映画やマンガには、ボタンひとつで過去や未来へ行けるタイムマシンがよく出てきます。では、本物のタイムマシンは作れるのでしょうか。
先に答えを言います。時計の進み方がずれることは本当に起きていますが、過去へ戻るタイムマシンは作れるか分かっていないのです。
手がかりになるのは、相対性理論という物理学の理論です。分かっていること、まだ考えの段階のこと、SFの想像を分けながら見ていきます。
映画のタイムマシンと、物理学のタイムマシン
時間旅行(タイムトラベル)は、ずっとSFの定番の題材でした。お手本になったのは、H・G・ウェルズの小説『タイム・マシン』です。
SFのタイムマシンは、だいたいこんなふうに動きます。乗った人がシートベルトをしめて、行きたい日付を合わせます。レバーを引くと、時間が巻きもどったり早送りされたりして、その日に着くのです。
ところが、物理学の論文で話題になるタイムマシンは、まったく別の種類です。物理学者がタイムトラベルを本気で考え始めたのは、一般相対性理論の登場からです。
そのちがいを知るために、まずは時間そのものの性質から見ていきます。
動いている時計は、ゆっくり進む
相対性理論では、「いま」という瞬間の決め方が、見る人の動き方で変わります。物理学では、時間を宇宙全体に共通の決まった土台としてあつかうことはできないのです。
そこから出てくる結論の1つが、「動いている時計はおくれる」というものです。
バージニア大学の講義資料に、こんな計算の例があります。宇宙船が、光の速さの0.6倍で飛んでいるとします。光でも6秒かかる距離を進むと、止まっている側の時計では10秒かかります。
そのとき、宇宙船の中の時計は8秒を指しています。止まっている側で10秒たつあいだに、船の中では8秒しか時間が進まないのです。
高い所ほど、時計は速く進む


