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4枚翼で滑空! 1.2億年前の恐竜が空から古代の鳥を狩っていた

2026 6/05
歴史・考古学
2026年6月5日
🕑この記事は約8分で読めます
シルミー

はかせ、4枚も翼がある恐竜が見つかったって本当なの?

はかせ

本当ですよ。中国で1.2億年前の地層から「ジアン」という小型恐竜が発掘されたんです。ムササビみたいに空を滑空して、古代の鳥を狩っていたんですよ

正式名称はJian changmaensis。ヴェロキラプトルの遠い親戚にあたる、ミクロラプトル類の小型ドロマエオサウルスだ。

目次

謎の捕食者を探せ — 1.2億年前の「鳥の墓場」

発掘現場の化石

骨だらけの堆積層に転がる奇妙なペレット

発見の舞台は中国・甘粛省北西部のチャンマ盆地(Changma Basin)。白亜紀前期、約1億2000万年前の地層が広がるこの一帯は、古生物学者にとっては有名な化石産地だ。同じ時代の遼寧省・ジェホール生物群と並ぶ「白亜紀の宝箱」として知られ、湖底に堆積した細かな泥が、羽毛や軟組織の痕跡まで丁寧に閉じ込めてきた。

地層に眠っていたのは、原始的な水鳥ガンスス・ユメネンシス(Gansus yumenensis)の骸。その数は数百体に達し、まるで「鳥の墓場」のような濃密な堆積を作っていた。

不気味なのは骨の状態だった。ガンススの脚や羽の骨が、ばらばらに砕かれて団子状に固まっていたのだ。これは現代のフクロウが消化しきれない骨や毛を吐き戻す「ペレット」と瓜二つで、何者かが鳥を丸呑みにし、消化できなかった残骸を後から吐き出した痕跡に見えた。一個一個のペレットの中に、複数羽分の脚の骨や指の骨が混ざっていた点も、現代の猛禽類の食事痕とよく似ている。

20年以上探し続けた「正体不明の主」

研究者たちはこのペレットを残した張本人を、長年探し続けてきた。条件は厳しい。鳥よりひと回り大きく、骨を砕ける顎を持ち、空中の獲物にも手が届く――そんな捕食者の化石が、肝心の現場からはずっと見つからなかった。

ガンススそのものは2006年に大々的に紹介された有名な原始鳥類だが、それを狩った犯人だけが、化石の世界から姿を消したままだったのだ。捕食者がいなければ「群れごと骨を集める」現象は起こりにくい。誰が、どうやって、これだけの鳥を集めて食べたのか。

120年越しの「主」がついに登場

そこに正体を現したのがジアンだ。2026年に学術誌『Annals of Carnegie Museum』で発表された論文の筆頭は、シカゴのフィールド博物館に所属するジンマイ・オコナー博士と、ピッツバーグのカーネギー自然史博物館に所属するマット・ラマンナ博士。北米と中国の研究者が連携して、ようやくここまで辿り着いた。

化石から測定された上腕骨の長さは約10センチ(4インチ)。両翼を広げた幅は約1.2メートル(4フィート)で、現在のメンフクロウくらいの体格と推定された。

オコナー博士は「これはこの遺跡で唯一、鳥ではなかった恐竜です。肉食で、他の生き物よりずっと大きかった」と語る。鳥ばかりの遺跡で1つだけ異質な肉食恐竜――骨を砕いてペレットを残した「主」の名刺が、1億2000万年の時を超えて手渡された格好だ。

ジアン vs ヴェロキラプトル — 似て非なる空の狩人

滑空するムササビ

体格はメンフクロウ並み、映画スターの半分以下

ジアンの推定全長は40〜50センチほど。翼幅も1.2メートルに留まり、片手で抱えられそうな小柄な恐竜だ。

一方、有名なヴェロキラプトル・モンゴリエンシスは全長約2メートル、体重15〜20キロ前後と推定されている。ハリウッド映画『ジュラシック・パーク』では人間と渡り合う凶暴な姿で描かれてきた、その当人だ。

同じドロマエオサウルス類の仲間でも、ジアンとヴェロキラプトルは体格でほぼ4倍以上の差がある。猫とライオン、いや雀と鷲くらい違うと考えても良いかもしれない。狙う獲物のサイズも、当然違っていた。

生きた時代は4000万年以上ずれている

ジアンが空を滑っていたのは白亜紀前期、約1億2000万年前。一方のヴェロキラプトルがモンゴルやゴビ砂漠を駆け回っていたのは、ずっと後の白亜紀後期、約7500〜7100万年前だ。

両者の間には4000万年以上の時間差がある。人類とチンパンジーの共通祖先が約700万年前だったことを思えば、ジアンとヴェロキラプトルは「同じ家系の親戚」と呼ぶには時代が離れすぎているとも言える。

