氷河期の北アメリカにいたネコ科の肉食獣Miracinonyx trumaniは、細い体つきや長い前肢がチーターに似ていたため、長らく「アメリカのチーター」と呼ばれてきた。
ところがカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)を中心とする研究チームが、ワイオミングとユーコンの化石から核ゲノムを読んだところ、この獣はチーターの仲間ではなくプーマ(クーガー)の姉妹種だったことが判明した。
さらに、ユーコンの個体は食物連鎖の高い位置にいて、サケなどの遡上魚を食べていたことと整合する同位体の値を示した。
研究は2026年9月4日付で学術誌『Current Biology』に発表されている。
「アメリカのチーター」と呼ばれてきた獣の正体
Miracinonyx trumaniは、更新世の北米にいた肉食獣だ。
成獣は平均で体重が約150ポンド(約68キログラム)、肩までの高さが約3フィート(約91センチ)、尾の先までの長さが約8フィート(約2.4メートル)と考えられている。
最初に報告された1970年代、細い体つき、長い前肢、大きな鼻腔といった特徴から、この獣はチーターの近縁とされた。
こうした特徴は、速く走るのに役立ったと考えられている。
ただし、体型が似ていることと、近縁であることは別だ。抄録によると、この見方は限られたデータにもとづき、系統関係と生態についての前提も検証されていなかった。
今回の研究では、化石から核ゲノムを読み、骨の安定同位体も分析した。
核ゲノムが指し示した本当の親戚 — 実はプーマ側
チームは、ワイオミング(約2万3千年前)とユーコン(約3万1千年前)の化石、合わせて4点から核ゲノムを読み、ネコ科の系統樹の中での位置を調べた。
結果は明快だった。Miracinonyx trumaniは現生プーマ(Puma concolor)の姉妹種であり、両者は約260万年前に共通祖先から分かれた系統だった。
現生チーター(Acinonyx jubatus)とは離れた枝にあり、「アメリカのチーター」という呼び名は、系統関係のうえでは誤解を招くものだった。
分岐した約260万年前は、鮮新世から更新世にかけて気候が大きく揺れ動いた時期にあたる。
この結論について、研究に加わっていない分子生物学者のスティーブン・オブライエン氏は、プーマの姉妹種という主な結論は妥当だと思われると評価している。
解剖学的な解釈にもとづく進化の結論を、化石の遺伝子の証拠で修正することは、よくあるとも述べている。
では、あの細長い体はどこから来たのか。答えは収れん進化だ。
チーターに似た細い体は、近縁だからではなく、収れん進化(近縁でない種が似た環境で似た特徴をもつこと)の例だと、研究チームはみている。

キクアメリカのチーターと呼ばれてきた細い体の獣、いったい何を食べて暮らしてたんだろう?
ユーコンの個体は遡上魚を食べていたとみられる
同じ化石の骨で、窒素と炭素の安定同位体の比を分析し、食べていたものを推定した。
安定同位体の比は食べ物によって変わるため、骨から食性を推定できる。
ワイオミングの骨の値は、プロングホーンやウマ、バイソン、ビッグホーンなどの草食獣を食べていた同時代の他の捕食者に近かった。
ユーコンの骨は大きく異なる値を示し、サケやマスのような魚を多く食べていたことを示唆する。
抄録は、ユーコンの個体群が食物連鎖の高い位置にあり、遡上魚の利用と整合すると述べている。
ユーコンの化石は、この種の分布をそれまで知られていた範囲から、緯度で20度以上北の北極圏へ広げた。
カナダでMiracinonyxの記録が論文に出たのは今回が初めてだと、共著者のジュリー・ミーチェン氏は説明している。
ユーコンの化石が採取されたのは、トロンデック・フウェチンとヴントゥット・グウィッチンの伝統的領域にあたる土地で、今回の研究はこれらの先住民族の土地への長い関わりへの敬意を明記して進められた。
南の個体は陸の獲物、北の個体は魚を食べていたとみられる
同じMiracinonyx trumaniでも、安定同位体から見た暮らし方は、南のワイオミングと北のユーコンで大きく違っていた。
論文によると、ワイオミングの個体群は、陸の獲物を幅広く狩る捕食者だった。
この分布の広さと食性の違いについて、共著者でアラスカ大学フェアバンクス校(UAF)水産海洋学部教授のマシュー・ウーラー氏は、次のように話している。
「この肉食獣は、北極圏からアメリカ本土の48州まで、とても広い分布域を持っていました。分布域の両端で超特殊化を示しながら、まったく違う2つの食べ物を食べていたのです」
筆頭著者でUCSC博士課程のモリー・カサット・ジョンストン氏は、「この猫たちは、今のプーマが分布域全体でそうであるように、とても柔軟でした」と話している。


