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栄養はつくらず複製の道具は残す微生物「スクナ古細菌」、古細菌で最小のゲノム

2026 10/14
生き物・自然
2026年10月14日
光の差す海の中を漂う渦鞭毛藻の細胞
🕑この記事は約14分で読めます

文・パクト

ほかの生き物に頼って暮らす微生物では、要らなくなった遺伝子が失われ、ゲノム(遺伝情報のひとそろい)が小さくなっていきます。その行き着く先が、私たちの細胞の中にあるミトコンドリアや、植物の葉緑体です。どちらも自分の遺伝情報を働かせることや複製することまで細胞に任せていて、独立した細胞とは言えません。

では、自分の遺伝情報を複製して働かせる力を残したまま、生き物はどこまで遺伝子を減らせるのでしょうか。筑波大学や京都大学などの研究チームが、この問いの手がかりになる古細菌を海で見つけました。栄養もエネルギーも自分でつくる遺伝子をほとんど持たない「スクナ古細菌」です。

ゲノムの大きさは23.8万塩基対で、これまで調べられた古細菌のゲノムの中では最も小さいものです。論文は2026年10月9日、学術誌『Current Biology』に掲載されました。

目次

海の藻の細胞から出てきた、輪の形の未知のDNA

下田沖での採集から、細胞1個のDNAを読んで輪の形の未知のDNAが見つかるまでを表した図
海の渦鞭毛藻の細胞1個からDNAを増やして読むと、一緒にいた微生物のゲノムにまじって、知られているどの生き物とも一致しない小さな環状のDNAが見つかりました。

研究チームが調べたのは、海にすむ渦鞭毛藻(うずべんもうそう)の一種、シサリステス・レギウスです。先に公開された査読前の版の論文によると、細胞は静岡県の下田沖で、網の目が25μmのプランクトンネットを使って採られました。そのあと顕微鏡をのぞきながら、細い管で細胞を取り出しています。

使ったのは単細胞ゲノム解析という方法です。環境から細胞を1個だけ取り出し、中にあるごくわずかなDNAを増やしてから、塩基配列を読み取ります。培養が難しい微生物でも、ゲノムを調べられるのが強みです。

この渦鞭毛藻の細胞1個を調べると、一緒にいた複数の微生物のゲノムも同時に読み取れました。このDNAを増やして読む作業は、同じグループが2024年に報告した研究で行われていたものです。査読前の版によれば、そこには共生しているシアノバクテリアと2種類の細菌のゲノムに加えて、非常に変わった輪の形の配列が含まれていました。

輪の形のDNAは、知られているどの生き物の配列とも一致しませんでした。くわしく解析すると、古細菌に属する未知の生き物のゲノムだと分かりました。

古細菌は、細菌、そして核を持つ真核生物と並ぶ、生き物の三つの大きなグループの一つです。核を持たない小さな単細胞の生き物ですが、遺伝情報を複製したり働かせたりする仕組みは、細菌よりも真核生物に近いことが知られています。

研究チームは、日本神話に出てくる小さな神、少名毘古那(スクナビコナ)にちなんで、この古細菌を「Candidatus Sukunaarchaeum mirabile」と名付けました。後ろのmirabileは、ラテン語で「驚くべき」「並外れた」を意味する言葉から取っています。

ゲノムは23.8万塩基対、遺伝子は189個

見つかったゲノムは23.8万塩基対で、これまで最小とされてきた古細菌のゲノムの半分以下でした。タンパク質をつくる遺伝子は189個しかありません。

これまで最小だった古細菌のゲノムは、ナノアーキウム・エクイタンスのものです。2003年に学術誌『PNAS』に載った研究で、そのゲノムは490,885塩基対と報告されました。この古細菌は、別の古細菌イグニコッカスと一緒でないと育たない共生者です。

