抗生物質は、病気の原因になる菌だけでなく、腸にすむ役に立つ菌まで殺してしまうことがある薬です。では、薬を使っている間に何を食べるかで、腸の受けるダメージは変わるのでしょうか。
アメリカのニューヨーク大学ランゴーン・ヘルスなどの研究者たちが、入院中のがん患者173人の食事9,419回分を記録し、腸内細菌の変化と照らし合わせました。チームには、シティ・オブ・ホープとメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの研究者も加わっています。
すると、抗生物質を使っている間に甘いものを多くとった患者ほど、腸内細菌の種類の豊かさ(多様性)が下がっていました。抗生物質を使っていないときは、甘いものと多様性の間にこうした関係は見られませんでした。
マウスの実験でも、抗生物質を注射したあとに砂糖(ショ糖)を与えると、腸で増える腸球菌がさらに増えました。論文は2026年9月30日付で学術誌『Nature』に掲載されています。
ただし、人のデータは移植のために入院した患者を観察したもので、甘いものが原因だと言い切れる段階ではありません。論文も、別の患者の集団で確かめる必要があるとしています。
入院中の食事を、品目ごとに記録する
対象になったのは、血液のがんで同種造血細胞移植という治療を受けた大人です。この治療では、患者はふつう数週間入院します。その間に抗がん剤の治療を受け、多くの人が抗生物質も使います。
研究の舞台は、ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターです。2017〜2022年に移植を受けた患者が対象になりました。発表文によると、この患者たちは抗生物質を使うことが多く、入院中の食事を細かく見守れることから選ばれました。
移植の前には強い抗がん剤の治療があり、口の痛みや吐き気が出て、食欲も落ちます。こうした症状は、移植した細胞が骨髄に根づいて好中球を作り始めるまで続きます。この「生着」までに、今回の患者では中央値で12日(8〜37日)かかりました。
「鶏むね肉142g」の細かさ
患者は食事のたびに、頼んだ品ごとに0・25・50・75・100%のどれだけ食べたかを書き込みました。患者が食べた食品は、全部で622品目にのぼります。
論文が挙げる記録の例はこうです。「便をとる1日前に、焼いた鶏むね肉を142g食べた」。ふつうの食事の調査で聞く「鶏肉を週に2回」とは、細かさがまるで違います。
このうち158人からは便の検体を1,009個集め、腸内細菌の遺伝子を調べました。入院から生着までの間、ほかの食品群はどれも食べる量が減りましたが、「糖・甘いもの・飲み物」の群だけは減ったとは言えませんでした。
抗生物質を使っている間だけ、甘いものが多様性の低さと結びついていた
173人は全員、食事を記録した期間に1種類以上の抗生物質を使っていました。はじめは感染を防ぐための抗生物質で、熱などが出ると、より多くの種類の菌に効く広域抗生物質に切り替えます。切り替えた人は173人のうち138人、80%でした。
チームは、便をとる前の2日間に食べたものと、その便の腸内細菌を組にして分析しました。2日間にしたのは、この長さで食事と腸内細菌の対応がそれなりに見られ、以前の報告とも合っていたからです。分析では、抗生物質や栄養の点滴、治療の強さの影響も同時に考えに入れています。
腸内細菌の状態を見る物差しは多様性です。発表文の説明では、腸にいる役に立つ菌の種類の多さを表す指標です。
予想どおり、直前の2日間に広域抗生物質を使った便では、多様性が低くなっていました。目を引くのはここからです。甘いもの(論文の「糖・甘いもの・飲み物」の食品群)は、それだけでは多様性と関係がありませんでした。ところが抗生物質を使っている間に食べた場合は、食事の中で一番大きな多様性の低下と結びついていました。
数字にすると、広域抗生物質を使ったあとに甘いものが100g増えるごとに、多様性の平均がさらに24.1%下がるとモデルは予測しました(95%信用区間は7.7〜38.1%)。食事を栄養素に分けて分析し直しても、抗生物質を使っている間の糖100gごとに平均20.6%の低下が見られました。
「100g」は水分を抜いた重さ
ここでの100gは、食品から水分を抜いた重さ(乾燥重量)で数えています。ジュースやゼリーをそのままの重さで100g食べた、という意味ではありません。
