北海道大学の中山智博さんと沖縄科学技術大学院大学(OIST)の片岡龍峰さんの研究チームが、日本の上空に現れた赤いオーロラを調べたところ、ふつうの赤いオーロラよりかなり高い所まで伸びていたと見積もった。
研究成果は2026年、学術誌「Journal of Space Weather and Space Climate」(16巻19号)に掲載された。
各地のアマチュア天文ファンが撮った写真が、その高さを見積もる手がかりになっている。この記事では、その発見の中身と、どこまでが確かめられ、どこに慎重さが要るのかまで見ていきたい。
市民の写真と衛星データで挑んだ高さ測定
そもそも日本でオーロラはなぜ珍しいのか
オーロラは、太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子が地球の大気とぶつかって光る現象だ。ふだんは北極や南極の近くでよく見られる。
地球の磁場が、北と南の極に向かって粒子を導いているからだ。
北海道のような南の地域でオーロラが現れるのは、強い磁気嵐が起きて、光る範囲が低い緯度まで広がったときに限られる。
一年に数えるほどしかないチャンスだ。
それでも、条件がそろえば日本でも赤い夜空が現れることがある。
歴史をさかのぼれば、古い記録のなかに「夜空が赤く染まった」という記述が見つかることもあり、低緯度のオーロラは昔から人々を驚かせてきた。
今回の研究は、そうした低緯度の赤いオーロラを、現代の観測技術で正確に測り直そうとした試みだ。
日本で見えるオーロラが赤いことが多いのにも理由がある。赤い光は、高い空にうすく漂う酸素原子が太陽の粒子に刺激されて出すものだ。
同じ酸素でも、もっと低い空では緑色に光る。赤は緑よりずっと高い場所で生まれる、いわば「背の高いオーロラ」なのだ。
もう少し詳しく言うと、緑のオーロラを出す反応は数秒で光が消えてしまうのに対し、赤い光を出す反応はゆっくりで、時間をかけて光る。
そのため、粒子どうしがぶつかりにくい高い空でこそ、赤い光は消えずに残りやすい。低緯度の日本から見えるオーロラが赤色に偏るのは、こうした物理の事情が背景にある。
つまり赤いオーロラは、もともと「高いところで光る性質」を持った現象なのだ。だからこそ、その高さを正確に測ることが、大気の状態を知る手がかりになる。
論文が引く先行研究では、赤いオーロラはふつう高さ400〜600kmまで広がるとされてきた。
衛星の観測と市民が撮った写真を合わせる
研究チームが注目したのは、2024年6月から2025年3月にかけて北海道などで記録された5回のオーロラだった。
2024年9月12日の例は秋田県からも観測された。
調べ方がユニークだった。人工衛星による上空からの観測データに加えて、日本各地のアマチュア天文ファンが撮影した写真を大量に集めたのだ。
プロの観測網は数が限られ、めったに起きない赤いオーロラがいつ・どこに出るかを狙い撃ちするのは難しい。そこで力を発揮したのが、北海道の各地で夜空にカメラを向けていた市民科学者たちだった。
離れた複数の地点から撮られた写真がそろったことで、一つの観測所だけでは届かない精度でオーロラを追えるようになった。
デジタルカメラの普及で、誰もが鮮明な夜空の写真を撮れるようになったことも追い風になった。趣味で撮った一枚が、最先端の研究データへと姿を変えたのだ。
キク離れた場所で撮った写真がたくさん集まったから、一つの観測所では届かない精度でオーロラを追えたんだね。
磁力線をたどって高さを割り出す
集まった写真には、別々の場所から別々の角度でとらえた同じオーロラが写っている。チームは一枚ずつオーロラの傾きや位置を分析し、地球の磁力線に沿ってその姿をたどった。
オーロラの光は磁力線に沿って細長く伸びるため、線を手がかりにすれば空のどこで光っているかを立体的に再現できる。
複数の地点から同じ光を見る角度のわずかな違いを使えば、その光がどのくらい高いところにあるかを計算できる。遠くの山の高さを、離れた二つの場所から見上げた角度で割り出す三角測量とよく似た理屈だ。
こうして、写真に写る赤い光が実際にどこまで届いていたのかを、一つひとつ丁寧に推定していった。オーロラの高さは、太陽の粒子がどこまで深く大気に入り込んだかを映す物差しになる。
だからこそ、その高さを正確に測ることが、嵐の本当の規模を知る手がかりになるのだ。
予想を超えた800kmという結果
分析の結果、5回の赤いオーロラの上端は、低いもので約490〜570km、最も高かった2024年8月4日の例では約800kmに達していた。
先行研究の400〜600kmを越える高さだ。宇宙との境界とされる高度100kmをはるかに上回り、赤い光が驚くほど高い空にまで届いていたことになる。
なお800kmは5回すべての代表値ではなく、あくまで最大到達高度である点は正確に押さえておきたい。
この高さは、大気の最も外側にある熱圏と呼ばれる層にあたる。空気が極めて薄い一方で、太陽の活動しだいで温度や厚みが大きく変わる、いわば宇宙の入り口のような場所だ。
「中程度の嵐」のはずだったのに
さらに驚きだったのは、これらが特別に激しい磁気嵐のときに起きたわけではない点だ。
磁気嵐の規模を測る代表的なものさしであるDst指数で見ると、5回のうち4回は「中程度」、2025年3月26日の例は最大でもマイナス62ナノテスラの「弱い」嵐だった。
研究を率いたナカヤマ氏(Tomohiro M. Nakayama)は「中程度とされる嵐でも、赤いオーロラがこれほど高くまで伸びると分かった。こんなに背の高いオーロラが現れるとは思っていなかったので、本当に驚いた」と話す。
ただし、別のものさし(ASYM-H指数)で見ると、どの例でも標準的な指標(SYM-H)の最大値の1.3〜2.0倍にあたる約150ナノテスラに達していた。
論文は、実際の嵐の強さが過小評価されていたと見ている。
もっとも、研究チーム自身も慎重な留保を残している。今回とらえた赤い光には、純粋なオーロラだけでなく、よく似た別の発光現象(SARアークと呼ばれる)が混ざっている可能性も否定できないという。
見た目が近いこの二つを完全に切り分けるのは難しく、そこは今後の課題として残されている。



中程度とされる磁気嵐なのに、どうして赤いオーロラがそんなに高くまで伸びたんだろう?
