はかせ、スーパーで見る平飼いの卵って、ちょっと高いよね。味もちがうの?
エサを同じにしても、飼い方で卵の味に違いが出たという研究があるんだ。どっちが上、という話じゃないのがおもしろいところだよ。
卵売り場には、ケージで飼われたニワトリの卵と、床の上で放して飼う平飼いの卵が並んでいます。平飼いのように広い場所を与える飼い方は、生産にかかる費用や値段が高くなりがちです。では、値段の差に見合うほど、味も違うのでしょうか。
東京農工大学の新村毅教授らのグループは、同じ部屋で同じエサを与えながら、ケージと平飼いでニワトリを育て比べる実験を、5年のあいだに4回くり返しました。鹿児島大学や京都大学、日本獣医生命科学大学、麻布大学も加わった共同研究です。
食べ比べると、ケージの卵で作ったプリンはクリーミーさが目立ち、平飼いの卵で作った茶碗蒸しは旨味が強く感じられました。成分を調べると、ケージの卵の黄身にはクリーミーさに関わる脂肪酸が多く、平飼いの卵の白身には旨味に関わるアミノ酸が多く含まれていました。論文は2026年8月27日付で、学術誌『npj Science of Food』に掲載されています。
「エサの違い」を取り除いて比べる


飼い方と卵の成分の関係は、これまでの研究でも調べられてきました。けれども外で放し飼いにすると、ニワトリは草や虫も食べます。食べた物の違いが混ざってしまい、飼い方そのものの影響を取り出せていなかったのです。
そこでグループは、ケージと平飼いの両方を、窓のない同じ部屋の中に設けました。室温は23±1℃で、明るい14時間と暗い10時間をくり返します。エサと水は好きなだけ口にでき、エサの中身も両方で同じです。
ケージは幅96cm・奥行き40cm・高さ42cmで、1つのケージに5羽ずつ、合わせて15羽を入れました。1羽あたりの広さは755平方センチです。
平飼いは4.6m×2.5mの囲いで、床に木くずを敷き、巣箱と木の止まり木2本を置きました。ここに12羽を放していて、1羽あたりの広さは0.95平方メートルになります。1羽あたりの広さで比べると、平飼いはケージの12倍あまりです。
4回の実験は、1回あたり平均37週続きました。ニワトリは17週齢になったところで、ケージと平飼いのどちらかにランダムに振り分けています。4回のうち3回は茶色い卵を産む品種「もみじ」、残る1回は白い卵を産む品種「ジュリア・ライト」を使いました。
1日に食べるエサの量と産んだ卵の数には、ケージと平飼いで統計的に意味のある差はありませんでした。よく食べた側やたくさん産んだ側の卵が違って見えた、という話ではないわけです。
平飼いのニワトリはよく動いていた
まず、ニワトリの暮らしぶりがどれほど違ったかを確かめています。数えたのは、頭をかく・羽を逆立てる・尾を振る・翼や脚を伸ばす・羽ばたくといった快適行動です。平飼いのニワトリは、こうした行動のどれもがケージより多く、その差は統計的に意味のあるものでした。
加速度を記録する小さな装置で動きを測ると、平飼いのニワトリは活動量もケージより多くなっていました。行動や体の状態の測定をまとめて分析すると、ケージと平飼いのニワトリははっきり分かれます。この分かれ方は、5年間の4回の実験のどれでも同じように見られました。
なお、1回目と3回目の実験の行動などのデータは、同じグループの前の論文に載ったものと同じです。論文の方法の節に、そう書かれています。
同じグループは、2026年に学術誌『Poultry Science』に載った前の論文で、ケージ・平飼い・放し飼いの3つの飼い方を比べています。この前の論文では、平飼いや放し飼いのニワトリのほうが、ケージよりインスリンが効きやすい傾向が見られました。
プリンと茶碗蒸しで食べ比べる
107人が味わって点をつけた
味の評価には、訓練を受けていない一般の消費者107人が参加しました。内訳は男性が63.5%、女性が36.5%です。
生の卵には特有のにおいがあり、味の評価のじゃまになります。そこで卵は、カスタードプリンと茶碗蒸しの2つの料理にして出しました。使ったのは4℃で1週間未満保存した卵です。材料の割合や加熱時間、出すときの温度は、すべての組でそろえています。
参加した人は、まずにおいをかぎ、そのあと2〜3mLほどを口に含みます。全体の好み・味・におい・食感を、1(とても嫌い)から8(とても好き)の8段階でつけました。
