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神経の配線は、なめらかな管ではなく「真珠のネックレス」だった マウスの脳で

2026 10/02
人体・医学
2026年9月19日2026年10月2日
真珠のように連なる神経の軸索のCGイラスト
🕑この記事は約9分で読めます

編集・パクト

教科書に描かれる神経細胞の絵を思い浮かべてほしい。細胞から伸びる軸索は、たいてい「なめらかで細い管」として描かれている。

ところがマウスの脳の無髄軸索では、実際の姿は小さな膨らみが糸で連なったような「真珠のネックレス」形だった。

米ジョンズ・ホプキンス大学医学部の渡邉茂樹(Shigeki Watanabe)准教授らのチームが、2024年12月2日に学術誌『Nature Neuroscience』(28巻1号49〜61ページ、DOI:10.1038/s41593-024-01813-1)にオンラインで発表した。

渡邉准教授は「これらの結果は、軸索構造についての1世紀にわたる理解に異議を唱えるものだ」と述べている。

キク

教科書の軸索の絵って、これまでどんな形で描かれてきたんだろう?

目次

100年間の教科書は何を描いてきたのか

オレンジ色に光る神経細胞のCGイラスト

神経細胞(ニューロン)から長く伸びるケーブル状の突起を「軸索(じくさく)」と呼ぶ。

軸索は電気信号を他の細胞に届ける役割を持ち、私たちが物を覚えたり、体を動かしたり、痛みを感じたりできるのは、この配線が正しく信号を運んでくれるおかげだ。

これまでの教科書では、軸索はほぼ一様な太さの細い管として描かれてきた。ところどころに膨らみ(シナプス結合部で神経伝達物質を蓄える場所)があるものの、基本形はまっすぐな筒だ。

もちろん例外は知られていた。パーキンソン病など神経が壊れかけているときや、細胞が死にゆく過程では、軸索が数珠状に膨らむ現象が観察される。

ただしこれは異常状態のサインで、正常な軸索とは切り離して扱われてきた。今回問題になったのは、健康な軸索そのものにも規則的で細かい膨らみが並んでいたことだ。

しかも、病的な数珠よりずっと小さく、間隔もそろっている。

研究チームはこの微小な膨らみを「非シナプス性膨大部(non-synaptic varicosities)」と呼んだ。

神経同士をつなぐ接続点ではないのに、真珠のように数珠繋ぎで並んでいる。「非シナプス性」というのがポイントで、これまで軸索の絵で描かれてきた膨らみとは別物である。

膨らみの直径は約200ナノメートル、その間をつなぐ細い部分は約60ナノメートルしかない。

形を決めていたのは骨組みではなく膜

研究チームが最初に疑ったのは、軸索の内側にある「骨組み」だった。

2012年、ハーバード大学のチームが、軸索の内部にアクチンとスペクトリンというタンパク質の骨格が一定の間隔で並んでいると報告していた。

この骨組みが真珠の間隔を決めているなら、骨組みを乱せば真珠は消えるはずだ。

第一著者のジャクリーン・グリズウォルド氏らは、スペクトリンを作る遺伝子の働きを弱めて骨組みを乱した。軸索は少し細くなったが、真珠は消えなかった。

そこで研究チームは、軸索を包む膜そのものの物理的な性質に目を向けた。理論生物物理学者のパドミニ・ランガマニ教授(カリフォルニア大学サンディエゴ校)が加わり、膜の力学モデルを作った。

キク

軸索の内側の骨組みを乱しても真珠みたいな小さな膨らみは消えなかったから、次は軸索を包む膜そのものに目を向けたんだね。

凍らせて見えた「真珠」の正体

光学顕微鏡の対物レンズ

従来の電子顕微鏡の観察では、化学薬品で組織を固定し、水分を抜いてから撮影する。この過程で、細くて柔らかな構造は形が変わってしまう恐れがあった。

そこで研究チームは、高圧凍結電子顕微鏡法を使った。組織を一瞬で凍らせて、生きているときの形をそのまま保存する方法だ。

渡邉准教授は「標準的な電子顕微鏡でナノスケールの構造を見るには、組織を固定して脱水するが、凍結すれば形が保たれる。ブドウを乾燥させてレーズンにするのではなく、凍らせるようなものだ」と説明している。

調べたのは、マウスの脳の切片を培養したもの、成体マウスから取り出したばかりの脳組織、胎仔の脳から取り出して培養した神経細胞だ。

いずれの標本でも、軸索に同じ真珠状の連なりが見つかった。生きたままの神経を高解像度の光学顕微鏡(STED顕微鏡)で観察しても、同じ並びが確認された。

凍結の副作用で生じた見せかけではないという裏付けだ。対象になったのは、ミエリン(絶縁のさや)を持たない無髄軸索だ。

軸索の真珠の部分とつなぎ目の太さを比べた図

電気を流すと真珠が膨らむ

研究チームのモデルは、膜の張力や曲がりにくさだけで、観察された真珠の形の主な特徴を再現した。硬い内部の骨組みがなくても、膜の性質から真珠形が生まれるということだ。

