太陽系の果て、海王星よりはるか遠くに広がるカイパーベルト。そこに、二つの球体がくっついた「宇宙の雪だるま」のような天体が漂っている。
2019年、探査機ニューホライズンズが人類史上もっとも遠くで接近観測した天体、アロコスがその代表だ。
全長およそ35キロメートルで、大小二つのふくらみが細い首でつながっている。
なぜ、こんな形が宇宙で生まれるのか。2020年と2026年のシミュレーション研究が、有力な説明を示している。
雪だるま天体アロコスとは
人類が最も遠くで出会った天体
アロコスは冥王星よりさらに遠く、地球から約64億キロメートルの位置にある。
2015年に冥王星を観測したニューホライズンズが旅を続け、2019年1月1日にこの小さな天体の近くを通過した。
人類が近接探査した中で、もっとも遠い天体だ。通称はウルティマ・トゥーレという。
NASAによると、大きいほうのふくらみは約22×20×7キロメートルで、レンズを背中合わせにしたように平たい。
小さいほうは約14×14×10キロメートルで、より丸みがある。二つが細い首の部分でつながっている。
表面は非常に赤い。単純な氷が宇宙空間で変質して有機物ができたためと考えられるが、鉄や硫黄の化合物など、ほかの原因もありうるとされる。
手つかずに近い環境で残った天体
アロコスは、惑星の材料となった微惑星の生き残りだ。軌道が巨大惑星から十分に離れていて、軌道が大きく変わることがなかった。
ほかの小天体からも遠いので衝突による変化は限られ、太陽からも遠いので、氷が蒸発して形が変わる影響もほとんどなかった。
二つのふくらみの表面は、揮発しやすい物質の量や色がほぼ同じで、クレーターも少ない。
このことから、二つは同じ起源をもち、氷が蒸発したり表面が大きく変形したりしない穏やかな環境でできたと考えられている。

激しい衝突ではなかった
素朴なイメージのつまずき
二つのふくらみがくっついた天体、と聞くと、つい「二つの天体がぶつかって合体した」と思ってしまう。だが2020年と2026年の研究は、ずっと穏やかな合体を描いている。
ワシントン大学セントルイス校のマッキノンらが2020年に『Science』で、ミシガン州立大学のバーンズ、惑星科学研究所のシュワルツ、ミシガン州立大学のジェイコブソンが2026年にarXivで公開した論文で、それぞれ詳しいシミュレーションでこの謎に挑んだ。
キク雪だるま天体の二つの塊は、激しくぶつかったんじゃないなら、どうやってくっついたんだろう?
二つは、先に連星として生まれた
2020年のマッキノンらは、アロコスの二つのふくらみが、重力で崩れていく固体粒子の雲の中で、互いを回り合う連星として生まれたと考えた。
二つの短い軸の向きがそろっていることが手がかりになった。連星は角運動量を失って合体したとされ、原因として、雲の中での力学的摩擦や衝突、あるいはその後のガス抵抗が挙げられている。
ただし、雲の崩壊だけで二つが接触するところまで再現した計算は、2026年まで無かった。それまでの計算では離れた連星しかできず、接触させるにはガス抵抗など別の過程が必要だと考えられていた。
2026年のバーンズらは、ミリ大の小石の雲が自分の重力で崩れていく過程を計算した。連星は、崩れる雲の中でほかの微惑星とすれ違い、軌道のエネルギーを失って少しずつ近づいた。
その結果、雲の崩壊だけで、連星として生まれた二つの天体が近づいて接触し、雪だるま形になる例が出てきた。雪だるま形になった例のほとんどは、崩れる雲から飛び出した連星だった。
どちらの説でも、二つのふくらみは砕けない程度のゆっくりした速さで触れ合っている。
どれくらい、ゆっくりだったのか
秒速数メートルの接触
では、その合体はどれほど低速だったのか。2026年のシミュレーションで雪だるま形になった29例のうち、1例を除いて、接触の速さは秒速0.4〜5.8メートル(時速約1.4〜21キロ)だった。
例外の1例は秒速16.9メートルだった。
2026年の論文によると、アロコスの二つのふくらみについて、地形などの検討から見積もられた接触速度は秒速2.9〜5.0メートル(時速約10〜18キロ)で、シミュレーションの多くがこの範囲に入った。
シミュレーションでは、接触速度がおよそ秒速6メートルを下回るときに、雲の崩壊から雪だるま形ができた。
2020年の論文は、もっと速い衝突も計算した。秒速10メートルの斜めの衝突では二つは合体せず、表面がはぎ取られた。
秒速5メートルでも変形が大きく、アロコスの形にならなかった。アロコスに近い形になったのは、はるかに遅い衝突だけだった。
二つは衝突前から互いに重力で束縛されていたはずだ、と2020年の論文は結論づけている。別々に太陽の周りを回っていた二つの微惑星の合体では、速度が大きすぎてアロコスの形にならないという計算だ。



