はかせ、地球って宇宙のゴミの中を飛んでるって本当なの?
面白いところに気づきましたね。実は今、地球は大昔の星の爆発で散らばった物質の中を通り抜けている最中なんです。その証拠が南極の氷から見つかったんですよ
ドイツのHZDR(ヘルムホルツ・ドレスデン・ロッセンドルフ研究所)を中心とする国際チームが、4万〜8万年前に降り積もった南極の氷の中から、超新星爆発でしか作られない特別な鉄を検出した。たった数個の原子が、太陽系を取り囲む宇宙の雲の正体を明かす手がかりになった。
地球は超新星の”灰”の中を飛んでいる


鉄60という星の爆発の目印
今回のカギを握るのが鉄60と呼ばれる物質だ。ふつうの鉄と化学的な性質はそっくりだが、原子の重さがほんの少し違う「同位体」の一種で、地球の自然界ではほとんど作られない。
鉄60が生まれるのは、太陽よりずっと重い星の中心部だけ。その星が一生の最後に大爆発を起こす超新星爆発のときに、宇宙空間へ大量にまき散らされる。つまり氷や岩の中に鉄60があれば、それは「どこかで星が爆発した動かぬ証拠」になる。
研究者にとって鉄60は、宇宙が残した指紋のようなものだ。地球の地層や海の底からこの指紋が見つかれば、過去に近くで星が爆発したと読み取れる。実際これまでの研究でも、数百万年前に地球の近くで起きた超新星爆発に由来する鉄60が、深海の堆積物などから見つかっていた。長い時間をかけてゆっくり地球に降り積もった名残だと考えられていた。
ところが、ここ数年で比較的新しい南極の雪からも鉄60が検出され、研究者を悩ませていた。近い時代に地球のそばで爆発した星は一つも知られていない。それなのに、なぜ新しい雪に超新星の物質が混じっているのか——それが大きな謎だった。
太陽系がくぐっている巨大な雲
この謎を解く手がかりが局所恒星間雲だ。星と星のあいだの空間は完全な真空ではなく、薄いガスとちりが漂っている。太陽系は今、その中でもひときわ大きなガスとちりの雲の中を進んでいる。
HZDRのドミニク・コル博士たちは、こう考えた。局所恒星間雲そのものに鉄60が含まれていて、雲が長いあいだそれを蓄えているのではないか。太陽系がその雲の中を動くとき、地球は通り道で少しずつその物質を拾い集めているのではないか、と。
太陽系がこの雲に入ったのは数万年前とみられ、あと数千年で反対側へ抜け出る見込みだ。今いるのは雲のいちばん外側のあたり。たとえるなら、地球は宇宙にただよう巨大な霧の中を走る車のようなもので、フロントガラスに虫がぶつかるように、雲の物質を浴びながら進んでいる。
ただ、この段階ではあくまで仮説だった。コル博士自身も「当時はそれを証明できなかった」と振り返る。仮説を事実に変えるには、もっと古い時代の、汚れていない記録が必要だった。
南極の氷からわずか数個の原子を探し出す


