2026年2月26日、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのチームが、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の泌尿器がんシンポジウムで、前立腺がんの患者10人の前立腺を調べた予備調査を発表した。
10人中9人の組織からマイクロプラスチックが見つかり、腫瘍の組織に含まれる量は、同じ前立腺の良性の組織より平均で約2.5倍多かった。
公開されているのは学会抄録と大学の発表までで、論文の全文は確認できなかった。
筆頭著者のステイシー・ローブ教授(泌尿器科・集団保健学)は、「前立腺がんの患者わずか10人の予備研究による、ごく初期のデータなので、因果について結論を出すことはできない」と述べている。
腫瘍では良性の組織の平均2.5倍
10人を調べた、予備的な研究
対象は、前立腺をすべて取り出す手術(根治的前立腺全摘除術)を受けた前立腺がんの患者10人で、年齢の中央値は65歳だった。
取り出した前立腺は金属の容器で運ばれ、泌尿器の病理の専門医がプラスチックを使わずに診断した。そのうえで、腫瘍の組織と、前立腺の別の場所にある良性の組織を分けて研究室に送った。
大規模な調査ではなく、少人数を詳しく調べた予備的な研究で、結果は数を集計した記述統計として示されている。
なお日本では、前立腺がんは2023年に男性のがんの中で診断数が最も多く、この年に新たに102,094例が診断された(国立がん研究センターの統計)。
腫瘍40、良性16という差
分析には二つの方法を使った。一つは、粒子を目で確かめながらラマン顕微鏡で調べる方法で、粒子の数や大きさがわかる。
もう一つは、試料を熱で分解してガスクロマトグラフィー質量分析で調べる方法(py-GC/MS)で、プラスチックの種類と重さを測れる。
ラマン顕微鏡では患者の試料の60%で粒子が見つかり、大きさは直径1.2〜40.3マイクロメートルだった。
py-GC/MSでは10人中9人から検出され、腫瘍の組織では90%、良性の組織では70%だった。
濃度の平均は、腫瘍の組織で1グラムあたり39.8マイクログラム、良性の組織で15.5マイクログラムだった。中央値で見ると、それぞれ16.3と7.0マイクログラムになる。
抄録は、腫瘍の濃度が良性の組織より「高い傾向があった」と書いており、統計的な検定の結果は示していない。
米イェール大学がんセンターのウィリアム・オー氏は、10人のうち2人では良性の組織の方が腫瘍より多かったと指摘している。
手術室や検査室にはプラスチック製の器具が多い。チームは道具をアルミニウムや綿などの製品に替え、微粒子の分析用につくられたクリーンルームで試料を扱った。
調べたのは、よく使われる12種類のプラスチックだ。ローブ氏は、汚染を減らす手順をつくるだけで何か月もかかったと話している。

多くの試料で見つかったのはナイロン6とポリスチレン
py-GC/MSで、検出できる下限を超えて見つかった試料の数が最も多かったのは、ナイロン6とポリスチレンだった。
ラマン顕微鏡では、ポリエチレンとポリエチレンの共重合体も見つかった。
抄録が示しているのは「何人の試料で見つかったか」で、重さでどの種類が最も多かったかや、粒子がどこから体に入ったかは書かれていない。
なお、Medscapeの取材記事は、よく見つかった粒子としてポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンとポリエチレンの共重合体を挙げている。
次に調べるのは炎症との関わり
研究チームは今後、マイクロプラスチックが体の中で何をしているのか、どのようにがんにつながりうるのかを調べる予定だ。
上級著者のヴィットリオ・アルベルガモ助教授(小児科)によると、粒子が組織で過剰な免疫反応(炎症)を起こし、それが長く続くことで細胞が傷つき、がんにつながる遺伝子の変化が起きる、という可能性を検討するという。
これはまだ確かめられていない仮説だ。
どうやって、前立腺まで届くのか

食べ物、空気、皮膚から
NYUの発表によると、食品の包装や化粧品などのプラスチックは、使ったり熱したり化学的に処理したりするうちに小さく砕け、口から取り込まれることがある。
空気から吸い込んだり、皮膚から吸収したりする経路もあるという。ただし、どの種類の粒子がどの経路で体に入るのかは、まだはっきりしていないと北京大学のチームは論文で書いている。
今回の研究も、粒子が前立腺に届いた経路は調べていない。
胎盤から脳まで
NYUの発表は、これまでの研究でマイクロプラスチックがほぼすべての臓器や体液、胎盤から見つかっていると説明している。
たとえば2024年に『Toxicological Sciences』に載った研究では、62人の胎盤すべてからプラスチックが検出され、濃度は胎盤1グラムあたり6.5〜685マイクログラムと幅が大きかった。
2025年に『Nature Medicine』に載った研究では、亡くなった人の腎臓、肝臓、脳からプラスチックが見つかった。
2016年と2024年に亡くなった人を比べると、肝臓と脳で濃度が高くなっており、認知症と診断されていた人の脳では、さらに多くたまっていたという。
これは「原因」なのか——引くべき3本の線

