はかせ、羊飼いのおじさんが新しい恐竜を見つけたって本当?
本当ですよ。アルゼンチンの牧場で見つかった化石が、全長15〜20mと推定される新種恐竜「ビカラコサウルス・ディオニデイ」だと分かったんです。約1億5500万年前の地層から掘り出されました
新種を報告したのはミュンヘン大学(LMU)とバイエルン州立自然科学コレクション(SNSB)を中心とする国際チームで、論文は2026年に学術誌PeerJ(DOI: 10.7717/peerj.20945)に掲載された。発見地はパタゴニア南部チュブ州のカニャドン・カルカレオ層で、巨大な草食恐竜が当時の南半球をどう歩き回っていたかを解き明かす、貴重な手がかりになっている。
始まりは羊飼いの偶然の発見だった


パタゴニアの牧場に眠っていた巨大な骨
物語の出発点は、アルゼンチン南部チュブ州の乾いた荒野にある一軒の牧場だ。地元の羊飼いディオニデ・メサさんが、自分の土地を歩いている最中に、明らかに普通の岩ではない大きな骨らしきものを見つけた。
パタゴニアは強い風と乾燥した気候のせいで、地層がむき出しになりやすい場所として知られている。地表に転がっていた骨片は、専門家が見ればすぐに分かるほどはっきりした形をしていた。羊を追いかけているうちに恐竜の背骨に出くわしたというのだから、化石ハンターからすればうらやましい話だ。
知らせを受けた研究チームが現地に入ると、最初の骨片の周りからは次々と30個以上の脊椎が掘り出された。首・背中・尾と、体のあちこちのパーツがそろっていて、しかも一頭の同じ個体のものだと分かったのだ。なお、こうした発見から正式な学術記載までには、長い年月をかけた発掘と分析が積み重ねられている。
「大きな動物」と「ディオニデさん」が合体した名前
新しい種類の恐竜が見つかったとき、名前を付ける権利は発見者と研究チームに与えられる。今回付けられた学名はBicharracosaurus dionidei、日本語にすると「ビカラコサウルス・ディオニデイ」となる。
属名の「ビカラコ」はスペイン語の口語で、ざっくり言えば「でかい生き物」を指す砕けた言い方だ。日本語でいうところの「でかブツ」に近いニュアンスがある。学術的にはマクロナリアという仲間に分類されるグループの一員だが、地元の人が使っていたような呼び名が、そのまま正式な学名に組み込まれたかたちだ。
種名の「ディオニデイ」は、最初に化石を見つけた羊飼いディオニデ・メサさんへの敬意を込めて付けられた。発見者の名前が学名に残るのは古生物学では昔からの伝統で、地域社会の貢献を世界に記録する役目も果たしている。
1億5500万年前、ゴンドワナ大陸を歩いていた
骨の形や成長線を調べると、この個体は子どもではなく、すでに成熟した大人の恐竜だったことが分かった。骨には木の年輪のような成長の記録が残っており、それを読み解くことで、その恐竜がどれくらい成長した段階で命を終えたのかを推し量れる。生きていた時代は後期ジュラ紀、いまから約1億5500万年前にあたる。
当時の地球は今とまったく地形が違っていて、南半球の大陸はゴンドワナ大陸という一つの巨大な陸地につながっていた。南米・アフリカ・南極・オーストラリアが地続きで、その上を全長十数メートル級の恐竜たちが歩き回っていたわけだ。
つまりビカラコサウルスは、ゴンドワナの中でも今のパタゴニアにあたる場所で進化した一群の代表選手の一頭ということになる。有名な肉食恐竜ティラノサウルスが現れるよりずっと昔、ジュラ紀の終わり頃の住人だ。
巨体に隠された奇妙な特徴


掘り出されたのは脊椎30個以上と腰の骨
研究チームが現地で回収した部位は、首から尻尾までの脊椎が30個以上、複数の肋骨、それに骨盤の一部だ。頭の骨や四肢の骨は見つかっていないが、それでも全身の骨格をかなりの精度で復元できるだけの情報がそろっている。
体の大きさを推定するときに脊椎は非常に頼りになる。首の長さ・胴の長さ・尾の長さがそれぞれ何個分の骨でできているか分かれば、全体のスケールを逆算できるからだ。チームの推定によると、ビカラコサウルスの全長はおよそ15〜20mとされ、代表値としては約20mと見積もられている。
15〜20mと言われてもピンと来ないかもしれないが、大型の観光バス(約12m)を2台つなげたよりも長い、と考えると大きさが伝わるだろうか。首から尻尾までを地面に伸ばせば、ちょっとした校庭の一角を占めてしまうほどの巨体だ。
ちなみに、頭や脚の骨が見つかっていないのに全長を推定できるのは、竜脚類という恐竜のグループが体のつくりの規則性でよく研究されているからだ。近縁の恐竜たちの完全な骨格と見比べることで、「この大きさの脊椎を持つなら、全体はこれくらい」という見当をつけられる。もちろん見つかっていない部分が多いほど推定の幅は広がるため、今回のように「15〜20m」という幅を持たせた表現になる。
2つの系統が混ざった不思議な骨格
ディプロドクスとブラキオサウルスが混ざった姿
今回の発見でいちばん研究者を驚かせたのは、骨の形に見られる奇妙な特徴の組み合わせだった。一頭の恐竜の中に、本来なら別系統に属する仲間の特徴が同居していたのだ。
たとえば一部の骨は、タンザニアで見つかっている首の長い恐竜ギラファティタン(ブラキオサウルス科)の骨によく似ていた。一方で背中の脊椎は、北米でおなじみのディプロドクスやその仲間に近い形をしていた。
「片足はブラキオサウルス組、もう片足はディプロドクス組」というキメラのような骨格は、研究者にとって最初は頭を悩ませる存在だった。どちらの家系に入れるべきなのか、化石を組み立てるうちに判断が難しくなっていったほどだ。
「ブラキオサウルス科の可能性」という慎重な結論
骨の細部を一つひとつ統計的に比較する系統解析を行った結果、チームはビカラコサウルスをブラキオサウルス科(Brachiosauridae)に近い位置づけとみている。もしこの位置づけが正しければ、南米のジュラ紀から見つかった初めてのブラキオサウルス科ということになる。
ただし、ここは慎重に伝えておきたい。論文でも、この分類はあくまで「可能性が高い」というレベルにとどまっている。というのも、解析のやり方によっては、ビカラコサウルスが別のグループに位置づけられる結果も出ており、系統上の居場所は完全には確定していないのだ。前述の「キメラのような特徴」が、まさにこの分類の難しさを生んでいる。
それでも、これまで北米やヨーロッパ、アフリカの一部で中心的に確認されてきた首の長い巨大恐竜のグループに近い仲間が、南米にも存在した可能性が化石で示された意味は大きい。手薄だった南半球のジュラ紀のページに、新しい登場人物が一頭書き加えられたかたちになる。
恐竜進化の地図を塗り替える1ピース


