宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギーの粒子を、まとめて「銀河宇宙線」と呼ぶ。地上ではほとんど気にならないが、飛行機が飛ぶ高度になると、地上の何十倍もの量が降ってくる。
ここで意外なことに、太陽が活発に燃えているときよりも、逆に太陽が静かなときのほうが、機内で浴びる量は増えることが最新の測定で示された。
ヘブライ大学とシェバ医療センター、ライヒマン大学、テルアビブ大学の研究者は、2014年10月〜2016年8月にイスラエル南部から気球を計6回打ち上げ、高度およそ35キロメートルまでの放射線を測った。
第24太陽活動周期の活動が弱まっていく時期の観測だ。
成果は2026年8月29日付で学術誌『Journal of Geophysical Research: Atmospheres』に掲載された。
太陽活動と飛行高度の放射線量には、相関係数-0.71の負の関係が見られた。
キク地上だと宇宙線がほとんど気にならないのは、どうしてなんだろう?
宇宙から粒子は年中降り注いでいる


まず前提として、地球には常に外から粒子が飛び込んできている。太陽系の外にある超新星爆発や銀河中心の高エネルギー現象から放たれた陽子や原子核が、光速に近い速さで飛来する。
これが銀河宇宙線の正体だ。
これらが地球大気に突入すると、空気の分子とぶつかって二次的な粒子の雨を生む。中性子、ミュー粒子、電子、光子といった顔ぶれで、飛行機が飛ぶ高度の放射線環境をつくっている。
地上で測るとほぼゼロに近い理由は簡単で、地球の大気がぶ厚い盾になっているからだ。海抜0メートルまで届く粒子は、途中の空気にほとんど吸収され尽くしている。
だが高度が上がるほど盾が薄くなり、放射線量は跳ね上がる。高度10キロメートルの巡航高度ともなれば、地上で暮らしているときとは比べものにならないほど量が増える。
この量は、太陽の「機嫌」によって季節のように変動する。しかもその変動は、直感とは逆向きに動くのが今回の研究のポイントになる。
太陽の磁場が地球を守るシールドになっている


太陽は光と熱を出すだけでなく、周囲に強力な磁場を張り巡らせている。太陽風という荷電粒子の流れと一緒に、この磁場は太陽系のかなり外側まで広がっていて、まとめてヘリオスフィアと呼ばれる。
宇宙のもっと遠くからやってくる銀河宇宙線は、この磁場のバリアに引っかかる。荷電粒子は磁場の中で進路を曲げられるため、太陽系の内側に入り込むには磁場をかき分けなければならない。
太陽の活動は、およそ11年周期で強くなったり弱くなったりを繰り返している。活発な時期(極大期)は黒点が増え、太陽風も強くなり、磁場のシールドも硬くなる。
逆に静かな時期(極小期)は磁場が弱まり、シールドに穴が空いたような状態になる。
この磁場シールドが弱まった隙をついて、外からの銀河宇宙線がなだれ込んでくる。太陽が「元気」なほど地球に降る量は減り、「寝ぼけている」ほど増えるという逆説はここから生まれる。
太陽そのものが放つ粒子(太陽エネルギー粒子)は太陽活動が強いほど増えるので、こちらは逆の動きをする。だが飛行機の高度で問題になる被ばくの主役は、あくまで銀河宇宙線のほうだ。
なぜ「静かな太陽」ほど飛行機で被ばくが増えるのか


相関係数-0.71は、太陽活動が低い時ほど飛行高度の放射線が高い、という関係の強さを示す数値だ。
ただし研究者は、観測の回数が少ないため、この相関は統計的に確定したものではなく「目安」として見るべきだとしている。
チームがこの関係を太陽活動の極小期まで延ばして見積もったところ、飛行高度で測った線量率は、極大期より40〜60%高くなるという結果になった。
ただしこれは延長した推定で、極小期に直接測った値ではない。また、測ったのは次の節で説明する電磁成分で、中性子を含む被ばくの総量ではない。
気球6回で見えた「被ばくの山」の場所
研究チームはイスラエル南部から気球を6回打ち上げた。
搭載したのは、校正したガイガー・ミュラー計数管などのセンサーで、地上から高度およそ35キロメートルまで、垂直方向の被ばく量プロファイルをそのまま記録している。
その結果、宇宙線由来の粒子密度は高度17〜20キロメートルで最大になることが確認された。
この高度は、大気中で二次粒子のシャワーが最も強くなる場所として1930年代からレゲナー・フォッツァー極大と呼ばれてきた「名所」だ。
今回の観測は、その位置と量が最新の大気モデルとどれだけ一致するかを検証したことになる。
被ばく量が特定の高度で山になるのには理由がある。宇宙から降ってきた粒子は大気とぶつかって初めて二次粒子の雨を生むので、空気が薄すぎる上空ではまだシャワーが十分に発達していない。
逆に地表へ近づくほど、生まれた二次粒子が分厚い空気に吸収されて減っていく。
この「生まれる量」と「吸収される量」のバランスがちょうど釣り合う中間の高度、つまり17〜20キロメートル付近に密度のピークができるというわけだ。
旅客機の巡航高度にあたる高度10キロメートル前後では、ガンマ線に換算した線量率が1時間あたり0.9〜1.3マイクロシーベルト(μSv/h)だった。
ただしこれは、計数管が感じ取れる光子や電子などの成分の値で、中性子の分は入っていない。乗客や乗務員が受ける被ばくの総量として読んではいけない、と研究者は注意している。
観測地の上空は、地球の磁場が宇宙線を跳ね返す強さの目安(カットオフ剛性)が10.3ギガボルトと比較的高く、宇宙線が入りにくい。
研究者も、イスラエル上空の値が高緯度の地域より低いのは東地中海の地磁気の守りが強いためだとしている。北極ルートなどの高緯度では、これより大きな値になる。
大気モデルEXPACSと10〜15%以内で一致