比べるために、ほかの生き物の数字も挙げておきます。ヒトのゲノムは約30億塩基対で、タンパク質をつくる遺伝子は約2万個あります。

大きなゲノムの切れ端ではないのか

これほど小さいと、本当はもっと大きなゲノムの切れ端なのではないか、という疑いが出てきます。査読前の版は、この点をいくつかのやり方で確かめています。

まず、DNAを短く読む方法と長く読む方法、その両方を合わせる方法のそれぞれで、ゲノムを組み立て直しました。どのやり方でも、配列はすき間のない輪の形にまとまりました。

ゲノムがどれだけそろっているかを見積もるCheckM2という評価では、完全さが83.68%、ほかの配列の混じりは0.18%でした。さらに、ほかの小さな古細菌のゲノムを約24万塩基対ずつに切って同じ評価にかけると、どの断片も完全さ70%に届きませんでした。

一方で査読前の版は、見つかった輪のほかに、プラスミドのような別の遺伝の部品がある可能性を完全には否定できないとも書いています。増やしたDNAの中に、ほかの古細菌の配列は見つかりませんでした。

残っていたのは、遺伝情報を写して増やす道具

スクナ古細菌のゲノムには、栄養やエネルギーをつくる遺伝子がほとんど見つかりませんでした。生きるのに必要な物質は、ほかの生き物にすっかり頼っていると予想されています。

その一方で、ゲノムを複製する装置や、遺伝情報を写し取って読み出す装置は、主な部品のほとんどが残っていました。

DNAの情報がRNAに写し取られ、それをもとにタンパク質がつくられる流れは、セントラルドグマと呼ばれます。DNAが複製されて次の世代へ渡る流れとあわせて、すべての細胞の生き物に共通する仕組みです。発表文は、ほかの助けなしにこの流れを動かせる力を「遺伝的自律性」と呼んでいます。

査読前の版の数字を見ると、偏りの大きさが分かります。タンパク質の遺伝子のうち52.4%が、転写や翻訳、複製など、遺伝情報を扱う仕事に関わるものでした。働きを予想できた遺伝子だけで数えると、72.6%になります。

代謝を受け持つタンパク質は、ほぼ見当たりませんでした。中核の仕事と関係がなさそうなタンパク質は5個だけです。そのうち4個は物を運ぶ輸送体の部品で、宿主のまわりから必要な分子を取り込むのに使っていると推定されています。

昆虫の共生細菌とは、残した遺伝子が違う

これまでの研究で、昆虫の細胞の中に共生する細菌には、スクナ古細菌と同じくらいか、それ以上にゲノムが縮んだものが知られています。たとえば共生細菌カルソネラ・ルディイのゲノムは、15.9万塩基対です。こうした共生細菌は、宿主が必要とする栄養をつくる遺伝子を持ち続けているのが特徴です。その一方で、セントラルドグマに関わる遺伝子は失っていて、その働きを宿主に補ってもらっていると考えられています。

2011年に学術誌『Nature Reviews Microbiology』に載った総説も、こうした共生細菌の遺伝子の数が、一部のミトコンドリアや葉緑体に並ぶほど少ないことをまとめています。残った遺伝子には、宿主の役に立つものがかなりの割合で含まれることが多いそうです。

スクナ古細菌は、この形とは違います。今回の研究で昆虫の共生細菌の例と比べると、スクナ古細菌は遺伝情報を扱う遺伝子にさらに大きな割合を使い、代謝の遺伝子の割合はずっと小さくなっていました。研究チームは、昆虫の共生細菌とは違う進化の道をたどったとみています。遺伝的自律性を保ったまま、ほかのすべてを削ぎ落とした状態に近いと考えられるそうです。

これまでに知られている寄生細菌、たとえばゲノムの小さいマイコプラズマやクラミジア、リケッチアでさえ、もっと多くの代謝の力を残しています。前の節で触れたナノアーキウムも、スクナ古細菌より少しだけ代謝の力が多く、宿主との関係がどういうものかはまだ議論が続いています。

