長い尾をたなびかせ、宇宙空間を進む——ガスの帯を後ろに引きずるその姿から、「クラゲ銀河」と呼ばれる天体がある。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の画像から、これまででもっとも遠い時代にあるクラゲ銀河の候補、COSMOS2020-635829が見つかった。
この銀河の赤方偏移は1.156で、光が届くまでにかかった時間は約83億年になる(論文が仮定した宇宙論パラメータでの計算値)。
カナダのウォータールー大学のイアン・ロバーツ氏らのチームが、天文学の専門誌『The Astrophysical Journal』に報告した。
確認されれば、ラム圧ではぎ取られた電離ガスの尾としては、最も赤方偏移の高い例になる。
クラゲ銀河って、どんな銀河?
クラゲ銀河の「触手」に見える部分は、銀河の円盤から引きはがされたガスと、そこに並ぶ若い星の塊でできている。
論文はこの銀河の姿を、対称的な星の円盤と、その南側に伸びる星形成の塊の列、と説明している。
この現象を「ラム圧はぎ取り(ラム圧剥離)」と呼ぶ。銀河団や銀河群には高温のガス(銀河団内媒質)が広がっていて、その中を動く銀河は、ガスから圧力を受けて自分のガスを押し出される。
ラム圧の強さは、銀河団内媒質の密度と、媒質に対する銀河の速度の2乗に比例する。
ラム圧がとくに強いのは銀河団
密度と速度の2乗に比例するため、ラム圧が最も強くなるのは質量の大きな銀河団だ。一方、質量の小さな銀河群では、銀河どうしの潮汐相互作用や合体のほうが起こりやすいと論文は書いている。

キク銀河から引きはがされたガスの尾の中には、いったい何が並んでるんだろう?
尾の中に、若い星の塊が並ぶ
JWSTの画像では、銀河本体の南側に、青くてコンパクトな星の塊が4つ見つかった。
論文によると、これらは年齢が約1億年以下と若く、恒星質量は1つあたり約1億太陽質量、星形成率は1年に0.1〜1太陽質量と推定される。
尾の色は銀河本体のどの部分よりも青く、星が潮汐で単純にはぎ取られただけでは説明しにくい。ただし、潮汐ではぎ取られたガスが尾の中で星になった可能性は、論文も排除していない。
本体の星形成
銀河本体は、恒星質量が太陽の約10の10乗倍(対数で10.24)で、星形成率は年間およそ太陽68個分(誤差は+34、-18)と推定された。
尾の4つの塊は、1つあたりでは本体の恒星質量の1〜2%、星形成率の約0.5%にあたる。
この尾は、どれくらいの大きさ?
電離ガス([O II]輝線)の放射は、銀河の光学的な円盤の外側へ約20キロパーセク(約6万5000光年)まで広がり、観測装置の視野の端で切れている。
論文は、本来の尾はもっと長い可能性があるとしつつ、確かめるにはより深い観測が必要だとしている。
尾のガスの動き
分光観測では、尾のガスの視線方向の速度が、銀河の円盤側から尾の先まで連続的に変わっていた。論文はこれを、尾のガスが銀河本体とつながっている根拠としている。
円盤と尾の速度差は秒速約50キロメートル以下だが、空の平面方向の速度は測れないため、実際の3次元の速度差はわからない。
ジェイムズ・ウェッブは、どうやって見つけた?
JWSTは赤外線に強い望遠鏡だ。宇宙は膨張しているため、遠い天体の光は波長が引き伸ばされて赤くなる。これを赤方偏移と呼ぶ。
この銀河の赤方偏移は1.156で、光の波長は本来の約2.2倍に伸びている。
画像は、COSMOS-Webサーベイの近赤外線カメラNIRCamの4つのフィルター(F115W、F150W、F277W、F444W)で撮られたものだ。
カメラと分光器の合わせ技
JWSTの画像に加えて、ジェミニ北望遠鏡のGMOS面分光装置で、3夜にわたり合計5時間の観測が行われた。
酸素の輝線([O II])を調べると、尾に沿ってガスの放射が検出され、その速度は銀河本体とつながっていた。
この銀河は、COSMOS-Webの画像から、片側に伸びる星の広がりや青い星の塊といった形の特徴をもとに、ラム圧はぎ取りの候補として選ばれた。
論文は、こうした目視の選択では純粋な標本にならず、潮汐など別の過程の銀河も混ざりうると断っている。
なぜ「最も遠いクラゲ銀河の候補」が注目されるのか
論文によると、これまでラム圧はぎ取りを受けた電離ガスの尾は、赤方偏移0.7より遠い例が見つかっていなかった。
赤方偏移1を超える時代で確かな例は現時点でおそらくゼロで、クラゲ銀河の候補も文献中に10例未満だろう、と論文は書いている。
この銀河は、X線で検出された銀河団規模の過密領域に属していて、周辺のハローの質量を合わせると約10の14乗太陽質量になる。
論文は、ラム圧が赤方偏移1を超える時代の銀河群・銀河団の銀河にも影響しうること、環境クエンチング(環境による星形成の停止)に寄与している可能性があることを示すとしている。
ただし、これは「候補」である
論文はこの天体を、クラゲ銀河の候補として報告している。
尾の特徴やガスの動きはラム圧はぎ取りと合うが、潮汐による説明や、衝突でできた環状銀河の可能性は、手元のデータでは完全には排除できないという。
論文は、ラム圧はぎ取りを最も可能性が高い説明としている。
確定には、他の波長を使った追観測が必要で、筆者らはその確認に取り組むとしている。





銀河団の高温のガスに押されて銀河のガスがはぎ取られた、という説明がいちばん有力でも、この銀河はまだ候補なんだ。確定させるには、ほかの波長での追観測がいるんだね。
環境クエンチングと、尾の星の行く末
高密度の環境にある銀河では、星形成が止まった赤い銀河が多い。
この環境クエンチングの原因の候補には、ガスの供給が止まること、ラム圧によるガスのはぎ取り、潮汐相互作用などがあると、論文の序論は整理している。
近くの宇宙の銀河団では、ラム圧が重要な役割を果たすことははっきりしているが、分子ガスの大半をラム圧だけで取り去るとは考えにくいという。
尾にできた星の塊の行く末について、論文は3つの可能性を挙げている。
銀河のハローに残って円盤に再び降着する、壊れて銀河団内に散らばる光の一部になる、独立した天体として銀河から分かれる、の3つだ。
どれになるかは、現時点ではわからない。
参考文献:
JWST Reveals a Candidate Jellyfish Galaxy at z = 1.156
Roberts et al., The Astrophysical Journal (2026). DOI: 10.3847/1538-4357/ae3824
論文本文(arXiv)
出典: University of Waterloo / York University / EPFL









