はかせ、体力って何歳から落ちていくの? おじいちゃんが最近「階段がきつい」って言ってたの
スウェーデンの研究チームが同じ人たちを16歳から63歳まで47年かけて調べたら、心肺機能や筋持久力は30代半ばごろをピークに落ち始めていたんだ
スウェーデンのカロリンスカ研究所などのチームが1974年から続けてきた長期追跡研究で、大人の体力がいつピークを迎え、どのくらいの速さで落ちていくかがわかってきた。
運動習慣のある人は体力の数値が高い傾向も示された。ただし、これは運動を割り当てて効果を試した実験ではなく、参加者の生活を長年観察した研究だ。
47年「同じ人」を追いかけた珍しい研究

従来研究は「世代別比較」が主流だった
これまでの老化と体力の研究は、20代・40代・60代といった異なる年齢層の人を同じ時期にまとめて測定する横断研究が主流だった。
一度に大量のデータが集められ、結果が早く出るのが利点だ。
ただ、横断研究には大きな弱点がある。世代によって食生活・運動習慣・育った環境がまったく違うため、年齢のせいで衰えたのか、生まれ育った時代が違うから差が出たのかを区別できないのだ。
同じ人を時間を追って調べれば、世代の違いに邪魔されずに、その人自身の中での変化を見ることができる。
スウェーデンで1974年に始まった研究
カロリンスカ研究所が始めたSPAF研究 (Swedish Physical Activity and Fitness study)は、この弱点を克服するため、同じ人物を何十年も追跡する縦断研究を選んだ。
対象は、1974年にスウェーデンの高校から無作為に選ばれた16歳の男子222人と女子205人、計427人(1958年生まれ)。
その後、27歳、34歳、52歳、63歳のときにも測定を行い、47年間で計5回のデータを集めた。
縦断的に測った指標は3つ。心肺機能(最大酸素摂取量の推定値)、筋持久力(ベンチプレスの回数)、筋パワー(垂直跳びの高さ)だ。
ただし16歳のときだけ心肺機能は9分間走で測り、式で換算している。種目によって測った年齢もそろっていないため、年齢ごとの値は統計モデルで推定している。
47年続いた研究と論文の中身
1974年に始まったプロジェクトは、63歳の測定までで47年に達した。同じ人を半世紀近く追えた研究はきわめて珍しい。
63歳の時点で、参加者の8%は亡くなっていた。統計モデルには最初の参加者全員を含め、途中で抜けた人による偏りをおさえている。
研究成果は、筋肉と老化を専門に扱う学術誌Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleに発表された。
誌名の Sarcopenia は加齢で筋肉が痩せていく症状を指す医学用語で、超高齢社会の最前線テーマを扱う。
論文の筆頭著者は、カロリンスカ研究所のMaria Westerståhl氏。
ピークは35歳前後——下り坂はそこから始まる

ピークの年齢は指標によって違う
どの指標も、若いころに伸びてある時点で頭打ちになり、そのあと下がっていく形は同じだった。
心肺機能(体の大きさを考えない絶対値)のピークは男性35歳・女性36歳、ベンチプレスの回数は男性36歳・女性34歳だった。
一方で、体重あたりの心肺機能のピークは男性26歳・女性31歳、垂直跳びは男性27歳・女性19歳と、もっと早かった。
論文は、指標と性別によって19〜36歳のあいだにピークがあるとまとめている。
論文によると、この変化のパターンは、トップアスリートでこれまで示されてきたものと同じだった。体力の低下は40歳より前から始まっていることになる。
下り坂は年を取るほど急になる
若い頃の運動歴と「下り坂の始まり」
大学の発表によると、体力が落ち始める時期は、トレーニングの量にかかわらず35歳ごろだった。
ただし体力の高さには差があった。16歳のときに余暇に運動していた人は、大人になってからも心肺機能、筋持久力、筋パワーのどれも高かった。
論文の統計モデルでは、この差は年齢によって変わらず、どの年齢でもほぼ同じ大きさで続いていた。
衰えのスピードは年を取るほど増していく
35歳以降の下り坂は、最初はゆるやかに始まる。けれど50代、60代と進むにつれ、その傾きはだんだん急になっていく傾向が見られた。
たとえば体重あたりの心肺機能は、40歳では1年に約1.1%ずつ落ちていたが、63歳では1年に約2.2%ずつ落ちていた。
ピークから63歳までの低下は、女性で37%、男性で40%にもなる。すべての指標を合わせると、ピークから63歳までに30〜48%下がっていた。
「最近、階段を一気に上がれなくなった」「重い荷物が苦しくなった」というシニア世代の実感は、データの上でもある程度裏付けられている。
歳を取るほど、同じ努力では現状維持が難しくなっていくのだ。
年齢とともに個人差も大きくなった。体重あたりの心肺機能のばらつきは、若いころに比べて25倍になっていた。同じ年齢でも、体力の高い人と低い人の差が年々開いていくということだ。

運動習慣がある人ほど体力は高い傾向

大人になってから運動を始めた人にも差
大人になってから運動しない生活からする生活に変わった参加者は、そうでない場合にくらべて心肺機能が6〜7%、ベンチプレスの回数が11%、垂直跳びが4%高かった(大学の発表では「5〜10%」とまとめている)。
ここで一点、大切な注意がある。この研究は、運動を「する・しない」を研究者が割り当てて比べた実験ではなく、参加者が自分の意思で運動していたかどうかを観察したものだ。
つまり「運動したから体力が上がった」という因果関係を断定できるものではなく、「運動習慣のある人は体力が高い傾向がある」という相関としてとらえるのが正確だ。
もともと体が丈夫な人ほど運動を続けやすい、という逆向きの可能性も完全には否定できない。
それでも、この差は小さくない。運動は若いうちにやっておくものと思われがちだが、大人になってからの運動習慣にも意味がありそうだ。
論文によると、大学の学位を持つ人も心肺機能と筋持久力が高かった。

運動と加齢のリアルな関係
加齢の流れを完全には止められない
Westerståhl氏は「体を動かし始めるのに遅すぎることはない。運動は体力の低下をゆるやかにできるが、完全に止めることはできない」と話している。
論文は、若いころからの体力の低下が、年を取ってからの体の衰えにつながりうるとして、とくに体をあまり動かさない人に注意を促している。
次は68歳での再測定——研究は続く
研究は続いていて、参加者が68歳になる年に再び測定する予定だ。
研究チームは次に、なぜ多くの人が35歳ごろにピークを迎えるのか、なぜ運動が体力の低下をゆるやかにできても止められないのかを調べるとしている。
体力の変化を、生活習慣や健康状態、体の中の仕組みと結びつけることを目指している。
じゃあ、今からでも体を動かす習慣をつけるといいのかな?
観察した研究だから断定はできないけど、大人になってから運動を始めた人も体力の数値が高かったよ
参考文献:
Westerståhl M, et al. (2025) 「Rise and Fall of Physical Capacity in a General Population: A 47-Year Longitudinal Study」 Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. DOI: 10.1002/jcsm.70134
Long-term study reveals physical ability peaks at age 35(Karolinska Institutet)
論文本文(オープンアクセス): PMC12620399

