はかせ、前あしと後ろあしの両方に翼がある「4枚翼の恐竜」が新しく見つかったんだって! そんな生き物ほんとにいたの?
ジアンという小さな恐竜です。ただ気をつけたいのは、見つかった化石は前あしの一部だけ。4枚翼だった、鳥を狩っていた、という部分は近い仲間からの推測が多いんですよ
中国・甘粛省の白亜紀前期の地層から、小型の羽毛恐竜の新種が報告された。正式名称はJian changmaensis(ジアン・チャンマエンシス)。ヴェロキラプトルの遠い親戚にあたる、ミクロラプトル類の小型ドロマエオサウルスだ。論文は2026年、米国の学術誌Annals of Carnegie Museumに掲載された。ただし最初に断っておくと、後で見るように「4枚翼で鳥を狩っていた」というストーリーの多くは、この化石そのものではなく近縁種からの推測や研究者の見立てに基づいている。確かな事実と推測を分けて読み解いていきたい。
謎の捕食者を探せ — 白亜紀前期の化石産地


骨が集まった堆積層の謎
発見の舞台は中国・甘粛省北西部のチャンマ盆地(Changma Basin)。白亜紀前期、約1億2000万年前の地層が広がるこの一帯は、古生物学者にとっては有名な化石産地だ。同じ時代の遼寧省・ジェホール生物群と並ぶ「白亜紀の宝箱」として知られ、湖底に堆積した細かな泥が、羽毛や軟組織の痕跡まで丁寧に閉じ込めてきた。
この地層で目を引くのが、原始的な水鳥ガンスス・ユメネンシス(Gansus yumenensis)の骨の多さだ。研究の報告によれば100体を超える鳥類の部分骨格が見つかっており、まるで鳥が集まって眠る場所のような濃密な堆積を作っている。
興味を引くのは骨の状態だ。ガンススの骨の一部が、砕けてかたまり状になっていた。研究チームはこれを、現代のフクロウが消化しきれない骨や毛を吐き戻す「ペレット」になぞらえて説明している。何者かが鳥を捕らえ、消化できなかった残骸を後から吐き出した痕跡ではないか、というわけだ。ただし、この「ペレット説」はプレスリリースで語られた見立てであり、砕けた骨の一つひとつを詳しく分析した査読の結論というより、現時点での有力な解釈という位置づけで受け止めておきたい。
正体不明の捕食者
そもそもペレットとは、フクロウやタカなどの猛禽が、獲物のうち消化できない骨や毛をまとめて口から吐き戻したかたまりのことだ。現代の研究者はこのペレットを分解することで、その鳥が何を食べていたかを知ることができる。もし太古の地層に同じようなかたまりが残っているなら、当時の捕食者の食事を復元する手がかりになる——研究チームがこの砕けた骨に注目したのは、そうした背景があったからだ。
もしこれがペレットなら、それを残した張本人がいるはずだ。条件は厳しい。鳥よりひと回り大きく、骨を砕ける力を持ち、水辺の獲物に手が届く——そんな捕食者の化石が、肝心の現場からはなかなか見つからなかった。
ガンスス・ユメネンシス自体は1980年代に命名された原始鳥類で、2006年には大規模な記載研究で改めて注目を集めた、よく知られた鳥だ。ところが、それを捕らえていたかもしれない当の捕食者だけが、長らく化石として姿を現さなかった。捕食者がいなければ、これだけの鳥の骨が一か所に集まる理由もうまく説明できない。誰が、どうやって、これだけの鳥を相手にしていたのか——それが宿題として残されていた。
ついに現れた「主」ジアン
そこに正体を現したのがジアンだ。2026年に学術誌『Annals of Carnegie Museum』で発表された論文で、この小さな恐竜が記載された。ここで一つ訂正しておきたい点がある。この論文の筆頭著者は、甘粛地質博物館のLing-Qi Zhou氏だ。日本で名前が知られるシカゴのフィールド博物館のジンマイ・オコナー博士は最終著者、カーネギー自然史博物館のマット・ラマンナ博士は責任著者(コレスポンディング・オーサー)にあたる。中国と北米の研究者が連携した成果であり、特定の誰か一人が単独で主導したわけではない。