体内時計と味覚に関わる遺伝子の変異
ゲノムからは、体内時計(概日リズム)に関わる遺伝子の一部が働かなくなる変異が見つかった。
論文の抄録は、これが体内時計の調節にかかる制約がゆるんでいたことを反映しているのかもしれない、と述べている。
カサット・ジョンストン氏は「概日リズムを調節する特定の遺伝子で、機能が失われる変異が見つかりました。北の緯度での夏と冬の極端な光の周期に、適応していたのかもしれません」と話す。
National Geographicによると、働かなくなっていた体内時計の遺伝子は少なくとも2つだった。
さらにゲノムからは、酸味を感じる受容体の遺伝子が働いていないことも見つかった。調べたネコ科のすべての系統で同じで、ネコ科で酸味に関わる遺伝子の不活性化が記録されたのは初めてだという。
プロングホーンの俊足と、ゆっくり続いた衰退
北米のプロングホーン(アメリカアンテロープ)は、とても速く走ることで知られる。
その速さは、チーターに似た高速の捕食者に追われて進化した結果だとする「捕食者の亡霊」仮説で説明されてきた。
UCSCの発表は、Miracinonyx trumaniがその定番の例だったと述べている。
しかしMiracinonyxはチーターではなくプーマの姉妹種で、その細い体は収れん進化の例だった。発表は、今回のゲノムの証拠がこの構図を変えると述べている。
最期については、ワイオミングとユーコンのどちらの個体群でも遺伝的多様性が低かった。
ただし現生のプーマと違い、重い近親交配や急な個体数の減少(ボトルネック)の兆候は見られず、更新世の前期から後期にかけて、ゆっくり減っていく傾向が示された。
発表は、これが化石の少なさや、絶滅しやすかったことの説明になりうると述べている。
最終著者でUCSC教授のベス・シャピロ氏は、遺伝的多様性が低いだけでは絶滅の原因にならなかったと話す。
「Miracinonyxは、崩壊の前に予想される近親交配の兆候もなく、とても長いあいだ生き延びました。衰退は急ではなくゆっくりで、そのせいで気候が変わったときに適応できなかったのかもしれません」
骨格だけで見る限界と、この発見の意味
研究者たちは、「アメリカのチーター」という呼び名が二重の意味で誤解を招くと指摘している。
一つは本物のチーターと近縁だと思わせる点、もう一つは同じように高速追跡へ特化した狩りをしていたと思わせる点で、そのどちらも今回の証拠には支えられていない。
実際、蓄積しつつある証拠は、この獣が地上で獲物を追うだけでなく、強力な前肢で獲物をつかんで押さえ込む、より汎用的なハンターだった可能性を示している。
National Geographicによると、カサット・ジョンストン氏はチーターとの違いを次のように説明している。
「チーターの前腕と手首には、全力で走るときの安定性を高める構造があります。でもその代わり、柔軟性が低くなり、ほかの大型ネコ科のように獲物を組み伏せることができません。Miracinonyxにはそれができました」



見た目がそっくりでも親戚とはかぎらないし、同じ種でも南と北で食べ物がこんなに違ったんだね!
参考文献:
一次ソース: Cassatt-Johnstone M. et al., Range and diet diversity in the Pleistocene American “cheetah,” Miracinonyx trumani(Current Biology, 2026)DOI:10.1016/j.cub.2026.07.072
研究機関: カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)/アラスカ大学フェアバンクス校(UAF)/ユーコン古生物学プログラム/デモイン大学 / 二次ソース: UCSCの発表 / ScienceDaily / National Geographic









