食物繊維は「便通のため」だけと思われがちだが、実際には腸内で細菌が「何を食べるか」まで左右している。
米プリンストン大学のJenna E. AbuSalimと、同大のLudwig Institute for Cancer Researchプリンストン分所で所長を務めるJoshua D. Rabinowitzらの研究チームは、食物繊維が腸内細菌による宿主分泌タンパク質(ムチンなど)の分解を減らし、尿毒症毒素とされるフェノール硫酸とp-クレゾール硫酸を減らすことを、マウスの同位体追跡で示した。
研究は2026年7月27日にオンライン公開され、8月11日発行の米科学アカデミー紀要PNAS(123巻32号)に掲載された。
この2つの代謝物は、腎臓病の人での全身への毒性や、がん患者の悪い経過との関連が報告されている。
同じチームは6月、腸内細菌だけが作ると考えられてきたインドール類やフェノール類のうち、いくつかは宿主自身の代謝でも作られることを、Nature Metabolismで報告している。
繊維が少ないと、腸内細菌は粘液などの宿主タンパク質を分解する
宿主はムチンなどのタンパク質を腸の中へ分泌しており、それは腸内細菌が使える栄養の供給源にもなる。
AbuSalimらは、食物繊維が少ないと腸内細菌がこうした宿主分泌タンパク質(ムチンなど)を分解し、フェノール硫酸とp-クレゾール硫酸の原料にしていることを、同位体追跡で示した。
繊維は、この分解を減らした。
Rabinowitzは「食事は、マイクロバイオームとその産物をコントロールするうえで大きな可能性を秘めている」と述べたうえで、治療に生かすには、食事のどの要素がどの微生物産物を左右するかを知る必要があると話している。

キク繊維が少ないと、菌は腸を守る粘液のタンパク質まで分解しちゃうんだ。マウスで分かったことだね。
同位体トレーサーで原料をたどる


研究チームは、放射線を出さない安定同位体でタンパク質を標識し、マウスの腸内でその原子がどこへ運ばれるかを追跡した。
目印の付いたタンパク質が宿主由来か食事由来かで、代謝物にどちらの印が現れるかを見れば、原料の出どころが分かる。
調べたのは、フェノール硫酸、p-クレゾール硫酸、馬尿酸、3-フェニルプロピオン酸の原料が何かという点だ。
結果、尿毒症毒素とされるフェノール硫酸とp-クレゾール硫酸は、宿主が分泌するタンパク質(ムチンなど)を原料の一つにしていた。
一方、健康に良いとされる馬尿酸と3-フェニルプロピオン酸は、ほぼすべてが食事中の消化されにくいタンパク質(Prif)から来ていた。
悪玉と善玉、2つのフェノールの原料
腸内細菌がアミノ酸を分解して作るフェノール類は、原料のアミノ酸によって2つに分かれる。
チロシン由来の系統では、p-クレゾール硫酸とフェノール硫酸が生まれる。これらは尿毒症毒素とされ、腎臓病の人での全身への毒性や、がん患者の悪い経過との関連が報告されている。
一方、フェニルアラニン由来の系統からは馬尿酸と3-フェニルプロピオン酸ができる。こちらは腸の健康や適正な体重と関連づけられている。
チロシンは、フェニルアラニンに水酸基が1つ付いただけの構造をしている。それでも、それぞれから細菌が作る代謝物は、健康との関わりが対照的だ。
| 系統 | 原料アミノ酸 | 代表的な代謝物 | 健康との関連 |
|---|---|---|---|
| 悪玉系 | チロシン | p-クレゾール硫酸、フェノール硫酸 | 腎臓の尿毒症毒素、がん予後悪化と関連 |
| 善玉系 | フェニルアラニン | 馬尿酸、3-フェニルプロピオン酸 | 腸の健康、適正体重と関連 |
今回の同位体追跡で、悪玉側の原料は宿主が分泌するタンパク質、善玉側の原料は食事中の消化されにくいタンパク質だと分かった。
繊維は前者の細菌による分解を減らし、後者のタンパク質は細菌が使えるフェニルアラニンを増やす。
Oscillospiraceae科の細菌と悪玉フェノールの相関
p-クレゾール硫酸とフェノール硫酸の量は、ムチンを分解する細菌の一群であるOscillospiraceae科(オシロスピラ科)の量と相関していた。
ただし要旨が述べているのは相関で、この菌が原因だとまでは書かれていない。
同位体追跡で示されたのは、繊維が宿主タンパク質(ムチンなど)の細菌による分解を減らし、その結果、チロシン由来のフェノール硫酸とp-クレゾール硫酸が減るという物質の流れだ。



