サーモン、ライ麦パン、森で摘んだベリー。北欧の食卓を思い浮かべると、こうした素朴な食材が並ぶ。
この「北欧式の食事」を忠実に守っている人ほど、調査期間中に亡くなるリスクが低かった——そんな研究結果を、デンマークのオーフス大学のチームが2025年に発表した。
研究チームは、スウェーデンの女性の研究集団と男性の研究集団をあわせた76,122人の食生活を、中央値で18.8年にわたって追跡した。
その間に30,142人が亡くなった。北欧5カ国が定めた最新の食事指針にどれだけ近い食べ方をしているかを点数にして、その点数と死亡リスクの関係を調べたのだ。
結果はThe Journal of Nutrition誌に掲載されている。
そもそも「北欧式の食事」って何を食べるの?

主役は全粒穀物と脂ののった魚
研究が基準にしたのは、北欧栄養推奨2023(NNR2023)という食事指針だ。デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの5カ国が共同で作っている。
2023年版の大きな特徴は、健康だけでなく地球環境への負荷まで考えて設計された点にある。
推奨される食材の筆頭は全粒穀物だ。ライ麦パンやオーツ麦、大麦といった精製されていない穀物を、しっかり食べることが勧められる。
もう一つの主役が魚で、サーモンやニシン、サバなど脂ののった魚を定期的にとることが望ましいとされる。これらの魚に多いオメガ3脂肪酸は、心臓や血管の健康に関わる成分として知られている。
野菜と果物、ベリーはたっぷり。赤身肉は控えめに
野菜と果物、豆類もたっぷりとるのが基本だ。北欧らしい食材として、ブルーベリーやリンゴンベリー、クラウドベリーといったベリー類も欠かせない。
スウェーデンには、森で誰でもベリーやきのこを摘んでよい「自然享受権」という古い権利があり、ベリーは生活に深く根づいた食材だ。
逆に、牛肉や豚肉といった赤身肉、ソーセージなどの加工肉、砂糖の多い飲み物やお菓子は控えめに、というのがこの指針の考え方になる。
魚・全粒穀物・野菜を増やし、赤身肉と甘いものを減らす——ざっくり言えば、そういうシンプルな食べ方だと考えてよい。
「23%減」はどうやって導かれたのか

15項目を採点して、適合度を数値にした
研究チームは、参加者の食事を15項目の指標で採点した。全粒穀物や魚、野菜・果物をどれだけとっているか、赤身肉や加工肉をどれだけ抑えているか、といった項目だ。
ここで面白いのは、各項目が「食べている・いない」の2択ではなく、0点から1点までの連続した点数で評価されている点だ。
指針に近づくほど少しずつ点が入る仕組みで、控えるべき食品を推奨量の上限の2倍とると、その項目は0点になる。
そして、合計点が10点を超えるグループと8点未満のグループを比べたところ、高スコア群は追跡期間中に亡くなるリスクが23%低かった(ハザード比0.77)。
この差は、年齢・性別・喫煙・運動量・教育レベルといった他の要因を統計的に調整した後も残った。
死因を分けて見ると
死因ごとに分けても、傾向は共通していた。
北欧式に近い食事の人は、心血管の病気で亡くなるリスクが23%(ハザード比0.77)、がんで亡くなるリスクが17%(ハザード比0.83)、それぞれ低かった。
ただし、がんの死亡との関連は、中くらいの点数で頭打ちになっていた。
もう一つ、この研究には見逃せない分析がある。
「調査開始時の一度きりの食事」ではなく、1997年、2009年、2019年の食事の平均で見直すと、高スコア群の死亡リスクは62%低く(ハザード比0.38)、関連はさらに強く出た。
また、始めた時点で糖尿病のない人のほうが、糖尿病のある人より関連が強かった。ただし、これらは後で触れる理由から、慎重に受け止めたい数字だ。
なぜ、この食べ方が体を守るのか

食物繊維は「腸内細菌のエサ」になる
では、なぜ全粒穀物や野菜、魚を中心にすると体にいいのか。近年の研究は、その仕組みをかなり具体的に描き出している。
まず全粒穀物や豆類に多い食物繊維。これは人間の消化酵素では分解できないが、腸にすむ細菌にとってはごちそうだ。細菌が繊維を発酵させると、短鎖脂肪酸という物質が作られる。
その一つ、酪酸は腸の壁の細胞のエネルギー源になり、腸のバリアを丈夫にし、さらに全身のくすぶった炎症(TNF-αなどの炎症物質)を鎮める働きまで持つ。
加えて短鎖脂肪酸は、血糖や満腹感を整えるホルモン(GLP-1など)の分泌をうながすことも分かっており、食後の血糖の乱高下をやわらげる助けにもなる。
実際、全粒穀物を1日90グラム増やすごとに死亡リスクが下がるという大規模な解析結果もある。「消化できないカス」と思われがちな繊維が、腸内細菌を介して全身の健康を支えているのだ。
魚の脂は「炎症の消火係」
脂ののった魚に多いオメガ3脂肪酸にも、はっきりした役割がある。
かつて炎症は「自然に収まるもの」と考えられていたが、実はオメガ3から作られる特別な物質が、炎症を能動的に「オフ」にする消火係として働くことが分かってきた。
一方で、赤身肉や加工肉を控える理由も見えてきている。
赤身肉に多い成分を腸内細菌が代謝すると、TMAOという物質ができ、これがコレステロールの排出を妨げて動脈硬化を後押しすることが報告されている。
加工肉にいたっては、世界的ながん研究機関が「ヒトに発がん性がある」と分類しており、1日50グラム(ホットドッグ1本ほど)の摂取ごとに大腸がんのリスクが約18%上がるという推計もある。
増やす食材にも、減らす食材にも、それぞれ体の中で起きる理由があるのだ。

