つまみで食べたピーナッツの殻。ふだんなら、そのままゴミ箱行きだ。
ところがこの捨てられる殻が、驚異の素材(wonder material)とも呼ばれるグラフェンに近い炭素材料の原料になる——そんな研究が発表された。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)のチームが、農業廃棄物から炭素材料を手早く作る新しい手法を報告したのだ。
グラフェンは、最も薄く、最も強い物質として知られる。ただし高価で、大量に作るには薬品やエネルギーを多く使う方法が必要だった。
そもそもグラフェンって、何がすごいの?
原子1個分の厚さのハチの巣
グラフェンは、炭素原子が六角形のハチの巣のように平面状に並んだ、厚さが原子1個分のシート状の物質だ。
ノーベル賞の解説によると、鉛筆の芯にも使われる黒鉛は、1ミリの厚さにグラフェンが300万層重なったものだ。層どうしの結びつきは弱く、はがして薄くできる。
2004年、イギリスのマンチェスター大学のアンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフが、黒鉛から粘着テープで薄片をはがし、厚さ原子1個分の炭素の薄片を取り出した。
この功績で、二人は2010年のノーベル物理学賞に輝いている。
強くて、薄くて、電気を流す
ノーベル賞の解説は、グラフェンを最も薄く最も強い物質とし、電気の通しやすさは銅と同じ程度、熱の伝わりやすさは既知の物質で最高と説明している。
ほぼ透明で、光を最大で98%近く通す。UNSWのグアン・ヨー(Guan Yeoh)教授は、鋼鉄の何百倍も強いと説明している。
透明で電気を通すため、タッチパネルや太陽電池への応用が考えられるとノーベル賞の解説は述べている。
ここで紹介した性質は1層のグラフェンについての説明で、今回できた数層の材料の性能を示すものではない。
グラフェンは高価で、大量に作りにくい
高価で、薬品とエネルギーが要る
UNSWの発表によると、グラフェンは高価で、化学薬品とエネルギーを多く使う方法では大量に作りにくい。
安く、持続可能に作る動機
UNSWの発表は、持続可能で手ごろな作り方を探すことに価値があるとしている。成功すれば、より安く持続可能な電子機器やエネルギー貯蔵装置につながりうるという。
ヨー教授は、グラフェンの用途として電子機器、エネルギー貯蔵、医療機器、センサー、太陽電池、ウェアラブル機器を挙げている。
そこでUNSWのチームは農業廃棄物に目をつけた。ヨー教授は「世界では毎年約5500万トンの落花生が生産されていますが、殻の多くは捨てられるか、価値の低い用途に回されています」と話している。
ピーナッツの殻を、炭素材料に変える
殻にはリグニンが多い
UNSWのチームがまず注目したのは、ピーナッツの殻に、植物にある天然の高分子で炭素を多く含むリグニンが豊富に含まれることだった。
そこで殻を砕き、段階的に加熱することにした。
数ミリ秒で3000度へ
手法は2段階だ。まず、砕いた殻を約500度で5分ほど加熱して不純物を取り除き、炭素を多く含む炭(チャー)にする。
ヨー教授によると、質の高いグラフェンを作るうえでいちばん重要だったのは、通電の前に殻に行う前処理(原料の調整)だった。
論文の抄録も、前処理で、できる材料の黒鉛状の秩序が決まると述べている。炉で長く炭化した試料は層が密に積み重なり、通電しても変換が進みにくかった。
500〜1000度の短い加熱と60ボルトの通電で前処理した試料は、1回の通電で数層の乱層グラフェンになったという。
次に、その炭に電気の閃光を流す「フラッシュ・ジュール加熱」で、温度を数ミリ秒のあいだ約3000度まで上げる。
この高熱で炭素原子が並び替わり、グラフェンの層ができる。
従来のグラフェンの製造では、この段階で、石油や天然ガスなど化石燃料から作る工業用の炭素であるカーボンブラックを使う。
UNSWの方法では、殻からできた炭だけを使う。
チームの計算では、1キログラムのグラフェンを作るエネルギー費用は1.3米ドルほどだ。全体の工程は約10分で終わる。
ただし、これはエネルギー費用だけの見積もりだ。

できたのは単層グラフェンなのか
論文の抄録は数層の乱層グラフェン
論文の抄録は、できたものを数層の乱層(ターボストラティック)グラフェンと述べている。ラマン分光で測った2DピークとGピークの強度比(I2D/IG)は2.04だった。
論文の題名は「ピーナッツの殻から黒鉛状の炭素を急速ジュール加熱で合成するための原料の設計」で、グラフェンという語は題名に入っていない。
これに対して、UNSWの発表は、熱で炭素原子が単層のグラフェンに並び替わると説明している。
この記事では、論文の抄録に合わせて、できたものを数層の乱層グラフェンと呼ぶ。
キクできたグラフェンを論文の要約は数層と書いてるのに、大学の発表はどうして単層と言ってるのかな?
大学の発表は単層をめざすと説明
ヨー教授は前処理について「この処理は、不純物を取り除き、炭素を多く含む最良の材料を得るために欠かせません。最終的なグラフェンの欠陥を最小限にし、確かに原子1層だけにするためです」と話している。
チームは単層をめざす形で説明しているが、論文の抄録が報告しているのは数層の乱層グラフェンだ。
実用化はまだ先


作れた量はまだ少ない
UNSWの発表によると、この方法で作れたグラフェンの量は今のところ少ない。研究チームは、さらに開発が進めば3〜4年以内に商業化できると期待している。
ほかの植物ごみでも作れるか
コーヒーかすやバナナの皮でも試す予定
ヨー教授は、この方法は現在必要とされるより低いエネルギーですみ、そのぶん費用も下がると話す。化学薬品も使わない。
ヨー教授は「ピーナッツは試しの題材として使いましたが、この方法の鍵はリグニンで、多くの植物に含まれています」と話している。
コーヒーかすやバナナの皮など、よい炭になる材料でも実験する予定だという。



この方法の鍵はピーナッツじゃなくて、多くの植物にある炭素の多い成分リグニンなんだ。だからコーヒーかすやバナナの皮でも試す予定なんだね。
参考文献:
Precursor engineering for rapid joule heating synthesis of graphitic carbon from peanut shells
De Cachinho Cordeiro et al., Chemical Engineering Journal Advances (2026). DOI: 10.1016/j.ceja.2026.101099
出典: University of New South Wales (UNSW Sydney)
Shell shock! Peanut waste can be turned into high-quality futuristic graphene(UNSW発表)
Nobel Prize in Physics 2010 Popular information(グラフェンの解説)









