帯状疱疹のワクチンを接種した高齢者は、接種していない人に比べて、血液から測った「生物学的な老化」の指標が低い傾向にあった。
アメリカ・南カリフォルニア大学(USC)のジョンキ・キム研究准教授とアイリーン・クリミンズ教授が、2016年時点で70歳以上だった3884人のデータを分析して報告した。
炎症の指標、DNAのメチル化から測るエピジェネティックな老化、遺伝子の働き方から測る老化、それらをまとめた総合スコアで、接種した人のほうが良い値を示した。
ただし、これは接種した人としなかった人を比べた観察研究で、血液の測定も1時点だけだ。示されたのは関連であって、ワクチンが老化を遅らせたという因果ではない。
結果の中身と、論文自身が挙げる限界を順に見ていく。
そもそも帯状疱疹とは
水ぼうそうのウイルスが再び動き出す
まず、帯状疱疹とは何かを知っておこう。帯状疱疹は、子どものころにかかった水ぼうそう(水痘)のウイルスが原因だ。
水ぼうそうが治った後も、ウイルスは体の中に潜み続ける。これが再び活動を始める(再活性化する)と、神経に沿って、典型的には体の左右どちらかに帯状に、痛みを伴う水ぶくれが出る。
厚生労働省によると、帯状疱疹は70歳代で発症する人が最も多い。皮膚の症状が治った後も痛みが残る「帯状疱疹後神経痛」という合併症があり、日常生活に支障が出ることもある。
USCの発表も、水ぼうそうにかかったことがある人はだれでも帯状疱疹になる可能性があり、50歳以上や免疫が弱っている人でリスクが高いと説明している。
生ワクチンと組換えワクチン
日本で使われている帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンと組換えワクチンの2種類がある。生ワクチンは皮下に1回、組換えワクチンは2か月以上あけて2回、筋肉内に接種する。
2025年度からは、65歳の人などを対象に定期接種になった。なお、今回の研究で調べたのは、2017年より前にアメリカで接種された古い生ワクチン(ゾスタバックス)だ。
新しい組換えワクチン(シングリックス)を接種した人は含まれていない。
厚労省のまとめでは、帯状疱疹を防ぐ効果は、組換えワクチンで接種後1年の時点で9割以上、5年で9割程度、10年で7割程度、生ワクチンで1年の時点で6割程度、5年で4割程度とされる。
帯状疱疹後神経痛を防ぐ効果は、接種後3年の時点で生ワクチンが6割程度、組換えワクチンが9割以上だ。
今回の研究が問うたのは、こうした本来の効果とは別に、接種と体の老化の指標に関連があるかどうかだった。
帯状疱疹って、子供の頃の水ぼうそうのウイルスが復活するんだ! 知らなかった。
「生物学的年齢」という、もう一つの年齢


暦年齢と生物学的年齢
この研究を理解するには、「生物学的年齢」という考え方を知る必要がある。
生年月日で決まる暦年齢に対し、生物学的年齢は、臓器や体の仕組みがどれだけうまく働いているかを含め、体がどう変化しているかを表す。
USCの発表は、同じ65歳の2人でも体の中は大きく違うことがあり、一方は若い人のような状態で、もう一方は早めに老化の兆しが出ていることもある、と説明している。
生物学的年齢を測る代表的な方法が、「エピジェネティック時計」だ。DNAの配列そのものではなく、DNAに後から付く化学的な目印(メチル化)のパターンから年齢を推定する。
今回の研究では、PhenoAge、GrimAge、DunedinPACEの3つを使った。
論文によると、こうした時計は従来の危険因子よりも正確に、死亡や障害、認知機能の低下、慢性の病気のリスクを予測することが示されている。
7つの「老化のものさし」で測る
研究チームは、老化を7つの領域に分けて測った。炎症、自然免疫、獲得免疫、心血管(血圧と脈拍)、神経変性、エピジェネティックな老化、遺伝子の働き方(トランスクリプトーム)から見た老化だ。
使った血液などの指標は合わせて44項目。さらに、獲得免疫を除く6つの領域をまとめた総合スコアも作った。どのスコアも、値が高いほど老化が進んだ状態を表すようにそろえてある。
データは、アメリカの高齢者を全国から代表するように集めた「健康と退職に関する調査(HRS)」のものだ。
2016年に採血を受けた、当時70歳以上の3884人が対象で、ほぼ半数(49.6%)が帯状疱疹ワクチンを接種していた。
接種した人は、60歳代で接種を受けていたことになる。ただし領域ごとに測った人数は違い、エピジェネティックな老化は1707人、総合スコアは1464人だった。
分析では、年齢、性別、人種・民族、教育年数、収入、喫煙量、持病の数をそろえて比べた。


