夜空を見上げると、月が静かにうかんでいます。ボールを手からはなすと、すぐに下へ落ちますね。月も地球に引っぱられているはずなのに、どうして落ちてこないのでしょうか。
先に答えを言います。月はいつも地球に向かって落ちています。でも横に速く動いているので、地球のまわりを回り続けるのです。
このしくみは、アメリカの大学の天文学の授業ページや、NASAの子ども向けの解説で説明されています。ニュートンが考えた大砲の話も使って、順番に見ていきましょう。
月は、横に動きながら落ちている
「月が落ちている」と聞くと、びっくりするかもしれません。でも、ここでいう「落ちる」は、地面にぶつかることではありません。
ものは、何もしなければまっすぐ進もうとします。この性質を慣性といいます。月も、地球に引っぱられていなければ、まっすぐ遠くへ進んでいくはずです。
ところが、月をつかまえているのが地球の重力です。そのため月の進む道は、まっすぐな線から少しずつ地球のほうへずれていきます。この「まっすぐな道からのずれ」が、月が落ちているということなのです。
そのうえ月は、横にとても速く動いています。月の平均の速さは、秒速約1キロです。時速になおすと、約3700キロになります。
落ちながらも、横へどんどん進んでいきます。だから月は地面にぶつからず、地球のまわりを回り続けます。地球をひと回りするのにかかるのは、約27.3日です。
月までのきょりは、平均で約38万キロあります。このきょりは一年の中で変わり、およそ35万7000キロから40万7000キロのあいだです。
ニュートンがなやんだ、ふたつのなぞ
ニュートンも、月の動きについてふたつの疑問を持っていました。
ひとつ目は、こうです。どんなものも地球へ引っぱられるのに、なぜ月は空から落ちてこないのか。
ふたつ目は、その反対の疑問です。ものは力を受けなければ、同じ速さでまっすぐ進むはずです。それなのに、なぜ月はまっすぐ進まず、円をえがいて回るのか。
ニュートンは、このふたつの疑問が、おたがいの答えになっていると気づきました。月が落ちてこないのは、まっすぐ進もうとする慣性と、回る動きがあるからです。月が飛んでいかないのは、地球のほうへ引っぱられているからです。
ニュートンがこれを解き明かすまでには、20年以上かかりました。答えを聞くとかんたんそうですが、たどり着くのは大変だったのです。
山の上の大砲で考えてみる

ニュートンは、頭の中だけで行う実験を考えました。高い山のてっぺんに大砲を置いて、地面と水平に弾をうつのです。空気のじゃまなどは考えない、頭の中だけの実験です。
同じ時間のあいだに弾が下へ落ちるきょりは、いつも同じです。重力の引っぱり方が、いつも同じだからです。いっぽう、横へ進むきょりは、弾の速さで決まります。
ゆっくりうった弾は、山のふもとの近くに落ちます。速くうつほど、遠くまで飛んでから落ちます。速さを変えれば、弾の道すじを変えられるわけです。
では、もっと速くうったらどうなるでしょうか。地球は丸いので、遠くへ行くほど地面は下へ曲がっていきます。ちょうどよい速さを選ぶと、弾の落ち方と地面の曲がり方が、ぴったり同じになります。
すると弾は、地面からの高さがいつまでも変わりません。地球へ引っぱられ続けているのに、少しも地球に近づかないのです。こうして弾は、地球のまわりを回り始めます。
このとき、まっすぐ進もうとする弾の慣性と、地球の中心へ引く重力がつり合っています。大砲の弾と月は、同じしくみで動いているわけです。
向きが変わるのも「加速」
回っている弾の速さは変わりません。でも、進む向きはずっと変わり続けています。速さが同じでも、向きが変わるのは「加速」のひとつです。
同じ速さの車で、角を曲がるときを思いうかべてください。あのとき体に感じるのが、この種類の加速です。
ひもをつけたボールを、ぐるぐる回すときも同じです。ボールはまっすぐ飛んでいこうとしますが、ひもが引っぱるので円をえがきます。月では、このひもの役目を地球の重力がしているのです。
宇宙ステーションの中で人がうくわけ
大砲の話は、頭の中の実験でした。でも、本当に同じことが起きている場所があります。地球のまわりを回る国際宇宙ステーションです。
NASAの解説によると、宇宙ステーションも地球の重力に引っぱられています。そのため、いつも地面に向かって落ち続けています。
そのうえ宇宙ステーションは、時速17,500マイルで動いています。キロになおすと、時速約2万8000キロです。
この速さは、地球の表面の曲がり方にちょうど合っています。だから落ち続けても、地面にはぶつかりません。野球のボールを投げても、すぐに地面へ落ちてしまいますね。速さがまるでちがうのです。
