はかせ、体力って何歳から落ちていくの? おじいちゃんが最近「階段がきつい」って言ってたの
鋭いところに気がつきましたね。スウェーデンの研究チームが人々を47年も追いかけて、35歳ごろがはっきりした分かれ目だと突き止めたんですよ
カロリンスカ研究所のチームが1974年から続けてきた長期追跡研究は、体力のピーク年齢だけでなく、「運動習慣がある人は体力の数値が高い傾向にある」という具体的な数字まで示した。ただし、あらかじめ断っておくと、これは運動を割り当てて効果を試した実験ではなく、参加者の生活を長年観察した研究だ。その前提で読むと、加齢と体力の関係がくっきり見えてくる。
47年「同じ人」を追いかけた珍しい研究

従来研究は「世代別比較」が主流だった
これまでの老化と体力の研究は、20代・40代・60代といった異なる年齢層の人を同じ時期にまとめて測定する横断研究が主流だった。一度に大量のデータが集められ、結果が早く出るのが利点だ。
ただ、横断研究には大きな弱点がある。世代によって食生活・運動習慣・育った環境がまったく違うため、年齢のせいで衰えたのか、生まれ育った時代が違うから差が出たのかを区別できないのだ。
1970年代生まれと1950年代生まれでは、子どもの頃の栄養状態も運動量もまるで違う。テレビゲームの普及、車社会の進行、加工食品の登場——生活環境の変化は数十年単位で大きく動いている。横断研究の数値には、年齢の影響と世代の影響がごちゃ混ぜになってしまう。
同じ40歳でも、1980年に40歳だった人と2020年に40歳だった人では、それまでの人生で受けてきた身体的負荷がまったく違う。この交絡を切り分ける有力な方法が、同じ人を時間軸で追いかけることだった。ある人が20歳から60歳になるまでの数値をずっと追えば、少なくとも「その人自身の中での変化」は、世代の違いに邪魔されずに見て取れる。当たり前のようでいて、これを何十年もやり続けるのは、想像以上に難しいことなのだ。
スウェーデンで1974年に始まった研究
カロリンスカ研究所が始めたSPAF研究 (Swedish Physical Activity and Fitness study)は、この弱点を克服するため、同じ人物を何十年も追跡する縦断研究を選んだ。
対象は、16歳から63歳までの範囲にわたる数百人の男女。研究チームはその後、参加者が年齢を重ねるたびに研究室へ呼び戻し、同じ測定を繰り返した。長い年月をかけて、一人ひとりの体力がどう変化していくかを追い続けたわけだ。
測定された指標は3つに固定された。心肺機能、筋力、そして筋持久力だ。同じ装置、同じ手順、同じプロトコルで、人生の節目ごとに数値を記録し続けた。測り方をそろえることで、時代による測定のブレを抑え、純粋に加齢による変化を追えるようにしている。
47年続いた研究と論文の中身
1974年に始まったプロジェクトは、最終データが取れた段階で47年に達した。世界の運動科学分野でも、同じ人を半世紀近く追えたケースはきわめて珍しい。引っ越し、健康悪化、関心の喪失——半世紀の間に参加者が研究から離脱する理由は山ほどある。それを乗り越えて追跡を維持できた背景には、北欧の社会システムも一役買っている。
研究成果は、筋肉と老化を専門に扱う学術誌Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleに発表された。誌名の Sarcopenia は加齢で筋肉が痩せていく症状を指す医学用語で、超高齢社会の最前線テーマを扱う。
論文の筆頭著者は、カロリンスカ研究所のMaria Westerståhl 氏。世代差というノイズが取り除かれた結果、これまで横断研究では見えにくかった共通のパターンが、より鮮明に浮かび上がった。
ピークは35歳前後——下り坂はそこから始まる

3つの指標が同じ曲線で落ちる
数十年分の測定データを時系列で並べてみると、心肺機能・筋力・筋持久力の3つすべてが、よく似た形のカーブを描いていた。若い頃から伸びていた数値が、ある時点で頭打ちになり、それ以降は下を向き始める。
その頭打ちが訪れるタイミングが、男女ともに35〜36歳ごろに集中していた。3つの指標がバラバラのタイミングで落ちるのではなく、比較的近い時期に下り坂へ入るのが特徴的だった。
これは身体の「総合性能」が、ある程度まとまった時期に落ち始めることを示唆する。心臓も筋肉も別々に動いているように見えて、加齢という同じ流れのなかで変化のフェーズに入っていく、と考えられる。
運動歴があっても「下り坂の始まり」は同じころ
若い頃の運動歴と「下り坂の始まり」
データからうかがえたのは、若い頃のトレーニング歴の差が、ピーク年齢を大きくずらすわけではなさそうだ、という傾向だ。学生時代によく運動していた人も、あまりしてこなかった人も、ピークを迎える時期はおおむね近い範囲にあった。
もちろん絶対的な体力レベルには差がある。若い頃に鍛えた人のほうが「高い場所からの下り坂」になるため、同じ年齢でも余力は大きい。けれど「いつから落ち始めるか」は、鍛え方だけで大きく変わるものではないようだ。
性能の高いスポーツカーも軽自動車も、走り続ければいつかは各部が摩耗し始める。性能の高さそのものよりも、走ってきた時間が効いてくる、というイメージに近い。鍛えることで変えやすいのは「下りの始まり」よりも「下りの傾き」のほうだ、というのがSPAFのデータから読み取れる傾向である。
衰えのスピードは年を取るほど増していく
35歳以降の下り坂は、最初はゆるやかに始まる。けれど50代、60代と進むにつれ、その傾きはだんだん急になっていく傾向が見られた。
40歳から50歳までの10年間で落ちる体力の幅より、55歳から65歳までの10年間で落ちる幅のほうが大きい、という具合だ。年齢を重ねるほど、体力の低下する速度そのものが増していく。
「最近、階段を一気に上がれなくなった」「重い荷物が苦しくなった」というシニア世代の実感は、データの上でもある程度裏付けられている。歳を取るほど、同じ努力では現状維持が難しくなっていくのだ。
この加速には、筋肉量の減少や、細胞の働きの低下など、いくつもの要因が重なっていると考えられている。若い頃は多少サボっても回復できたものが、年齢とともに「維持するだけでも努力が要る」状態へと変わっていく。放っておけば下がる一方だからこそ、意識的に体を動かすことの意味が、年齢を重ねるほど大きくなってくる。
これは特定の個人だけの話ではなく、多くの人に共通して見られる加齢の傾向だ。35歳前後の踊り場を過ぎたあとは、誰もが同じような角度で下りていく。違ってくるのは、その下り坂の上で「何もしないか、ブレーキを踏むか」という向き合い方のほうだ。
運動習慣がある人ほど体力は高い傾向

