夜、子どもがなかなか寝つかない。朝はぐずって起きられない。多くの家庭でくり返される、ありふれた光景だ。だが、それを「うちの子だけのこと」と思っているなら、少し立ち止まってみてほしい。
2026年3月5日、アメリカの全米睡眠財団(NSF)は、毎年おこなっている「Sleep in America」調査の2026年版の結果を発表した。
それによると、アメリカの子どものおよそ44%が、年齢ごとに推奨される睡眠時間を安定しては確保できていない。年齢の低い子ほど不足しやすいという。
「うちの子は足りてる」は本当か
この調査は、アメリカの親に子どもの睡眠についてたずねたものだ。発表文には、対象の年齢や人数、調べ方の詳細は書かれておらず、ここでは確かめられなかった。
また、数字はアメリカの子どものもので、日本の子どもにそのまま当てはまるわけではない。
見落としがちなのが、親の受け止め方とのズレだ。発表によると、親は子どもに必要な睡眠時間を、全米睡眠財団の推奨より少なく見積もりがちで、その差は1日1時間を超えることも多かった。
回答者のほぼ全員(95%)が、よい睡眠は家族がうまく回るために欠かせないと考えていた。
一方で、睡眠の大切さについて子どもと話すことが「めったにない」か「まったくない」という親も、半数近くにのぼった。
何時間眠ればいい? 年齢別の推奨時間
では、子どもは何時間眠ればよいのか。全米睡眠財団は2015年、12の団体を代表する18人の専門家パネルを開き、睡眠時間に関する研究を評価して、年齢別の推奨時間をまとめている。
もっとも長いのは生まれたばかりの赤ちゃんだ。新生児(生後0〜3か月)は1日14〜17時間、乳児(4〜11か月)は12〜15時間の睡眠が必要とされる。
1〜2歳の幼児で11〜14時間、3〜5歳の未就学児で10〜13時間、そして6〜13歳の小学生・中学生になると9〜11時間が目安になる。
年齢が上がるにつれて、必要な時間は少しずつ減っていく。
14〜17歳の10代でも8〜10時間が推奨される。18〜64歳の大人の推奨は7〜9時間なので、10代には大人と同じかそれ以上の睡眠が求められていることになる。
ただし、これは健康な人のための目安で、必要な時間には個人差がある。
財団は、人によっては範囲の前後1〜2時間でも問題ない場合があるとする一方、推奨から大きく外れた睡眠が続くことは、さまざまな健康問題につながりうると説明している。
10代の睡眠、30年で最悪の水準に
とりわけ深刻なのが、10代の睡眠だ。
2026年に小児科の専門誌『ペディアトリクス』に掲載された、ミネソタ大学のレイチェル・ウィドーム氏とコロンビア大学のノア・クレスキー氏らの研究は、この問題を30年あまりの時間軸で描き出した。
研究チームが分析したのは、アメリカの8・10・12年生(おおむね12〜19歳)に毎年春、学校で回答してもらう「Monitoring the Future」という調査のデータで、1991年から2023年までの計40万1160人分にあたる。
最近10年の10代は、どの年齢でも、それ以前の世代の同じ年齢より、睡眠時間が足りないと答えやすかった。
そして2021〜2023年は、「ほぼ毎日7時間以上眠る」と答えた割合が、どの年齢でも1991年以降で最も低かった。
12〜13歳で37.2%、18〜19歳では22.3%だった。
一方、睡眠が「足りている」と自分で感じる割合は、近年はほぼ横ばいだった。
また、質問の基準は「7時間以上」だが、10代の推奨は8〜10時間なので、著者らは8時間未満でもすでに十分とは言えないと注意している。
格差も広がっていた。1991〜1995年には、7時間以上眠ると答える割合に黒人と白人の生徒で差は無かったが、2021〜2023年には黒人の生徒のほうが低くなっていた。
親のどちらかが大卒の家庭の生徒は、そうでない生徒より7時間以上眠ると答えるオッズが高く、その差は時代とともに広がって、2021〜2023年には57%に達した。
著者らは2015年の前回報告「The Great Sleep Recession(睡眠の大不況)」になぞらえ、いまは「Great Sleep Depression(睡眠の大恐慌)」のさなかにあると書いている。
この傾向は、一つの調査だけのものではない。
アメリカ疾病対策センター(CDC)が高校生を対象におこなう別の調査(YRBS)でも、学校のある夜に8時間以上眠る生徒の割合は、2013年の32%から2023年には23%へと減っていた。
同じYRBSの2007〜2023年のデータを分析した2026年のJAMAの研究レターでは、5時間以下しか眠らない高校生が15.8%から23.0%に増えていた。
調べ方も対象も異なる複数の調査が、そろって同じ方向を指している。

なぜ夜更かししてしまうのか
10代がなかなか早く眠れないのは、本人の「気のゆるみ」だけの問題ではない。論文は、思春期には寝る時間を遅らせようとする周りからの圧力や、学校・友人・家族からの要求が強まると説明している。
起きて活動する時間が増えれば、そのぶん睡眠時間が押し出される。
さらに、多くの10代は決まった時間割に合わせなければならない。とくにアメリカの中学・高校の多くは始業がとても早く、論文は、これが思春期の体内時計とかみ合っていないと指摘している。
論文は、睡眠が減っている原因はおそらく一つではないとしたうえで、社会全体で効く対策として始業時刻を遅らせることを挙げている。