査読前の版は、代謝の経路がほぼ丸ごと無いことから、スクナ古細菌が宿主の代謝を助けているとは考えにくいとしています。そのうえで、宿主の資源を一方的に使う、寄生的かもしれない頼り方を強く示唆すると書いています。

ゲノムの4分の1を占める、正体不明の大きなタンパク質

削ぎ落とされたゲノムの中で、目立つものがあります。ゲノムの約4分の1を、働きの分からない巨大な膜タンパク質の遺伝子が占めているのです。

膜タンパク質は、細胞を包む膜に埋め込まれたり、膜にくっついたりしているタンパク質です。物を運んだり外からの信号を受け取ったりして、細胞の内と外をつなぐ役目を持っています。

査読前の版によると、189個のタンパク質のうち13個(6.9%)が1,000アミノ酸を超える長さで、最大のものは4,756アミノ酸ありました。スクナ古細菌のタンパク質の長さの真ん中の値は224アミノ酸なので、並外れて大きいことになります。

ほかの共生細菌と比べると、差ははっきりします。ゲノムがとても小さい共生細菌では、1,000アミノ酸を超えるタンパク質は全体の1.5%(12,852個のうち197個)だけです。ゲノムが40万塩基対より小さい細菌では、最も大きなタンパク質でも1,507アミノ酸でした。

スクナ古細菌で働きの分からない大きなタンパク質は8個あり、その遺伝子だけでゲノムの25%を占めていました。査読前の版は、これらが細胞膜にあって働いていることが強く示唆される、としています。

これまでの研究では、ナノハロアーキオタという古細菌のグループの一部が、5,000アミノ酸を超える大きな表面タンパク質を持つことが知られています。このタンパク質は、宿主の細胞に入り込むときに大事な役割を果たすと考えられています。2024年に学術誌『Nature Communications』に載った別の研究では、古細菌ナノハロアーキウム・アンタルクティクスが、宿主の古細菌に寄生してその細胞を壊すことが示されました。

こうした例を踏まえて、研究チームはスクナ古細菌も寄生的な生き物である可能性があるとみています。査読前の版では、8個の大きなタンパク質が宿主との関わりに使われている、という仮説を立てています。

どの「門」にも入らない、海に広がる仲間

系統樹の上の位置

スクナ古細菌は、古細菌の家系図のどこに入るのでしょうか。系統解析の結果、既知のどの古細菌からも遺伝的に遠く、これまで提唱されたどの「門」にも含まれないことが示唆されました。門は生き物を分ける階級の一つで、界の下、綱の上にあります。例えばヒトは脊索動物門に入ります。

査読前の版では、149の代表的な古細菌のゲノムから70個の目印のタンパク質を選び、二つの方法で系統樹をつくりました。ところが、スクナ古細菌が枝分かれする位置は、二つの方法で食い違いました。そこで、ほかに考えられる294通りの位置を検定すると、279通りは統計的に退けられ、15通りが残りました。どの候補でも、既知の門の中に統計的な確かさをもって入るものはありませんでした。

枝の長さにも注意が要ります。スクナ古細菌の枝はとても長く、長い枝どうしが誤って近くにまとめられてしまう、解析の上の誤りの影響を受けているかもしれません。論文は、正確な位置はまだ決まらないとしています。それでも、既知のどの門とも違う、深いところで分かれた系統であることを強く支持する、とまとめています。

海のデータに見つかった仲間

研究チームは、世界の海で集められた遺伝子配列のデータ「タラ・オーシャンズ」も調べました。スクナ古細菌に近いと見られる配列が多数見つかり、海にはこれまで見落とされてきた古細菌の多様性があることが示されました。査読前の版によると、公開されているデータを探したところ、似た配列は思いがけず、海の生き物のRNAを読んだデータの中からだけ見つかりました。

