2018年に西オーストラリアで行われた約47万人の追跡調査が、この奇妙なパターンをあらためて浮き彫りにした。視覚を失った原因と時期によって、結果が分かれるらしい。
ただし、先に釘を刺しておきたい。これは「盲目だと統合失調症を防げる」という話ではないし、「絶対にゼロだ」と証明されたわけでもない。
あくまで「報告例が見当たらない」という観察であり、その奥に隠れた脳の仕組みを探る手がかりなのだ。
1950年: ある作家の偶然の気づき

シェヴィニーとブレーバーマンが見つけた空白
1950年、作家のヘクター・シェヴィニーと心理学者シデル・ブレーバーマンは、視覚障害のある人たちの心理を調べていた。
シェヴィニーは大人になってから視力を失った人物だ。
調べるなかで、ふたりは1つの傾向に気づいた。統合失調症は、ほぼあらゆる社会で見られる重い精神疾患なのに、生まれつき目が見えない人には見当たらなかったのだ。
数十年注目されなかった理由
この観察は、長い間ほとんど顧みられなかった。病気についての理解が限られていたうえ、患者のデータも足りなかったためだ。
2000年代初めになると、国全体の健康データベースを使って、住民を出生から成人まで追跡できるようになり、同じ傾向が確かめられた。
2018年: 約47万人を追跡したデータ
西オーストラリアが動かした巨大な追跡調査
2018年に発表された研究で、西オーストラリア大学を中心とするチームが、1980年から2001年に同州で生まれた467,945人の子どもを調べた。
保健記録に残る診断をもとにした調査だ。
追跡期間中に統合失調症を発症したのは1,870人で、全体の約0.4%。統合失調症を含む精神病全体では9,120人(約1.9%)だった。
ところが、この中に66人いた生まれつき(またはごく幼いころから)の皮質性盲の子どもたちを抜き出すと、統合失調症も、ほかの精神病も、発症は1件もなかった。
ここで冷静になるべき点もある。66人という人数は、統計的に強い結論を出すには大きくない。
単純計算では、この研究全体の発症率(約0.4%)を66人にあてはめると、期待される患者数は0.3人ほどで、もともと1人に満たない。
だから「66人中0人」だけで「盲目が完全に発症を防ぐ」とは断言できない。また、データが調べているのは14歳から35歳までで、それ以降に診断される例は含まれない。
それでも、この結果は、70年以上の文献で先天性の盲目の人の統合失調症が一件も報告されていないという状況と一致している。
キク目が原因で見えない子と、脳の視覚野が原因で見えない子で、統合失調症の出方がちがうのはなんでだろう?
鍵は「目」ではなく「視覚野」
ここで重要なのは、保護が見られるのが皮質性盲に限られるという点だ。
皮質性盲は、目そのものではなく、脳の視覚野の損傷で起こる。
一方、目などの末梢に原因がある盲目(末梢性盲)の子ども613人では、統合失調症以外の精神病を8人が発症し、統合失調症を発症した子はそれより少なかった。
論文は、先天性または早期の皮質性盲は統合失調症に対して保護的で、末梢性盲は保護的でないという、過去の小規模な症例報告と同じ結果を支持している。
言いかえれば、「見えない」という結果そのものではなく、視覚を担う脳の側が鍵になっているらしい。


失明の時期と保護効果
もう一つの条件が、視力を失った時期だ。大人になってから、あるいは子ども時代の途中で視力を失った場合は、同じ保護は見られないようだ。
そのころには、脳がすでに長年の視覚経験によって形づくられているためだと説明されている。
保護が示唆されているのは、生まれつきか、ごく早い時期から視覚がない場合だ。
視覚と脳の予測


統合失調症は予測の障害として理解されつつある
そもそもなぜ視覚と精神疾患が結びつくのか。最近の脳科学では、統合失調症は予測の障害として理解されはじめている。
脳は常に周囲の状況について予測を立て、感覚から届いた信号と照合し続けている。
ところが統合失調症ではこの照合がうまく働かず、本来なら無視するはずの弱い信号やランダムなノイズに重みが付きすぎる。
予測と照合がうまく働かないとき、偶然の一致が意味ありげに感じられたり、自分の考えが外から来たように感じられたりする。
視覚野は別の処理に使われる
ここで先天性の盲目の脳に話が戻る。視覚野は脳の中でも最大級で、神経のつながりも豊かな領域のひとつで、見ることだけでなく学習や注意、感情にも関わっている。
先天性の皮質性盲の人の脳画像研究では、この領域が言語や記憶、推論などの課題に使われていることが多いと報告されている。
一部の研究者は、こうした早い時期の再編成が保護になっている可能性を考えている。
曖昧で予測しにくい視覚信号が絶えず入ってこないことで、脳が世界をより安定した形で解釈するようになり、予測の誤作動が起きにくくなるのかもしれない。
研究を率いた西オーストラリア大学のヴェラ・モーガン教授は、仕組みについて「正確な仕組みを言うのはとても難しい」としたうえで、保護効果は「先天性または早期の皮質性盲に反応して脳で起きている、ある種の代償的な皮質の再編成」に関係していると考えていると述べている。
教授によると、先天性または早期の皮質性盲の人には、ほかの精神病の診断もなかった。



生まれつき脳のせいで見えない人は、視覚野が言葉や記憶の仕事に回されていて、それが統合失調症にかかりにくくしているのかもしれないってことか。
参考文献:
Morgan VA, Clark M, Crewe J, et al. Congenital blindness is protective for schizophrenia and other psychotic illness. A whole-population study. Schizophrenia Research, 2018; 202:414-416. DOI: 10.1016/j.schres.2018.06.061
Schizophrenia Research 原論文
People who are blind from birth never develop schizophrenia(Medical Xpress)









