海の水が温かくなりすぎると、サンゴは体の中にすむ藻を追い出して、真っ白になってしまいます。これがサンゴの白化です。白化したサンゴはまだ死んではいませんが、ストレスが大きく、死にやすい状態にあります。
スタンフォード大学のフィオレンツァ・ミケーリ教授は「熱波の後の回復は起きるとしてもとても遅いので、白化したサンゴはしばしば見込みがないと考えられている」と話しています。
ところがアメリカのスタンフォード大学のチームが水槽で試したところ、話は少し違っていました。死にかけた白いサンゴのかけらが、同じ群体からとった健康なかけらに触れているだけで、数週間のうちに色を取り戻したのです。論文は2026年10月14日付で学術誌『Science Advances』に掲載されました。
触れた所でサンゴの組織どうしがつながり、そこから藻が流れ込んで、白化した側の中で速く増えていました。使ったのは長さ1〜1.5cmの小さなかけらで、海のサンゴ礁で同じことが起きるかはまだ分かっていません。
藻を失ったサンゴは飢えていく
サンゴは植物のように海底にくっついていますが、動物です。私たちが「サンゴ」と呼んでいるものの多くは、ポリプと呼ばれる小さな生き物が数百〜数千集まったものです。
多くのサンゴは、体の組織の中に褐虫藻と呼ばれる藻をすまわせています。藻は光合成でつくった栄養をサンゴに渡していて、サンゴの色のもとにもなっています。
これまでの研究では、熱のストレスが収まった後に、白化したサンゴが健康に戻ることもあると分かっています。戻り方として知られていたのは、少しだけ残った藻が増える道と、近くの健康なサンゴが少しずつ吐き出す藻を取り込む道の2つです。どちらも数か月かかるほど遅く、ひどい白化のときに多くのサンゴが死ぬ一因になってきました。海の砂や海水の中にも藻はいますが、その数はサンゴの組織の中より何桁も少ないことも分かっています。
世界規模の白化は、これまでに4回起きています。1998年と2010年、2015〜2016年、そして2023〜2025年です。2080年までには、大規模な白化が毎年のように起きるという予測もあります。
これまでの対策の多くは、白化の前や最中に被害を抑える予防のためのものでした。すでに白化してしまったサンゴを回復させる方法には、あまり目が向けられてこなかったのです。
きっかけは水槽で倒れた2つのかけら
研究のきっかけは、水槽の中のちょっとした出来事でした。2025年、共著者のスティーブ・パルンビ教授が、研究室の水槽で気になる様子を見つけます。同じ群体からとった白化したかけらと健康なかけらが、水槽の中で倒れて触れ合っていたのです。触れた所では、白化した方に色が戻っていました。
筆頭著者は、スタンフォード大学の博士課程の学生ダニー・コリンズさんです。コリンズさんはそのころ、サンゴに積もるプラスチックごみの細菌がサンゴの病気を広げる仕組みを考えていました。
コリンズさんは「有害な細菌は、触れることでサンゴに入り込む」と話します。そのうえで「触れることを使って良いもの、つまり健康なサンゴの藻を戻したらどうなるのか知りたかった」と振り返っています。コリンズさんは「白化したサンゴは死にかけているかもしれないが、まだ死んではいない」とも語っています。
触れたかけらは8週以内に色を取り戻した
実験のやり方
使ったのは、インド洋や太平洋のサンゴ礁で大事なハナヤサイサンゴの仲間(学名 Pocillopora damicornis)です。水槽用の業者から手に入れた群体で、ホプキンス臨海実験所の水槽で3.5年飼われていました。
まず、かけらを白化させます。水温は30分ごとに0.9℃ずつ上げて28.3℃から34.4℃にし、34.5℃で4時間保ってから27.6℃に戻して16時間置きました。この水槽に、藻の色が見えなくなるまで12〜16日置いています。
次に、白化したかけら(長さ1〜1.5cm)を、同じ群体からとった健康なかけらと触れ合わせました。同じ群体のかけらは、遺伝的に同じクローンです。比べるために、白化したかけらを健康なかけらから5〜7mm離して置いた組も作りました。触れる5組と離した5組は、同じ水槽の隣り合う列に並べて同時に飼っています。
かけらは毎週、顕微鏡に取り付けたスマートフォンで撮影しました。スマートフォンを留める器具は、3Dプリンターで作ったものです。
結果
結果は、くっきり分かれました。健康なかけらに触れていた5つは、すべて8週以内に完全に回復しました。藻はまず触れている境目に現れ、そこからかけら全体へ広がっていきました。
回復の目安にしたのは、ポリプひとつひとつの触手です。すべての触手に藻が戻り、一様な濃い茶色の輪に見えたら「回復」と数えました。触れていたかけらは8週でポリプの100%が回復し、1つは4週で全部のポリプが回復しています。
離して置いたかけらは、数週間白いままでした。その後は糸のような紅藻や緑藻、珪藻に覆われ、組織が壊れてポリプが死んでいきました。5つのうち4つでは、実験の最後の3週間に枝の先のポリプが5〜20%戻っただけでした。9週の終わりには2つが藻に完全に覆われて死に、残る3つも87%以上が藻に覆われていました。