気球で実測した電磁成分(光子や電子)の被ばく量は、原子力機構が開発したモデルEXPACS/PARMAの予測値と10〜15%以内で一致した。
EXPACS/PARMAは、高度・緯度・太陽活動を入力すると、その場所での宇宙線由来の被ばく量を計算するモデルだ。
今回のように「実測」と「モデル」が近い値になったことは、モデルの信頼性を裏付ける意味を持つ。逆に言うと、実測が難しい地域の値も、モデルからそれなりの精度で推定できるということだ。
ただし、モデルとの一致は電磁成分に限った話だという条件がついている。
飛行高度の被ばくには、モデル上では中性子という別の顔ぶれも大きく貢献しており、その部分は今回の気球観測ではまともに測れなかった。
中性子という「測れなかった」成分


大気に飛び込んだ銀河宇宙線が空気とぶつかると、二次粒子として中性子が大量に生まれる。中性子は電荷を持たないため、電気を頼るガイガー・ミュラー計数管では感度がほとんどない。
チームがEXPACS/PARMAで見積もったところ、飛行高度の総被ばくのうち、中性子が40〜45%を占め、光子や電子・陽電子といった電磁成分は35〜40%だった。
つまり今回の気球観測は、乗客が実際に受ける被ばくの半分未満しか直接測っていない。
測れた電磁成分はモデルとよく合ったが、中性子の分がモデルどおりかは今回の観測では確かめられていない。
中性子まで含めて実測するには、専用の中性子検出器を機体に載せる必要があり、これは今後の観測課題になる。
プロの乗務員と一般の乗客で意味は違う
ICRP(国際放射線防護委員会)は、パイロットや客室乗務員の被ばくを「職業被ばく」として扱っている。
研究者も、乗務員が長時間を上空で過ごすことから、被ばくの積み重ねを監視し続けることが大切だとしている。
一方、年に数回飛行機に乗る程度の一般の乗客にとって、太陽活動による違いが健康にどれだけ影響するかは、今回の研究の範囲ではない。
ただしここは、相関≠因果を丁寧に切り分ける必要がある領域でもある。
過去には乗務員のがん発生率と飛行時間の関連を調べた研究もあるが、飛行機に長く乗る人は生活習慣・時差・睡眠パターン・食事も違うため、宇宙線だけを取り出して原因と決めつけるのは難しい。
今回の論文は「被ばく量そのものが太陽活動でどれだけ変動するか」を測ったものであって、「だから何倍がんが増える」まで語る研究ではない。
これから太陽は「静かなフェーズ」に入っていく
今、太陽は第25太陽活動サイクルを進んでいて、2024〜2025年ごろに極大期を迎えたあと、これから数年かけて活動が落ちていく段階に入る。
つまり今回の論文が示した「静かな太陽ほど被ばくが増える」という関係でいえば、これから数年〜10年ほどは飛行被ばくが少しずつ底上げされていく局面ということになる。
もちろん、40〜60%は電磁成分についての推定で、被ばくの総量がそのまま同じだけ増えるとは限らない。



太陽が静かな時期は太陽の磁場の守りが弱まって、飛行機の高さに降る宇宙線が増えるんだね。北極ルートみたいな高緯度の便だと、その量がもっと大きくなるのか。
参考文献:
一次ソース: Yaniv, Yair, Price, Cosmic Radiation Dose‐Rates for Civil Aviation in the Middle East: Vertical Structure, Solar Modulation, and Comparison With Models(Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 2026)DOI:10.1029/2026JD047316
研究機関: ヘブライ大学 / ライヒマン大学 / テルアビブ大学 / 二次ソース: Phys.org