太陽風が大気を押し上げていた
なぜ、中程度のはずの嵐でオーロラがここまで高くなったのか。鍵は太陽風にあった。
5回とも、太陽風が地球の磁気圏を強く押し縮めていた。
論文は、太陽風の密度が1立方センチあたり30個を超えることが、多くの例で赤いオーロラが高く伸びた鍵になったとし、磁気嵐にともなう加熱で上空の大気が濃くなり、オーロラが上へ伸びたのではないかと提案している。
ただし、磁気圏の押し縮めと高いオーロラを結ぶ仕組みはまだはっきりしていない。
さらに論文は、1996〜2008年ごろの太陽活動周期に日本から見えた赤いオーロラ8例を調べ、「太陽風の密度が高ければ日本で赤いオーロラが見える」という単純な考えは当てはまらないとも述べている。
太陽風の速さや密度とオーロラの関係は、単純ではないということだ。
この発見が人工衛星を守る理由
膨らんだ大気が衛星にブレーキをかける
今回の発見は、美しい光のショーという話だけにとどまらない。地球の上層大気が熱せられてふくらむと、そこを飛ぶ人工衛星が受ける大気の抵抗が増えるからだ。
本来なら空気がほとんどない高さでも、大気がふくらんで上がってくれば、衛星はうっすらとした空気の中を進むことになる。
水の中を歩くと足が重くなるように、わずかな抵抗でも衛星には余計なブレーキとしてのしかかる。
この抵抗は衛星の軌道を少しずつ変え、機体によっては予想より速く高度を下げてしまう。高度を保つには燃料を使って軌道を上げ直す必要があり、その分だけ衛星の寿命も縮む。
放っておけば、いずれ大気圏に落ちてしまう衛星も出てくる。
増え続ける低軌道衛星への影響
近年、通信や地球観測のために低軌道を飛ぶ衛星の数は爆発的に増えている。スターリンクに代表される巨大な通信衛星群もこの高さを飛んでいる。
赤いオーロラが届いていた500〜800kmという高さは、まさにこうした衛星がひしめく領域と重なる。
大気の膨らみを正しく見積もれなければ、衛星の位置予測がずれ、衝突を避けるための運用も難しくなる。軌道がずれた衛星どうしがぶつかれば、こなごなになった破片が新たな衝突を呼ぶおそれもある。
この点は、宇宙天気予報の精度にも直結する。大気がどれだけふくらむかを見誤れば、衛星が「いまどこにいるか」の予測がずれ、衝突を避けるための軌道調整も後手に回りかねない。
一方で、上層大気のシミュレーションの多くは上限が高さ約600kmに設定されていて、今回の800kmのような高さまでの計算は簡単ではないと論文は指摘している。
宇宙天気予報をより正確に
ナカヤマ氏は「低軌道の衛星が増え続けるなか、こうした影響を理解することがますます欠かせなくなっている。今回の結果は宇宙天気予報の改善や、より安全な衛星運用につながりうる」と語る。
夜空を彩る赤い光の正体を、各地のアマチュアが撮った一枚一枚の写真が解き明かした。趣味で夜空に向けたカメラが、いまや衛星を守る科学のデータになっているというのは、なかなか痛快な話だ。
空を見上げる人が増えるほど、宇宙の小さな異変はもっと早く見つかるはずだ。



みんなが趣味で撮ったオーロラの写真が、衛星を安全に飛ばすヒントにもなりうるんだね!
参考文献:
Nakayama, T.M., Kataoka, R. (2026). 『Faint red auroras as seen from Japan associated with intense magnetospheric compression』. Journal of Space Weather and Space Climate, 16, 19. DOI: 10.1051/swsc/2026004
北海道大学プレスリリース: 北海道大学
Scientists discover towering red auroras reaching deep into space above Japan (ScienceDaily)