「寿命が延びる」と言い切れない理由

これは「観察」であって「実験」ではない
ここが一番大事なところだ。この研究は、大勢の人の食事と健康を長期間観察した研究(前向きコホート研究)であって、「北欧式を食べさせたグループと食べさせないグループ」を作って比べた実験ではない。
だから正確に言えるのは「北欧式に近い食事の人は、死亡リスクが低い傾向がある」までだ。「北欧式を食べれば寿命が延びる」と因果関係を言い切ることはできない。
たとえば、健康志向の高い人はもともと食事に気を配り、同時に運動や睡眠にも気を配っているかもしれない。統計で調整しても、食事以外の生活習慣の影響を完全には切り離せないのだ。
デンマーク・オーフス大学のクリスティーナ・ダム准教授らも、あくまで「関連」として結果を報告している。
それでも注目される理由
それでも、76,000人・18年という規模で一貫した関連が見られたことには意味がある。
この観察研究とは別に、北欧食を実際に食べてもらう介入試験(SYSDIET試験、2013年報告)もあり、メタボリックシンドロームの人でコレステロールや炎症の指標が改善したと報告されている。
複数の角度からの証拠がそろってきており、決定的な証明とまでは言えないものの、「魚と全粒穀物と野菜を増やし、赤身肉と甘いものを減らす」という方向性が、健康にとって悪い賭けではなさそうだ、という手がかりにはなる。
完璧を目指す必要はなく、点数が少しずつ入る設計が示すように、近づくだけでも意味があると考えるのが現実的だろう。
満点を取れた人は、一人もいなかった
この研究の採点方法には、示唆に富む事実がある。
北欧食スコアは15の項目からなり、全粒穀物、脂ののった魚、野菜・果物・ベリーなどは多めに、赤身肉や加工肉、甘い飲み物などは控えめに、というそれぞれの目安量が決められている。
興味の尽きないのは、7万人を超える参加者の中で15点満点を取れた人は一人もいなかったという点だ。点数の中央値は女性が9.5点、男性が8.9点だった。
つまり誰もが「完璧な北欧食」など食べていない。それでもスコアが高い人ほどリスクが低かったのだから、目指すべきは満点ではなく、今より少し近づくことだと分かる。
各項目は「守れたか、守れないか」の白黒ではなく、近づくほど少しずつ点が入る連続的な仕組みになっている。この設計そのものが、「完璧を目指さなくていい」というメッセージを含んでいるのだ。

日本の食卓でも実践できる?
青魚も全粒穀物も、実は和食と相性がいい
北欧式食事の考え方は、日本の食卓にも意外と落とし込みやすい。全粒穀物は玄米や雑穀米で代えられるし、魚はもともと和食の主役だ。
サバやイワシ、サンマといった青魚は、サーモンと同じようにオメガ3脂肪酸が豊富に含まれる。
野菜も、小鉢を組み合わせる和食の文化とは好相性だ。ほうれん草のお浸し、きんぴらごぼう、酢の物といった副菜を数品そろえれば、無理なく量を稼げる。
ベリー類は日本では手に入りにくく割高だが、抗酸化物質という観点なら緑茶や海藻、納豆などの発酵食品も候補になる。
旬の果物やきのこ、豆類をこまめに取り入れれば、北欧の食卓に無理なく近づけるはずだ。
北欧そのものを再現するより、「魚・全粒穀物・野菜を増やし、赤身肉と甘いものを減らす」という骨格を借りるのが現実的だ。
北欧の食材じゃなくても、青魚と玄米と野菜でいいんだね。それなら今日からできそう!
その通り。しかも「完璧じゃなくても近づくほど点が入る」研究だったろう? 全部やろうと気負わず、まず魚を一品増やす。
そこから始めればいいんだよ。
参考文献
Mørch AB, Ibsen DB, Wolk A, Dahm CC, et al. 『Development of the Nordic Nutrition Recommendations 2023 Food-Based Diet Score and Its Association with All-Cause Mortality in Two Swedish Cohorts』 The Journal of Nutrition, 2025. DOI: 10.1016/j.tjnut.2025.06.030
論文本文(オープンアクセス): PMC12799448
ScienceDaily (2026-02-13): This planet friendly diet could cut your risk of early death by 23%









