今回の主役は、モンタナ州北東部のHell Creek Formationという化石地層で拾われた、一見どこにでもある茶褐色の小石だ。
実はこれは白亜紀末の中型の獣脚類恐竜が排泄した化石フン、いわゆるコプロライト(糞石)だった。
中に閉じ込められていた微小な羽毛を、シカゴのフィールド自然史博物館のJingmai O’ConnorらのチームがCTスキャンでほどいて調べ、2026年9月、学術誌Current Biologyに結果を発表した。
羽毛の形が、鳥類が小惑星衝突を生き延びた謎に新しい光を当てるかもしれない。
キクフンの化石から羽毛が見つかるのって、どうしてそんなにびっくりすることなんだろう?
ゴルフボール半分の「変な石」から始まった
発見は2016年、ワシントン大学バーク自然史博物館の研究員David DeMar Jr.によるフィールドワーク中の出来事だった。
もともとは魚の化石を採集していた最中、ごつごつした露頭を這い上がっていて、ふと目に留まった小さな塊があった。半分に割れた面に、細い羽毛らしき筋が浮き出ていたのだ。
大きさはゴルフボールの半分ほど、色は赤みがかった茶色。Hell Creek Formationは長く化石が掘られてきた地層だが、それでも羽毛の実物は見つかっていなかった。
DeMar本人が「ルーペで表面を見て、小さな羽毛の化石が目に入ったときは、自分の目が信じられなかった」と語っているように、常識的にはあり得ない拾い物だった。
羽毛は柔らかい構造をしているため、化石になる前に分解されてしまうことがほとんどで、Hell Creek級に有名な地層でも滅多に姿を現さない。
研究チームはこの石をコプロライトだと当たりを付け、割らずに中を見るためCTスキャンにかけた。
CTスキャンは何千枚ものX線画像を組み合わせて内部を3Dで再構成する技術で、医療現場では体の中の腫瘍を見つけるのに使われるものだ。
同じ機械を、今度は6600万年前の「うんち」に使ったわけだ。
共著者Nate Carrollは「琥珀の中の羽毛より保存状態がよかった」と手放しで驚いており、化石フンという素材の潜在力を強く示した例になっている。
USCの医療用CTが化石の内部を暴いた


スキャンは南カリフォルニア大学の医療キャンパスにあるマイクロCTで行われた。
共著者のNate Carrollによれば、データを処理するたびに新しい羽毛、鱗、骨が次々と姿を現し、「一時間ごとに別の何かが見えてくる」状態だったという。
石の内部は、想像していたよりずっと「にぎやか」だった。
CTデータが最終的に映し出したのは、複数枚の羽毛、淡水魚ガー(gar)の細かな鱗、そしてヘスペロルニス目(Hesperornithiformes)と呼ばれる水鳥の脚の骨だった。
羽と骨が同じフンの中に一緒に入っていたことから、羽の持ち主もこの水鳥だと考えられている。小さなガーの鱗は、この水鳥が最後に食べたものと考えられている。
コプロライトを排泄した張本人、つまり犯人側の恐竜は特定できていないが、論文はフンの主を中型の獣脚類としており、研究チームは若いティラノサウルス・レックスか、近縁のナノティラヌスではないかとみている。
要するに、白亜紀末の食物連鎖の一場面が、まるごと固まって残っていた形だ。
共著者でワシントン大学のGreg Wilson Mantillaは、大型恐竜のフンの中から鳥の羽毛が見つかったことで「6600万年前の捕食者と被食者の関係をのぞく、またとない窓が開いた」と語る。
鳥の化石、まして羽毛そのものはめったに残らないぶん、当時の生態系を垣間見る手がかりとしても価値が高いという。
コプロライトから出てきたのは「潜水する鳥」
羽の主のヘスペロルニス目は、聞きなれない名前かもしれないが、生態としては現代のアビ(loon)によく似た潜水性の水鳥だ。
大半の種は飛ぶのを捨てて足を使って水中を泳ぎ回り、魚を捕まえていたと考えられている。ヘスペロルニス目の脚は潜水に特化した頑丈なつくりで知られる。
ここで問題になるのが、白亜紀末の鳥類の系統関係だ。当時の空を最も広く支配していたのはエナンティオルニス類(Enantiornithes)という、現代の鳥とは別系統のグループだった。
これに対し、いま地球にいるスズメもハトもニワトリも、すべてNeornithesと呼ばれる一系統から派生している。
ヘスペロルニス目はそのどちらでもない第三の枝で、Neornithesに近い親戚に当たる。
鳥類の最古の代表格始祖鳥(Archaeopteryx)が現れたのがおよそ1億5000万年前だから、そこから数えるとNeornithesまでは驚くほど長い試行錯誤の連鎖があったことになる。
そして白亜紀末の大量絶滅で、エナンティオルニス類もヘスペロルニス目も丸ごと消えた。残ったのはNeornithesだけ。
この生き残りと絶滅のふるい分けが何によって決まったのかは、古生物学の大きな謎として長らく残されてきた。
恐竜全体で言えば、ほぼすべての系統が姿を消した中で、鳥類という一枝だけが今日まで羽ばたきをつないできた事実は、進化の物語のなかでも屈指の奇跡と言える。
現代型の羽毛と、古いタイプの羽毛


