夜空の星は、何百年経ってもだいたい同じ場所で光っている。だから宇宙は静かで変わらないものに見えるが、宇宙全体は広がり続けていて、遠くの銀河は少しずつ私たちから遠ざかっている。
この広がりが永遠に続くのかどうかは、宇宙定数Λという量の符号で決まる。
論文の整理では、Λが0以上なら宇宙は永遠に膨張し、Λがマイナスなら宇宙の大きさはいつか最大になったあと、ゼロまで縮んで終わる。
この最期をビッグクランチと呼ぶ。
2025年9月、スペインのドノスティア国際物理学センター、アメリカのコーネル大学、中国・上海交通大学の李政道研究所などの研究者3人が、Λがマイナスである可能性が高いとする論文を宇宙論の専門誌JCAPに発表した。
モデルの最良適合値で計算すると、宇宙は約110億年後に最大の大きさに達してから縮み始め、いまから約200億年後に一点に潰れる。
膨張から収縮までを合わせた宇宙の寿命は約333億年になる。ただし、これは1つのモデルの最良適合値にもとづく計算で、観測で確かめられた未来ではない。
キク宇宙の広がり方って、ずっと同じじゃなかったのかな?
『宇宙は永遠に広がり続ける』——そう信じられてきた


宇宙が広がっているのは、NASAによると、約138億年前のビッグバンのあと、しばらくは重力で膨張が遅くなっていたが、誕生から約90億年後に膨張が加速に転じたためだ。
この加速を起こしている未知のものが、ダークエネルギーと名づけられている。
ダークエネルギーが宇宙定数Λだけでできているなら、これまでの観測はΛがプラスであることを示し、宇宙は永遠に膨張を続けることになる。
今回の論文は、Λがマイナスの場合を調べた。このとき宇宙の大きさ(スケール因子)は最大になったあと縮み、ゼロになって終わる。
論文はこの時点を宇宙の終わりと定義している。
論文の題は『The Lifespan of our Universe(私たちの宇宙の寿命)』。
著者は、ドノスティア国際物理学センターのフアン・ニャン・ルー氏、上海交通大学 李政道研究所のユーチェン・チウ氏、コーネル大学と香港科技大学のS・H・ヘンリー・タイ氏の3人だ。
最良適合値から求めた宇宙の寿命は約333億年で、現在の宇宙の年齢は約138億年である。
100年前に見つかった膨張、1998年に見つかった『加速』
宇宙が広がっていることを観測で確かめたのは、1929年のエドウィン・ハッブルだ。
NASAによると、ハッブルは助手のミルトン・ヒューメイソンが測った銀河の赤方偏移と、ケフェイド変光星で求めた距離を比べ、遠い銀河ほど速く遠ざかっていることを示した。
それまでは、重力によって膨張はしだいに遅くなると考えられていた。
ところが1998年、2つの研究チームが、遠い超新星が予想より暗く、つまり予想より遠くにあることに気づき、宇宙の膨張が時間とともに速くなっていると結論づけた。
この発見により、ソール・パールムッター、ブライアン・シュミット、アダム・リースの3氏は2011年のノーベル物理学賞を受けた。
宇宙の約7割を占める『ダークエネルギー』
ダークエネルギーの正体は分かっていない。NASAは、宇宙の約68.3〜70%がダークエネルギーだとしている。
有力な候補の1つが、アインシュタインの方程式に出てくる宇宙定数だ。NASAの解説では、宇宙定数は空間にいつもある真空のエネルギーに当たる可能性がある。
アインシュタインは宇宙が静止していると考えて宇宙定数を入れ、宇宙の膨張が確かめられてからこれを取り下げた。
論文のモデルでは、ダークエネルギーは宇宙定数Λと、アクシオンという非常に軽い粒子の場の合計になる。Λがプラスなら宇宙は永遠に膨張し、マイナスならいつか縮んで終わる。
宇宙の終わり方は宇宙定数の符号で決まる