300キロの氷が数百ミリグラムのちりになるまで
仮説を確かめるため、チームはこれまでより古い氷を調べることにした。今回使われたのは4万年前から8万年前にかけて降り積もった南極の氷。太陽系が局所恒星間雲に入り始めた時期をちょうどカバーしている。
南極の氷は、降った雪がそのまま押し固められて層になっているため、何万年も前の地球の様子を順番に記録したタイムカプセルになっている。サンプルは、ヨーロッパのEPICAという氷床掘削プロジェクトを通じて、ドイツのアルフレート・ウェゲナー研究所から提供された。
運ばれた氷の量は、およそ300キログラム。大人4〜5人分の体重に相当する氷の塊を、ブレーマーハーフェンの研究所からドレスデンの実験室まで運んだ。
この大量の氷を丁寧に溶かし、化学処理を重ねていくと、最後に残るちりはわずか数百ミリグラム。300キロの氷が、小さじ一杯にも満たない量にまで凝縮される。研究者たちはそこから、さらに鉄60だけを慎重により分けていった。途中で少しでも材料を失わないよう、神経をすり減らす作業が続いた。
10兆個の中から数個を選び出す装置
分離したサンプルの最終的な検出には、オーストラリア国立大学の重イオン加速器施設(HIAF)が使われた。これほど微量の鉄60を見つけ出せる施設は、今のところ世界中でここだけだ。
装置の中では、電気と磁石の力を使って原子を重さごとにふるい分けていく。出発点のサンプルには原子が10兆個も含まれていたが、そこから何段階もの選別をくぐり抜けて最後に残る鉄60は、ほんの数個だけだった。
ボン大学のアナベル・ロロフスは、この作業をこんなふうにたとえる。「干し草を屋根までぎっしり詰め込んだサッカースタジアム5万個分の中から、たった1本の針を探すようなものです。その針を、装置はわずか1時間で見つけ出します」。気の遠くなるような選別を、機械が淡々とやってのける。
これは何年もの国際協力の中で磨き上げられた技術だ。研究をまとめたアントン・ワルナー教授は、数百万年前に起きた宇宙の爆発のはっきりとした痕跡を、今日の地質記録の中から読み取れるようになった、と成果を語る。
「何も失っていない」とどう確かめたか
ここで一つ、やっかいな問題がある。氷を処理する途中で鉄60をうっかり失ってしまったら、「もともと少なかった」のか「処理の途中で減った」のかが区別できなくなる。これでは結果を信じられない。
そこでチームは、ベリリウム10とアルミニウム26という別の2種類の放射性同位体を物差しとして使った。この2つが南極の氷にどれくらい含まれているかは、過去の研究ですでによくわかっている。
処理後のサンプルでこの2つの量を測り、想定どおりの値が出れば、処理の途中で物質は失われていないと確認できる。鉄60という主役の数字が信頼できることを、脇役の2つの同位体が裏づけたわけだ。料理で塩の量を、別の調味料の減り具合から推し量るような工夫といえる。
数個の原子が書き換えた宇宙の地図


古い超新星説が消えた理由
こうして得られた測定結果は、はっきりしていた。4万〜8万年前に地球へ届いた鉄60は、現在より少なかったのだ。これは研究にとって大きな意味を持つ数字だった。
もし鉄60が数百万年前の古い超新星爆発の名残で、時間とともにゆっくり薄れてきただけなら、その量は長い時間をかけてなだらかに変化するはずだ。ところが実際には、数万年というごく短い間に信号が大きく変動していた。宇宙の時間スケールで見れば、これは驚くほど急な変化だ。
この急な変化こそが、古い超新星説を否定する決め手になった。チームは以前、3万年前までの深海の堆積物からも鉄60を見つけていたが、それだけでは他の可能性を消し切れなかった。今回の古い氷のデータが加わって、ようやくつじつまが合った。
鉄60はやはり局所恒星間雲に蓄えられていて、太陽系が雲の濃いところや薄いところを通り抜けるたびに、地球が受け取る量が変わっている——そう考えるのが、いちばん無理のない説明だった。コル博士は、太陽系を取り囲む雲が星の爆発と結びついていること、そして初めてこれらの雲の起源を調べる手段を手に入れたことを強調する。
これから掘られる、もっと古い氷
今回の研究でわかったのは、太陽系を包む局所恒星間雲が、大昔の超新星爆発によって形づくられた可能性が高いということだ。さらに、雲の中に物質が濃いところと薄いところがあることも見えてきた。雲はのっぺりした霧ではなく、ムラのある立体的な構造をしているらしい。
研究チームが次にねらうのは、太陽系が局所恒星間雲に入る前の時代の、さらに古い氷だ。アルフレート・ウェゲナー研究所が参加する「Beyond EPICA – Oldest Ice」プロジェクトでは、もっと過去へさかのぼる氷の採取が進められている。雲に入る前と後を比べられれば、地球が浴びる鉄60の量がどう移り変わったかが、もっとくっきり見えてくる。
南極の氷は、地球の気候の歴史を記録したタイムカプセルとして知られてきた。その同じ氷に、太陽系のご近所で起きた宇宙規模の出来事まで刻まれていたことになる。氷ひとつぶに、地球の天気と銀河の歴史が同時に閉じ込められているわけだ。足元の氷を深く掘るほど、遠い宇宙の過去がよく見えてくる——そんな新しい研究の入り口が、いま開いたところだ。
足元の氷に星の爆発の証拠が埋まってたなんてびっくり!
そうなんです。しかもたった数個の原子が、宇宙の地図を書き換えたんですよ。これからもっと古い氷から、どんな発見が出てくるか楽しみですね









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