カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)や食品大手マース社などのチームが、2023年に学術誌『Food & Function』で発表した実験だ。
調べたのは、スムージーに入れる果物によって、フラバノールの血液への入り方が変わるかどうかだ。
参加者は健康な男性で、最初の実験は8人(スムージーを飲み終えたのは各6人)、追加実験は11人と小さい。
そもそもフラバノールって何がすごいの
心臓や脳との関わりが研究されている
フラバノール(flavan-3-ols)は、植物が作り出す天然成分だ。ブルーベリーやブラックベリー、ブドウ、リンゴ、洋ナシ、それにカカオやお茶にも含まれている。
ポリフェノールと呼ばれる大きな成分グループの一員でもある。
この成分は、血の流れ、血圧、コレステロール、血糖値、脳の働きへの効果が研究されている。
目安は1日400〜600mg
アメリカの栄養と食事のアカデミー(Academy of Nutrition and Dietetics)は、心臓や代謝の健康のために1日400〜600mgのフラバノールをとることをすすめている。
ただし、そのエビデンスの強さは「中程度」とされている。
サプリではなく、食べ物から自然にとるのが基本だという考え方だ。
カカオから抽出したフラバノールを1日500mgとったCOSMOS関連の研究では、全体としては幅広い認知機能の改善は示されなかった。
ふだんの食事の質が低めの高齢者で、効果の可能性を示した解析もある。
果物が茶色くなる「あの酵素」の正体
カギを握るのはポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素だ。名前はむずかしいが、その正体は誰もが見たことのある現象の主役である。
リンゴを切ってしばらく置くと、断面が茶色くなる。バナナの皮をむいて放っておくと黒ずんでくる。あの「茶色くなる反応」を起こしているのがPPOだ。
果物が切られたり、つぶされたり、空気に触れたりすると、この酵素が働き出す。
このときPPOは、果物にもともと含まれているポリフェノール(フラバノールもその仲間だ)を、空気中の酸素と結びつけて別の物質に変えてしまう。
茶色い色はその変化のしるしであり、同時に、本来とれるはずだったフラバノールが姿を変えて減ってしまうことも意味する。
筆頭著者のハビエル・オッタビアーニ氏は、研究の狙いをこう説明している。
「ごく実用的なレベルで、バナナ入りスムージーのような身近な食品や調理が、摂取後に吸収されるフラバノールの量にどう影響するかを知りたかった」。
氏はマース社の研究部門マース・エッジのコア研究所長で、UC Davis栄養学部の客員研究員でもある。
調べてみると、実験に使ったスムージーのPPO活性は、バナナが8926 IU/mL、ミックスベリーが96 IU/mLで、およそ90倍の差があった。
バナナのスムージーに加えたエピカテキン(フラバノールの一種)は、作ってから約10分で半分になった。PPOの働きを抑える薬品を加えると減り方が小さくなり、減った原因がPPOだと確かめられた。
キクリンゴが茶色くなるのと同じPPOって酵素のせいで、バナナのスムージーの中でフラバノールが減っちゃうんだね
血中のピークが84%低かった
実験では、25〜60歳の健康な男性に、別々の日に3種類のものを飲んでもらった。バナナのスムージー、ミックスベリーのスムージー、そして基準となるフラバノールのカプセルだ。
どれもココア抽出物を加え、エピカテキンの量をそろえてある。
バナナのスムージーは、バナナとアーモンドミルクだけで作った。ベリーのスムージーは、イチゴ、ブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリーにヨーグルトなどを加えた。
ベリーのスムージーにバナナを足して比べたのではなく、別々のスムージーを比べている。
そのあと6時間にわたって血液を採り、フラバノールが体内で変化した代謝物の濃度を測った。尿の分析は、追加実験だけで行われた。
全員が3種類を別の日に試すクロスオーバー方式だが、順番は無作為ではなかった。スムージーを飲み終えたのは各6人で、カプセルは8人だった。
目隠し(マスキング)されていたのは、データを分析する研究者の側だ。
結果は、バナナのスムージーでだけ大きく下がった。
血液中のフラバノール代謝物の濃度のピーク(Cmax)は、カプセルで680 nmol/L、バナナのスムージーで96 nmol/Lと、84%低かった。
6時間の合計(AUC)でも81%低かった。
一方、PPOの弱いミックスベリーのスムージーは、ピークが659 nmol/Lで、カプセルとほぼ同じだった。
「バナナを1本加えるだけで、スムージー中のフラバノールの量も、体に吸収されるフラバノールの量も、これほど速く下がることには本当に驚きました」。
オッタビアーニ氏はこう話している。



