中国・甘粛省のチャンマ盆地は、白亜紀前期の鳥の化石が100体以上見つかっている場所だ。ところが、鳥ではない恐竜の骨は、これまで1つも報告されていなかった。
その最初の1体が、新しい恐竜として名前を付けられた。ヴェロキラプトルの親戚にあたるミクロラプトル類の恐竜、ジアン・チャンマエンシス(Jian changmaensis)だ。論文は2026年6月4日、学術誌Annals of Carnegie Museumに掲載された。
見つかったのは、左の肩と腕の骨だけ。それでも研究チームは、この骨を新しい種だと言える理由を3つ挙げている。
魚を探していて見つかった鳥の化石の産地
チャンマ盆地の化石の話は、1981年に始まる。魚の化石を探していた研究者たちが、たまたま鳥の脚の骨を見つけた。
この骨をもとに1984年に名前が付いた鳥が、ガンスス・ユメネンシス(Gansus yumenensis)だ。中国で初めて見つかった中生代の鳥だった。
2002年に発掘が再開されてから、鳥の部分骨格が100体以上見つかっている。多くは立体のまま残っていて、羽毛や皮膚、爪をおおう角質の跡まで残るものもある。
地層は、約1億2400万〜1億2000万年前に湖の底にたまった泥の層だ。見つかる鳥の大半はガンススで、論文の著者らによると、ガンススを含む今の鳥に近い系統(真鳥形類)の化石は、別の系統の鳥(エナンティオルニス類)の約10倍あるという。
ガンススについては、2006年にScience誌の研究が、立体のまま残った化石を調べている。白亜紀後期と、それより新しい時代の鳥にしか知られていなかった進んだ特徴をもち、体のつくりは水辺の暮らしに向いていたという。

2010年に報告された骨に、今回名前が付いた
この化石は、2010年に学会の要旨で最初に報告されていた。今回の論文で詳しく調べられ、新しい属の新しい種だと示された。標本の番号はGSGM-D050で、甘粛地質博物館の標本だ。
残っていたのは、左の肩の骨(肩甲骨と烏口骨がくっついたもの)、上腕骨、前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)。骨はつながったままの状態で、手首から先は無かった。
研究チームは、骨を壊さずに中を見るため、X線で骨の断面を撮る方法(コンピューテッド・ラミノグラフィー)も使った。前腕の骨の中には大きな空洞があり、骨の壁が薄いことが写っている。

キクジアンの化石は肩と腕の骨だけなのに、若いミクロラプトルじゃないってどうやって確かめたのかな?
肩と腕の骨だけで新しい種と言える3つの理由
ほかのミクロラプトル類と比べて、ジアンにしか無い特徴が3つあった。
- 烏口骨が長い。肩の骨の一部である烏口骨の長さが上腕骨の約36%あり、ほかのどのミクロラプトル類よりも長い。
- ひじの関節の出っ張りが、上腕骨の前の面にある。ミクロラプトル類ではほかに無い形で、鳥やテリジノサウルス類のエルリコサウルスに同じ形がある。
- 橈骨に穴がある。前腕の橈骨の、ひじに近い部分の下側に、はっきりした穴が開いている。
「若いミクロラプトルの骨なのでは?」という疑問にも、論文は答えている。ミクロラプトルの大人の一部の標本には、上腕骨の付け根に穴がある。ジアンにはこの穴が無いが、若いミクロラプトルの標本にもこの穴は無い。
そこで研究チームは、ジアンが若い個体かどうかを確かめた。若い個体に見られる、骨の表面や関節の端が固まりきっていない様子は無かった。ジアンはほぼ大人だったと考えられるので、穴が無いのは成長の途中だからではなく、属の違いだと結論している。
メンフクロウほどの大きさと神話の鳥の名前
上腕骨の長さは約10センチ(101.6ミリ)。論文は、ジアンの体の大きさを、ミクロラプトル・ザオイアヌスとシノルニトサウルスの大人の間とし、ミクロラプトル類の「中型」としている。
フィールド博物館のジンマイ・オコナー博士はプレスリリースで、翼を広げた幅は約4フィート(約1.2メートル)、メンフクロウほどだったろうと話している。いちばんよく知られたミクロラプトル類はカラスほどの大きさなので、それより大きい。
名前の「ジアン(鹣)」は、中国の神話に出てくる、翼が1枚しかない鳥だ。飛べたかもしれない鳥のような恐竜であることと、片方の肩と腕だけの化石であることにかけている。種の名前のチャンマエンシスは、産地のチャンマ(昌马)から付けられた。
4枚の翼と鳥を狩っていたという見立て
ジアンに近いミクロラプトル・ザオイアヌスは、前あしにも後ろあしにも長い羽毛があり、4枚の翼をもつ恐竜として知られている。研究チームは、ジアンも同じように4枚の翼で滑空していたと考えている。
オコナー博士は「ジアンやほかのミクロラプトル類は、おそらく本当の意味で羽ばたいて飛ぶことはできなかったでしょう。でも、ムササビのように滑空はできたと思われます」と話す。
チャンマ盆地では、砕けた鳥の骨がかたまりになった化石も見つかっている。今のフクロウが吐き戻すペレットに似たものだ。オコナー博士は、ジアンがこのかたまりを作った捕食者の「最善の推測」だと話している。ジアンは「この遺跡で唯一の鳥ではない恐竜で、肉食で、ほかのどれよりずっと大きかった」からだという。
4枚の翼も、鳥を狩っていたという話も、今回の化石から直接分かったことではない。後ろあしは見つかっておらず、ペレットや捕食の話は論文には書かれていない。プレスリリースで研究者が語った見立てだ。