仲間どうしの枝の長さは、すでに知られている古細菌の「界」の中の枝と同じくらいでした。それだけ多様な系統であることを示唆する結果です。

見つかる場所にも特徴がありました。古細菌のふつうの大きさ(約1μm)に当たる0.8〜5μmの区分より、5〜20μmの大きい区分で多く見つかったのです。単独で漂っていることは少なく、もっと大きな微生物と密接に関わって暮らしているのかもしれません。最も多く見つかったのは、南大西洋のブラジル沖にある76番の採集地点でした。

同じグループの2024年の報告では、もとの渦鞭毛藻の細胞は、長い方で約40〜50μmあります。これは、仲間の配列が多かった区分より大きな値です。査読前の版は、この大きさの食い違いが、宿主を特定する難しさを浮き彫りにしているとしています。

ウイルスとの境目と、まだ分からないこと

査読前の版は、宿主の代謝にこれほど頼っていることは、最小の細胞とウイルスの区別に疑問を投げかけるとしています。

それでも、スクナ古細菌は根本的には細胞です。ウイルスはふつう、自分で複製する装置の遺伝子を持たず、宿主の仕組みに頼ります。スクナ古細菌はリボソームと、細胞の祖先から受け継いだ転写と翻訳の装置を持っています。査読前の版は、これまで見つかった中で、ウイルスの生き方に最も近づいた細胞かもしれない、とも述べています。

発表文は、もう一歩進んだ見方も示しています。宿主の役に立つ共生細菌と違い、寄生的な生き物は失った働きを宿主に補ってもらうことを期待しにくいはずです。そのため、セントラルドグマの仕組みは、独立した細胞であり続けるために手放せない最後の要素かもしれない、と発表文は述べています。

一方で、いま分かっているのはゲノムの配列だけです。細胞の形を含め、生き物としての特徴はまだ分かっていません。研究チームは今後、宿主を特定したり細胞を直接観察したりして、スクナ古細菌を含む仲間の暮らしや特徴を調べていく予定です。

シルミー

栄養もエネルギーも人まかせなのに、自分のコピーをつくる道具だけは手放さないんだね。

はかせ

そうなんだ。でも分かっているのはゲノムの配列だけで、細胞の形もまだ分かっていないんだよ。

設計図にあたるゲノムだけが先に見つかり、持ち主の姿はまだ見えていません。宿主が分かって細胞が直接見えたとき、「細胞とウイルスの境目」という問いに、ゲノムだけでは分からない答えが加わるのではないでしょうか。

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参考文献:
一次ソース: Harada R, Nishimura Y, Nomura M, Yabuki A, Shiba K, Inaba K, Allers T, Inagaki Y, Nakayama T, A hidden archaeal lineage with an ultra-reduced genome retaining only its replicative core(Current Biology, 2026)DOI:10.1016/j.cub.2026.09.042
査読前の版: Harada R et al., A cellular entity retaining only its replicative core: Hidden archaeal lineage with an ultra-reduced genome(bioRxiv, 2025)DOI:10.1101/2025.05.02.651781
研究機関の発表: 京都大学・筑波大学・東京大学・山形大学・海洋研究開発機構ほか 発表文「栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見」
関連する研究: Waters E et al., The genome of Nanoarchaeum equitans: insights into early archaeal evolution and derived parasitism(PNAS, 2003)DOI:10.1073/pnas.1735403100
関連する研究: McCutcheon JP, Moran NA, Extreme genome reduction in symbiotic bacteria(Nature Reviews Microbiology, 2011)DOI:10.1038/nrmicro2670
関連する研究: Hamm JN et al., The parasitic lifestyle of an archaeal symbiont(Nature Communications, 2024)DOI:10.1038/s41467-024-49962-y

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科学メディア「シルミー」の運営者。子供の頃から宇宙や生き物の図鑑を読みあさり、大人になった今も科学ニュースを追いかける日々。海外の学術メディアから面白い研究を見つけて、日本語でわかりやすく届けることをライフワークにしています。

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