共通する特徴は、強く湾曲した鉤爪、長い尾、そして羽毛で覆われた体。それでも生活の舞台はまるで違い、片方は森と湖の上空、もう片方は乾燥した平原と砂漠で進化していった。

「ハリウッドのトカゲ」とは違う羽毛だらけの実像

映画の影響で、ヴェロキラプトルは皮膚むき出しの爬虫類的な姿で知られてきた。だが研究者は何度も指摘してきた通り、本物は全身が羽毛で覆われた姿だったとほぼ確定している。

ジアンの場合はその傾向がさらに極端だ。前肢と後肢の両方に、空気をつかむための長い飛行用の羽が生えていた。前肢の翼と後肢の翼を合わせて合計4枚翼の体勢になる、極めて変則的な形だった。

地面を走り回るトカゲではなく、ふわふわの羽毛でおおわれた小さな怪鳥――そう想像した方が、ジアンの実像にずっと近い。

滑空 vs 飛翔 — 太古の空を分けた2つの戦略

ムササビ型の4枚翼は何を可能にしたか

オコナー博士は「ジアンや他のミクロラプトル類は、本物の飛行はできなかったでしょう。ただ、ムササビのように滑空はできたはずです」と説明する。

4枚翼の正体は、前肢・後肢を広げて空気抵抗を最大化するための「滑空面」だ。木の枝から枝へ飛び移ったり、高い崖の上から急降下して獲物を襲ったりする使い方が想定される。

羽ばたいて自力で揚力を生む鳥型の飛行と、重力に頼って降下する滑空はまったく別の技術だ。滑空はエネルギー消費が少なく、長距離の移動には向かないが、地上を走る恐竜が決して届けない「空中の3次元」を移動経路に変えた。現代のムササビが地面を歩かずに森を渡るように、ジアンも木と木の間を滑って獲物を探したのだろう。

4枚翼の恐竜は実はジアンが初めてではない。2003年に中国遼寧省で記載されたミクロラプトル・グイ(Microraptor gui)が、同じく前後の脚に長い羽毛を備えた姿で発見されている。ジアンはその仲間に新しい1枚を加え、空を試した恐竜たちが「一匹の例外」ではなく系統だった集団だったことを示した。

同時代のアーケオプテリクスとの距離

ジアンが生きた約1億2000万年前は、いわゆる「始祖鳥」アーケオプテリクスが約1億5000万年前に登場したあと、本格的な鳥類が急速に枝分かれを始めた時期にあたる。

アーケオプテリクスは翼を上下にはばたかせ、短距離なら自力で飛べたとされる。対するジアンは、同じ「空を使う」という目標を、まったく別のルートで模索した恐竜だ。一方は鳥への進化の最前線、もう一方は恐竜が独自に編み出した滑空芸――同じ空をめぐる2つの実験が、同じ時期に並走していた。

ヴェロキラプトルの時代になると、こうした4枚翼の滑空族はほぼ姿を消し、空は完全に鳥の独壇場になっていく。ジアンは「空を制したのは結局誰なのか」を問い直す、貴重な比較対象になる。

ガンスス・ユメネンシスはなぜ狙われたのか

ジアンの主食と考えられているガンスス・ユメネンシスは、現代の水鳥に近い形態を持つ原始鳥類だ。アヒルくらいのサイズで、水かきのある足を備え、湖や池のほとりで暮らしていた。

水辺で休んでいる時、上空から無音で滑空してくるジアンは、ほとんど察知できない致命的な影だっただろう。捕らえた獲物はその場で食べ、骨や羽根はまとめてペレットとして吐き出される――そんな光景が、120年前ではなく1億2000万年前のチャンマ盆地で繰り返されていた。

1つの化石が当時の食物連鎖そのものを描き直してしまった例は、古生物学でもそう多くはない。鳥の進化と恐竜の進化の境界線は、想像以上に入り組んでいた。ジアンの4枚翼は、その複雑さを今も静かに語りかけてくる。

シルミー

4枚翼の恐竜が空を滑ってたなんて、想像するだけでワクワクするね!

はかせ

「鳥が突然進化した」わけじゃなくて、空を使う恐竜が何種類もいた時代があったんですよ。ジアンはそのパズルの欠けたピースだったんです

恐竜は鳥へと進化したが、その道筋は一本道ではなく、枝分かれと寄り道だらけだった。ジアンの発見は、白亜紀の空が想像以上に賑やかだった可能性を示している。4枚翼の小さな影がチャンマの森を滑り抜けていた1億2000万年前は、地上を駆ける肉食恐竜の時代であると同時に、「空を試す恐竜」が次々と現れた実験の時代だったのかもしれない。

参考文献:
Newfound velociraptor cousin probably glided on four ‘wings’ and hunted early birds
出典: Phys.org

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この記事を書いた人

シルミー編集者のアバター シルミー編集者

科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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