冥王星には、主に窒素でできた薄い大気がある。
米国の惑星科学研究所(Planetary Science Institute)のアマンダ・シカフーズ氏らのチームは、2017年8月〜2023年7月の10回の星食観測から、その大気圧が下がり始めた可能性を示す結果を得た。
論文は2026年7月31日付で米国天文学会の学術誌The Planetary Science Journalに掲載されている。
2015〜2021年のデータと2022年のデータを比べると、大気の圧力は、ヘイズを含めた下層(高度1215km)で16% ± 2%、晴天成分だけで見た上層寄り(高度1275km)で7% ± 6%低くなっていた。
論文は「最近の圧力の変化を確認するには、さらにデータが必要だ」と書いている。
チームを率いるシカフーズ氏も、研究所の発表で「私たちの研究は、大気が最近になって圧力を下げ始めたことを示唆しています」と述べた。
6年間に10回の星食を観測
共著者には米MITのマイケル・パーソン氏、ローウェル天文台のスティーブン・レヴィン氏のほか、南アフリカ・南米・オーストラリアの観測者らが名を連ねる。
チームが調べたのは2017年8月から2023年7月までに起きた10回の「冥王星による恒星食(stellar occultation)」だ。
そのうち4回はマルチコード観測(複数の望遠鏡が影の帯を横断する形で並び、断面を同時計測)、残り6回は単一地点からの観測だった。
これまでの研究では、冥王星の大気圧は1988年から2016年にかけて増え続けたとされ、その後については、2018〜2019年に凍り始めたという報告と、2020年時点で横ばいという報告があった。
2019年の単一地点の観測から約21%の低下を報告した研究について、今回の論文は、1地点だけの観測では圧力と最接近距離を区別しにくいと指摘している。
今回の観測は、2015年のニュー・ホライズンズの接近から2021年頃までは圧力がほぼ横ばいで、その後下がり始めたらしい、という結果になった。
『星の光がゆらぐ』だけで大気を測る星食観測

そもそも「星食」とは、地球から見て冥王星が遠くの恒星の前を横切る現象だ。大気の無い天体(例えば小惑星)が横切ると、恒星の光は一瞬でパチッと消え、また一瞬で戻る。
ところが冥王星のように薄い大気があると、光はだんだん暗くなり、だんだん明るく戻ってくる。この「ゆらぎ方」を光度曲線として記録すれば、大気の厚みや密度が逆算できる。
シカフーズ氏によれば、冥王星は月の3分の2の大きさで、太陽から地球の30倍遠い。
影の帯を追いかける現地観測
問題は、この「影の帯」が地球上でわずか数キロメートル幅しか通らず、行きにくい場所を通ることも多いことだ。
帯の幅に観測者を並べれば大気の広がりが測れ、帯のすぐ外にも観測者がいれば影の縁が確認できる。
たとえば2022年6月1日の星食は、オーストラリアの3か所で観測が試みられた。
うち2か所(西オーストラリア州の施設と、クイーンズランド州チラゴー近くのサバンナ・スカイズ観測所)でデータが得られ、もう1か所は厚い雲で観測できなかった。
サバンナ・スカイズでは複数の望遠鏡を使った。
下層の圧力は2022年に16%低かった

チームが得た数字を整理すると、比較の基準は「2015〜2021年に取得したデータの平均」対「2022年のデータ」だ。
晴天成分だけで見た高度1275kmの大気圧は、2.04±0.06マイクロバールから1.90±0.10マイクロバールへ、7%±6%減った。
誤差幅が広く、これ単体では「変化なし」も否定しにくい。なお、この7%の値は、品質の低い3回の観測を除いて求めている。
一方、ヘイズ(有機物のもや)を含めた高度1215kmの圧力は、6.17±0.01マイクロバールから5.20±0.10マイクロバールへ、16%±2%減った。
ただし論文は、圧力の変化が見えるかどうかは、どの高度の圧力を使い、どう当てはめるかで変わると断っている。
2022年6月1日の質の高いデータが、2022年の値を以前より低い側に位置づけているとも述べており、低下の判断は特定の観測の比重が大きい。
論文によれば、2017〜2023年を通じて上層大気の構造は変わらず、下層で光度曲線の傾きが変わっていた。2022年の傾きがもっとも緩やかだった。
論文は「この傾きの変化は、ヘイズ粒子が1年以下の時間スケールで沈降していることと整合的だ」としている。
論文が引く値では、ヘイズ粒子が下層の大気を沈む時間は、粒子の大きさによって約10〜400日だ。
さらに、2018年8月15日の観測の光度曲線には、スパイク状のゆらぎが3つ見つかった。論文は、これを大気の中を上へ伝わる浮力波によるものと結論している。
波長は1.0〜3.5kmと見積もられた。