触れていたかけらには、実験の終わりに藻の覆いがまったくありませんでした。藻に覆われた所の上に、新しい組織が育ったためです。ポリプの数も最初より増えていて、サンゴがふたたび育ち始めていました。
20週目に見直すと、触れていたかけらではポリプがさらに増え、健康なかけらと似た新しい枝も出ていました。離していたかけらの回復は、9週目よりさらに悪くなっていました。
長さ2〜3cmの大きめのかけらで試しても、似た結果でした。別の遺伝子型のサンゴで、触れる3組と触れない3組を作って繰り返した実験でも、同じように回復が見られています。なお、大学の発表文は「7週以内に完全に回復した」と書いていますが、論文の本文では「8週以内」です。
1週間触れれば、あとは自分の力で
では、ずっと触れている必要はあるのでしょうか。チームは、1日から3週間までの間で触れる長さを変え、そのあと健康なかけらを離して様子を見ました。触れた長さは1日・3日・5日・1週・2週・3週の6通りで、それぞれ2組ずつです。
1週以上触れていたかけらはすべて、7週以内にポリプが完全に回復しました。5日触れたうちの1つも同じでした。1週間触れれば、白化したかけらが自分の力で回復しきるだけの藻が入るということです。1週より短い組でも、3日以上触れたかけらはどれも、離した時点で藻が移り、回復の兆しが見えていました。ただ、5日触れた残りの1つと3日触れた2つは完全には回復せず、最後には藻に覆われました。一方、1日だけ触れた2つには、離した時点で回復の兆しがありませんでした。
離したかけらでは、その後に増えた藻はすべて、白化したかけらの中で分かれて増えたものです。そして1週以上触れてから離したかけらも、ずっと触れていた組と同じくらいの速さで回復しました。このため論文は、回復を進めているのは主に、白化したかけらの中で藻が増えることだと考えています。
藻が2倍になるまでの時間
藻の増え方は、レーザーを使う共焦点顕微鏡で、3日ごとに12日間ポリプを観察して調べました。
実験を始めた日、白化したポリプの藻は1平方mmあたり平均7個でした。健康なポリプは6700個を超えていたので、白化したサンゴは藻の99.9〜100%を失っていたことになります。
12日目には、白化していたポリプの藻が、隣の健康なポリプの平均70.6%に達しました。藻の数が2倍になるのにかかった時間は、最初の6日間で平均18.3時間、続く6日間で平均4.13日です。最初の6日間がとくに速いのは、健康なかけらから藻が運び込まれた分も入っているためです。
これは、ほかの研究で調べられた白化からの回復よりかなり速い値です。これまでの野外の研究では、グレートバリアリーフのミドリイシの仲間で、藻が2倍になるのに3か月かかっていました。サモアのコモンサンゴの仲間では16〜24日で、一部は6〜8日でした。
論文の抄録は、約4日という今回の倍加の時間を、野外のサンゴの多くの回復より最大で10倍(1桁)速いとまとめています。パルンビ教授は、藻が白化したサンゴに入ると「どっと流れ込み、サンゴで見られた中で最も速い速さで分裂し始める」と語っています。
移った藻がなぜこれほど速く増えるのかは、まだ分かっていません。論文は、移った藻が熱のストレスを受けていなかったからかもしれないと考えています。健康なかけらから栄養も一緒に移り、増えるのを助けたかもしれない、ともしています。
遺伝子型が違うサンゴどうしは攻撃し合う
ここまでの実験は、すべて同じ遺伝子型のかけらどうしでした。チームは2つの遺伝子型を、青い光を当てたときの蛍光の色で見分けています。Rの型は赤く、Gの型は緑に光ります。
そこで、白化したGと健康なRの組、白化したRと健康なGの組を3組ずつ作りました。すると数時間のうちに、境目に隔膜糸という糸が出てきました。ポリプから出される糸で、刺胞という毒針が並んでいて、攻撃し合っていることをうかがわせます。
白化したかけらは、どれも回復しませんでした。6つすべてが健康なサンゴに大きく覆われ、9週の時点で4つは完全に覆われていました。遺伝子型の違う健康なかけらどうしを組ませたときも、境目には藻のいない帯ができ、藻のやりとりは起きていませんでした。
パルンビ教授は「遺伝的に同じサンゴは触れると互いを見分けて、同じクローンなら組織がつながる」と話しています。人でも、臓器を提供する人が一卵性の双子なら移植はうまくいくことが多い、とたとえています。
境目にできていた組織の橋

同じ遺伝子型どうしでは、何が起きていたのでしょうか。藻の受け渡しを細かく追うと、境目全体ではなく、触れている所の限られた点から始まっていました。
回復しかけている組を引き離すと、健康なかけらと白化したかけらの同じ位置に、骨格が見えるほどの組織の裂け目が対になってできていました。そこは、藻が最初に広がり始めた場所でした。
1日だけ触れさせて離した組では、裂け目はできませんでした。裂け目は触れたことによる傷ではなく、つながっていた組織がちぎれた跡だと考えられます。かけらどうしは、藻が移る場所で組織の橋によってつながっていたわけです。