化石から測定された上腕骨の長さは約10センチ(4インチ)。ここから両翼を広げた幅は約1.2メートル(4フィート)、現在のメンフクロウくらいの体格と推定された。ただし見つかっているのは肩帯と前あしの一部が中心で、全身がそろっているわけではない。体格の数値は、残された骨と近縁種からの復元にもとづく推定値である点は押さえておきたい。
オコナー博士は「これはこの遺跡で見つかった、鳥ではない唯一の恐竜です。肉食で、周りの生き物よりずっと大きかった」といった趣旨を語っている。鳥ばかりの遺跡に一つだけ混じった肉食恐竜。骨を砕いてペレットを残した「主」の候補が、1億2000万年の時を超えて姿を見せた格好だ。とはいえ「この恐竜が鳥を狩っていた」と断定できたわけではなく、状況証拠から有力視されている、という段階にある。
ジアン vs ヴェロキラプトル — 似て非なる恐竜


体格は映画スターの何分の一か
ジアンは、片手で抱えられそうな小柄な恐竜だったと考えられている(全身骨格がそろっていないため、正確な全長は今後の発見を待つ部分がある)。翼を広げても1.2メートルほどで、メンフクロウくらいの大きさだ。
一方、有名なヴェロキラプトル・モンゴリエンシスは全長約2メートル、体重15〜20キロ前後と推定されている。ハリウッド映画『ジュラシック・パーク』で人間と渡り合う凶暴な姿として描かれてきた、あの恐竜だ。
同じドロマエオサウルス類の仲間でも、ジアンとヴェロキラプトルは体格が大きく違う。狙う獲物のサイズも、当然違っていたはずだ。小さな水鳥を相手にしていたと見られるジアンと、より大きな獲物と向き合っていたヴェロキラプトルとでは、狩りのスタイルそのものが別物だっただろう。
生きた時代は数千万年ずれている
ジアンが空を舞っていたのは白亜紀前期、約1億2000万年前。一方のヴェロキラプトルがモンゴルやゴビ砂漠を駆け回っていたのは、ずっと後の白亜紀後期、約7500〜7100万年前だ。
両者の間には、およそ4500万〜5000万年もの時間差がある。人類とチンパンジーの共通祖先が約700万年前とされることを思えば、ジアンとヴェロキラプトルは「同じ家系の親戚」と呼ぶには時代が離れすぎているとも言える。同じ仲間として一括りにされがちだが、両者を隔てる時間は想像以上に長い。
共通する特徴は、強く湾曲した鉤爪、長い尾、そして羽毛で覆われた体。それでも生活の舞台はまるで違い、片方は森と湖の上空、もう片方は乾いた平原と砂漠で進化していった。ちなみに映画のイメージと違い、ヴェロキラプトルも本来は全身が羽毛で覆われていたと考えられている。トカゲのような姿ではなく、羽毛をまとった動物だったわけだ。
滑空という戦略 — 太古の空の使い方
ジアンが属するミクロラプトル類には、前あしだけでなく後ろあしにも長い羽毛を備え、前後の翼を合わせて「4枚翼」のように見える姿の種が知られている。ジアン自身についても、こうした近縁種との類似から4枚翼だった可能性が指摘されている。ただし注意したいのは、今回見つかったジアンの化石は前あし側が中心で、後ろあしの羽毛が直接確認されたわけではないという点だ。「ジアンが4枚翼だった」というのは、近い仲間からの推測に支えられた見立てなのだ。
オコナー博士は「ジアンやほかのミクロラプトル類は、おそらく本物の羽ばたき飛行はできなかったでしょう。ただ、滑空はできたと思われます」と、慎重に条件をつけて説明している。この「おそらく」という留保が大事で、断定はしていない。