腸内細菌が健康に良いとされる物質を作るときの原料になる、消化されにくいタンパク質ってどんなものなんだろう?
Prif ― 消化されにくい植物タンパク質
もう一つの鍵が、研究チームがPrif(Proteins imitating fiber、繊維を模倣するタンパク質)と呼ぶ、植物の消化されにくいタンパク質だ。
Prifは宿主の消化に耐えるため、腸内細菌のもとまで届く。
食物繊維が健康に良いことは古くから知られているが、消化されにくい植物タンパク質は、これまでほとんど注目されてこなかったという。
Prifが届くと、細菌が使えるフェニルアラニンが増え、馬尿酸と3-フェニルプロピオン酸が増える。
Rabinowitzは「食品のパッケージには、いずれ繊維のすぐ下にPrifが載るかもしれない」と話している。
AbuSalimは「Prifは、腸内細菌叢の組成を形づくり、代謝の健康に広く影響しうる、新しい種類の食事由来の栄養素だと考えている」と述べている。
要旨は、繊維と消化されにくいタンパク質が協力して、植物性の食事に見られる健康的な代謝物の組み合わせを支えると結論づけている。
「腸内細菌が作る物質」の一部は宿主も作れる
もう1本の論文は、2026年6月23日にNature Metabolism(8巻7号、1528〜1544ページ)に掲載された。
インドール類(インドール-3-乳酸、インドール-3-酢酸など)やフェノール類は、これまで腸内細菌だけが作ると広く考えられてきた。
インドール類は、がんの転移や抗腫瘍免疫、炎症性腸疾患、神経変性疾患との関連が調べられており、食事やプロバイオティクスで増やす方法も研究されている。
インドール類は芳香族炭化水素受容体(AhR)に結合する物質で、AhRは腸の免疫寛容や上皮の恒常性を支える重要な受容体とされる。
研究チームは13Cで標識したアミノ酸をマウスに点滴し、2時間と36時間の2通りで調べた。2時間の間は、標識が腸内細菌に届かない。
36時間では、宿主が分泌するムチンなどのタンパク質を通じて、標識したアミノ酸が腸の中に届き、細菌も使える。
2時間の点滴で血中の4種のインドール類(インドール-3-ピルビン酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-カルボン酸)に標識が入り、無菌マウスでも濃度は変わらなかった。
論文はこの4種を宿主由来と分類した。
一方、インドール-3-プロピオン酸とインドキシル硫酸は細菌に依存するとされ、無菌マウスではインドキシル硫酸が検出されなかった。
フェノール類では、3-フェニルプロピオン酸、フェノール硫酸、p-クレゾール硫酸が細菌に依存するグループだった。
抗生物質で腸内細菌を減らしたマウスでも、宿主由来とされたインドール類の血中濃度は保たれた。
一方、インドール-3-プロピオン酸やp-クレゾール硫酸のように細菌に依存する代謝物は、抗生物質の後で減った。ヒトの血清でも同じ傾向だった。
ボストン小児病院の公開データでは、169人のうち13人から血中で抗生物質が検出され、宿主由来の代謝物はそれらの患者でも変わらなかった。
急性骨髄性白血病の患者3人でも、広域抗生物質で腸内細菌の多様性が下がった時期に、宿主由来の代謝物は影響を受けなかった。
ScienceDailyの解説は、体内を巡る代謝物の多くを細菌でなく宿主の代謝が作っているなら、これらの代謝物を増やす食事やプロバイオティクスの戦略は見直しが必要になるかもしれないと書いている。


確かめられたことと、まだ分からないこと
PNAS論文の同位体追跡は、ScienceDailyではマウスの実験として紹介されている。
Nature Metabolismの論文は、マウスとラット、ヒトの培養細胞(大腸がん細胞のHCT116)に加え、ヒトの血清データを使ったが、食事を変えて健康への影響を追った介入試験ではない。
なお、PNAS論文は全文を確認できず、ここでの記述は要旨とScienceDailyの解説に基づく。
示されたのは、代謝物の原料の出どころと、繊維による変化だ。尿毒症毒素が減ることで腎臓病やがんの経過が良くなるかどうかは、確認できた資料では示されていない。
ヒトのデータは、別の目的で集められた公開データ(169人)と、白血病の患者3人にとどまる。論文自身も、元のデータは抗生物質の影響を調べる意図ではなかったと書いている。
植物性の食事が健康に良い面を持つことは以前から指摘されており、今回のPNAS論文は、その理由の一部を腸内の代謝物の面から説明する。



分かったのは腸内細菌が作る物質の原料の出どころと繊維による変化で、ヒトの健康が良くなるかはまだこれからなんだね。
参考文献:
一次ソース: AbuSalim JE et al., Digestion-resistant proteins support the healthy metabolite profiles associated with plant-based diets(PNAS, 2026, 123(32))DOI:10.1073/pnas.2605226123/PubMed(要旨)
併記論文: AbuSalim JE et al., Host metabolism can produce many indoles and phenols independently of the microbiome(Nature Metabolism, 2026, 8(7):1528-1544)DOI:10.1038/s42255-026-01550-8/全文(PMC)
研究機関: Ludwig Institute for Cancer Research プリンストン分所/ 二次ソース: ScienceDaily