触れてから最初の72時間も、12時間ごとに撮影して調べています。触れて数時間のうちに、少しの藻が白化したポリプにたまりました。大量の受け渡しが始まったのは触れてから約36〜60時間後で、組織の橋ができる時期と重なっているとみられます。
藻が移る道は、もう一つありました。触れてすぐ起きる、ポリプが藻を取り込む道です。これは遺伝子型が違う組でも起きましたが、ゆっくりした道で、それだけでは回復に足りませんでした。
藻はその後、かけら全体に行き渡りました。論文は、サンゴの体の中を通る水の通り道(胃水管系)の流れが回復に役立っているとみています。藻がサンゴの細胞に入ったまま運ばれるのか、ばらばらに流れるのかは、まだ分かっていません。
海のサンゴ礁で使えるかは、まだ分からない
似た考えの研究は、ほかのチームも進めています。2025年に学術誌『The ISME Journal』に載った別の研究では、熱に強く育てた藻を出すサンゴのそばに、白化したかけらを55日間置きました。藻が見つかったのは45個中5個だけで、量も0.06%以下のごくわずかでした。
同じグループが2026年に学術誌『Environmental Microbiology Reports』で発表した研究では、別の2種のサンゴで、同じクローンのかけらどうしの組織の融合を調べています。融合は種によって3日後と9日後に見られ、融合した境目では色と光合成の効率が上がりました。熱に強い藻は、融合したかけらの19個中15個で少しだけ見つかりましたが、融合していない対照のかけらでも18個中13個で見つかっています。そのため、組織を通じた受け渡しと水を通じた取り込みを見分ける必要がある、と著者たちは書いています。
今回の研究にも、はっきりした限界があります。かけらはすべて、水槽で3.5年飼われていた群体からとったもので、もとの採集場所や深さは分かっていません。餌の量は、自然のサンゴ礁より多かったとみられます。藻の数は組織の表面から数えたもので、奥のほうまでは十分に捉えていないかもしれません。
今の仕組みは、同じ遺伝子型どうしで触れ合うときに限られます。研究チームも発表文で、白化したサンゴのひとつひとつに遺伝的に同じ健康なサンゴが要るため、サンゴ礁を立て直す規模では実現できないと注意しています。
論文は、ほかの種のサンゴや藻でも同じことが起きるのかを調べ、海の中で確かめることが欠かせないとしています。チームは今後、触れ続けなくても藻を届けられる方法を探る予定です。熱波が来るずっと前に健康なサンゴから藻をとっておき、白化したサンゴにまとめて届ける方法も考えています。
白くなったサンゴのかけらでも、同じ群体の元気なかけらにくっつくと、水槽で色が戻ったんだね!
水槽の小さなかけらで分かったことだよ。海のサンゴ礁でも使えるかは、これから確かめる段階なんだ。
研究のきっかけが、水槽の中で倒れて触れ合ったかけらだったという点も目を引きます。水槽のサンゴを見続けていたからこそ気づけた変化なのかもしれません。
参考文献:
今回の研究: Collins et al., Rapid coral bleaching recovery via symbiont transfer from healthy corals(Science Advances, 2026)DOI:10.1126/sciadv.aeh1580
発表文: Stanford scientists discover a way to reverse coral bleaching at record speed(Stanford Doerr School of Sustainability, 2026年10月14日)
別の研究: Johnston et al., Horizontal transmission of heat-evolved microalgal symbionts in adult corals(The ISME Journal, 2025)DOI:10.1093/ismejo/wraf157
別の研究: Johnston et al., Stronger Together: Isograft Fusion Accelerates Recovery and May Facilitate Heat-Evolved Symbiont Transmission in Bleached Adult Corals(Environmental Microbiology Reports, 2026)DOI:10.1111/1758-2229.70418
基礎知識: NOAA National Ocean Service What is coral bleaching? / Are corals animals or plants?
アイキャッチ画像: Photo: Naja Bertolt Jensen / Unsplash










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