4枚翼が果たしたと考えられる役割は、前あし・後ろあしを広げて空気抵抗を大きくする「滑空面」だ。木の枝から枝へ飛び移ったり、高い場所から降下したりする使い方が想定される。羽ばたいて自力で揚力を生む鳥型の飛行と、重力に頼って降下する滑空はまったく別の技術だ。滑空はエネルギー消費が少なく、地上を走る恐竜には届かない「空中の3次元」を移動経路に変えた可能性がある。現代のムササビが地面を歩かずに森を渡っていくように、こうした恐竜も木と木の間を滑って移動していたのかもしれない。飛ぶことと滑ることは似ているようで、体の使い方も必要な羽根の形もかなり違う。ジアンの仲間が選んだのは、羽ばたく力よりも「上手に落ちる」技術を磨く道だったと言える。
こうした前後の脚に翼を持つ恐竜として、2003年に中国・遼寧省で記載されたミクロラプトル・グイ(Microraptor gui)がよく知られている。もっとも、今回の論文がジアンの近縁種として主に比較しているのはミクロラプトル・ザオイアヌス(Microraptor zhaoianus)などであり、ジアンは「空を試した恐竜」がひとつの例外ではなく、系統だった集団だったことを示す新たな1例と位置づけられる。
ガンススはなぜ狙われたのか
ジアンの獲物だった可能性が指摘されるガンスス・ユメネンシスは、現代の水鳥に近い形態を持つ原始鳥類だ。アヒルくらいのサイズで、水かきのある足を備え、湖や池のほとりで暮らしていたと考えられている。
水辺で休んでいる時、上空から滑空してくる捕食者は、気づきにくい脅威だったかもしれない。捕らえた獲物をその場で食べ、骨や羽根をまとめて吐き出す——そんな光景が、1億2000万年前のチャンマ盆地で繰り返されていた可能性がある。もっとも、これはあくまで状況証拠から描いた復元図であり、ジアンの胃の中身から直接ガンススが確認されたわけではない。「主食はガンスス」と言い切るには、まだ証拠が足りない。
それでも、鳥の骨が集まる遺跡に一つだけ大型の肉食恐竜が見つかったこと自体が、当時の食物連鎖を考え直すきっかけになる。恐竜が鳥へと進化していった道筋は一本道ではなく、枝分かれと寄り道だらけだった。ジアンの発見は、白亜紀の空が想像以上に賑やかで、多様な「空を試す恐竜」が現れた時代だった可能性を、静かに教えてくれる。
4枚翼で空をスイーッて滑ってたなんてかっこいい! でも、まだ「たぶん」の部分が多いんだね
ええ。前あしの化石は確かなもの、4枚翼や鳥を狩っていた話は近い仲間からの推測——ここを分けて考えるのが大事です。これから後ろあしの化石が見つかれば、推測が確かな話に変わっていくかもしれませんよ
次に博物館で羽毛恐竜の展示を見かけたら、その復元図のどこまでが化石から分かった事実で、どこからが近い仲間からの推測なのか、と想像してみるのも楽しい。ジアンの小さな影がチャンマの森を滑り抜けていた1億2000万年前は、地上を走る肉食恐竜の時代であると同時に、「空を試す恐竜」が次々と現れた実験の時代だったのかもしれない。次の化石が、この物語をどう書き足していくのか、静かに見守りたい。
参考文献:
Zhou, L.-Q., Lamanna, M. C., Poust, A. W., Li, Z., You, H.-L., & O’Connor, J. K. (2026). 甘粛省チャンマ盆地シアゴウ層から産出した鳥類を伴う非鳥類獣脚類(ドロマエオサウルス科ミクロラプトル亜科)に関する記載研究. Annals of Carnegie Museum, 92(2), 89-110. DOI: 10.2992/007.092.0201
New four-winged dinosaur described from China (Field Museum プレスリリース)










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