集中力や前向きな気分を支えるとして、サプリメントとしても売られているアミノ酸「チロシン」。
その血中濃度が高い男性ほど寿命が短い傾向がある、という研究を、香港大学と米国ジョージア大学のチームが2025年に学術誌Agingで発表した。
イギリスの大規模な健康データベース「UKバイオバンク」の約27万人のデータを使い、ふつうの追跡調査(観察研究)と、遺伝子の違いを使う「メンデルランダム化」という解析を組み合わせた。
女性でははっきりした関連が出なかったが、男女の差そのものは統計的に確かめられていない。何がどこまで言えるのかを、順番に見ていこう。
サプリにも使われるアミノ酸、チロシン

やる気の物質の、原料
チロシンは、タンパク質の多い食品に含まれるアミノ酸だ。
体内でフェニルアラニンという別のアミノ酸から、フェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の働きで作られるため、食事から必ずとる必要のある「必須」アミノ酸ではない。
脳では、気分や認知、ストレスへの反応に関わる神経伝達物質、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの原料になる。
この働きから、チロシンは前向きな気分や頭のさえを支えるサプリとして売られている。
一方、動物実験では、タンパク質を減らした食事で寿命が延びることや、チロシンの摂取を減らすと体内のチロシンが下がり、寿命が延びることが報告されている。
ただ、人でチロシンやフェニルアラニンと寿命の関係を調べた研究はほとんどなかった。今回のチームは、人のデータでこれを確かめようとした。

27万人のデータと遺伝子で調べた関連

27万人の追跡調査
UKバイオバンクには、2006〜2010年にイングランド、スコットランド、ウェールズの40〜69歳の約50万人が登録している。
チームはこのうち、血漿のアミノ酸を測っていた27万2475人(うち男性12万5359人)のデータを使い、登録時のチロシンとフェニルアラニンの濃度と、その後の死亡との関係を調べた。
死亡は2022年12月19日までの記録で確かめ、2万3964人(男性1万4230人、女性9734人)が亡くなっていた。
年齢、BMI、地域の貧困度、喫煙、飲酒、運動、民族、教育年数は、統計的に調整している。
遺伝子の違いを使うメンデルランダム化
ふつうの観察研究では、収入や健康状態など、測りきれない別の要因(交絡)が結果に紛れ込む。そこでチームは、メンデルランダム化(MR)も使った。
生まれつきチロシンが高くなりやすい遺伝子の違いを目印にして、その目印と寿命との関係から、チロシンそのものの影響を見積もる方法だ。
遺伝子の違いは受精のときに無作為に決まるので、交絡を小さくできる。全体の解析では、チロシンに関わる74か所の遺伝子の違い(SNP)を使った。
ただしMRにも、目印が別の経路で寿命に影響しないことなど、厳しい仮定がある。
また、この解析での寿命は参加者本人ではなく、UKバイオバンク参加者約39万人の親の到達年齢(亡くなった年齢か現在の年齢)で測っている。
観察研究では、血中チロシンが1標準偏差高いと、男性の死亡リスクは1.03倍(ハザード比、95%信頼区間1.01〜1.05)とわずかに高かった。
女性では1.00倍で、関連は見られなかった。ただし男女の差の検定は統計的に有意ではなかった(p=0.16)。
MRでは、フェニルアラニンの影響を差し引く解析(多変量MR)でも、遺伝的に予測されたチロシンが1標準偏差高いと、男性の寿命は0.91年(95%信頼区間0.21〜1.60年)短いと見積もられた。
これが「約1年」の中身だ。一方、女性は0.36年短い方向だったが、信頼区間が0をまたぎ、はっきりした関連とは言えなかった。
ただ、同じ多変量MRでも別の計算方法(IVW)では、女性でも0.59年短いという結果が出ている。著者らは「チロシンの役割は性別で違うかもしれず、男性でよりはっきりしている」とまとめている。
チロシンの材料であるフェニルアラニンは、観察研究では男女とも死亡リスクとわずかに関連していた(ハザード比1.04)。
しかし多変量MRでチロシンの影響を差し引くと、寿命との関連は男女とも消えた。
数字を正しく読む——「約1年」の中身
まず、リスクの上がり方は小さい。観察研究で男性に見られたのは、1標準偏差あたり1.03倍という差だ。
MRの「0.91年」も、遺伝的に予測された濃度が1標準偏差高いときの、集団の平均としての見積もりで、一人ひとりの寿命が1年縮むという意味ではない。
また、関連は直線的ではなく、著者らは、死亡リスクとの関連は、もともと濃度が高い人により当てはまるとしている。
心血管病やがんによる死亡とは関連しなかった
死因別に見ると、チロシンは心血管病による死亡とも、がんによる死亡とも関連しなかった。一方、フェニルアラニンは両方とわずかに関連していた(ハザード比1.03と1.04)。
この研究が調べたのは、血中のチロシンとフェニルアラニンの2つのアミノ酸だ。MRで因果に近づこうとしているが、チロシンが直接寿命を縮めると確かめられたわけではない。