時間の進み方を変えるものは、速さだけではありません。一般相対性理論によると、重い物に近い時計ほどゆっくり進みます。地球でいえば、地面に近いほどゆっくりで、高い所ほど速く進むことになります。
一般相対性理論は、重力を時空のゆがみとして表します。時間と空間の形は、物がどう置かれているかで変わるのです。
この両方のずれを、ふだんの暮らしで使っている仕組みがあります。カーナビなどに使われるGPSです。
GPS衛星は、地上から約2万kmの高さを、時速約1万4000kmで回っています。そして1機ずつ、原子時計という正確な時計を積んでいます。
衛星は速く動いているので、その分だけ時計は1日に約7マイクロ秒おくれます。1マイクロ秒は、100万分の1秒です。
いっぽう衛星は高い所にあるので、その分だけ時計は1日に45マイクロ秒進みます。両方を合わせると、衛星の時計は地上より1日に約38マイクロ秒速く進みます。45から7を引いた数です。
たった38マイクロ秒と思うかもしれません。でも、これを考えに入れないと、GPSの位置はわずか2分で狂い始めます。そして誤差は、1日に約10kmずつたまっていきます。
そのためGPSは、相対性理論の効果をはじめから組みこんで作られました。時計のずれは、教科書の中だけの話ではありません。
階段やスカイツリーで測った、別の実験
高い所ほど時間が速く進むことは、何十年も前から知られていました。2010年には、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が実験をしました。物理学者たちは、その差を高さ33cmで測ったのです。
階段を2段ほど上に立つだけで、少しだけ速く年をとることになります。とはいえ、その差は人には感じられないほど小さなものです。79年の一生で合わせても、約90ナノ秒ほどです。1ナノ秒は10億分の1秒です。
この実験では、速く動く時計がおくれることも確かめました。そのときの速さは、時速約32kmで走る自動車くらいです。
NISTの発表文は、これを「双子のパラドックス」と結びつけています。双子の片方が、速いロケットで旅をするとします。帰ってきたとき、旅をした方は地球に残った方より若くなっている、という話です。
カギは、旅をする方が行きと帰りで速さを上げたり下げたりすることです。
日本でも2020年に、東京大学や理化学研究所などのグループが実験をしています。時計は、東京スカイツリーの地上階と、地上450mの展望台に置きました。その2台の進み方のちがいを測ったのです。
この実験は、一般相対性理論を確かめるものでした。その正確さは、衛星を使ったこれまでの実験にせまるほどです。18けたの正確さを持つ時計なら、数センチの高さのちがいでも分かるそうです。
過去へ戻る道すじは、式の上にはある
では、過去へ戻ることはできるのでしょうか。ここからは、分からないことがぐっと増えます。
一般相対性理論の式の答えには、輪のようにつながった道すじを持つ時空があります。この道すじを進むと、前にいた場所の同じ時刻に戻ってきます。しかも、光より速く動く必要はありません。
この道すじは「閉じた時間的曲線」といい、英語の頭文字をとってCTCともいいます。
こうした時空は、一般相対性理論の式をきちんと満たしています。その意味では、タイムトラベルは物理の決まりに反していないわけです。
1949年に示された「ゲーデルの時空」では、回転する物質のはたらきでCTCができます。その時空では、どの点にもCTCが通っています。ただ、その道すじを進むには、加速が必要です。必要な燃料は、タイムトラベルしたい人があきらめたくなるほどだそうです。
「ワームホール」で時空の離れた場所をつなぐ答えも、ありうると考えられています。
ただし、こうした時空は風変わりな形です。天文学者がこれまでに見たどんなものともちがいます。そもそも宇宙のどこかにCTCがあるかどうかは、観測ではほとんど分かりません。観測する人にとどく信号は、時空の限られた範囲からしか来ないからです。
CTCを持つ答えの多くは、形がきれいにそろっています。少しくずすと、CTCは消えるかもしれません。理想化しすぎた模型が生んだものという可能性もあるのです。
作れるかどうかは、まだ決着していない
物理学で「タイムマシンを作れるか」というと、こんな問いになります。ふつうの宇宙で物質をうまく動かして、CTCを新しく作り出せるか、という問いです。
物質を操ってCTCを作るタイムマシンは、1988年にキップ・ソーンたちが論文で提案したものです。進んだ文明なら、物質とエネルギーの集まりを操れるかもしれません。そうすれば、本来なかったCTCを作れるかもしれないと考えたのです。その例として考えられたのが、ワームホールを作る方法でした。
ただし、このタイプのタイムマシンにはSFとちがう点があります。タイムマシンを動かし始めるより前の過去には、行けないと考えられているのです。
反対に、1992年にホーキングが示した「時間順序保護」の考え方もあります。タイムマシンは作れないことを示そうとするもので、一般相対性理論の範囲では一番よく議論されています。
ホーキングの1992年の考え方では、ある条件を認めると、このタイプのタイムマシンは動かせません。ただしそれは、閉じていない宇宙の場合です。また、物質によってはその条件が破れる可能性もあり、疑問が出ています。
ホーキングは1992年の論文で、こんな言い方をしています。「時間順序保護局」がCTCを防いでいるようだ、という考え方です。そのおかげで宇宙は歴史家にとって安全だ、とホーキングは書いています。
ホーキングは正しいかもしれません。ただ今のところ、一般相対性理論などの中に保護局があることを裏づける、説得力のある議論はありません。ループ量子重力理論や弦理論に保護局があるかどうかも、まだ分かっていないのです。
部分的な答えは出ています。それでも、作れるかどうかはまだ決着はついていないと考えられています。
祖父のパラドックスはどうなるのか
タイムトラベルの話でよく出るのが「祖父のパラドックス」です。もし過去に戻って祖父を殺してしまったら、自分は生まれなくなります。
物理学の考え方を使うと、矛盾しない答えが見つかることもあります。たとえば、こんな思考実験があります。
もしタイムマシンから、現像したフィルムが出てきたとします。それを白黒フィルムのカメラでとって、現像します。そのフィルムを、さっきの時刻に出てくるように過去へ送るのです。
白黒フィルムのネガは、写したものと明るさが逆になります。それなら、出てきたフィルムと同じものにはならないように思えます。
この想像の実験の答えは、全体が同じ灰色の写真です。灰色を写すと、ちょうど同じ灰色のフィルムができます。だから矛盾しないのです。
過去は今や未来と同じように一度しか起きないので、「変える」ことはできない、という考え方があります。この考え方では、映画や物語のタイムトラベルの多くはつじつまが合いません。
ただ、つじつまが合うことは、タイムトラベルができる証拠にはなりません。一部の物理の考え方で否定できないというだけです。この解説を書いた研究者たちは、さらにこう考えています。本当の証拠になるのは、実際にやってみせることだけだという考え方です。
じゃあ、時計がずれるのは本当だけど、過去に戻れるかはまだわかっていないんだね。
そういうこと。GPSは時計のずれを計算に入れて作られているんだ。過去へのタイムマシンのほうは、まだ式の上の話だよ。
タイムマシンと聞くと、遠い夢の話に思えます。けれど、カーナビが位置を知る仕組みにも、時間のずれがちゃんと入っています。過去へ戻れるかの答えは、重力と量子の理論がもっと進んだ先にあるのかもしれません。


参考文献:
主な資料: Christopher Smeenk, Frank Arntzenius, Tim Maudlin, Time Travel and Modern Physics(Stanford Encyclopedia of Philosophy, 2023年改訂)
主な資料: John Earman, Christian Wüthrich, JB Manchak, Time Machines(Stanford Encyclopedia of Philosophy, 2024年改訂)
主な資料: Michael Fowler(バージニア大学), Galileo and Einstein: Lectures「Time Dilation: A Worked Example」
基礎知識: Richard Pogge(オハイオ州立大学), Real-World Relativity: The GPS Navigation System
別の研究: アメリカ国立標準技術研究所(NIST)発表文(2010年9月23日), NIST Pair of Aluminum Atomic Clocks Reveal Einstein’s Relativity at a Personal Scale(論文: C.W. Chou, D.B. Hume, T. Rosenband, D.J. Wineland, Optical Clocks and Relativity, Science, 2010年)
別の研究: 東京大学・理化学研究所ほか 共同発表(2020年4月7日), 18桁精度の可搬型光格子時計の開発に世界で初めて成功










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