ワクチン接種者は、老化の指標が低い傾向だった


複数の指標で、若い方向へ
年齢などの要因をそろえた後も、接種した人は、接種していない人に比べて、炎症のスコア、エピジェネティックな老化、遺伝子の働き方から見た老化、総合スコアが低かった(どれも統計的に意味のある差)。
数値は標準偏差の単位で、炎症が0.14、エピジェネティックな老化が0.17、遺伝子の働き方の老化が0.19、総合スコアが0.18低い。
一方、自然免疫、心血管、神経変性の3つの領域では、はっきりした差は見られなかった。
接種からの年数で分けると、結果の出方が違った。接種から3年以内の人では、エピジェネティックな老化と遺伝子の働き方の老化の差が大きかった。
4年以上たった人では、その差はやや小さくなったものの残り、炎症と自然免疫でも差が見られた。
逆に、獲得免疫のスコアは、接種した人のほうが悪い方向だった(全体で0.09、4年以上の人で0.13高い)。
著者らは、ワクチンで増える記憶T細胞などが、老化した免疫と見分けにくいためかもしれないとしつつ、解釈は難しく、さらに調べる必要があると書いている。
なぜ、ワクチンが老化に関わるのか
では、なぜワクチンが、老化と関連しうるのか。鍵となるのが、「インフラメイジング(炎症老化)」という概念だ。
加齢とともに、感染しているわけでもないのに、体内で炎症がじわじわとくすぶり続ける状態を指す。
この慢性的な炎症が、心臓の病気や、神経の病気など、さまざまな老化に関わる病気の、土台になっていると考えられている。
研究者らは、帯状疱疹ワクチンがこの慢性炎症を抑えている可能性を挙げている。一つは、ワクチンが自然免疫の細胞に一種の記憶を残し、その後の反応を変える「訓練免疫」を介する説。
もう一つは、体に潜むウイルスの再活性化を抑えることで、くすぶるような免疫の活性化を減らしている、という説だ。
キム氏は「背景にある炎症を減らすことで、おそらく帯状疱疹の原因ウイルスの再活性化を防ぐことによって、ワクチンはより健康な老化を支える役割を果たすかもしれない」と話す。
一方で、正確な仕組みはまだ分かっていないとも述べている。
炎症が少ないのはワクチンのおかげかも、ってことなんだ。でも仕組みはまだ分からないんだね。
ここが肝心――「相関」であって「因果」ではない


