はかせ、食べ物の保存料って実は体に悪いの?
鋭いところに気付きましたね。フランスの11万人を8年間追いかけた研究で、8つの保存料が高血圧リスクを29%も押し上げると分かったんですよ
食卓に並ぶハム、菓子パン、清涼飲料水に当たり前のように入っている保存料が、心臓や血管に思わぬ負担をかけている可能性が浮上した。European Heart Journal誌に掲載された大規模研究の中身を覗いてみよう。
11万人を8年追跡した世界最大級の調査


112,395人のフランス人が記録した食生活
フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のMathilde Touvier博士と博士課程学生のAnaïs Hasenböhler氏が率いるチームは、NutriNet-Santé研究に参加するフランス全土の112,395人を解析対象にした。NutriNet-Santéはフランス最大規模の栄養疫学コホートで、ボランティアたちは自分の食卓をほぼ年中、研究者に見せ続けている。
調査の方法は徹底していた。参加者は6カ月ごとに、3日間連続で口に入れた飲食物すべてを記録する。砂糖入りヨーグルトや冷凍ピザに含まれる成分まで個別に紐解き、保存料の種類と摂取量を数字に落とし込んでいった。
追跡期間は平均で7〜8年。その間に誰が高血圧と診断され、心筋梗塞や脳卒中、狭心症などの心血管疾患を発症したかを丁寧に集計した。観察研究としては破格のスケールで、これまで動物実験や試験管レベルでしか語られてこなかった話に、人間集団のリアルな数字を当てる試みになった。
NutriNet-Santéはもともと食事と病気の関係を長期で追うために2009年に設計されたコホートで、これまでにも超加工食品とがんの関連や、人工甘味料と糖尿病の関連を示してきた実績がある。「食品の中身を分子レベルで突き合わせて病気を追える」研究基盤として、欧州の栄養疫学では一段強力な部類に入る。
99.5%が保存料を口にしていた現実
結果のひとつは、研究が始まって最初の2年間で参加者の99.5%が少なくとも1種類の保存料を摂取していたことだ。コンビニ弁当や輸入ハム、惣菜パンに頼らない暮らしを想像しにくいのと同じで、現代の食生活から保存料を完全に避けるのは至難の業だと数字が物語る。
保存料には大きく2つのグループがある。ひとつはカビや細菌の増殖を抑える非抗酸化系保存料。亜硝酸ナトリウムやソルビン酸カリウムが代表選手だ。もうひとつは食品が酸化して変色したり風味が落ちたりするのを防ぐ抗酸化系保存料で、ビタミンCとしておなじみのアスコルビン酸もここに分類される。
「保存料は数十万種類の加工食品に使われています。実験では一部の添加物が心血管に悪影響を及ぼす可能性が示されてきましたが、ヒトでのデータは限られていました」とHasenböhler氏は語る。今回の研究は、その空白を一気に埋める一手になった。
数字で見る心血管リスクの上昇


高血圧リスクが29%増えた人の特徴
分析結果はかなり踏み込んでいる。非抗酸化系保存料の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて高血圧リスクが29%高く、心臓発作・脳卒中・狭心症を含む心血管疾患リスクが16%高かった。抗酸化系保存料を最も多く摂る人たちも、高血圧リスクが22%押し上げられていた。
29%という数字は、塩分の摂りすぎや運動不足など定番の生活習慣リスクと並べて議論されるレベルだ。研究チームは年齢、性別、喫煙、運動量、総カロリーといった交絡因子を統計的に取り除いた上でこの数字を弾き出している。「保存料を多く摂る人ほどリスクが高い」という用量反応関係も確認され、偶然ではなく傾向だと裏付けられた。
もうひとつ目を引くのは、加工度の低い食品を中心に食べる人ほど、保存料の総摂取量が当然のように少なかった点だ。ハムよりも焼き魚、菓子パンよりも自宅で焼いたパン。食卓の選び方がそのままリスクの高低に直結していた。塩分やカロリーといった旧来の指標とは別の軸で、血圧が動いていた可能性が見える。
名指しされた8つの保存料リスト
研究チームはよく使われる17種類の保存料を一つひとつ精査し、そのうち8種類が高血圧リスクと有意に関連していると突き止めた。具体的にはソルビン酸カリウム(E202)、ピロ亜硫酸カリウム(E224)、亜硝酸ナトリウム(E250)、アスコルビン酸(E300)、アスコルビン酸ナトリウム(E301)、エリソルビン酸ナトリウム(E316)、クエン酸(E330)、ローズマリー抽出物(E392)の8つだ。
馴染みのある名前が並ぶ。亜硝酸ナトリウムはハムやソーセージのピンク色を保つ常連で、ソルビン酸カリウムはチーズや菓子パンの定番、クエン酸は清涼飲料や缶詰に山ほど入っている。スーパーで原材料表示を裏返せば、たいてい1つや2つは見つかる成分ばかりだ。
8種類のなかでも、アスコルビン酸(E300)だけは高血圧だけでなく心血管疾患そのもののリスク上昇とも結びついていた。「ビタミンCは健康に良い」という常識をひっくり返すような結果で、ここがこの論文の最も意外な部分になっている。
ビタミンCの意外な落とし穴