これまで有力だった説の一つは「水辺に暮らしていた鳥ほど衝突後の環境を生き延びやすかった」というものだ。
しかし今回、水鳥であるヘスペロルニス目も絶滅している以上、水辺という生息地だけでは説明が付かない。O’Connorたちが注目したのは、コプロライトから出てきた羽毛の「作り」そのものだった。
見つかった羽毛のうち1枚は、立体のまま残った羽根で、論文は「中生代の岩石から見つかった中でおそらく最も保存状態のよい羽毛」としている。
羽軸は断面が四角く、中に髄が詰まっていて、軽くて硬い現代の鳥と同じ作りだった。こうした羽毛が、白亜紀末の大量絶滅より前にすでにできあがっていたことになる。
さらにこの羽毛は、羽枝の密度が高いなど、現在の水鳥に見られる水を通しにくい特徴を持っていた。
一方でCTには、羽毛恐竜などに見られる、今は絶滅したタイプの羽毛も写っていた。論文は、こうした古いタイプの羽毛が、現生の鳥に近いグループでも白亜紀末まで残っていたと見ている。
そして、体温を保つ役割の大きい体の羽毛の違いが、小惑星衝突後の「衝突の冬」の中で、現生の鳥以外の系統が絶滅した一因になった可能性があるとしている。
「衝突の冬」と羽毛の断熱性能


小惑星が地球に激突した後、上空には大量の粉塵や破片が舞い上がり、太陽光が長期間さえぎられて地表は急激に冷え込んだと考えられている。
この衝突の冬(impact winter)と呼ばれる寒冷期を、体温の高い鳥がどう乗り越えたかは、恐竜絶滅を語るうえで避けて通れない論点だ。
植物の光合成が止まれば食物連鎖の根元から崩れるため、寒さと飢えが同時に襲ってくる状況だったと想像される。
もしもエナンティオルニス類とヘスペロルニス目がまとっていた羽毛が、Neornithesほど効率よく体温を保てなかったとしたら、寒冷化が長引くほど致命的だったはずだ。
O’Connorは「羽毛のタイプと、その換羽(はえかわり)の仕方が、絶滅の選別に関わっていた可能性がある」と話している。
換羽の頻度やタイミングが違えば、寒い時期に体が薄着になる期間の長さも変わる。羽毛そのものの性能と、その手入れの仕組みが、種の運命を分けた候補として真剣に議論できる段階に入ってきたわけだ。
ただし、これは仮説であって断定ではない。
今回の証拠はコプロライト1個から出てきた1個体分の羽毛にすぎず、他のヘスペロルニス目や別地域の白亜紀末鳥類でも同じ傾向が確認できるかは、今後の追加サンプルにかかっている。
羽の持ち主のような「相関的な観察」と「羽の断熱性が絶滅の直接原因だった」という因果的な結論の間には、まだ大きな距離がある。
今回の羽毛の記述は明快な観察事実だが、それが即「絶滅の理由」に格上げされるかどうかは、慎重な追試を待つ必要がある。


化石フンは「時代を保存するカプセル」


今回の研究のもう一つの面白い点は、これまで羽毛探しの舞台にされてこなかったコプロライトから質の高い羽毛が出てきたことだ。
羽毛の化石は、共著者のCarrollが学位研究で扱ってきたビルマ産の琥珀のように、閉じ込められた状態で見つかることが多い。
ところが今回は、ありふれた砂利にしか見えない糞石が、琥珀と同じか、それ以上の立体的な保存状態を実現していた。
世界中の博物館の倉庫には、まだ切り開かれていないコプロライトが山ほど眠っている。
それらをCTにかけて中を覗くという発想が広がれば、白亜紀末の食物連鎖や絶滅の実像がもう一段解像度を上げる可能性がある。
今回の1標本には、羽毛と鳥骨と魚鱗という3種類の「手がかり」が入っていた。同じ時代の別のコプロライトからは、また違う組み合わせが顔を出してくるはずだ。



ただの石ころに見えるフンの化石でも、CTでのぞけば昔の食べる・食べられるの関係まで分かるかもしれないんだ。
参考文献:
一次ソース: Jingmai K. O’Connor, David G. DeMar, Nathan R. Carroll, Karen Chin, et al., “Bird feathers from a Late Cretaceous coprolite” (Current Biology, 2026) DOI:10.1016/j.cub.2026.08.054
研究機関: フィールド自然史博物館 / バーク自然史博物館 / カーター郡博物館 / コロラド大学ボルダー校 ほか
二次ソース: ScienceDaily (Field Museum press release)









