「うちの子は、どうしてこんなに夜更かしをするのか」——そう頭を悩ませる親は多いだろう。中学生や高校生になったとたん、夜はなかなか寝つかず、朝は起こしても布団から出てこない。
つい「だらしない」と叱りたくなる。だがその夜型は、意志の弱さのせいではないかもしれない。
2026年に米国で発表された2つの大規模調査は、10代の睡眠不足が増え続けていることを示した。
その要因の一つが、思春期に起きる体内時計の変化だ。ただし、それだけで説明できるわけではない。
思春期に体内時計がずれる
眠くなる時刻が後ろへずれる
10代の夜更かしを理解する鍵は、体内時計にある。思春期には、その時刻が後ろへずれることが知られている。
思春期が進むと、体内時計の位相が後ろへずれる(位相後退)。当初は本人の申告から推測されたが、のちに唾液中のメラトニンを使った客観的な測定でも確かめられた。
メラトニンは、分泌が始まる時刻が体内時計の位相を測る目印として使われる。
なぜずれるのかは、まだ決着していない。体内時計の周期が思春期に長くなる説と、光への反応が変わる説が検討されてきた。
ただ、年長の10代で光への感受性を測った最近の研究は、後者を支持していない。
眠気のたまり方も変わる。年長の10代では、起きている間に眠気(睡眠圧)がたまる速さがゆっくりになり、夜遅くまで起きていられる。
一方、たまった眠気が解消される速さは思春期を通じて変わらず、必要な睡眠時間は約9.25時間のまま安定しているという。
夜更かしは意志だけの問題ではない
10代の夜更かしは、意志の弱さだけでは説明できない。体内時計の後退や眠気のたまりにくさに加えて、学校、友人、家庭からの要求が増えることや、親が決める就寝時刻の影響が弱まることも重なる。
研究者はこの組み合わせを、パーフェクトストームのモデルと呼んでいる。
キク10代の夜更かしって、体内時計が後ろへずれることに、学校や友だちの事情まで重なって起きてたんだ。
7時間以上眠れる10代は30年で最少に
調査が示す睡眠の悪化トレンド
2026年に医学誌Pediatricsに載った論文は、米国の10代の睡眠が30年あまりかけて減ってきたことを示した。
ミネソタ大学やコロンビア大学などのチームが、全米の8・10・12年生(日本の中学2年から高校3年にあたる)を対象にした学校調査モニタリング・ザ・フューチャーの1991〜2023年のデータ、約40万人分を分析した。
質問は、7時間以上眠る日がどのくらいあるかと、必要な睡眠をとれているかの2つで、どちらも自己申告だ。
2021〜2023年は、すべての年齢で、ほぼ毎日7時間以上眠る生徒の割合が過去最低だった。その割合は、12〜13歳で37.2%、18〜19歳で22.3%にとどまる。
年齢が上がるほど低かった。
JAMAに載った別の研究(Bommersbachら)は、全米の高校生を対象にしたYouth Risk Behavior Surveyの2007〜2023年のデータ、12万950人を分析した。
平日の睡眠が7時間以下の生徒は68.9%から76.8%に、5時間以下の生徒は15.8%から23.0%に増えた。
6〜7時間の割合はほぼ変わらず、増えたのは短い側だった。
どちらも因果までは示せない。JAMA論文は横断研究で、睡眠は自己申告だ。Pediatrics論文の調査は、学校のある日と休日を区別していない。
スマホやSNSの利用が同じ時期に増えたことには触れているが、睡眠への影響を直接調べたものではない。
睡眠の格差も広がっている
Pediatrics論文は、人種や親の学歴による差が広がったことも報告している。1991〜1995年には、黒人と白人の生徒で7時間以上眠る割合に差がなかった(オッズ比0.99)。
2021〜2023年には、黒人の生徒のほうが低くなった(同0.79)。
親が大卒の生徒が7時間以上眠るオッズは、そうでない生徒の1.18倍(1991〜1995年)から1.57倍(2021〜2023年)に開いた。
論文は、こうした差を因果として解釈してはいけないとしている。
学校の始業時間という大きなミスマッチ
10代の睡眠不足には、学校の始業時刻も関わるとされる。Pediatrics論文は、米国の多くの中等学校の始業がとても早く、思春期の体内時計と合っていないと指摘している。
始業が午前8時25分から7時20分に早まった学区で、9年生と10年生を比べた研究がある。生徒の就寝時刻は変わらず、起床だけが早まって睡眠時間が減った。
メラトニン分泌の開始時刻は、10年生のほうが9年生より40分遅かった。