宇宙ステーションの高さでも、地球の重力は地上の約90%あります。重力がなくなったわけではありません。それなのに、中の宇宙飛行士がういて見えるのはなぜでしょうか。
宇宙ステーションも乗っている人も、みんないっしょに落ちているからです。空気のない所では、重さに関係なく、どんな物も同じように落ちます。いっしょに落ちているので、中から見ると人や物がういているように見えるのです。
NASAの解説は、月が地球を回り続けるのも同じ理由だとしています。月も、地球のまわりを落ち続けているのです。
月が1秒に落ちるのは、約1.4ミリ
では、月はどれくらいの速さで落ちているのでしょうか。天文学の講義ノートには、その数字がのっています。
月が1秒間に、まっすぐな道から地球のほうへずれるきょりは、約1.4ミリです。地上でリンゴを落とすと、1秒間に4.9メートル落ちます。月の落ち方は、とてもゆっくりなのです。
リンゴの落ちる長さは、月の3600倍です。どうして、こんなに差があるのでしょうか。
カギは、地球の中心からのきょりです。リンゴは、地面のすぐ近くにあります。月は、地球の中心から地球の半径の約60倍もはなれています。
重力は、はなれるほど弱くなります。しかも、弱まり方には決まりがあります。きょりが2倍になると、引っぱる力は4分の1になるのです。この決まりを逆2乗の法則といいます。
月は60倍遠いので、力は60×60で3600分の1になります。リンゴと月の落ちる長さの差、3600倍とぴったり合います。ニュートンは、地上の物を落とす力と月を回らせる力は同じだと考えました。
月は1秒に、約1キロも横へ進みます。そのあいだに、約1.4ミリだけ地球のほうへ曲がります。これをくり返して、地球のまわりを回っているわけです。
1969年に置かれた反射板と、遠ざかる月
月は地球に落ちてこないどころか、少しずつ遠ざかっています。これは、月までのきょりを測る別の研究から分かってきたことです。
1969年、アポロ11号の宇宙飛行士が、月に反射板を置きました。この反射板は、来た方向へそのまま光を返すしくみになっています。
地球から反射板にレーザーの光を当てて、光が行って帰ってくるまでの時間を測ります。すると、地球と月のきょりが約3センチの正確さで分かるのです。
ただ、ねらいを定めるのは大変です。月の表面にとどくころには、光ははば約6キロにも広がっています。条件がよい日でも、もどってくる光のつぶは数秒に1個だけです。
1994年に報告されたまとめでは、この測定から分かったことが紹介されています。月は1年に約3.8センチずつ、地球から遠ざかっていました。地球の海の潮の満ち引きが、月の道すじにえいきょうしていることも分かりました。
NASAの月のデータ表でも、地球から遠ざかる速さは1年に3.8センチです。
月って、ずっと落ち続けてるのに、横に速く動いてるからぶつからないんだね
そうなんだ。宇宙ステーションの中で人がういて見えるのも、いっしょに落ち続けているからなんだよ
個人的には、「落ちない」を「落ち続けている」と見直すところが、この話のいちばんの面白さだと思います。大砲の弾も宇宙ステーションも月も、そのひとつの見方でつながるからです。
参考文献:
主な資料: Bucknell University(バックネル大学)物理学・天文学科 Astronomy 101 Specials, Newton’s Cannonball and the Speed of Orbiting Objects
主な資料: NASA, What Is Microgravity? (Grades 5-8)
基礎知識: David Weinberg(オハイオ州立大学)Astronomy 161 講義ノート, Universal Gravity, Part I
基礎知識: University of Cincinnati(シンシナティ大学)天文学の講義ノート, Gravity and the Inverse Square Law
基礎知識: NASA Goddard Space Flight Center NSSDCA, Moon Fact Sheet
別の研究: LPI Bulletin No. 72(1994年8月), Apollo Laser Ranging Experiments Yield Results
アイキャッチ画像: Photo: NASA / Unsplash










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