論文は、最も単純で可能性の高い筋書きを2つ挙げている。どちらも宇宙定数Λの値で決まる。
Λが0以上なら、宇宙は今の膨張を永遠に続け、寿命は無限になる。Λがマイナスなら、宇宙の大きさは最大になったあとゼロまで縮み、ビッグクランチで終わる。
異変——ダークエネルギーが『弱まっている』かもしれない
論文のきっかけは、DES(ダーク・エネルギー・サーベイ)とDESI(ダーク・エネルギー分光装置)の観測結果だ。
論文によると、2つを合わせると、ダークエネルギーの状態方程式のwが-1ではないことが4.2σの水準で示される。
wが-1なら宇宙定数のとおりに一定、-1でなければダークエネルギーは時間とともに変わっていることになる。
DESIは、銀河の分布から宇宙の膨張の歴史をたどる観測だ。
2025年に公開されたDR2は、3年分のデータにもとづき、1400万個を超える銀河とクエーサーを使ってバリオン音響振動(BAO)を測った。
この論文のモデルでは、現在のwは約-0.74になる。-1より大きいことは、ダークエネルギーが昔より弱まっている方向に当たる。
ただしDESI自身も、未知の系統誤差がなければΛCDMモデルが挑戦を受けている、という慎重な書き方をしている。
新説の核心——宇宙定数はマイナスかもしれない
論文が使うのは、アクシオン・ダークエネルギー(aDE)モデルだ。
非常に軽いアクシオン粒子の場と宇宙定数Λを組み合わせたモデルで、DESやDESIが示す「wが-1ではない」という結果を説明できる。
アクシオンの場は、宇宙の膨張が速いうちは凍りついたように動かず、ダークエネルギーとして働く。膨張が遅くなると転がり始め、持っていたエネルギーを物質のエネルギーに移していく。
観測データに合わせてモデルのパラメータを探すと、Λがマイナスのほうがはるかにあり得ると分かった。
最良適合値では、ダークエネルギー全体のうちΛの分が-1.61、アクシオンの分が2.33(合計0.72)で、アクシオンの質量は約2.93×10の-33乗電子ボルトになる。
マイナスのΛは宇宙を縮める向きに働く。アクシオンのエネルギーが時間とともに物質へ移って減っていくと、宇宙の膨張率(ハッブルパラメータ)がゼロになる時点が来て、それ以降は収縮に転じる。
約200億年後に一点へ、計算上の宇宙の寿命は333億年
最良適合値で数値計算すると、宇宙の大きさは現在の約1.69倍で最大になる。それは、いまから約110億年後だ。
その後は縮みに転じる。計算は、宇宙の大きさが現在の1000分の1になった時点で打ち切られ、そこまでを合わせた宇宙の寿命は約333億年(33.3 Gyr)になる。
現在の年齢が約138億年なので、いまから約200億年後に終わる計算だ。
収縮の段階が寿命全体に占めるのは約25%で、膨張の段階のほうがずっと長い。
NASAによると、太陽は約50億年ほど先に赤色巨星にふくらみ、水星と金星をのみ込み、地球ものみ込む可能性がある。
これは、計算上の宇宙の終わりよりはるか前の話だ。


でも、まだ『かもしれない』の段階
この計算は、宇宙の運命が決まったという話ではない。論文は、寿命の見積もりが、低い赤方偏移(近い時代)でw>-1という最近の観測と、aDEモデルが正しいことに左右されると強調している。
観測の側の証拠も決定的ではない。DESIの発表によると、時間とともに変わるダークエネルギーがΛCDMより好まれる度合いは、使う超新星のデータによって2.8〜4.2σと幅がある。
モデルのパラメータにも大きな不定性がある。最良適合値のΛの分(-1.61)は、平均値(-0.69)の1σの範囲から外れている。
平均値を使って計算すると、寿命は約403億年(40.3 Gyr)に延びる。また、ハッブル定数に局所測定に近い値を使うと、寿命は約10億年短くなる。
論文自身も、Λがちょうど0の場合がDESIのデータと矛盾しないことを認めている。
それでも、この論文は、永遠の膨張のほかに、Λがマイナスという選択肢が現在のデータと両立しうることを数字で示した。
DESやDESIの結果が確かめられ、モデルが検証されれば、パラメータと寿命はもっと正確に決まる、と論文は述べている。



宇宙が縮んで終わる筋書きも、ありうるってことか。でも333億年は1つのモデルの計算で、まだ確かめられた未来じゃないんだね。
参考文献:
一次ソース: Hoang Nhan Luu, Yu-Cheng Qiu, S.-H. Henry Tye, 『The Lifespan of our Universe』, Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (JCAP), Vol.2025, No.09, 055 (2025年9月18日) DOI:10.1088/1475-7516/2025/09/055(プレプリント: arXiv:2506.24011)
arXiv:2506.24011(論文全文)
DESI DR2 Results II(DESI Collaboration, 2025)
What Is Dark Energy?(NASA)
研究機関: ドノスティア国際物理学センター、コーネル大学、上海交通大学 李政道研究所、香港科技大学
観測データ: DESI(暗黒エネルギー分光装置, DR2)、DES(ダーク・エネルギー・サーベイ)
参考: 加速膨張の発見は1998年(2011年ノーベル物理学賞: S. パールムッター、B. シュミット、A. リース)