実際に、周りの液の浸透圧を生理的に近い範囲(280〜400 mOsm)で変えると、浸透圧を上げたときは膨らみの長さが5%縮み、下げたときは幅が7%、長さが11%大きくなった。

もう一つの決め手はコレステロールだった。膜からコレステロールを取り除くと、膜は曲がりやすくなり、膨らみは小さくなった。

脳の切片では、コレステロールを抜く薬剤の処理で信号の伝わる速さが約28%落ちた。

従来は、電気信号(活動電位)は軸索の中を一定の速さで伝わると考えられてきた。この考えは、1940〜50年代にホジキンとハクスリーがイカの巨大軸索で行った研究に由来する。

論文は、軸索の太さが変わると電気の通りやすさが変わり、信号の伝わる速さも変わると説明している。渡邉准教授は「軸索の広い部分ではイオンがより速く通り抜けられ、渋滞を避けられる」と述べている。

さらに、高い頻度の電気刺激を与えると、真珠部分の長さが平均8%、幅が17%大きくなった。刺激の直後には細胞膜のコレステロールがおよそ45%減り、その状態は30分以上続いた。

脳の切片で測ると、刺激のあと信号の伝わる速さが落ち、その状態は60分以上続いた。前もってコレステロールを抜いておいた軸索では、刺激のあとも速さは変わらなかった。

この結果から、軸索の形と信号の速さは活動に応じて変わる可能性が高い。論文は、膜の力学の調節が無髄軸索の可塑性(形や働きが変わる性質)の土台になっていると考えている。

キク

マウスの軸索で見つかった真珠みたいな膨らみの連なり、人間の脳の軸索にもあるのかな?

マウスから人間の脳へ、皮質でも真珠状の軸索を観察

ここまでの結果は主にマウスの神経で得られたものだ。「人間の脳でも本当にそうなのか」は、当然残された問いだった。

同じチームの別の研究が、その手がかりを示している。

チェルシー・エディングス氏らは、てんかんの手術で取り出された6人(20〜40歳)の大脳皮質の組織を使い、電気刺激の直後に急速に凍らせて観察した。

主な目的は、神経の末端が信号を出したあと膜を素早く回収する「超高速エンドサイトーシス」が、人の脳でも起きるかを確かめることだった。

その画像のなかで、人の皮質の軸索にも真珠状の形が写っていた。

論文は2025年11月24日にオンライン公開され、『Neuron』誌114巻3号(2026年2月4日号)408〜421ページに載った(DOI:10.1016/j.neuron.2025.10.030)。

ただし、人の脳のすべての軸索が真珠形をしているか、真珠が同じように信号の速さを調節しているかは、まだ分かっていない。

調べられたのは無髄軸索で、脳の太い軸索の多くはミエリンに覆われている。

病気の研究とのつながり

パーキンソン病などの脳では、軸索が大きく数珠状に膨らむ変化が以前から観察されてきた。ただし、それが病気の原因なのかは示されていない。

渡邉准教授は、アルツハイマー病ではコレステロールの調節の異常が知られており、今回の研究では膜のコレステロールの出入りが真珠の大きさを変えたことから、この仕組みが壊れると軸索の死につながるかもしれないと話している。

正常な小さな真珠と病的な大きな膨らみを見分けられるようになれば、神経の病気の初期の変化を捉える手がかりになる可能性がある。

軸索の太さや形を化学的に制御する道筋の探索も、別のチームで並行して進んでいる。

エディンバラ大学のグループは2026年7月17日付『PLOS Biology』誌で、生きたゼブラフィッシュを自動撮影しながら880種類の化合物を試し、33種類を最初の候補として選んだ。

特定の化学シグナルの経路に働く化合物が軸索を太くできることも確かめた。真珠形を調べた研究とは別の研究である。

参考文献:
一次ソース: Griswold JM et al., Membrane mechanics dictate axonal pearls-on-a-string morphology and function(Nature Neuroscience, 2024, 28巻1号49-61)DOI:10.1038/s41593-024-01813-1
関連論文: Eddings CR et al., Ultrastructural membrane dynamics of mouse and human cortical synapses(Neuron, 2026, 114巻3号408-421)DOI:10.1016/j.neuron.2025.10.030
関連論文: Eichel-Vogel MA et al., A high-resolution phenotypic screen identifies regulators of CNS axon diameter in zebrafish(PLOS Biology, 2026)DOI:10.1371/journal.pbio.3003895
論文全文: PubMed Central(Griswold et al.) / 発表: Marine Biological Laboratoryの発表(ScienceDaily)
研究機関: ジョンズ・ホプキンス大学医学部、カリフォルニア大学サンディエゴ校 / 二次ソース: ScienceDaily

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科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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