北半球に偏っていた化石記録のギャップ
これまで後期ジュラ紀の竜脚類(草食巨大恐竜)の研究は、ほとんどが北半球の化石に頼って組み立てられてきた。北米の有名な地層、ヨーロッパの遺跡、それに東アフリカのタンザニアの化石産地が代表的な情報源だ。
逆に言えば、南米・南極・オーストラリアといった広大な南の大陸については、後期ジュラ紀の竜脚類の化石が極端に少なかった。プロジェクトを率いた古生物学者オリバー・ラウフト教授は、「これまで南の大陸ではタンザニアにある1か所だけが、まとまった化石産地として知られていました」と語っている。
北半球側の情報が大量にあるのに、南半球側の情報がほとんどない。たとえるなら、地図の北半分だけが細かく描き込まれていて、南半分はほぼ空白、という状態だった。この偏りは、単に「南の恐竜がよく分からない」というだけでなく、恐竜全体の進化のストーリーそのものを北半球中心に描いてしまう危うさをはらんでいた。片方の証言だけで事件の全体像を組み立てるようなもので、どうしても偏った結論になりかねない。
南半球の空白を埋める発見
南米から差し込まれた決定的な比較材料
そこに今回、パタゴニアのカニャドン・カルカレオ層から30個以上の脊椎を伴う標本が登場した。これは単なる「新種が増えた」という話にとどまらず、南北の恐竜進化を直接くらべるための比較材料が手に入ったことを意味している。
ラウフト教授はこう続ける。「アルゼンチン・チュブ州にあるビカラコサウルスの産地は、私たちにとって大切な比較材料を与えてくれます。これにより、特に南半球での進化史について理解を継続的に補強し、見直していくことができるのです」
化石が保管されているのはアルゼンチン・トレレウにあるエヒディオ・フェルグリオ古生物学博物館で、今後は世界中の研究者がここを訪れて骨を直接観察できるようになる。閲覧できる実物の化石が一つ増えるだけで、関連する論文が次々と生まれていくのが古生物学の世界だ。
未解明のマクロナリア進化の謎へ
ビカラコサウルスが分類されたマクロナリアというグループには、ブラキオサウルスやティタノサウルス類など、巨大な草食恐竜の代表選手が顔をそろえている。地球史上でも最大級の陸上動物が含まれる、まさに巨人ぞろいのグループだ。
ただ、マクロナリアがいつ・どこで・どのように生まれて広がったかについては、長らくはっきりしないままだった。論文のタイトルにも「マクロナリアの初期進化の問題」という言葉が入っているとおり、初期の枝分かれは古生物学の大きな宿題の一つだ。
ブラキオサウルスとディプロドクス両方の特徴をあわせ持つビカラコサウルスは、その宿題を解くための「中間的な姿」を見せてくれる存在になるかもしれない。羊飼いが牧場で見つけた一頭の骨が、巨大恐竜たちの家系図の空白を埋めるヒントになる――筆者としては、こうした地道な発見の積み重ねが、いつか大きな全体像を描き出す日を楽しみにしている。学名に名前が刻まれたディオニデさんも、まさか自分の見つけた骨が、地球の反対側の研究者たちを動かし、恐竜進化の教科書を書き換えるかもしれない存在になるとは思っていなかっただろう。科学の発見は、こうした偶然の出会いから始まることも少なくないのだ。
羊飼いさんが恐竜の家系図を変えちゃうかもしれないってこと? すごい!
ええ。もっとも分類はまだ確定していない部分もありますから、これからの追加研究が楽しみですね。一頭の骨が、大きな謎を解くカギになるんです
地元の人がふと拾い上げた骨が、世界中の博物館や研究室の話題になっていく。古生物学にはこういうドラマがよく似合う。次にパタゴニアから届く知らせも楽しみだ。
参考文献:
Reutter A, Rauhut OWM, et al. (2026) 「Bicharracosaurus dionidei, gen. et sp. nov., a new macronarian (Dinosauria, Sauropoda) from the Late Jurassic Cañadón Calcáreo Formation of Argentina」 PeerJ. DOI: 10.7717/peerj.20945
This strange giant dinosaur may change what we know about Jurassic titans(ScienceDaily / SNSB)










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