始業を遅らせたら、生徒が平日に眠る時間は本当に延びるのかな?
始業を遅らせるという試み
米国小児科学会は2014年の政策声明で、午前8時30分より前の始業が、睡眠不足と体内時計の乱れの主要な要因だと指摘した。
そのうえで、中学と高校に、生徒が8.5〜9.5時間の睡眠をとれる始業時刻を求めている。
ミネソタ州の高校の生徒455人を追った研究(JAMA Pediatrics、2020年)では、始業を遅らせた学校の生徒は、変えなかった学校の生徒より、平日の夜の睡眠が2年後に平均43分(95%信頼区間25〜61分)長かった。
就寝時刻には差がなかった。
38件の研究を整理したレビューは、始業を遅らせると平日の睡眠が少なくとも30分延び、出席の改善、遅刻の減少、成績の改善とおおむね対応すると結論している。
ただし成績の評価は、採点や試験が学校ごとに違うため難しいとも述べている。


週末の寝だめでは回復しきれない


平日の睡眠不足を再現した実験
平日に睡眠不足がたまり、週末にまとめて眠る。この生活を実験室で再現した研究がある。
15〜19歳の男子57人が、3晩は寝床にいられる時間を5時間に制限され、続く2晩は9時間まで眠れるようにされた。
この組み合わせを2回繰り返した。
昼寝をしなかった群では、持続的な注意、作業記憶、処理速度が段階的に低下し、2晩の回復睡眠のあとも元の水準に戻らなかった。
午後の1時間の昼寝は低下を和らげたが、なくせなかった。
対象は男子57人で、実験室での結果だ。実際の10代の週末の睡眠を調べたものではない。
始業の遅れと週末の睡眠
ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)は、普段の睡眠と覚醒の予定が体内時計とずれ、時差ぼけに似た状態になることを指す。
始業が遅れると、これを避けやすくなると論文は述べている。ミネソタ州の研究では、始業を遅らせた学校の生徒は、週末の夜の睡眠が2年後に平均34分短かった(95%信頼区間は-65〜-3分)。
著者らは、平日に眠れるようになり、週末に取り戻す必要が減ったことを示す結果だと見ている。
スマホの影響は、まだ決着していない


夜の光と体内時計
夜の光は、体内時計を後ろへずらす。夜の前半に目に入った光は体内時計を遅らせ、睡眠の後半から起床直後の光は進める。
年長の10代は夜遅くまで起きていられるので、夜に光を浴びる機会が増える。
画面の光も無関係ではなさそうだ。1.5時間以上画面の光を浴び続けると、体内時計と眠気の仕組みに影響して、夜の覚醒を強める可能性を示す証拠が増えている。
影響は大きくないという結果もある
ただし、影響の大きさには議論がある。就寝前の1時間に明るい画面を避けても、メラトニンの自然な上昇が目立って弱まったり、その後の睡眠が大きく変わったりすることは、まだ示されていない。
2件のメタ分析がある。スマホやタブレットなど持ち運べる機器に限ると、睡眠不足との関連は2倍になるが、すべての機器を合わせると、睡眠時間との関連は小さい。
睡眠を削る要因として、Pediatrics論文は、学校、友人、家庭からの要求が増えることを挙げている。
JAMA論文の著者らは、電子メディアの利用、薬物使用、運動不足といった行動のリスクがない生徒でも、睡眠不足が同じかそれ以上に増えたと報告した。
このことから、特定の行動より、多くの10代に共通する構造的・環境的な要因が睡眠を削っていると考えている。



睡眠が削られるのはスマホひとつのせいじゃなくて、多くの10代に共通する環境の要因もあると考えられてるんだ。
体の変化と環境の両方を見る
対策は始業時刻の見直しから
ここまでの要点を整理する。思春期には体内時計が後ろへずれ、眠気もたまりにくくなるが、必要な睡眠時間は約9.25時間のまま変わらない。
一方、米国では早い始業の学校が多く、7時間以上眠れる10代の割合は過去30年あまりで最低になっている。
Pediatrics論文の著者は、10代の睡眠が減った原因は複数あると見ている。そのうえで、集団全体に効く対策として、始業時刻の変更を挙げている。
参考文献:
Sleep Duration Among US Adolescents, 1991–2023 (Widome et al., Pediatrics 2026)、論文本文(PMC)
Insufficient Sleep Among US Adolescents Across Behavioral Risk Groups (Bommersbach et al., JAMA 2026)
An update on adolescent sleep: New evidence informing the perfect storm model (Crowley et al., J Adolesc 2018)
School start times for adolescents (AAP, Pediatrics 2014)
Association of Delaying School Start Time With Sleep Duration, Timing, and Quality Among Adolescents (Widome et al., JAMA Pediatr 2020)
ミネソタ大学のプレスリリース
出典: University of Minnesota / Columbia University ほか









