理化学研究所などの共同研究グループが日本各地の3,256人の全ゲノムを解析し、現代の日本人は、沖縄・東北・関西にそれぞれ多い3つの祖先成分の混合でもっともよくモデル化できると報告した。
この研究は2024年4月に学術誌Science Advancesに掲載された。
ただし論文は、東北に多い第3の成分の由来はあまり明確ではないとし、北東アジア系との関係もさらなる証拠が必要だと述べている。
キク縄文人から受けついだ祖先の割合って、地域によって違うのかな?
長く語られてきた「縄文・渡来人」の二重構造
日本人のルーツについて、長らく主流とされてきたのが二重構造説だ。
狩猟採集を行っていた縄文人と、稲作文化を持ち込んだ大陸からの渡来人、このふたつの集団が混ざり合って現代の日本人が形作られたとする考え方である。
従来の解析でも、本土と沖縄が別々のまとまりをつくる二重構造が知られており、今回の解析でもこの構造が再現された。
縄文人由来の祖先の割合(f4比統計による推定)は沖縄で28.5%ともっとも高く、東北が18.9%、関西が13.4%と最も低かった。
もっとも論文は、従来の二重構造モデルでは不十分な可能性があると指摘している。近年は古代人のゲノム解析から、縄文系、東アジア系に北東アジア系を加えた三重構造モデルも提案されていた。
全ゲノム解析が開いた新しい視界
旧来の解析が見落としてきたもの
従来のマイクロアレイ解析は、頻度の低い変異を捉えにくい。今回の研究は全ゲノムを平均25.6倍の深さで読み、マイクロアレイのデータでは見分けられない日本人集団の特徴を調べた。
頻度0.1〜1%のレアバリアント約183万か所を使った解析では、頻度の高い変異だけを使った解析より細かな集団構造が見えた。
沖縄と本土の区別がより明確になり、東北の人々は細く狭い範囲にまとまった。
3,200人のゲノム解析が示した新しいルーツ像


理化学研究所が主導したJEWELプロジェクト
理化学研究所 生命医科学研究センターの寺尾知可史チームリーダーらの共同研究グループが、バイオバンク・ジャパンの試料を解析した。
北海道、東北、関東、中部、関西、九州、沖縄の7地域の医療機関に登録された3,256人のDNAを、全ゲノム単位で読み解いた。
データセットには一塩基変異が約4,559万か所含まれ、32.7%はJEWELでのみ観察された。
研究チームは構築したデータベースをJEWEL(Japanese Encyclopedia of Whole-Genome/Exome Sequencing Library)と名づけた。
JEWELには病名の診断、検査値、既往歴といった医療記録も紐づけられており、変異を持つ人の病歴を調べることができる。
東北に多い第3の祖先成分
分析では、日本人は3つの祖先成分(K1〜K3)の混合でもっともよくモデル化でき、検討した4つの指標すべてがK=3を支持した。
K1は沖縄、K2は東北、K3は関西でもっとも高い。
論文は考察で、東北地方にはかつて蝦夷(エミシ)と呼ばれた人々が住み、その起源が北東アジアと関係する可能性も提案されてきたことに触れている。
ただし論文は、東北の成分の由来はあまり明確ではないとし、日本列島や朝鮮半島の古代集団(三国時代の古代韓国人など)と関係する可能性を挙げている。
北東アジア系との関係も、さらなる証拠が必要だとしている。
古代ゲノムとの比較では、東北の人々は縄文人や、4〜5世紀の古代韓国人(三国時代)と遺伝的な近さが高かった。
縄文・東アジア・北東アジアの3成分モデルは東北では当てはまらず(P=0.00065)、三国時代の古代韓国人68%と漢民族32%の混合としても説明できた。
一方、関西は漢民族との遺伝的な近さが最も高く、黄河流域の新石器時代の集団とも近かった。
論文は、弥生時代以降の東アジア系の人々の大規模な流入や、古墳時代から奈良時代(西暦250〜794年)にも続いた朝鮮半島からの移住と関係する可能性を挙げている。
沖縄の成分(K1)は、沖縄に隣接する九州では22%と高かったが、それ以外の本土ではおよそ12%でほぼ安定していた。
東北の成分(K2)と関西の成分(K3)は、本土で西から東へなだらかに入れ替わっていた。日本人に特有の遺伝性乳がん関連変異BRCA1 Leu63Terも、主に東北の成分が多い人に見られた。


DNAに眠る病気のリスクも見えてきた


古人類由来の44領域
研究チームは現代日本人のゲノムの中に、絶滅した古人類であるネアンデルタール人とデニソワ人に由来し、病気などの体質と関わる断片を44領域見つけ出している。
内訳は42領域がネアンデルタール人由来、2領域がデニソワ人由来で、その多くは東アジア人に特有のものだった。
これらネアンデルタール人由来の領域の一部は、現代人の冠動脈疾患、前立腺がん、関節リウマチといった病気のかかりやすさと関連することが指摘されている。
デニソワ人由来の領域では、NKX6-1遺伝子のあたりの変異が、日本人の2型糖尿病のなりやすさと関連していた。
またネアンデルタール人由来のGLP1R遺伝子の領域は、日本人では2型糖尿病と関連するのに、欧米人の解析では関連が見られなかった。
論文は、GLP1R領域のネアンデルタール人由来の配列がアジア人にあって欧州人にはないことが、この違いの説明になりうるとする。
さらに、経口セマグルチド(GLP-1アナログ)の開発という点でも興味深いとし、こうした変異を持つ人で薬への反応が違うかを今後調べる価値があるとしている。
ネアンデルタール人は、現生人類と共通の祖先から分かれた別系統の人類と考えられている。
日本人1人あたりでは、ネアンデルタール人由来の配列が約49Mb(メガ塩基対)、デニソワ人由来の配列が約1.47Mb見つかった。


医療記録と照らし合わせたゲノム
まれな変異と実際の病気
ほかにも、遺伝子の働きを失わせる変異を持つ人を医療記録と照らし合わせた。両方の遺伝子コピーが働かないヒトノックアウトのうち、臨床的に意味がありそうなものが23人見つかった。
ABCC2遺伝子の働きを失わせる変異を両方のコピーにもつ1人は、血液検査と病歴から、通常は良性の肝臓の病気であるデュビン・ジョンソン症候群と確認された。
GJB2遺伝子の変異を両方のコピーにもつ3人のうち、2人は難聴が確認された。
論文によると、大規模な全ゲノムデータは欧州系の人に偏っており、この偏りは精密医療の恩恵の不均等につながりうる。
そのため、日本人に合った個別化医療には、日本人自身のデータが必要になる。
ただし、ゲノム全体から見ると、古人類由来の配列はほんのわずかです。また、東北に多い第3の成分の由来をはっきりさせるには、古代人のゲノムのデータがもっと増える必要があります。



日本人に合った医療を進めるには、日本人自身のゲノムデータが欠かせないんだね。
参考文献:
Liu X, et al. (2024) 「Decoding triancestral origins, archaic introgression, and natural selection in the Japanese population by whole-genome sequencing」 Science Advances 10(16). DOI: 10.1126/sciadv.adi8419
論文全文(PMC)
全ゲノム解析で明らかになる日本人の遺伝的起源と特徴(理化学研究所)









