が赤く染まる「赤気」が現れたと書き残している。今回の研究は、その赤い光をいまの科学で測り直した試みでもある。
日本で見えるオーロラが赤いことが多いのにも理由がある。赤い光は、高い空にうすく漂う酸素原子が太陽の粒子に刺激されて出すものだ。同じ酸素でも、もっと低い空では緑色に光る。赤は緑よりずっと高い場所で生まれる、いわば「背の高いオーロラ」なのだ。
これまで、日本付近の赤いオーロラは高さ200〜400kmあたりで光ると考えられてきた。ちょうど国際宇宙ステーションが飛ぶ高度(約400km)と重なる領域だ。
衛星の観測と市民が撮った写真を合わせる
研究チームが注目したのは、2024年6月から2025年3月にかけて北海道で記録された5回のオーロラだった。
調べ方がユニークだった。人工衛星による上空からの観測データに加えて、日本各地のアマチュア天文ファンが撮影した写真を大量に集めたのだ。
プロの観測網は数が限られ、めったに起きない赤いオーロラがいつ・どこに出るかを狙い撃ちするのは難しい。そこで力を発揮したのが、北海道の各地で夜空にカメラを向けていた市民科学者たちだった。離れた複数の地点から撮られた写真がそろったことで、一つの観測所だけでは届かない精度でオーロラを追えるようになった。
デジタルカメラの普及で、誰もが鮮明な夜空の写真を撮れるようになったことも追い風になった。趣味で撮った一枚が、最先端の研究データへと姿を変えたのだ。
磁力線をたどって高さを割り出す
集まった写真には、別々の場所から別々の角度でとらえた同じオーロラが写っている。チームは一枚ずつオーロラの傾きや位置を分析し、地球の磁力線に沿ってその姿をたどった。オーロラの光は磁力線に沿って細長く伸びるため、線を手がかりにすれば空のどこで光っているかを立体的に再現できる。
複数の地点から同じ光を見る角度のわずかな違いを使えば、その光がどのくらい高いところにあるかを計算できる。遠くの山の高さを、離れた二つの場所から見上げた角度で割り出す三角測量とよく似た理屈だ。
こうして、写真に写る赤い光が実際にどこまで届いていたのかを、一つひとつ丁寧に推定していった。オーロラの高さは、太陽の粒子がどこまで深く大気に入り込んだかを映す物差しになる。だからこそ、その高さを正確に測ることが、嵐の本当の規模を知る手がかりになるのだ。
予想を超えた800kmという結果


通常の倍以上に伸びていた赤いオーロラ
分析の結果、赤いオーロラは地上およそ500〜800kmの高さまで広がっていた。
これまで考えられてきた200〜400kmの、ざっと2倍にあたる高さだ。宇宙との境界とされる高度100kmをはるかに越え、国際宇宙ステーションよりもさらに上の空にまで赤い光が届いていたことになる。
800kmといえば、東京から広島あたりまでの距離を、そっくり空に向けて縦に立てたほどの高さだ。その天辺まで、夜空にぼんやりと赤い光のカーテンが立ちのぼっていたわけだ。
この高さは、大気の最も外側にある熱圏と呼ばれる層にあたる。空気は地上の何億分の一しかないが、太陽の活動しだいで温度や厚みが大きく変わる、いわば宇宙の入り口のような場所だ。
「中程度の嵐」のはずだったのに
さらに驚きだったのは、これらが特別に激しい磁気嵐のときに起きたわけではない点だ。Kp指数などの標準的なものさしでは、5回の嵐はいずれも「中程度」に分類されていた。
研究を率いたナカヤマ氏(Tomohiro M. Nakayama)は「中程度とされる嵐でも、赤いオーロラがこれほど高くまで伸びると分かった。こんなに背の高いオーロラが現れるとは思っていなかったので、本当に驚いた」と話す。
つまり、ものさしの数字が示すよりも、実際の嵐はずっと強かった可能性がある。穏やかな顔をした嵐が、こっそり本気を出していたようなものだ。一年でも限られた数回しか起きない嵐を、これほど細かく追えた例はめずらしい。
太陽風が大気を押し上げていた
なぜ、中程度のはずの嵐でオーロラがここまで高くなったのか。鍵は太陽風にあった。
太陽から噴き出す濃い粒子の流れが、地球を包む見えない磁石のバリアである磁気圏を強く押し縮めた。すると上空の大気が熱せられ、風船のように上へとふくらむ。その結果、赤いオーロラが光る層も、ふだんより高い場所へと持ち上げられたとみられる。
太陽風には、速さや濃さがまちまちな流れが混ざっている。今回の5回では、とりわけ濃い粒子の流れが続けざまに地球へ届き、磁気圏を長い時間にわたって押し続けたとみられる。一瞬の突風ではなく、じわじわと押し込む向かい風のような状態だったわけだ。
同時に、流れ込む粒子の動きが嵐の本当の強さを覆い隠し、従来の観測では実際より弱く見せていた。標準的な数字の裏側で、太陽は地球を思った以上に激しく揺さぶっていたのだ。
この発見が人工衛星を守る理由
膨らんだ大気が衛星にブレーキをかける
今回の発見は、美しい光のショーという話だけにとどまらない。地球の上層大気が熱せられてふくらむと、そこを飛ぶ人工衛星が受ける大気の抵抗が増えるからだ。
本来なら空気がほとんどない高さでも、大気がふくらんで上がってくれば、衛星はうっすらとした空気の中を進むことになる。水の中を歩くと足が重くなるように、わずかな抵抗でも衛星には余計なブレーキとしてのしかかる。
この抵抗は衛星の軌道を少しずつ変え、機体によっては予想より速く高度を下げてしまう。高度を保つには燃料を使って軌道を上げ直す必要があり、その分だけ衛星の寿命も縮む。放っておけば、いずれ大気圏に落ちてしまう衛星も出てくる。
増え続ける低軌道衛星への影響
近年、通信や地球観測のために低軌道を飛ぶ衛星の数は爆発的に増えている。スターリンクに代表される巨大な通信衛星群もこの高さを飛んでいる。
赤いオーロラが届いていた500〜800kmという高さは、まさにこうした衛星がひしめく領域と重なる。大気の膨らみを正しく見積もれなければ、衛星の位置予測がずれ、衝突を避けるための運用も難しくなる。軌道がずれた衛星どうしがぶつかれば、こなごなになった破片が新たな衝突を呼ぶおそれもある。
穏やかに見える嵐ほど、実は油断できない——今回の結果は、そんな警告を投げかけている。
宇宙天気予報をより正確に
ナカヤマ氏は「低軌道の衛星が増え続けるなか、こうした影響を理解することがますます欠かせなくなっている。今回の結果は宇宙天気予報の改善や、より安全な衛星運用につながりうる」と語る。
中程度に見える嵐の裏に隠れた本当の強さを読み取れれば、太陽の機嫌に振り回されがちな衛星を、もっと確実に守れるようになる。空の異変を測るものさし自体を、作り直すきっかけになるかもしれない。
きれいなオーロラが、衛星を守るヒントにもなるなんてびっくり!
夜空を彩る赤い光の正体を、各地のアマチュアが撮った一枚一枚の写真が解き明かした。鎌倉時代の人々が見上げた「赤気」と同じ光が、いまや衛星を守る科学のデータになっている。空を見上げる人が増えるほど、宇宙の小さな異変はもっと早く見つかるはずだ。
参考文献:
Scientists discover towering red auroras reaching deep into space above Japan
出典: ScienceDaily










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