発表文は、直前48時間の砂糖100gごとに多様性がさらに21%下がったと伝えています。論文と照らし合わせると、この21%は栄養素で分けた分析の20.6%に当たるとみられます。条件は抗生物質を使っている間に限られ、100gも乾燥重量での値です。
補正をかけない生のデータでも、傾向は同じでした。直前2日に抗生物質を使った便では、甘いものの量と多様性の間に弱い負の相関(−0.2)が見られ、抗生物質を使っていない便では見られませんでした。ばらつきは大きく、甘いものだけで多様性が決まるわけではありません。
効いていたのは、加えられた糖や飲み物
さらに細かく見ると、関係に大きく効いていたのは、スポーツドリンクや栄養シェイクのような調製された飲み物でした。果物などにもともと含まれる糖より、あとから加えられた糖のほうが効いていました。
この結果は、チームにとって意外なものでした。これまで移植患者には、糖の多い栄養補助の飲み物がよく勧められてきたからです。
チームは、ほかの要因で説明できないかも確かめています。点滴や管から栄養を受けた患者を除いても、関係は残りました。直前2日の総カロリーの多さだけでも、説明はつきませんでした。
増えていたのは腸球菌
今回の患者では、甘いものと抗生物質が重なると、腸球菌の一種エンテロコッカス・フェシウムが増えていました。
これまでの研究で、腸球菌は抗生物質が効きにくい血液の感染の重要な原因で、移植のあとの移植片対宿主病や死亡の目印にもなることが知られています。
2019年に学術誌『Science』に載った別の研究では、移植患者で腸球菌が増えることがよくあり、それが移植片対宿主病や死亡と結びついていました。同じ研究は、腸球菌の増殖が乳糖に頼っていて、マウスで食事から乳糖を除くと腸球菌の増加が抑えられたと報告しています。
マウスでは砂糖が腸球菌の増加を大きく、長くした

患者のデータは観察なので、甘いものが原因かどうかまでは分かりません。そこでチームは、マウスで実験しました。
使ったのは生後6〜8週のメスのマウスです。カルバペネム系の抗生物質ビアペネムを皮下に1回注射して、腸内細菌を乱します。エサのほかにカップに入れたゲルを与え、片方の群にはそのゲルに5%の砂糖(ショ糖)を混ぜました。
抗生物質だけでも、マウスの腸にもともといる腸球菌は100〜1000倍に増えました。増え方は3日目が一番大きく、6日目にはほぼ元に戻ります。
ここに砂糖を足すと、腸球菌の増え方は3日目に16.3倍、6日目には33.4倍も大きくなりました。1つの条件あたり7〜17匹のマウスを使い、実験は独立に2回行っています。抗生物質を使わなければ、砂糖だけでは腸球菌の量は変わりませんでした。
食物繊維のせいではなかった
砂糖を足すとエサを食べる量が減り、エサの食物繊維が減ったせいで腸内細菌が乱れた、という見方もできます。これまでの研究で、抗生物質のあとの腸内細菌の回復は、食物繊維を減らすと妨げられることが示されているからです。食物繊維と腸内細菌のかかわりは、食物繊維が少ないと腸内細菌が粘液を分解するマウスの研究の記事でも紹介しました。
しかし、砂糖を足してもエサを食べる量はあまり減っていませんでした。食物繊維を含まないエサのマウスでも、砂糖は腸球菌の増加を長引かせています。論文は、糖の効果は食物繊維とは関係なく起きるとしています。
果物のスムージーでも同じ傾向
砂糖を作っているブドウ糖や果糖だけでも、腸球菌の増加は大きくなりました。患者がよく飲む市販のフルーツスムージーを与えても、同じように増加が大きくなっています。
一方、腸内細菌をまったく持たない無菌マウスに腸球菌だけをすまわせた場合は、砂糖を与えても増え方は変わりませんでした。砂糖の効果が出るには、抗生物質で乱されたほかの菌たちの集まりが必要らしいのです。骨髄移植をしたマウスでも、砂糖は腸球菌の増加を長引かせました。
死亡の危険とのつながりは「相関」まで
多様性の低さが気になるのには、理由があります。2020年に医学誌『NEJM』に載った別の研究では、4つの病院で移植を受けた1362人の便8767検体が調べられました。この別の研究では、生着のときに腸内細菌の多様性が高い患者ほど、死亡率が低いという関係が報告されています。
今回のチームも、患者のその後を調べました。糖をとる割合が中央値より多い患者では、広域抗生物質を使った日数が1日増えるごとに、死亡の危険(ハザード比)が1.12倍になっていました(95%信頼区間1.01〜1.23)。糖が中央値より少ない患者では、この関係ははっきりしませんでした。