「たまる」と「起こす」は別
「腫瘍に多かった」ことから「プラスチックががんを起こした」と結論するのは、まだ早い。気をつけたい点は少なくとも三つある。
一つ目は、相関と因果の違いだ。今回わかったのは、手術の時点で、腫瘍の組織に良性の組織より多くのプラスチックが含まれる傾向があったということだ。
プラスチックががんを起こしたのか、がんの組織にあとから集まりやすかったのかは、一時点の測定では区別できない。
ローブ氏は大学の発表で「私たちの予備研究は、マイクロプラスチックへの曝露が前立腺がんの危険因子かもしれないことを示す重要な証拠になる」と述べている。
一方、外部の専門家は慎重だ。オー氏はこの研究を「興味をそそるが、まだ予備的」と評し、因果関係があると言うのは「早すぎる」と述べた。
研究チームも、プラスチックが組織の中にただ居合わせているだけなのか、病気に積極的に関わっているのかを、より大きな研究で見極めたいとしている。
10人という規模と、「西洋で初」の意味
二つ目は規模だ。10人の結果は、一人ひとりの値に大きく左右される。
腫瘍の組織の平均(39.8マイクログラム)は中央値(16.3マイクログラム)の2倍以上あり、値の大きい人が平均を引き上げていることがうかがえる。
年齢や喫煙、食生活などの影響も、この規模では調べられていない。アルベルガモ氏も、結果を確かめるにはより多くの患者が必要だとしている。
三つ目は「初」の範囲だ。NYUの発表は、この研究を、前立腺の腫瘍とがんでない組織のプラスチック量を比べた評価として「西洋で初」としている。
前立腺の組織からマイクロプラスチックを見つけた報告は、2024年にトルコのチームが出しており、排尿の症状で経尿道的前立腺切除術(TUR-P)を受けた12人中6人から見つかった。
腫瘍と周りの組織を比べた研究も、2024年に中国・北京大学第一医院のチームが『eBioMedicine』に発表している。
前立腺がんの患者22人を調べ、py-GC/MSで測った20組では、平均濃度が腫瘍で1グラムあたり290.3マイクログラム、周りの組織で181.0マイクログラムだった。
ローブ氏も、今回の結果は中国のチームの結果を裏づけるものだと話している。

飲み水の微粒子と、次の研究
プラスチックの微粒子は飲み水にも含まれる。2024年に『PNAS』に載った研究は、ナノサイズの粒子まで1個ずつ見分けられる誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡で、3銘柄のボトル入りの水を調べた。
微粒子は1リットルあたり平均約24万個と見積もられ、その約9割がナノプラスチックだった。これまでに報告されていたボトル入りの水のマイクロプラスチックの量より、桁違いに多い。
ただし、この研究は飲み水の粒子と病気の関係は調べていない。
北京大学のチームの研究では、持ち帰りの食事をとる頻度が高い人ほど、腫瘍の組織のポリスチレンが多いという相関が見られたが、22人の小規模な研究で、因果は示していない。
わかったこと、まだわからないこと
今回の予備調査でわかったのは、前立腺がんの患者10人中9人の前立腺からマイクロプラスチックが見つかり、腫瘍の組織の方が平均で多い傾向があった、ということまでだ。
プラスチックが前立腺がんの原因になるのか、どの経路で前立腺に届くのかは、まだわからない。チームは米国防総省から資金を得て、対象を前立腺がんの患者30人に広げ、炎症との関わりを調べる計画だ。
10人中9人の前立腺から見つかって、腫瘍の方が平均で多かった。でも学会発表の段階の予備調査で、原因かどうかはまだわからないんだ。
30人に広げた研究の結果を待とう。
多かったことと、原因かどうかは別の話なんだね。次の研究の結果が出たら、また教えて!
参考文献:
一次ソース: Loeb, Albergamo et al., Microplastics and prostate cancer(Journal of Clinical Oncology, 2026; 44(7_suppl):379, ASCO GU 2026 abstract)DOI:10.1200/JCO.2026.44.7_suppl.379
関連: Deng et al., Identification and analysis of microplastics in para-tumor and tumor of human prostate(eBioMedicine, 2024) / ボトル入り飲料水中のナノプラスチック(PNAS, 2024)
プレスリリース(NYUランゴン・ヘルス): Microplastics Discovered in Prostate Tumors
取材記事(Medscape): How Concerning Is Microplastics-Prostate Cancer Study Link?
先行研究(トルコ, BMC Urology, 2024): The first reported values of microplastics in prostate
統計: 国立がん研究センター がん情報サービス 前立腺がん統計









