10代は体内時計が後ろにずれ、夜はなかなか眠くならない。それなのに学校は朝早くに始まり、平日の睡眠が足りなくなりやすい。
では、始業時刻を遅らせるとどうなるのか。スイスの中等学校では、始業時刻を選べるようにしたところ、学校のある日の睡眠が平均45分増えた。
この記事では、スイスの調査と、先行するアメリカの研究や州の法律を、原文と照らして整理する。
スイスの中等学校で起きたこと
「選ばせたら」95%が遅い方を選んだ
舞台は、スイス北東部ザンクト・ガレン州ゴッサウの中等学校2校だ。
もともとは全員が朝7時20分始業だった。新しい制度では、朝の任意のモジュール授業に出て7時30分から始めるか、正式に授業が始まる8時30分から始めるかを、生徒が選べるようになった。
チューリッヒ大学と同大学附属小児病院のチームが、導入の前(2022年春)と後(2023年春)に生徒へアンケートを行い、比べた。
回答者の年齢の中央値は14歳で、前後あわせて754件の回答が集まった。強制的に遅らせるのではなく選ばせる点が、この制度の特徴だ。
結果は、95%の生徒が遅い時間帯を使った。始業時刻は中央値で38分遅くなった。
睡眠が45分増え、得点も上がった
では、遅らせた結果、何が起きたのか。起床時間は平均で約40分遅くなった。
就寝時刻がほぼ同じまま起床だけが遅くなったので、学校がある日の睡眠時間は平均45分伸びた。
睡眠以外の項目にも変化があった。寝つきの悪さの訴えが減り、健康に関わる生活の質がとくに低い生徒の割合も減った。
数学と英語の得点も上がった。大学の発表では、この得点の改善は州の試験の結果と比べたものとされている。
悪くなった項目はなかったという。この研究は、2026年に専門誌『Journal of Adolescent Health』に報告された。
ただし、これは導入の前後を比べた観察研究だ。
同じ生徒を前後で比べられたのは212人で、このうち205人の分析で、始業の遅れと学校のある日の睡眠時間の増加に有意な関連が見られた(p = .03)。
共著者のレト・フーバー氏は、「朝の授業開始を遅らせることは、生徒たちの間で今広がっている心の健康の危機への対処に、大きく貢献しうる」と述べている。
選ばせたら、95%の生徒が遅い方を使ったんだね!




先駆けとなった、シアトルの実験


55分遅らせたら、睡眠が34分増えた
スイスの調査より前に、アメリカ・シアトルで同じ問いを調べた研究がある。
2016年度から、シアトルの学区は、中学・高校(中等学校)の始業時刻を朝7時50分から8時45分へと、55分遅らせた。
ワシントン大学などの研究チームは、この機会を利用して、2つの高校の生徒の睡眠を、腕時計型のセンサーで、遅らせる前(2016年春)と後(2017年春)に計測した。
結果、睡眠時間の中央値は6時間50分から7時間24分へと、34分増えた。就寝時刻に後ろへずれる傾向はあったが有意ではなく、起床時刻は中央値で44分遅くなった。
始業が55分遅くなったのに睡眠の増加が34分にとどまったことについて、論文は、1年たつと生徒が就寝を遅らせたのかもしれないと述べている。
この研究は、2018年に科学誌サイエンス・アドバンシズに「シアトルでもっと眠ろう」という題で発表された。
成績の中央値が上がり、遅刻が減った
シアトルの研究で報告されたのは、睡眠時間の増加だけではない。生徒の成績の中央値は4.5%上がった。
さらに、片方の高校では、遅刻や欠席の件数も、統計的に有意に減少した。日中の眠気も、軽くなったと報告されている。
論文の著者は、睡眠が増えたことが眠気の減少の原因である可能性は高いとする一方、成績が4.5%高くなったことまで睡眠の増加のせいだと言い切るのは、はるかに難しいと述べている。
この研究は、導入の前後を比べたものだ。
始業時刻をめぐるアメリカの動き
カリフォルニア州は、法律で定めた
アメリカのカリフォルニア州は、全米で初めて、中学・高校の始業時刻を法律で定めた州になった。法案SB 328に、2019年10月13日にニューサム知事が署名した。
法律は、中学校は朝8時以降、高校は朝8時30分以降に始めることを求めている。実施期限は2022年7月1日で、学校や学区の労働協約がそれより後に切れる場合は、その日までとされた。
農村部の学区は対象外だ。
アメリカ小児科学会は、2014年の声明で、8時30分より前の始業が10代の睡眠不足の大きな要因になっていると指摘した。
そのうえで、中学・高校に、生徒が最適な睡眠をとれる始業時刻を目指すよう呼びかけた。
声明は、最適な睡眠を8.5〜9.5時間とし、睡眠の改善で期待できる効果の例に、居眠り運転による事故の減少を挙げている。
始業を遅らせた郡で、10代の事故率が下がった
始業を遅らせた学区で、交通事故を調べた研究もある。
アメリカのある郡の学区では、始業を1時間遅らせたあとの2年間で、10代の運転者の事故率が、その前の2年間より16.5%下がった。
この調査では、睡眠時間が増え、週末の寝だめが減ったことも報告されている。
同じ時期、州のほかの地域では10代の事故率が7.8%上がっていた(2008年の研究)。ただし、これは1つの学区の前後比較で、アンケートと事故率の変化を並べたものだ。
交通事故の率が下がった郡もあるんだね!


始業時刻を変えるときの壁


バス、部活、家庭の壁
始業の繰り下げには、実務上の壁もある。
始業時刻の研究を整理した系統的レビューは、壁として、スクールバスなど交通の時間割の変更と費用、上のきょうだいが下のきょうだいの世話をしている家庭への影響、スポーツや社会的な活動、アルバイトなどが後ろにずれることを挙げている。
ただし、放課後の活動への参加を調べた研究では、始業を遅らせた前後で差は見られなかったという。
「選ばせる」という、もう一つの道
スイスの学校は、始業を一律に遅らせるのではなく、7時30分からの任意の授業と、8時30分からの授業を生徒が選べる仕組みを採った。
論文の著者らは、選べるようにしたところ生徒は遅い方を選び、睡眠・健康・成績に測定できる改善があったとして、柔軟な時間割は青少年の睡眠不足への有効な対策になりうると結論している。
無理に遅らせるんじゃなくて、選ばせるやり方もあるんだね。
まとめ


スイスで45分、シアトルで34分。始業を遅らせると睡眠が増え、成績などにも良い変化が報告されている。ただし多くは前後の比較や観察にもとづくもので、効果の大きさは地域や制度によって違いうる。
参考文献:
The Power of Flexible School Start Times: Longitudinal Associations with Sleep, Health, and Academic Performance (Journal of Adolescent Health 2026)
関連: Dunster et al., “Sleepmore in Seattle”, Science Advances 4(12), eaau6200 (2018). DOI: 10.1126/sciadv.aau6200
論文要旨: PubMed
チューリッヒ大学のプレスリリース: Start School Later, Sleep Longer, Learn Better(2026年2月26日)
全文(オープンアクセス): Dunster et al., Science Advances 2018
その他: Danner & Phillips, J Clin Sleep Med 2008 / 米国小児科学会の声明(Pediatrics 2014) / カリフォルニア州SB 328 / 始業時刻の系統的レビュー









