レオナルド・ダ・ヴィンチの生物学的なルーツを探ろうと、イタリアの研究者たちが膨大な記録を掘り起こしてきた。
レオナルド本人のDNAはまだ手に入っておらず、いま分かってきたのは、彼と血のつながる一族のY染色体の手がかりだ。
30年がかりの家系図づくり
1331年から続く家系図
この家系を調べてきたのは、レオナルドの生地であるトスカーナの小さな町ヴィンチに本拠を置くレオナルド・ダ・ヴィンチ・ヘリテージ協会のアレッサンドロ・ヴェッツォージとアニェーゼ・サバートだ。
二人は30年にわたる研究で、古い記録や公文書から、1331年にさかのぼるダ・ヴィンチ家の家系図を復元した。
家系図は現代まで21世代に及び、登場する人物は400人を超える。そのうちダ・ヴィンチ(ヴィンチ)姓の人物は219人で、男性119人、女性100人だった。
国境を越えて結集した研究者たち
家系図を整えるだけでは、もちろんレオナルドのDNAには近づけない。生物学的な解析を取りまとめているのは、フィレンツェ大学生物学部長のダヴィッド・カラメッリ教授だ。
カラメッリ教授は、法医学人類学者のエレナ・ピッリと協力して、子孫6人のDNAを解析した。
プロジェクトのディレクターは、ロックフェラー大学のジェシー・H・アウスベルだ。
カリフォルニアのJ・クレイグ・ヴェンター研究所やフィレンツェ大学が参加し、ニューヨークやワシントンの財団が支援している。
このDNAプロジェクトが始まったのは2016年だ。
男系の子孫15人
家系をたどり直した結果、レオナルドの父セル・ピエロと異母弟ドメニコ・ベネデットから直接、男系で続く現代の子孫15人が浮かび上がった。
そのうち6人がDNA解析に協力した。
Y染色体で確かめた男系のつながり
Y染色体が父から息子へ伝わる仕組み
Y染色体は、父から息子へほとんど変わらずに受け継がれる。プロジェクトは、この性質を利用してY染色体をたどっている。
15世代を貫く一致
6人の協力者のY染色体を比べたところ、複数のセグメントで一致が確認された。これは、ダ・ヴィンチ家に少なくとも15世代にわたる男系の血筋が続いていることを裏づける結果だ。
ただし、この15人は、レオナルドの父セル・ピエロと異母弟ドメニコ・ベネデットを通じて男系でつながる人たちだ。
キクダ・ヴィンチ家の墓所には、だれが眠っているとされているんだろう?
ヴィンチの教会に眠る骨
家系の追跡と並行して、ヴィンチのサンタ・クローチェ教会では、ダ・ヴィンチ家の墓所を調べる発掘がフィレンツェ大学と協力して進められている。
ここには、レオナルドの祖父アントニオ、叔父フランチェスコ、異母弟のアントニオ、パンドルフォ、ジョヴァンニといった近親者が眠っているとされる。
人類学者のアレッサンドロ・リガとルカ・バケッキが現地で骨片を回収し、一部は放射性炭素年代測定にかけられた。レオナルドの親族と年代が合う1個体は、すでにパレオゲノム解析も受けている。
初期の分析では、この個体は男性とみられている。
カラメッリ教授は「抽出したDNAが十分に保存されているかを判断するには、さらに詳しい分析が必要だ。結果に基づき、Y染色体の断片を現在の子孫と比べる分析に進める」と話している。


レオナルド本人のDNAは復元できるのか
骨のDNAは残っているのか
骨から抽出したDNAがどの程度保存されているかは、まだ確かめられていない。骨のY染色体が現代の子孫と一致すれば、歴史記録と家系の復元を裏づける材料になる。
手稿に残る痕跡の可能性
骨のY染色体が現代の子孫と一致すれば、手稿や作品に残るレオナルド本人につながる生体の痕跡を分析し、DNAの再構成につなげられる可能性もある。
アウスベル氏は「ページに残った小さな指紋ひとつにも、配列を読める細胞が含まれているかもしれない」と話している。
生物学的なルーツを、慎重に読み解く
ヴェッツォージ氏は「レオナルドのDNAを取り戻すことで、並外れた視力や創造性の生物学的なルーツ、さらには健康や死因の一部まで理解できればと考えている」と話している。
ただし、発表で語られているのは、これからDNAを調べる計画と目標であり、レオナルドの才能が遺伝子で説明できたという結果ではない。
30年にわたる成果は書籍『Genìa Da Vinci. Genealogy and Genetics for Leonardo’s DNA』にまとめられ、2026年5月に発表された。
全21章で、歴史・地理・家系の証拠からレオナルドが育った環境を探っている。
本では、ヴィンチの村と城でダ・ヴィンチ家の家が7軒確認され、うち2軒はレオナルド自身が所有していたことが示された。
祖父アントニオがスペインのカタルーニャとモロッコの間を行き来する商人だったことや、母カテリーナが裕福な銀行家に仕える奴隷だった可能性も示されている。
ヴィンチのブラッチ家と呼ばれていた古い建物の暖炉の上では、約80×70センチの木炭画が見つかった。
ヴェッツォージとサバートが『ユニコーンドラゴン』と名づけたこの絵は、らせん状の角や翼、蛇のような尾をもつ空想の生き物を描いており、1470年代の既知の素描との比較から、若き日のレオナルドの作品ではないかとされている。
ただし、さらなる科学的な分析と修復が予定されていて、結論は出ていない。
本は、レオナルド自身が遺伝をどう考えていたかも扱っている。食事や血、親の行動が子に影響すると考えていた可能性があり、エピジェネティクスに通じる発想を先取りしていたかもしれないという。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、およそ500年前の人物です。



レオナルド・ダ・ヴィンチの才能の遺伝子が分かったわけじゃなくて、本人のDNAを調べるのはこれからなんだね。
参考文献:
Vezzosi A, Sabato A. The New Genealogical Tree of the Da Vinci Family for Leonardo’s DNA. Human Evolution, 2021; 36(1-2). DOI: 10.14673/HE2021121077
Human Evolution 原論文(家系研究)
The da Vinci bloodline is unlocking the genius’s genetic secrets(ScienceDaily)