「健康な人がワクチンを打つ」という罠
ここで、最も慎重に伝えたいことがある。この研究が示したのは、あくまで「相関」であって、「因果」ではない。
ワクチンが原因で老化が遅くなったのか、それとも、別の要因が両方に影響しただけなのかは、区別できないのだ。とりわけ、疫学研究には、「健康な利用者バイアス」という、古典的な落とし穴がある。
論文も、ワクチンを受ける人と受けない人には、もともと違いがあると指摘している。帯状疱疹ワクチンの接種率は、教育を長く受けた人、裕福な人、予防医療に熱心な人で高い。
そして同じ特徴は、生物学的な老化の遅さや認知症のリスクの低さとも結びついている。
今回のデータでも、接種した人は教育年数が約1年長く(13.3年と12.2年)、世帯収入が高く、喫煙量が少なかった。
年齢、性別、持病の数には差がなかった。
調整しても、消せない要因
研究チームは、こうした偏りを補うため、年齢や教育、収入、喫煙、持病の数、インフルエンザワクチンの接種歴から「接種しやすさ」を推定し、それで重みをつけて比べた(逆確率重み付け)。
それでも、健康を気遣う行動や予防医療へのアクセスのしやすさといった、測っていない要因の影響は残りうると、著者ら自身が限界として書いている。
論文が挙げる限界はほかにもある。血液の指標は1時点でしか測っていないので、接種の前後で老化の指標がどう変わったかは分からない。
また、炎症が少ない人ほどワクチンがよく効くことが知られており、関係が逆向きの可能性もある。著者らは、接種の前後で指標を追う研究で、選ばれ方の偏りと因果の効果を切り分けるべきだと書いている。
「健康な人がワクチンを打つ」から見かけの関連かも、っていう視点大事だね。
認知症の研究との関係


認知症リスクとの関連も
帯状疱疹ワクチンをめぐっては、接種した人で認知症が少ないという関連が、これまでの複数の研究で報告されてきた。論文の序論でも、そうした先行研究が引かれている。
そこで今回のチームは、神経変性の血液指標(GFAP、NfL、pTau181、Aβ42/40比)も調べた。
ところが、接種と神経変性の指標の間には、はっきりした関連は見られなかった。
著者らは、ワクチンが認知症のリスクに関わるとしても、神経の病変を直接変えるのではなく、全身の炎症を減らすような間接的な経路を通じてかもしれないと考察している。
神経変性の指標はゆっくり変わるため、もっと長い追跡や別の年齢層で調べる必要があるとも書いている。
ほかのワクチンとの比較
チームは、インフルエンザと肺炎球菌のワクチンでも同じ分析をした。2006〜2016年にインフルエンザワクチンを受けたことがある人は、心血管(血圧・脈拍)のスコアが良い方向だった。
肺炎球菌ワクチンでも心血管で同じ方向の傾向はあったが、統計的に意味のある差ではなかった。帯状疱疹ワクチンが炎症や分子レベルの老化と関連したのに対し、ほかの2つは心血管に偏っていた。
なお、論文のデータは、2017年に登場した組換えワクチンより前のものだ。
著者らは、組換えワクチンを受けた人でも同じ傾向が見られるか、関連が一時的なものか続くものか、実際の健康状態や寿命の違いにつながるかを、今後の研究で確かめる必要があるとしている。


確かめられたことと、これから
まとめると、今回の研究で分かったのは、70歳以上のアメリカ人で、帯状疱疹ワクチンを接種した人に、炎症やエピジェネティックな老化などの指標が低い傾向があったということだ。
7つの領域のうち良い方向の関連が見られたのは一部で、獲得免疫では逆向き、神経変性などでは差がなかった。
クリミンズ氏は「これらの結果を再現し、広げるには、とくに長期の追跡研究や実験的な研究による、さらなる研究が必要だ」と述べている。
帯状疱疹ワクチンの本来の役割
老化との関連はまだ確かめられていないが、帯状疱疹とその合併症を防ぐ効果は認められている。日本では2025年度から、65歳の人などを対象に定期接種が始まった。
厚労省は、どのワクチンを受けるかを含め、医師と相談して検討するよう案内している。
老化の話はまだ手がかりの段階で、確かめるのはこれからなんだね。
参考文献:
Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a US population-based cohort study
The Journals of Gerontology, Series A 81(3), glag008 (2026). DOI: 10.1093/gerona/glag008
論文本文(PMC): PMC13179783
USCレナード・デイビス老年学大学院の発表: Study: Shingles Vaccine Linked to Slower Biological Aging in Older Adults
厚生労働省: 帯状疱疹ワクチン
データ: Health and Retirement Study