ジアンに4枚の翼があったことも鳥を狩っていたことも、今回の化石から直接分かったんじゃなくて、研究者の見立てなんだね。
近い仲間ミクロラプトルで分かっていること
ここからは今回の研究ではなく、ジアンに近い仲間ミクロラプトルについての、別の研究の話だ。
4枚の翼での滑空
2003年にNature誌に載った研究は、中国北東部のミクロラプトルの化石から、前あしにも後ろあしにも長い羽毛があることを示した。研究チームは、初期のドロマエオサウルス類は4枚の翼をもち、おそらく滑空できたと考えた。羽ばたいて飛ぶ前の段階にあたる、という見方だ。
2013年にNature Communications誌に載った研究は、風洞実験とコンピューターのシミュレーションでミクロラプトルの滑空を調べた。低い場所から、または低い場所どうしの間を滑空するときに、揚力を大きく保つ飛び方がいちばん効率がよかった。今の鳥のような作りの翼でなくても、うまく滑空できたという結果だ。
お腹に残っていた獲物
ミクロラプトルは、お腹の中に食べた物が残った化石がいくつも見つかっている。
2011年に米国科学アカデミー紀要に載った研究では、ミクロラプトルのお腹の中に、大人の鳥(エナンティオルニス類)の骨が残っていた。研究チームは、死んだ鳥をあさったのではなく、捕まえて食べた可能性が高いとしている。恐竜が鳥を食べていた直接の証拠で、この研究の筆頭著者は、今回の論文にも加わっているオコナー博士だ。
2013年には、いちばん大きなミクロラプトルの標本のお腹から魚の骨が見つかった。2019年には、ほぼ丸ごとのトカゲがお腹に残った標本が報告され、トカゲは頭から丸のみにされていた。こうした化石から、ミクロラプトルは獲物を選り好みせず、木の上でも水辺でも、手に入る獲物を食べていたと考えられている。
研究チームは、ジアンとほかのミクロラプトル類を比べるときに、ひじの関節の向きも調べています。



チャンマで見つかった砕けた鳥の骨のかたまりをジアンが作ったっていう見立ては、ミクロラプトルのお腹に残った獲物を調べた研究と合うのかな?
ペレットの話と合わないところ
2019年の研究は、もう1つ結果を出している。お腹に残った獲物を比べると、ドロマエオサウルス類は食べた物を最後まで消化していて、今の鳥のように骨をペレットとして吐き出してはいなかったと考えられるという。
チャンマ盆地の骨のかたまりは、フクロウのペレットに似ているとされている。もしジアンがこのかたまりを作ったのなら、2019年の研究の見方とは合わない。かたまりを作ったのが誰なのかは、今の材料では決められない。
2000キロ離れた化石産地とのつながり
これまで、白亜紀前期のミクロラプトル類だと認められた化石は、どれも中国北東部の熱河層群(Jehol Group)から見つかっていた。ジアンの発見で、その範囲が中国北西部まで広がった。2つの産地は、約2000キロ離れている。
間をつなぐ化石の候補もある。内モンゴルで見つかった後ろあしの一部の化石(IVPP V22530)で、2020年の解析と同じく、今回の論文の系統解析でもミクロラプトル類に入った。熱河層群から西へ約500キロの場所だ。
論文はさらに、チャンマ盆地の生き物の顔ぶれが、熱河層群のスィヘダン(Sihedang)という産地とよく似ていると指摘している。どちらにもミクロラプトル類がいて、今の鳥に近い系統の鳥が圧倒的に多い。熱河層群のほかの産地の多くでは、エナンティオルニス類のほうが多い。
研究チームの何人かは以前、チャンマは熱河層群より少し新しい時代の地層で、今の鳥に近い系統が増え始めたころを記録していると考えていた。しかしその後の地層の分析から、チャンマの地層は約1億2400万〜1億2000万年前で、熱河層群の上部の地層と同じくらいの時代だと考えられるようになった。2か所だけがよく似ている理由はまだ分かっていない。論文は、2か所が似た環境でできた可能性と、やはり熱河層群のほかの産地より新しい可能性の両方を残している。
参考文献:
Zhou, L.-Q., Lamanna, M. C., Poust, A. W., Li, D.-Q., You, H.-L., & O’Connor, J. K. (2026). First non-avian theropod (Dromaeosauridae, Microraptorinae) from the bird-bearing Lower Cretaceous Xiagou Formation of the Changma Basin, Gansu Province, northwestern China. Annals of Carnegie Museum, 92(2), 89-110. DOI: 10.2992/007.092.0201
New species of dinosaur, a cousin of Velociraptor, probably glided on four “wings” and hunted early birds (Field Museum プレスリリース)
論文PDF(カーネギー自然史博物館)
【別の研究】
You, H.-L. et al. (2006). A nearly modern amphibious bird from the Early Cretaceous of northwestern China. Science. DOI: 10.1126/science.1126377
Xu, X. et al. (2003). Four-winged dinosaurs from China. Nature. DOI: 10.1038/nature01342
O’Connor, J., Zhou, Z., & Xu, X. (2011). Additional specimen of Microraptor provides unique evidence of dinosaurs preying on birds. PNAS. DOI: 10.1073/pnas.1117727108
Xing, L. et al. (2013). Piscivory in the feathered dinosaur Microraptor. Evolution. DOI: 10.1111/evo.12119
Dyke, G. et al. (2013). Aerodynamic performance of the feathered dinosaur Microraptor and the evolution of feathered flight. Nature Communications. DOI: 10.1038/ncomms3489
O’Connor, J. et al. (2019). Microraptor with ingested lizard suggests non-specialized digestive function. Current Biology. DOI: 10.1016/j.cub.2019.06.020