アロコスの二つのふくらみは、先に連星としてお互いを回り合ってたから、砕けないくらいゆっくりくっつけたんだ。
粒子を完全には合体させない計算
2026年の計算では、粒子がぶつかっても一つに完全合体させず、互いの表面が少しめり込む形で長く接触し続けるようにした。
こうすると、微惑星が粒子の集まりとして、さまざまな形や自転をもつようになる。


そもそも、カイパーベルトとは
太陽系の外れに広がる氷の帯
アロコスが漂うカイパーベルトとは、どんな場所なのか。海王星の軌道より外側に広がる、氷の天体のドーナツ状の領域だ。
アロコスの軌道は、太陽から約44天文単位(地球と太陽の距離の約44倍)にある。
冥王星も、実はこのカイパーベルトに属する天体の一つである。
アロコスは、軌道が円に近く傾きも小さい「低温古典カイパーベルト」の天体だ。この群の天体は、その場でできて、巨大惑星の移動にほとんど乱されなかったと考えられている。
太陽系ができたときの残り
NASAは、カイパーベルトには太陽系ができたときの残りの氷の天体が、数百万個あるかもしれないと説明している。
この結果が示すこと
小石の雲の重力崩壊で微惑星ができる説を後押し
微惑星のでき方の有力な考えのひとつに、ミリ大の小石の雲が自分の重力で崩れ、直径1キロメートルよりずっと大きい微惑星が直接できる、というものがある。
小石が濃く集まるきっかけは、ストリーミング不安定という現象だとされる。理論上は、直径100キロメートル級の天体が多くなると予想されている。
バーンズらは54回のシミュレーションを行った。できた834個の微惑星のうち29個、約3%が、アロコスのような雪だるま形の接触連星だった。
論文は、アロコスが雲の崩壊で直接できたとする仮説が強まり、その形と表面は惑星ができた時代を記録していると考えられる、とまとめている。
ただし、これはアロコスがこの経路でできたことを証明するものではなく、仮説を強める結果である。
雪だるま形はどれくらいあるのか
観測からの推定では、雪だるま形の接触連星は、軌道が乱されていない冷たい古典カイパーベルト天体の10〜25%、海王星と軌道が共鳴する冥王星族では40〜50%を占める。
シミュレーションの約3%は、これらより小さい。ただし、向きによっては接触連星だと見分けられず、約85%は観測で見落とされているという推定もあり、観測側の数字にも見積もりにくい不確かさがある。
自転の速さにも違いがある。シミュレーションの雪だるま形は1日に2.1〜3.0回転するが、アロコスは1日に約1.51回転(周期15.93時間)で、ずっと遅い。
論文は、小さなクレーターを作る衝突が長い間に自転を遅くした可能性を挙げている。
参考文献:
The solar nebula origin of (486958) Arrokoth, a primordial contact binary in the Kuiper Belt
McKinnon et al., Science 367, eaay6620 (2020)(arXiv版)
Direct contact binary planetesimal formation from gravitational collapse
Barnes, Schwartz & Jacobson, arXiv:2602.16056 (2026)
出典: NASA New Horizons / NASA Kuiper Belt