点数は全体として茶碗蒸しよりプリンのほうが高く、なかでも平飼いの卵で作ったプリンが高い点を集めました。
言葉を選ぶと、違いの中身が見えた
評価では、24個の言葉の一覧から当てはまるものをすべて選んでもらう方法も使っています。ケージの卵のプリンは「クリーミー」と結びつきやすく、平飼いの卵の茶碗蒸しは「旨味」「ぷるぷる」「なめらか」が目立ちました。平飼いの卵のプリンは「こくがある」と感じられています。
一方で、ケージの卵の茶碗蒸しは「未熟な感じ」「水っぽい」といった、好まれない言葉と結びついていました。
好みを押し上げた言葉は、旨味・クリーミー・こく・ぷるぷる・なめらかでした。反対に、水っぽい・未熟な感じ・鶏ふんのにおい・硫黄のにおい・しょっぱいは、好みを下げる方向にはたらいています。
訓練した12人は生の黄身を味わった
これとは別に、日本食品分析センターで訓練を受けた12人が、生の黄身を味わって評価しました。どちらの卵かは知らされていません。
ケージの卵はクリーミーさ・苦味・渋みが高めにつけられる傾向があり、平飼いの卵は塩味が高めの傾向でした。旨味には差が出ていません。
黄身にも白身にも、成分の差があった
次に、卵の中身を分子のレベルで調べました。黄身と白身から、合わせて563種類の代謝物が見つかっています。
茶色い卵と白い卵のどちらでも同じ向きの差があったのは、黄身で107種類、白身で49種類でした。黄身ではケージの卵で多いものが64種類、平飼いの卵で多いものが43種類です。白身では逆に平飼いの側が多く、ケージで多いものが14種類、平飼いで多いものが35種類ありました。
分析に使った卵は、飼い方ごとに3個ずつです。茶色い卵は36週齢、白い卵は62週齢のニワトリから集めました。
黄身はクリーミーさと苦味の成分
味に関わる成分にしぼると、ケージの卵の黄身では、オレイン酸やパルミチン酸などクリーミーさに関わる脂肪酸が多くなっていました。苦味に関わる胆汁酸の仲間やヒポキサンチンも、ケージの黄身で多く見られています。
これらの成分は、茶色い卵を産むニワトリの血液でもケージのほうが多くなっていました。血液を調べたのは、飼い方ごとに4羽です。
魚のようなにおいに関わるトリメチルアミンは茶色い卵ではケージの黄身に、白い卵では平飼いの黄身に多く、結果がそろいませんでした。
白身は旨味と甘味のアミノ酸
白身では、旨味に関わるグルタミン酸とアスパラギン酸が、茶色い卵でも白い卵でも平飼いのほうで多くなっていました。甘味に関わるグリシン・アラニン・セリン・トレオニンも、平飼いの卵で多く含まれています。
肝臓では胆汁酸をつくる遺伝子に差
これまでの研究から、黄身の重さの約30〜35%は脂質で、その多くは肝臓でつくられることが分かっています。
そこでグループは、飼い方ごとに5羽の肝臓を取り出し、約2万個の遺伝子がどれだけ働いているかを測りました。探索のためのゆるい基準で比べると、469個の遺伝子に差の候補が見つかります。なかでも差が最も集まっていたのは、胆汁酸をつくる経路でした。
胆汁酸をつくる遺伝子のCYP7A1・CYP8B1・AKR1D1は、平飼いのニワトリの肝臓でよく働いていました。反対に、タウリンに関わる遺伝子のGADL1はケージのニワトリで高くなっています。
体の中の変化は、どう味につながるのか
論文は、ケージで動きが制限されることが脂質に関わる代謝物の多さと、平飼いでよく動くことがアミノ酸の代謝の変化と結びついていた、と書いています。エサの中身を変えずにこうした違いが出たことから、物理的な環境だけで体の中の代謝が変わりうる、というのが論文の見方です。
東京農工大学の発表文は、活動量が制限されることで脂質の代謝が高まると、原因と結果の形で書いています。けれども論文の書き方は「結びついていた」までです。
苦味と、好まれない風味
血液と黄身の胆汁酸の量は対応していました。論文はここから、血液の中の胆汁酸が育ちつつある卵へ移るのではないかとみています。
これまでの研究では、肝臓でつくられた胆汁酸が腸内細菌によって「二次胆汁酸」に変えられ、より強い苦味と結びつくことが分かっています。
論文は、ケージの卵に多い二次胆汁酸やヒポキサンチンが、茶碗蒸しで感じられた「鶏ふんのにおい」「水っぽい」「未熟な感じ」といった特徴に関わっているかもしれない、としています。
苦味そのものは、107人の評価で選べる言葉の一覧に入っていませんでした。苦味が高めという結果は、訓練した12人が生の黄身を評価したときの「傾向」です。
