ヒトは話し言葉を聞くとき、音の大きい母音よりも子音の並びを手がかりに単語を切り出している。これまでの研究では、サルなどヒト以外の霊長類にはこの「子音バイアス」が見られないとされてきた。
2026年9月24日付の『Science』誌に、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)の研究チームが、毎日ヒトの話し声を聞いている家庭犬の脳にも同じ偏りがあると報告した。
犬もヒトも、音の流れから単語を切り出すとき、子音の並びに脳がよく反応していた。母音のほうが音としては大きいのに、手がかりになっていたのは子音のほうだった。
Scienceに載った、犬20頭・ヒト20人の脳波実験
論文の正式タイトルは「Neural evidence that dogs segment the speech they hear with a humanlike consonant bias(犬はヒトと同じ子音バイアスで聞いた音声を切り分ける神経学的証拠)」。
Boglárka MorvaiとKinga G. Tóthの2人が同等の貢献をした筆頭著者で、計7名の共著だ。
責任著者は同大学動物行動学科の「コミュニケーション神経行動学ラボ」を率いるAttila Andics博士。共著者の1人は、ノルウェーのオスロ大学心理学科にも所属している。
掲載はScience誌 第393巻 第6818号、1354〜1358ページ。
Andics研究室は2016年にも同じScience誌で、犬が単語の中身と声の抑揚を脳の別々の場所で処理していると報告している。
2021年には、犬が音節のつながり方を手がかりに、連続した音の流れから単語を切り出せることも示していた。今回は、その切り出しに子音と母音のどちらを使っているかを調べた。
被験者はヒトの成人20人と、成犬の家庭犬20頭。どちらも頭皮に電極を付けるEEG(脳波計)で、音を聞いているあいだの脳の電気的な活動を記録した。
三つの音声ストリームで脳を試した
研究チームが用意したのは、3音節の無意味語を切れ目なく並べた連続音声だ。単語の終わりを示す間(ま)や手がかりは入っていない。
新しい単語は0.75秒ごとに始まる。
3種類の条件
条件は以下の3つ。
(1) 子音構造ストリーム: 同じ単語の仲間は子音が共通で、母音だけが変わる(例: beniko と banüko)。
(2) 母音構造ストリーム: 逆に母音が共通で、子音が変わる(例: zobéfü と mobékü)。
(3) ランダム対照: 同じ音節をでたらめな順に並べたもので、見つけるべき単語がない。
どのストリームでも、音のエネルギーは母音のほうが子音より大きかった。音の大きさだけを頼りにするなら、母音で区切るほうが楽なはずだ。
二つの分析軸
録れたEEGは2軸で解析された。1つ目はintertrial coherence(ITC、試行間位相同期)。
単語のリズムに脳波の位相がどれだけ揃うか、いわゆる「脳のリズム同期(entrainment)」の強さを見る指標だ。
2つ目はevent-related potentials(ERP、事象関連電位)。特定の刺激に対して現れる脳波の山と谷を、単語の切れ目に合わせて平均化していく。
子音のリズムだけに、脳がぴたりと同期した
ヒトの脳は、子音構造と母音構造のどちらでも、ランダムな並びより単語のリズムに強く同期した。同期がいちばん強かったのは子音構造のときだ。
一方、犬の脳が単語のリズムに同期したのは、子音構造ストリームのときだけだった。母音構造の単語に対する犬の脳の反応は、ランダムな音節の並びを聞いたときと区別がつかなかった。
音として大きいのは母音のほうなので、音量ではこの偏りを説明できない。著者らは、子音の並びのほうが音の流れを小さなまとまりに区切るのに役立つからだと考えている。