バナナを混ぜずに別々に飲んだら、フラバノールは減らずにすむのかな?
混ぜずに飲んでも減った
追加実験(11人)では、フラバノールを入れた飲み物と、バナナだけの飲み物を別々に作り、一口ずつ交互に飲んでもらった。
バナナとフラバノールが口に入る前に触れ合わないようにするためだ。比べる基準は、バナナなしでフラバノールだけの飲み物だった。
それでも、6時間の合計(AUC)は37%低く、尿に出た代謝物も41%と38%少なかった。ただしピーク(Cmax)の差は、統計的に有意ではなかった。
著者らは、PPOが胃の中でも働く可能性を考えている。胃の条件(pH3、ペプシン、37度、2時間)を試験管で再現すると、バナナのスムージーのPPO活性は68%残り、エピカテキンは28%減った。
人の胃の中で確かめたわけではない。


研究者がすすめる組み合わせ
この研究にはマース社が関わっている。同社は論文で、フラバノールに長年の研究上・商業上の関心をもつ会社と書かれている。
筆頭著者のオッタビアーニ氏は同社の社員で、著者9人のうち3人が社員だ。研究費も、マース社の無条件の研究助成でまかなわれた。
ここからは研究者の見解だ。オッタビアーニ氏は、ベリーなどフラバノールの多い果物には、PPOの働きが弱い食材を組み合わせることをすすめている。
今回の実験で比べたのは、バナナのスムージーと、ヨーグルトを加えたミックスベリーのスムージーだ。
具体例として、パイナップル、オレンジ、マンゴー、ヨーグルトを挙げている。これらなら、スムージーを甘くなめらかに保ちつつ、PPOの強いバナナを入れずにすむという。
発表では、ベリーやブドウ、カカオを主役にするなら、バナナは抜くか別に食べるほうがよいとされている。
バナナは「悪者」じゃない
ここで大事なのは、バナナそのものが体に悪いわけではないということだ。バナナには食物繊維やカリウムなど、体にうれしい栄養がしっかり入っている。
今回の話はあくまで「ベリーやカカオのフラバノールを最大限に届けたいなら」という条件つきの話だ。
クリーミーさや甘さ、カリウムがほしいときはバナナを、フラバノールをしっかりとりたいときはベリーと低PPO食材の組み合わせを。
そんなふうに目的で使い分ければいい。この研究にコメントした栄養の専門家たちも、過剰に反応しないよう呼びかけている。
オッタビアーニ氏は、フラバノールの主要な供給源であるお茶も、いれ方によって吸収できる量が変わりうると述べている。
「これは確かに、ポリフェノールや生理活性物質の分野全体で、もっと注目されるべきテーマです」。
この研究は小規模で、条件も限られている。参加者は25〜60歳の健康な男性で、女性は含まれていない。
また、フラバノールはココア抽出物として飲み物に加えられていた。論文の著者も、果物にもともと含まれるフラバノールとは、PPOとの反応のしかたが違う可能性を限界として挙げている。
誰にでも同じことが当てはまると言い切るには、もっと多く・多様な人を対象にした研究で確かめる必要がある。
「84%低かった」という数字は、限られた条件での一つの結果だ。



バナナが悪いわけじゃなくて、ベリーのフラバノールを生かしたいときは、バナナを別に食べればいいんだね
参考文献:
Ottaviani, J.I., et al. (2023). 『Impact of polyphenol oxidase on the bioavailability of flavan-3-ols in fruit smoothies』. Food & Function, 14, 8217-8228. DOI: 10.1039/D3FO01599H
論文本文(レディング大学リポジトリ、オープンアクセス)
PubMed
Surprising research reveals why you shouldn’t add bananas to your smoothies (ScienceDaily)









