ティラノサウルス(T.レックス)は、これまで考えられていたよりずっと長い時間をかけて巨大化していた——そんな研究が、米オクラホマ州立大学などのチームによって報告された。
17体もの化石の骨に残る「年輪」を解析した結果だ。論文は2026年1月14日、学術誌PeerJに掲載された。
25年という常識が生まれるまで

骨の年輪が教えてくれる年齢
古生物学者が恐竜の年齢を推定するときに頼ってきたのが、化石の骨の中に残る成長線だ。木の年輪と似ていて、骨の断面を薄く切ると同心円状の細い線がいくつも浮かび上がる。
骨は年に一度、成長が遅くなったり止まったりする時期があり、その境目が成長線として残る。
ただし木の年輪と決定的に違う点がある。樹齢100年の木を輪切りにすれば100本の年輪が一度に見えるが、ティラノサウルスの脚の骨に残っているのは生涯の最後の10〜20年分ほどだけだ。
骨の内側が作り替えられたり髄腔が広がったりして、古い線は消えてしまうことがある。つまり1体の化石だけを見ても、その個体がいつ生まれて何年生きたのかは分からない。
キクこれまでティラノサウルスは、何歳くらいで成長が終わると考えられてきたんだろう?
25年成長説が広く信じられてきた理由
これまで広く受け入れられてきたのは、「ティラノサウルスは約25歳で成長を終える」という見方だ。
従来のモデルでは、ティラノサウルスは約20年で体重8000キロを超え、寿命は30年近いと見積もられていた。そのモデルの代表が、2000年代に発表された骨の分析だ。
この分析に使われた化石は7体で、骨の種類もろっ骨や脚の骨などまちまちだった。骨の種類によって線の残り方が違うため、年齢の推定がぶれやすかった。
この25年説には弱点があった。幼い時期の個体が1体しか含まれておらず、若い時期と晩年の成長がよく分かっていなかったのだ。
線の数え方も課題だった。近接して並ぶ複数の線を1年分とみるか、1本ずつを1年分とみるかで、推定年齢が変わる。
偏光顕微鏡が浮かび上がらせた隠れた年輪
17体の化石を統計モデルでつなぐ
この課題に正面から取り組んだのが、米オクラホマ州立大学のホリー・ウッドワード教授率いる研究チームだ。
チームは過去最大となる17体のティラノサウルス類の化石を集め、若い個体から巨大な成体までを一本の曲線にまとめる作戦を立てた。
標本は大腿骨と脛骨の輪切りで、ほぼすべてがモンタナ州東部で見つかったものだ。成長曲線の計算に使えた切片は12だった。
化石を樹脂で固めてガラス板に貼り付け、紙のように薄く削っていく。そこに円偏光と交差偏光という特殊な光を当てると、ふつうの顕微鏡では見えなかった成長線が浮かび上がってきた。
骨の線維が平行に並んだ部分は偏光の下で明るく見えるため、ふつうの光では不明瞭な「アニュラス」という線が見分けやすくなる。
共著者で統計解析を主導したネイサン・ミアボルド氏(数学者・古生物学者)は、複数の標本の成長記録をつなぎ合わせる新しい統計手法を考えた。
それぞれの化石が記録しているのは生涯の一部分だけだ。年齢の重なる部分を手がかりに断片をつなぎ、ティラノサウルスの一生分の成長曲線を再現した。


合成成長曲線という手法
この合成成長曲線(コンポジット・グロースカーブ)という手法では、幼い時期から大型の成体まで、成長を1本の曲線として示せるようになった。
チームは年齢推定の不確かさも統計的に表現し、グラフの太い帯で「ここからここまでの間」という幅として示している。
骨が成長する季節には、1日に25〜100マイクロメートルの速さで骨ができていた。
17体の中で、特に目を引いた化石が2体あった。それぞれ「ジェーン」と「ペティ」と呼ばれる、世界的に有名な標本だ。
この2体の成長記録は、統計的にほかの個体と合わなかった。成長の速さを表す平均値が、ほかの個体より低かったのだ。
この違いをめぐって、研究者たちは「ティラノサウルス・レックス種複合体」という言葉を使っている。
研究者たちがこの言葉を使うのは、17体の中に別の種や亜種が含まれる可能性を残したまま、ひとまとまりのデータとして扱うためだ。
別のチーム(ザンノとナポリ、2025年)は、別の統計手法と解剖学的な証拠から、この2体はティラノサウルスではなくナノティラヌス属だと主張している。
論文の著者らは、成長曲線が合わないという点ではこの研究と同じ結果だとしている。
ただし論文は、今回の成長データはナノティラヌスをめぐる議論に直接答えるものではなく、2体がなぜ違うのか、どう分類すべきかも説明できないとしている。


長い成長期と生態への影響
成長が頭打ちになる年齢
新しい曲線では、体の大きさが頭打ちになる年齢は35〜40歳ごろと推定された。従来の推定より約15年遅い。
共著者のジャック・ホーナー氏(チャップマン大学)は「40年にわたる成長期間のおかげで、若いティラノサウルスはさまざまな生態的な役割を担えたのかもしれない。それが、白亜紀の終わりに頂点捕食者として君臨できた要因の一つだった可能性がある」と述べている。
ジェーンとペティの成長が合わなかった理由
ジェーンとペティは、ティラノサウルスの幼体なのか別属のナノティラヌスなのか、議論されてきた小型の標本だ。この2体の成長曲線は、ほかのティラノサウルス類と統計的に合わなかった。
論文は、成長が遅かった理由として、別種だった可能性のほかに、環境や病気の影響を挙げている。2体はモンタナ州南東部の互いに5キロ以内で見つかっており、似た環境の負荷を受けた可能性がある。
また、2体のどちらにも病変が報告または提案されている。
ウッドワード氏は「成長の記録だけでは別種だったかどうかは確定できないが、証拠はその興味深い可能性を示しており、ほかの説明もありうる」と述べている。
ナノティラヌスをめぐる議論は、いまも決着していない。


他の恐竜の研究への影響
偏光顕微鏡で新しい年輪が見えるという発見は、ティラノサウルスだけの話では終わらない。
論文は、ほかの恐竜でも偏光の下でしか見えない年輪があれば、すでに発表された成長曲線も影響を受け、見直しが必要になると指摘している。
ミアボルド氏は「近接した複数の成長線の解釈は難しい。成長の研究で通常使われている手順を、見直す必要があるかもしれないという強い証拠が得られた」と述べている。



化石の骨に偏光を当てると隠れてた年輪みたいな線が見えるなら、ほかの恐竜の成長曲線も見直しになるかもしれないんだね。
参考文献:
Woodward, H. N., Myhrvold, N. P., & Horner, J. R. (2026). Prolonged growth and extended subadult development in the Tyrannosaurus rex species complex revealed by expanded histological sampling and statistical modeling. PeerJ, 14, e20469. DOI: 10.7717/peerj.20469
論文本文(PeerJ): https://peerj.com/articles/20469/
オクラホマ州立大学のプレスリリース: New study reveals the T. rex didn’t reach full-size until age 40