中学・高校の始業を遅らせると10代の睡眠が延び、体内時計のずれや「社会的時差ぼけ」が減ることを示す研究が積み重なっているという。
JAMAの研究レターも、遅い始業は長い睡眠や学業への取り組み、心の健康の改善と関連していたと紹介している。


スマホが眠りを奪ったのか
10代の睡眠が減った理由として、まっさきに疑われるのがスマートフォンだ。ただ、今回の論文はスマホやSNSと睡眠の関係を直接は調べていない。
論文が述べているのは、睡眠が減ってきた時期が、10代がスマホやSNSに使う時間が急に増えた時期と重なる、ということまでだ。
この10年は新型コロナの流行や社会不安など、10代を取り巻く環境も大きく変わっており、著者らはどれも睡眠に影響しうるとしている。
別の角度からの結果もある。JAMAの研究レターでは、睡眠不足の増え方は、長時間のSNSやゲームといったリスク行動の無い生徒でも、同じかそれ以上だった。
1日4時間以上SNSやゲームを使う生徒では、むしろ増え方が小さかった。著者らは、特定の行動よりも、多くの生徒に共通する構造的・環境的な要因が、広い睡眠不足に関わっていると見ている。
ただし一時点ごとの調査なので、因果関係はわからない。
それでも、寝る前の画面の使い方は、家庭で見直しやすい点だ。全米睡眠財団は、寝る前の少なくとも60分を機器を使わない時間にし、家族みんなにとって刺激の少ない時間にするよう勧めている。
画面を使う活動やその内容は頭を活発にし、眠りの妨げになりうるという。
眠らないと何が起きるのか
論文は、10代の睡眠不足が、けがのリスクの増加、実行機能や学業成績の低下、心の不調、さまざまな慢性疾患やその危険因子と関連していると述べている。
親の実感も同じ方向を向いている。全米睡眠財団の調査では、親の86%が、よく眠ると子どもの行動や機嫌がよくなると答え、約7割が、睡眠不足は子どもの機嫌や日中の調子に悪く響くと答えた。
財団の研究・科学担当上級副社長ジョセフ・ジェジェウスキー氏は、子ども時代の睡眠不足は学習の障害や感情の調整の乱れ、長期的な健康への影響と結びついていると述べている。
睡眠不足と、心の健康
睡眠不足が影を落とすのは、体や成績だけではない。心の健康にも、静かに関わってくる。
JAMAの研究レターでは、抑うつ症状があると答えた高校生のうち、7時間以下しか眠っていない生徒の割合が、2007年の76.2%から2023年には84.8%に上がった。
抑うつ症状の無い生徒(66.1%から71.4%)より割合が高く、増え方も大きかった。
ただし、一時点ごとの調査なので、睡眠不足が気分の落ち込みを招くのか、その逆なのかは区別できないと著者ら自身が断っている。
今夜からできること
ここまで見てきたように、子どもと10代の睡眠不足は、複数の調査が同じ方向を示す、確かな流れだ。では、家庭では何ができるのだろうか。
全米睡眠財団がまず勧めるのは、週末も含めて寝る時刻と起きる時刻をそろえることだ。週末の不規則な予定は、その後何日にもわたって体内時計を乱しうるという。
家族それぞれの推奨睡眠時間を知り、それを確保できる予定を組むことも勧めている。
ほかにも財団は、家族で一緒に取り組む習慣として、朝に日光や明るい光を浴びる、1日30分・週5日を目安に体を動かす、正午以降はカフェインをとらない、夕食は寝る2時間以上前にすませる、寝室を涼しく暗く静かに保つ、といった点を挙げている。
カフェインのルールは、子どもに守らせるだけでなく、大人も手本を示すことが大事だという。
夜ふかしって怠けだけのせいじゃなくて、学校の時間割や体の時計も関係してるんだね。今夜は早く寝よ!
そう。原因は一つだけとは限らないから、責めるより家族で工夫するのがいいんだ。まずは週末も同じ時間に寝て起きるところからだね。
参考文献:
Widome R, Kreski NT, et al. Sleep Duration Among US Adolescents, 1991–2023(Pediatrics, 2026, 本文・PMC)
DOI: 10.1542/peds.2025-074933
New Data from National Sleep Foundation Show Nearly Half of U.S. Children Don’t Get Enough Sleep(National Sleep Foundation, 2026年3月5日発表)
How Much Sleep Do You Really Need?(National Sleep Foundation, 年齢別の推奨睡眠時間)
Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations(Sleep Health, 2015)
Bommersbach TJ, et al. Insufficient Sleep Among US Adolescents Across Behavioral Risk Groups(JAMA, 2026, 本文・PMC)
YRBS Data Summary & Trends Report for Dietary, Physical Activity, and Sleep Behaviors: 2013–2023(CDC)