旨味と、加熱
旨味のほうはどうでしょうか。2020年に別のグループが発表した研究では、ゆでた白身のアミノ酸の濃さが、生の白身の4倍を超えていました。
論文はこれをふまえ、平飼いの卵でもともと多いアミノ酸が加熱でさらに増え、茶碗蒸しの旨味につながったのかもしれないと考えています。生の黄身の評価で旨味に差が出なかったのも、加熱していないせいかもしれない、と論文は書いています。
ただし、加熱の途中での変化は今回測っていません。この考えを確かめるには、さらに調べる必要があります。
甘味についても、平飼いの白身で甘味に関わるアミノ酸は一貫して多かったものの、食べた人の評価でははっきり感じ取られていません。
数は少なく、養鶏場とは条件が違う
この研究には、はっきりした限界があります。代謝物を調べた卵は飼い方ごとに3個ずつ、肝臓は5羽ずつと、数が少なめです。試料の数が比較的少ないので、結論を広く当てはめられるかには限りがあるかもしれない、と論文自身も書いています。
飼育の規模も小さく、それぞれのニワトリの行動を観察するために作られたものでした。商業の養鶏場の条件を表したものではなく、論文は養鶏場の規模での大きな調査が必要だとしています。特定の成分だけを増やして本当に味が変わるかを確かめる実験も、これからの課題です。
2022年に別のグループが日本の飼い方ごとの費用を試算した研究があります。この研究では、卵1個の小売価格は従来のケージで24.68円、平飼いで48.53円と見積もられました。平飼いはおよそ2倍という計算です。
今回の研究は、平飼いの卵がケージの卵より「おいしい」と示したわけではありません。論文が示したのは、ケージの卵はクリーミーさを生かす料理に、平飼いの卵は旨味を生かす料理に向くかもしれない、という見方です。
じゃあ、プリンならケージの卵、茶碗蒸しなら平飼いの卵がいいってこと?
向いているかもしれない、という段階だよ。調べた卵の数も少なかったし、ふつうの養鶏場で確かめるのはこれからなんだ。
ニワトリの暮らし方の違いが、卵の値段だけでなく料理との相性にまで表れるのかもしれません。台所で卵を割るとき、そのニワトリがどんな場所で暮らしていたのかを少し想像してみると、卵売り場の見え方も変わってきます。
参考文献:
今回の研究: Shimura, Asagi, Matsunaga et al., Housing environments link egg taste through metabolic alterations in laying hens(npj Science of Food, 2026)DOI:10.1038/s41538-026-01108-8
発表文: 東京農工大学 ニワトリの飼い方によって卵の味が変わることを発見(2026年8月31日)
別の研究: Shimura et al., Multi-tissue transcriptomic profiling reveals the internal physiological landscape of laying hens in cage and cage-free systems(Poultry Science, 2026)DOI:10.1016/j.psj.2026.106650
別の研究: Ogura et al., Effects of feed crops and boiling on chicken egg yolk and white determined by a metabolome analysis(Food Chemistry, 2020)DOI:10.1016/j.foodchem.2020.127077
別の研究: Kato et al., Estimating production costs and retail prices in different poultry housing systems: conventional, enriched cage, aviary, and barn in Japan(Poultry Science, 2022)DOI:10.1016/j.psj.2022.102194
アイキャッチ画像: Photo: Erol Ahmed / Unsplash










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