抗生物質を考えに入れなければ、糖の多い組と少ない組で死亡の危険は同じくらいでした。日数と死亡の危険が結びついていたのは、糖の割合が高く、全体として食べる量が少ない食べ方の患者です。論文は、死亡の危険の高さが食べる量の少なさから一部来ている可能性も挙げています。
相関と因果を分けて読む
ここで気をつけたいのは、人のデータはすべて観察から得た「相関」だという点です。広域抗生物質は、熱や感染の疑いが出たときに始めます。そのため病状の重さが結果に紛れ込んでいる可能性があると、論文自身が認めています。
一時的な症状で食べたいものが変わることも、時間とともに変わる別の要因として入りえます。具合が悪いから甘い飲み物を選んだ、という逆向きの道すじも、観察だけでは切り分けられません。
砂糖を足すと腸球菌の増加が大きくなるという向きを確かめたのは、マウスの実験です。ただしマウスは、抗生物質を1回注射され、砂糖をゲルに混ぜて与えられた動物です。入院中の患者の腸で同じ仕組みが働いているかは、まだ確かめられていません。
研究の弱いところと、次の一歩
論文は、ほかにも限界を挙げています。患者のほぼ全員が予防の抗生物質を使っていたため、結果は「どんな抗生物質でも」というより、広域抗生物質に切り替えたときの食事の話かもしれません。病院の外から持ち込んだ食べ物の記録は不完全で、入院前のふだんの食事は調べていません。
腸内細菌の乱れのかなりの部分は、食事だけでは説明できませんでした。ほかの要因も効いていると論文はみています。
糖が乱れを強める仕組みも、まだ分かっていません。論文の第2著者で博士課程の学生のウィリアム・ジョギア氏は、抗生物質を生き延びた菌が糖を使って増えるからだろうとみています。そのうえで糖が腸球菌を直接助けるのか、競争相手の菌を弱めるのかなど、患者での仕組みはまだ分からないとも話しています。
ニューヨーク大学ランゴーン・ヘルスのジョナス・シュルーター氏(責任著者の一人)は、9,000回以上の食事記録を使った今回の研究が、抗生物質の治療中や治療後に甘いものを減らす工夫が役立つかもしれないことを示していると話しています。
同じく責任著者の一人で、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのジョナサン・ペレド氏は「次の大事な段階は、短い期間の食事の変更で患者の治療成績がよくなるかを確かめる臨床試験を計画することです」と語っています。
じゃあ、抗生物質を飲んでいる間は甘いものをやめたほうがいいの?
そこはまだ言えないんだ。分かったのは、入院中の移植患者での「関係」と、マウスでの実験までだよ。薬や食事のことで気になる人は、お医者さんに相談してね。
個人的に目を引いたのは、甘いものそのものではなく、抗生物質と重なったときにだけ関係が出た点です。同じ食べ物でも、腸がどんな状態のときに口にするかで意味が変わりうる。その見方を臨床試験がどこまで確かめるのか、続報を待ちたいところです。




参考文献:
一次ソース: Dai A, Ballweg A, Jogia W, et al., Sugar-rich foods exacerbate antibiotic-induced microbiome disruption(Nature, 2026)DOI:10.1038/s41586-026-11077-3
研究機関: ニューヨーク大学ランゴーン・ヘルス、シティ・オブ・ホープ、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター / 大学の発表(転載): Taking antibiotics? Sugar may be making the damage worse(NYU Langone Health提供、ScienceDaily、2026年10月7日)
紹介した別の研究: Stein-Thoeringer CK, et al., Lactose drives Enterococcus expansion to promote graft-versus-host disease(Science, 2019)DOI:10.1126/science.aax3760
Peled JU, et al., Microbiota as Predictor of Mortality in Allogeneic Hematopoietic-Cell Transplantation(N Engl J Med, 2020)DOI:10.1056/nejmoa1900623










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