なぜ男性で目立つのか

男性はもともと、チロシンが高い
なぜ男性で関連がはっきり出たのか、理由はまだ分かっていない。
論文の序論は、若い女性は若い男性より血中チロシンが低いという先行研究にふれ、チロシンが寿命の男女差の一部を説明するかどうかは確かめられていない、としている。
発表文も、男性はもともと女性よりチロシンが高い傾向があり、寿命の男女差の一部を説明するかもしれない、と書いている。
ただし、これは今回の研究が確かめた仕組みではない。
インスリン抵抗性と性ホルモン
論文は、考えられる仕組みとして次のものを挙げている。チロシンは、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」と関連することが知られ、インスリン抵抗性はさまざまな病気や寿命の短さと関わる。
インスリン抵抗性は性ホルモンとも関わり、テストステロンと生存の関係は男性でよりはっきりしている。
また、チロシンからできる神経伝達物質も性ホルモンに調節されるので、これも性差の説明になりうるという。
動物実験では、チロシンを減らすとIISやmTORC1という栄養を感じとる経路が抑えられることも報告されている。
ただし、これらは可能性の段階で、著者らも仕組みを調べる研究が必要だとしている。
サプリについて論文が言っていること

サプリを直接調べた研究ではない
この研究は、チロシンのサプリを直接調べたものではない。
論文は「私たちの研究はチロシンのサプリと直接の関係はない。ただ、サプリは血中チロシンを上げうるので、チロシンの長期使用が寿命に有益だという考えを、この研究は支持しない」と書いている。
また、MRが見ているのは生まれつきの体内の濃度が一生にわたって及ぼす影響で、サプリの短期の効果を調べるランダム化比較試験とは比べられない、とも述べている。
対象は40〜69歳で登録したイギリスの人たちで、94%がヨーロッパ系だった。濃度の違う集団での追試が必要だと著者らはしている。
一方で論文は、血中チロシンが高い人でそれを下げることが寿命を延ばすことにつながるかもしれないとし、タンパク質を制限する食事など、チロシンを下げる栄養や食事が役立つ可能性にもふれている。
ただし、血中濃度の結果は、食事からとるチロシンの影響をそのまま表すとは限らない、とも書いている。食事やサプリをどうするかは、この研究だけでは決められない。
健康に関わる判断は医師に相談してほしい。
研究の限界
著者らは限界も挙げている。アミノ酸の濃度は登録時に1回測っただけで、時間による変化は追えていない。
アミノ酸と寿命の遺伝的なデータがどちらもUKバイオバンクから来ているため、重なりが結果をゆがめるおそれがある。
男女差を見つけるには検出力が足りなかった可能性もあり、より大きな集団での追試が必要だという。
ポイントは、差は小さくて、心血管病やがんによる死亡との関連は出なかったこと。因果もまだ確かめられていないんだ。
サプリを調べた研究じゃないけど、長く飲み続けることが寿命に良いという裏づけにはならない、と論文は書いているよ。
「約1年」って、みんなの寿命が1年縮むって意味じゃないんだね。数字が何と何を比べたものかまで見るの、大事だね!
まとめると、イギリスの約27万人のデータでは、血中チロシンが高い男性ほど死亡リスクがわずかに高く、遺伝的な解析では1標準偏差あたり約0.9年寿命が短いと見積もられた。
女性でははっきりした関連が出なかったが、男女の差は統計的に確かめられておらず、理由も分かっていない。サプリを直接調べた研究ではなく、追試や仕組みの研究が必要だ。
参考文献:
一次ソース: Zhao, Sun, Zhang, Ye, The role of phenylalanine and tyrosine in longevity: a cohort and Mendelian randomization study(Aging (Albany NY), 2025; 17(10):2500-2533)DOI:10.18632/aging.206326
論文本文(オープンアクセス): PMC12606968
発表: Impact Journals(ScienceDaily掲載)
研究機関: 香港大学 / ジョージア大学 / データ: UK Biobank(約27万2千人)