単語の始まりから約0.5秒後の脳波
もう一つの指標のERPも同じ結果を示した。単語の始まりから約0.5秒後の脳波の反応が、犬でもヒトでも、子音構造の単語のときだけ変化していた。
これまでの研究で、この時間帯の反応は、ヒトでも犬でも音声から単語を切り出す処理と結びつけられている。
結果をまとめると次のようになる。
《条件別・脳波の反応まとめ》
子音構造ストリーム: 単語リズムへの同期=ヒト・犬とも強い / 約0.5秒後の反応の変化=ヒト・犬ともあり
母音構造ストリーム: 単語リズムへの同期=ヒトはランダムより強い、犬はランダムと差なし / 約0.5秒後の反応の変化=なし
ランダム対照: 見つけるべき単語がない比較の基準
2つの指標が同じ方向を指したことが、結果の裏付けになっている。
ヒトは一つひとつの音まで、犬は音節まで
ヒトと犬には違いもあった。ストリームでは子音1つと母音1つで1音節ができていて、一つひとつの音は1秒に8回、音節は1秒に4回のペースで流れる。
脳波がどちらのリズムに乗ったかを見ると、ヒトの脳は一つひとつの音のリズムにも同期したが、犬の脳が同期したのは音節のリズムだけだった。
Andics博士は「いちばん驚いたのは、2つの種が追っているらしい最小の音の単位がはっきり違ったことだ」と話している。
著者らは、一つひとつの音を追えることで、ヒトには母音のパターンを学ぶもう一つの道があるのかもしれないと考えている。
犬の脳は音節しか追っていなかったため、母音構造の単語を見逃したのかもしれない。
生後12週を過ぎて家に来た犬でも同じだった
子犬は生後12〜14週ごろまでが、社会的な経験に特に敏感な時期とされる。ところが家庭犬の中には、この時期を保護施設や路上で過ごす犬もいる。
今回の20頭のうち9頭は、生後12週を過ぎてから家庭に迎えられた可能性が高い犬だった。
この9頭の子音バイアスは、ほかの犬と変わらなかった。子犬のうちからずっと話しかけられて育った犬だけに現れるもの、というわけではなさそうだ。
Andics博士は「母音のほうが大きく目立つが、単語の骨格を作るのはたいてい子音のほうだ」と説明する。
筆頭著者のMorvai氏は、実験の考え方を「子音を好む傾向が育つのにヒト特有の言語能力が必要なら、ほかの種にはそうした好みは現れないはずだ」と説明している。
もう1人の筆頭著者のTóth氏は「子音構造の音声では、犬の脳もヒトの脳と同じように単語のリズムに同期した」と述べている。
Andics博士は、生後12週以降に家に来た犬の結果について「子音バイアスには、発達初期の決まった時期に現れる、あらかじめ組み込まれた言語処理の仕組みは必要ないという、さらなる証拠だ」と話し、一生を通じて働く比較的単純なパターン学習でも生じうるとしている。
単語を区切れることと意味がわかることは別
この研究が示したのは、脳波のレベルで単語の切れ目をとらえているということだ。犬が単語の「意味」を理解していることを示したわけではない。
限界もある。生後12週以降に家に来た犬のグループは9頭と少なく、家に来る前にどう暮らしていたかの記録も不完全だった。
家畜化の過程でこの偏りが備わったのか、それとももっと古い能力なのかもわかっていない。
Andics博士は、オオカミなど犬以外のイヌ科の動物や、ヒトの声の中で暮らすほかの動物と比べる実験が、いちばんはっきりした確かめ方になるとしている。

「うちの子」への話しかけ方は変わるのか
では、話しかけ方を変えたほうがいいのか。
Andics博士は、子音で区別できる言葉を選ぶといった工夫はできなくはないが、犬に聞き分けてほしい言葉が長い話の途中に出てくることはまれなので、効果はほとんどないだろうと話している。
博士はこうも述べている。
「子音バイアスがあるからといって、犬が子音の多い言葉によく注意を向けたり、よく理解したりするわけではない。いちばんいいのは、いつも通り犬に話しかけ続けることだ。犬の脳はすでにそれに合わせてできている」。
別の研究者が犬に自分の名前を聞かせた実験では、子音を好む傾向は見られなかった。
研究チームは、知らない単語を音の流れから見つけるときにはこの偏りが使われ、すでに知っている単語を聞き分けるときには必要ないのだろうと考えている。
話し方を変えなくても大丈夫だよ。研究した博士も、いつも通り話しかけるのがいちばんだって言ってるんだ
コロの脳の中でも、私の話から単語が切り出されてるってこと? いつも通りたくさん話しかけよう
参考文献:
一次ソース: Morvai B., Tóth K.G., Boros M., Rácz D.S., Iotchev I., Szabó K., Andics A., Neural evidence that dogs segment the speech they hear with a humanlike consonant bias(Science, 2026, Vol.393 Issue 6818, pp.1354-1358)DOI:10.1126/science.adw7709
PubMed: PMID 42784672
研究機関: エトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)動物行動学科 コミュニケーション神経行動学ラボ(ハンガリー)
解説記事: Phys.org / Earth.com(AOL転載)










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