アスコルビン酸が抱える二面性
アスコルビン酸はそもそも体に必要な栄養素で、レモンやキウイから摂る分には抗酸化作用が血管を守ると長年いわれてきた。それなのに、加工食品に添加されたE300は逆方向に作用する可能性が示された。これは「サプリより食材から」と言われ続けてきた栄養学の常套句と、不思議なほど重なる。
研究チームの仮説では、加工食品にまとめて含まれた合成アスコルビン酸が、他の添加物や脂質と一緒に消化される過程で、酸化ストレスを起こしたり膵臓の働きに干渉したりしている可能性がある。ボトル入り野菜ジュースのラベルに「ビタミンC配合」と書かれていても、それは保存料として注がれたE300かもしれない、というわけだ。
ビタミンCを果物として摂るのと、保存料として摂るのとでは、口に入る量も伴う食品の質も全く違う。新鮮なイチゴ1パックに含まれるビタミンCと、清涼飲料500mlに溶け込んだE300は、同じ分子でも体への当たり方が違うのではないか、と研究者たちは見ている。食物繊維やポリフェノールと一緒に届くか、糖と保存料の塊として届くか、その差が血管に効いている格好だ。
抗酸化保存料と非抗酸化保存料の違い
非抗酸化系のなかでは、亜硝酸ナトリウムが特に注目されている。これは食肉中のボツリヌス菌などの増殖を抑えるためにハムやソーセージに加えられているが、調理時の高温で発がん性物質ニトロソアミンを生む経路もすでに知られている。今回の研究はそこに「血圧」という新しい指標を加えた格好だ。
抗酸化系のアスコルビン酸とローズマリー抽出物は、健康イメージが強いだけに今回の結果がインパクトを持つ。「天然由来」のラベルがついていても、加工食品の文脈で大量に取り込めば話は別、というわけだ。ローズマリー抽出物はオーガニック志向の食品に重宝されており、安心の代名詞だっただけに研究者たちも慎重な解釈を求めている。
もうひとつ重要なのは、観察研究のため因果関係そのものを証明したわけではない点だ。Touvier博士もこの点を強調し、欧州食品安全機関(EFSA)や米国食品医薬品局(FDA)に「安全基準の再評価」を呼びかけている。今の安全量はネズミ実験で算出された数値が基礎になっており、何十年も前の前提で動いている部分もある。
研究チームは現在、保存料が腸内細菌叢や血液中の代謝マーカー、炎症マーカーに与える影響を続けて調べている。腸内細菌が荒れて慢性炎症が起き、それが血管を硬くする、という筋書きが有力候補のひとつだ。メカニズムの解明はこれからが本番で、数年以内に「なぜ血圧が上がるのか」の答えが出てくる可能性が高い。
じゃあ、お菓子もハムも食べちゃダメなの?
「ゼロにする」より「加工度の低い食材を増やす」のがコツですよ。研究チーム自身も、まずは未加工・最小加工の食品を選ぶことを勧めています
11万人の食卓を覗いて見えてきたのは、避けようと思っても避けにくい現実と、選び方ひとつでリスクが目に見えて下がる希望の両方だった。原材料表示にある8つの名前を覚えておくだけでも、買い物の景色が少し変わるかもしれない。
参考文献:
Researchers found 8 common food additives linked to high blood pressure and heart disease
出典: ScienceDaily









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