冥王星の軌道と大気の関係
なぜ大気圧が変わるのか。背景には冥王星の軌道がある。冥王星は約248年かけて太陽を1周する。軌道は楕円で(離心率は約0.25)、自転軸の傾き(赤道傾斜角)は約122度と大きい。
この2つが組み合わさることで、冥王星が受け取る日射量は冥王星の1年を通して大きく揺れ動く。
直近で太陽に最も近かった近日点通過は1989年で、この前後10年は冥王星が海王星よりも太陽に近い位置にいた。
1989年以降、冥王星は太陽から離れつつあり、次に遠日点に達するのは2114年、太陽から約49天文単位(約73億km/46億マイル)先だ。
論文によれば、冥王星の大気は主に窒素で、メタンや一酸化炭素などもわずかに含み、地表の氷と「蒸気圧平衡」でつながっている。
冥王星が太陽から遠ざかって冷えると、窒素を多く含む大気は凝結して地表の霜になると予想されている。逆に再び温まれば、地表の窒素の霜が昇華して大気が厚くなる。
比べると分かる大気の薄さ
NASAのNew Horizons探査機が2015年7月に至近距離で計った冥王星の大気圧は約10マイクロバール。
地球の海面気圧はおよそ1バール(NASAの地球ファクトシートでは1014ミリバール)だから、およそ10万分の1という薄さだ。
表面温度はおよそ-230℃で、上層大気はやや暖かいおよそ-203℃だ。
New Horizonsが去った後、地球の望遠鏡が主役に

2015年のフライバイ以降、New Horizonsはカイパーベルトの奥へ去り、冥王星を至近で調べる手段はいったん途絶えた。
それ以降の変化を追えるのは、今回のような地上からの星食観測だ。

大気は本当に消えるのか、それとも戻ってくるのか
今後どうなるか。理論モデル(揮発性輸送モデル)の予測は、今後数十年で大気が崩壊するというものから、大気が残るというものまで大きく割れている。
今回の観測は、どちらかに決着をつけるものではない。シカフーズ氏は「今後数年から数十年のうちに、この傾向を確かめるか否定するデータを、さらに集められることを期待しています」と述べている。
先行研究のモデルでは、通常の品質の観測で圧力の低下を検出できるのは2020年代後半になってからとされ、観測の継続が必要だ。
仮に大気の一部が地表に凍りついても、大気がなくなるとは限らない。冥王星は2114年に遠日点を通過したあと、再び太陽に近づき始める。
遠日点に達する時点でも大気は完全には凍りついていないと考えられており、その後は太陽からの熱が少しずつ増えて、窒素の霜が昇華し、大気が再び厚くなるとされる。
論文の序論も、スプートニク平原の窒素の氷などがあるため、大気は軌道を通じて保たれる可能性が高いとする先行研究を挙げている。
大気の圧力が下がり始めたかもしれないんだ! 季節が変わればまた戻るの?
そうなんだ。冥王星は太陽のまわりを248年かけて回るから、大気の変化もゆっくりなんだ。2114年に太陽から一番遠くなったあとは、また近づいて、大気が厚くなっていくと考えられているよ
参考文献:
一次ソース: Sickafoose, A. A. et al., Changes in Pluto’s Atmosphere Based on Stellar Occultation Data from 2017 to 2023(The Planetary Science Journal, 2026年7月31日)DOI:10.3847/psj/ae6cdd
論文本文(オープンアクセス): IOPscience
研究機関: 惑星科学研究所(Planetary Science Institute, 米アリゾナ) / 二次ソース: Space.com










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