大人になってから運動を始めた人にも差
SPAF研究が見せたのは衰えの話だけではない。成人してから運動習慣を取り入れた参加者は、体力指標が5〜10%高い傾向が見られた。何歳から始めたかにかかわらず、運動習慣のある人のほうが数値が良い、という関連が確認されたのだ。
ここで一点、大切な注意がある。この研究は、運動を「する・しない」を研究者が割り当てて比べた実験ではなく、参加者が自分の意思で運動していたかどうかを観察したものだ。つまり「運動したから体力が上がった」という因果関係を断定できるものではなく、「運動習慣のある人は体力が高い傾向がある」という相関としてとらえるのが正確だ。もともと体が丈夫な人ほど運動を続けやすい、という逆向きの可能性も完全には否定できない。
それでも、5〜10%という差は無視できない。運動を「若いうちにやっておくもの」と捉えがちだが、データはむしろ、年齢を重ねてからの運動習慣にも意味がありそうだと示している。35歳を過ぎてからでも、体を動かす習慣を持つ人と持たない人では、体力の面で違いが出うる、というわけだ。
運動と加齢のリアルな関係
加齢の流れを完全には止められない
同時に、研究チームは大事な但し書きを付けている。Westerståhl 氏は「運動を始めるのに遅すぎることはない。運動は体力の低下をゆるやかにできるが、加齢そのものを完全に止めることはできない」という趣旨を語っている。
運動とは、坂道を登り返すロケットエンジンではなく、坂を下るスピードを抑えるブレーキのようなものだ、とイメージすると分かりやすい。下りていくこと自体は避けられないが、ブレーキを踏み続けることで、ふもとに着くまでの時間を稼げる可能性がある。
この時間差が、高齢になったときに「自分の足で歩ける生活」を続けられるかどうかに関わってくる。健康寿命の長さは、中年以降の体との向き合い方によって変わりうる、ということだ。
ここで大切なのは、完璧を目指す必要はない、という点だ。激しいトレーニングでなくても、日々よく歩く、階段を使う、といった小さな積み重ねでも、下り坂の傾きをゆるめる方向に働くと考えられている。何歳からでも遅すぎることはない、という研究者の言葉は、多くの人にとって心強い後押しになるはずだ。
次は68歳での再測定——研究は続く
SPAF研究はまだ完結していない。研究チームは、参加者が68歳になる翌年に再び全員を呼び戻し、新しい測定データを追加する計画を立てている。
次の関心は「なぜ多くの人のピークが35歳前後に集中するのか」というメカニズムの解明だ。遺伝子の発現パターン、ホルモンの分泌量、代謝速度——どれが鍵を握っているのかをこれから掘り下げていく。35歳前後という年齢にどんな生物学的な変化が隠されているのか、答えはまだ出ていない。
生活習慣・健康状態・生物学的プロセスがどう絡み合って老いの曲線を描くのか。47年の追跡データは、これまで得がたかった精密な「老化の地図」を描く出発点になる。筆者としては、この長期研究がこれからどんな続報を届けてくれるのか、注目していきたいと考えている。
じゃあ、今からでも体を動かす習慣をつけるといいのかな?
この研究は観察が中心なので断定はできませんが、運動習慣のある人ほど体力が高い傾向は、はっきり出ていましたよ。坂は下っても、向き合い方は自分で選べるんです
体力のピークは35歳前後、そこからは誰もが下り坂——そう聞くと少し寂しいが、その坂とどう付き合うかには、まだ自分で決められる余地がある。数字に一喜一憂しすぎず、できる範囲で体を動かす習慣を持つ。半世紀近い年月をかけた地道な追跡が私たちに教えてくれるのは、そんな地に足のついた、けれど確かなメッセージなのかもしれない。
参考文献:
Westerståhl M, et al. (2025) 「SPAF study (Swedish Physical Activity and Fitness study)」 Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. DOI: 10.1002/jcsm.70134
Long-term study reveals physical ability peaks at age 35(Karolinska Institutet)


コメント